04 けがされた少女
【登場人物】
小野タスク
コマチから「魔王」と呼ばれる少年。
平凡な高校生。自宅の裏山が古墳であり、地獄に繋がっており、鬼が出現する。
コマチ(小野小町)
「カマ様の神器」と呼ぶ大型の鎌をタスクに押し付ける迷惑な女子高生。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
タスクを「魔王」と呼び、鬼と戦う少女。
蝦夷風の装束を身にまとい、蝦夷の半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
川崎カヲル
年齢不詳の女性学者。民族学、考古学の研究者であり、裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。
立烏帽子
魔王軍随一の剣士。
古墳にある地獄の門を開放した。
タカムラ
地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。
お供に降魔の化け猫の子を連れている。
小野小町
「平安時代の女流歌人。三十六歌仙の1人であり宮中に仕える采女だったのではないかと言われる。詳細は不明ね」
カヲルさんはボロくて分厚い辞典のページをめくっている。検索した方が早いんじゃないかな?
「小野か、ウチと同じ苗字だな」
「氏名ではなく奥州の小野郷という地名ではないかと言われてるわ、つまり『小野から来たコマチさん』って意味。遣隋使だった小野妹子の子孫という説もあるわね」
「妾は小野から都に上って宮中の采女になったからのう。お前たちは特別に我をコマチと呼ぶ事を許してやるぞよ」
コマチはまだポリポリとシロップの空き容器を齧っている。
ホントに貴族なのか?コイツは。
「カヲルさん、采女って何すか?」
とりあえず本人に聞くよりカヲルさんに聞いた方が正確な気がした。
「小野小町の時代はまだ平安の初期だから、奈良時代に地方豪族から朝廷に献上された女孺みたいな存在かしらね」
「え?少女を献上!まるで賄賂じゃないですか」
「そう、とびきり美少女を朝廷に差し出して皇族や貴族の妻妾になれば儲け物って感覚かしらね」
「え?妻妾!」
思わずコマチの方へ振り向けば、コマチは少し目線を落としてつぶやいた。
「妾はもうケガレておるからな…」
(えっ?えええ!!!汚れているって、おい!)
たしかに"顔だけ見れば“驚くほどの美少女だ。
向こうの世界でコマチは見知らぬ貴族のオッさんたちのオモチャにされているのだろうか…考えると、なんとなく胸の奥が苦しく感じた。俺のような純真な高校生には刺激の強い話だ。
チラりとコマチを見ると、先ほどの深刻さとは打って変わってミニスカのくせに片膝を立ててノンキにコーヒーをすすっている。
思わず見ようとしてしまったが、慌てて視線を逸らした。
コイツわざと見せてるんじゃねぇのか?
なんかイロイロと女性不信に陥りそうな十六歳の思春期だ。
カヲルさんは眼を爛爛とさせながらコマチに顔を寄せて行く。
「ネェネェ、帝ってどんな人?どんなテクニック使うの?」
しかしこの人は未成年の少女相手にデリカシー無いな。だから恋人もいないんだろうな。
「十三歳で都に上ぼってからは帝どころか下男にも会った事も無いわ。ずっとモガリに閉じこもっていて、もうヒマでヒマで。だから今回も妾が召喚されたのじゃ」
ん?召喚?
誰がコイツを現代に呼んだんだ?
