31 キツネ仮面の男
【登場人物】
小野タスク
なぜか魔王と呼ばれる地味で平凡で貧弱な高校生。
悪霊を斬る霊剣『韴霊剣』を目覚めさせる能力がある。
コマチ(小野小町)
平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)
なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。
鈴鹿御前の霊刀『小通連』に片目を食われた。
餓鬼阿弥とテルテ
男女の熾燃餓鬼。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士
立烏帽子(鈴鹿御前)
第六天魔王の一人。リアル魔王
三振の霊剣を持つと言われる。
タカムラ(小野篁)
コマチの父。
地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。
お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。
川崎カヲル
年齢不詳の女性民族学者。
裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。
・南軍流剣術の宗家である。
妖怪婆さん
三途の河原に住む婆さん。
顔半分にドス黒い地獄の虫がうごめいている。
強力な呪術が使え、鈴鹿御前の使いをしている。
「タスクどの!みごとでござった」
婆さんとミツヨシさんたちがやって来た。
「ミツヨシさんの特訓のおかげです」
小野忠明先生がムスッとしている。ヤバい!
「お、小野先生の教えが役に立ちました!」
「そうか、また稽古を付けてやらねばな」小野忠明は珍しくニコニコしている。
…いや、それはかんべんしてください。
妖怪婆さんが山頂を指差す。
「タスク、この山を登るのじゃ、そこにカマ様がおわせられる」
「カマ様がこの山に?」
「カマ様は鈴鹿御前と同じく天魔最高神のお一柱にあらせられる」
「そんな最高神がなんで畜生界に居るんすか?」
「たとえ地獄であろうと神もおわせられれば仏もおわせられるのだ」
「そういうものなの?」
「神もまた人間に近づき過ぎたのじゃろうな…」婆さんはふと遠くを眺めながらつぶやいた。
「タスクどの」
ミツヨシさんの声に振り返ると目線の先の向こうに白装束の人物が居た。
白く輝く衣をまとい、顔の上半分は狐の仮面をかぶり口元は出ている。長い金髪は風も無いのにフワリと宙に浮き、仮面の奥に緑色に光る目が見えた。
まさに神の姿だ。
ミツヨシさんも忠明先生もスッと着差して平伏した。
キツネ仮面の男が口を開く
「お前が我が眷属の神器を持つ者か」
「あなたがカマ様ですか?」
「違う、カマ様は人間だ。だがお前の持つ『それ』は我らの神器である」
ん?どういう意味??
キツネ仮面の男は直垂の袖の中から棒のような物を取り出した。
いや、それは棒では無い。
シャキン!と鎌の形に刃が開いた。
(カマ様の神器!)
まさかもう一つあったのか!
キツネ仮面の男はいきなりブン!と鎌を投げてくる。
「あぶね!」
とっさに避けると鎌は俺の頭上を飛び越え背後の大木をなぎ倒し、崖を貫通した。
すごいスピードだ。威力も俺の鎌と同等に見える。
という事はこの人物も天魔の一人!
キツネ仮面の男は指先をクイッ!と切り返すといきなり鎌は急角度にターンして戻って来る。
「なにい!?」
白い翼を開きジャンプして回避すると足元を鎌が高速で通過した。
「鎌にこんな能力があったのか!」
キツネ仮面の男はまた指先をスッと切り返すと鎌は急ターンして右へ左へとビュンビュン飛んで来る。
必死で逃げ回るが、鎌のスピードの方が早い。
ダメだ!間に合わない!
あの鎌を打ち落とすしか無い!
「飛べ!フツのミタマ!」
こちらも鎌を投げ返すが、あちらの鎌はヒョイとカーブして避けてしまい、そのままこちらに向かって来る。
避けきれねえ!
あわてて身体をひねるとバランスを崩して落下し地面に激突した。
「ぐあっ!」
いや、痛みはあるがなんとも無い。
この『魂の身体』も強化されているのか。
キツネ仮面の男は見向きもせずに鎌をパシッ!と受け取る。
ダメだ!勝負にならない。パワーは互角でも魔力を使うテクニックに差がありすぎる。
キツネ仮面の男は鎌を手にして近づいて来る。
飛び退いて立ち上がり、カマを正眼に構えた。
有るは無く
無きは数添う 世の中に
あわれいづれの日まで嘆かん
『有無一剣!』
鎌がシャキッ!と剣の形に変わる。
キツネ仮面の男は片手に鎌を提て歩きながら横薙ぎに切りかかって来る。
とっさに剣で正眼に受けた。
キツネ仮面の男はクルリと鎌を返して身を沈めると、こちらの剣は鎌に巻き押さえられて動けなくなる。
「え?!」
(鎌にこんな使い方があったのか!)
「ぐほっ!」
キツネ仮面の男の蹴りが腹に入り、数メートルほど転がり回って岩に激突した。
「くっ!」
身を起こした瞬間、鎌が俺の目を斬り払った。
「うあああ!」
急な闇に平静を失った。
キツネ仮面の男は容赦なく蹴り込んでくる。
目は…開いた。
復元したのか!
でもダメだ!相手が強過ぎる。なんとかこの場を脱出して間合いを取らないと!
白い翼を広げて地面を滑って逃げる。
キツネ仮面の男はゆっくり鎌を頭上に突き上げる。
今度は何だ?!
鎌がシャキッと剣の形に変わり天空に稲妻が轟いた。
(あれは!有無一剣!)
キツネ仮面の男が剣先をこちらに向けて振り出す。
「雷」
雷鳴が轟くと強烈な光が走り、吹き飛ばされた。
全身の皮膚が弾け飛び、黒コゲになる。
痛みとシビレで動けない。
呼吸ができない。
ゆっくりと呼吸を整えて起き上がると身体は動ける。なんとも無い。
天魔となった魂はまたたく間に回復していたのだ。
振り向くとキツネ仮面の男がこちらに歩いて来るのが見えた。
ヤバい!
俺は必死で逃げた。
「雷」
再びキツネ仮面の男の声が聞こえて強烈な光に包まれる。
全身の血肉がムチで打たれたかのように飛び散り激痛が走った。
顔を上げると顔に稲妻が直撃した。
目玉が弾け飛び、顔の肉が飛び散る。
痛みと息苦しさで転がり回る。
起き上がろうとするが、めまいがする。立てない。脳が焼けたのか。
まるで拷問だ!
キツネ仮面の男は淡々と剣を構えて歩み寄って来る。
「雷」
「ひああああ!」
俺は這いずるように逃げ回った。
怖い!怖い!怖い!何なんだ!コイツは何なんだ!
なぜ俺を殺そうとするんだ!
助けを求めようと振り返るが、ミツヨシさんも忠明先生も座ったままこちらを黙って見ているだけで動かない。
なぜ?
相手が神だからか?
一方的な暴力。
神とはそういう存在なのか!
怒りと恐怖で涙が出た。
「なぜ俺が神と戦わなきゃならないんだよお!」
俺は泣き叫びながら逃げた。
必死で逃げ回ると、先ほど鼠頭牛首と戦っていた沢が目に入る。
「あそに逃げ込めば!」
とっさに沢に飛び込んで流される。
やがて滝から流れ落ち、岩にぶつかりながら水飛沫と共に滝壷へと沈む。
全身は稲妻に撃たれてボロボロだった。
自分が情けなかった。
こんな苦しい戦いをするくらいなら、このまま溺れて死んでしまおう。
ゆっくりと青く澄んだ水の色が深くなり、キラキラ光る水面が見える。
水面が大きく歪んだ。
誰かが水の中に飛び込んで来るのが見えた。
キラキラと光る逆光の中、長い髪が逆巻き、十二単の衣の袖が青く澄んだ水中にひるがえっている。
(コマチ?)
十二単の女性は俺に抱きつき、共に深い滝壷の淵の中、青く暗い水中に沈んだ。
遠くなる意識の中で十二単の女性は強く抱きしめてくる。
(そうか…いっそ二人でこのまま…)
両手を回して抱き寄せる。
水中の光は遠のき、やがて暗く変わる。
耳元で女性がゴフッ!と咳きこむと気泡が上がる。
ハッ!と我に帰って振り向くと悲しげなコマチの横顔が見えた。
死ねない!
……気づけばいつの間にかまた部屋の中に戻っていた。
隣には目をうるませたコマチが居た。
〜31 「キツネ仮面の男」〜 完
(=φωφ=)あとがき。
今回もまた主人公が情けなく逃げ回ります。
そしてまたコマチさんが泣くのですね。
> イカヅチ
布都御魂剣の能力ですね。