「『殯』?ふつうなら官女が常駐して居る場所じゃ無いわ。なぜモガリに居たの?」
カヲルさんは急に学者さんの顔になった。異世界召喚より、そっちに興味があるようだ。
「妾は鬼の血でケガレておるからな、持衰してお上(帝)や殿上の殿方の目に触れてはイカンのじゃ」
「あん、なるほど」
カヲルさんはこれだけで全部理解した様だ。
「何が『なるほど』なんすか?」
「ん〜彼女はだいぶ特殊な『めのわらわ』なのかも」
「特殊?」
「ふつうなら采女は十五六歳ごろに後宮に入るけどコマチさんは十三歳で後宮に入って、そのまま完全隔離されていたって事かしらね」
「完全隔離?」
「鬼や死に関わる事は『ケガレ』なので、帝や貴人がコマチさんに近づく事は無いわ。だからコマチさんは誰の目にも触れず『殯』の部屋の奥深くにずっと閉じ込められてたのよ」
「『殯』って何すか?」
「亡くなった人の遺体を置いて儀式をする場所よ。外部との接触は絶たれて遺体に歌や舞を捧げて弔うの」
「え?葬儀場っすか?」
「妾の居た部屋には御遺体は無いがな。ただ井戸の周りで舞って歌うばかりで、もう毎日ヒマでヒマで」コマチはまたシロップを口に放り込んだ。
はあ、ホントにヒマそうだもんなコイツ。
しかしそんな食い方してると身体壊すぞお前。
「コマチさんは鬼と戦うために都へ呼ばれたって事ね。そしてなぜか鬼を退治するために現代に来た。
まさか小野小町が鬼退治のプロだったとはね」
なるほど「ケガレ」とはそういう意味か…
コマチに寄り付く男が居ない事に俺はなぜかホッとした。
「采女には『巫女』の役割もしていたという説もあるわね。つまり神に仕える存在。神職ね」
「巫女?」
「下層の采女なんだけど、女孺から国家の御意見番レベルまで昇り詰めた人に和気広虫が居るからね、彼女も巫女の役割をしていたのではないかと言われるわ」
「神に仕える存在……あ!『カマ様』か!」
そうか、コマチはカマ様という神の直属の使徒として、宮殿を守護して、鬼と戦うためにこの時代に来たのか。
しかしカヲルさんはたったこれだけのキーワードでここまで推理してしまった。やはり学者さんはすごい。
「太平風土記には、あの古墳には地獄の入り口の井戸があると書かれているから、おそらく鬼は、その井戸から出入りしているのね」
「なぜウチの裏山にそんな物騒な井戸が有るんですか」
「よくわからないわね。将軍がその地獄の井戸を封印して、コマチさんの一族がその鬼退治を引き継いだと言う事しかわからないね」
「スゲぇ迷惑な話っすね」
カヲルさんは「うむ」と頷くとニッコニコで机をバン!と叩いた。
「鬼退治の神様か、とりあえず現地調査ね!」
「え?現地調査?何を??」
「鬼の出る古墳を調査するに決まっているじゃない!」
「えええっ?!あそこ鬼が出るんすよ!マジで!」
コマチも立ち上がって話に乗って来た。
「ふむ、ちょうど良い。鬼退治でタスクを鍛えようぞ」
ちょっ!何言ってんだお前は。
カヲルさんは俺の話なんて聞かずに、さっさとキャンプに行く様なデカいリュックを取り出して荷造りを始めている。
「いやなんでウチの裏山に行くのに着替えとか寝袋とか詰め込んでるんです?
まだ授業中っすよ」
「学校なんて早退しちまえばいいじゃない!レッツゴー!」
うわぁ…教育現場で働く大人の言うセリフとは思えない。
こうしてカヲルさんの独断で俺はムリヤリ早退させられた。
まぁ表向きは三年生とのトラブルに巻き込まれた親戚の近所の知り合いのアホ娘の身の安全のため、俺の家に連れて行くという設定だ。
「え〜!?お前たち一緒に暮らしているのか!」
コマチを家に連れて帰ると聞いて、またまたあらぬ噂が全校生徒に轟きわたる。
しまった!またややこしいラブコメ設定にされてしまった。まさかこの俺が全校生徒のオモチャにされてしまうとは!
コマチのヤツは相変わらず無言で俺のシャツを掴んで離さない。こりゃどう見ても深い仲に見えてしまうよな。
俺はコマチを振り解こうとするとコマチは睨み付けて来た。
「タスク」
「なんすか?」
「妾から逃げられるとは思うな」
コマチは低い声で凄んだ。
というかプロの鬼退治師が言うとマジで怖いのだが
「……もし逃げたら?」
「お前を地獄に落とすであろう」
コマチの大きな瞳がギロリと睨んだ。
ヤンデレかよ!
鬼よりもコマチの方が怖い…
(=φωφ=)あとがき
・和気広虫:和気清麻呂の姉。道鏡事件では宇佐八幡宮からの神託を請うよう命じられた。尼僧だったと言われますね。
・太平風土記
架空の歴史書ですね。たぶん。




