02 世界三大美少女?
【登場人物】
小野タスク
コマチから「魔王」と呼ばれる少年。
チビでヒョロガリメガネの平凡な高校生。自宅の裏山の古墳が地獄に繋がっている。
コマチ
謎の女子高生。
「カマ様の神器」と呼ぶ大型の鎌をタスクに押し付ける迷惑な存在。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ
タスクを「魔王」と呼び、鬼と戦う少女。
蝦夷風の装束を身にまとい、蝦夷の半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
川崎かをる
年齢不詳の女性学者。民族学、考古学の研究者であり、裏山の古墳を発掘するため移住しそのまま学校の司書になった変人。
・じつは南軍流剣術の宗家であり小太刀の名手でもある。
犬山、猿田、雉岡
近隣をシメるチンピラ学生だが、コマチに瞬殺されて以後、タスクの舎弟となる。
カヲルの手下でもある。
(なんで俺の隣に座っているんだコイツは…)
全校生徒がコマチを一目見ようと俺の周囲に群がって来た。
校内は大騒ぎだった。
全く女っ気がないモテない地味なヒョロガリメガネのキモダサ男が、いきなり他校の制服を着た絶世の美少女を連れて登校してきたワケだ、飢えた学生どもが見逃すハズも無い。
コマチは俺のシャツを掴んで離さない。
いや『ぜったい逃しはしない!』の間違いか。
コヤツはまた俺が鎌を捨てないように監視しているだけなのだが、飢えた学生どもにはまるでラブラブのカップルにしか見えない。
すごく迷惑だ。
もっともコマチのおかげで腰に差した『カマ様の鎌』に誰も注目しないのは助かったが。
先生も最初は注意したり職員室にまで呼ばれたのだが、事情を説明しても信じてもらえるはずもなく、コマチのやつも何もしゃべらない。
(いや…コイツが話せば鬼の事やら毒矢やら危険人物だという事がバレてしまうから「黙っていてくれ!」と、念を押してある)
とりあえず「田舎から来た頭の少し弱い知人の親戚の近所の知り合いの転校希望者」という事で、表向きは教師たちとは手を打った。コマチはムッとしていたが。
「もしコイツが家出少女だとしたら警察が来たり教育委員会に呼ばれたりと面倒な事になりますよね」と、ボソリとつぶやいたら先生がたは黙って席に戻ってくれた。
教師たちも大事にはしたくない様だ。
だが教室の学生どもは違う。ものすごい美少女を一目見ようと飢えた野犬の様に俺の周りを全校生徒が取り囲んだ。
男も女もお祭り騒ぎだ。
ああ…もう死にたい…
コマチはまるで関係ない顔をしている。
「ずいぶん賑やかだなタスク。百姓どもの歌垣でも始まるのか?」
(お前を見に来てるんだよ!この痴女が!)
その時、俺はハッ!と気づいた。
もしコマチが痴女である事がバレたら俺の人生はお終いではないか!!!
痴女を連れ歩く変態と世間から後ろ指さされ辛い学園生活が続く事になる!
いかん!なんとかしてコイツを連れて教室を脱出せねば!
(この授業が終わり次第、どこかに逃げ込まないと。え〜と普段使ってないところは、体育館の用具室、理科の実験室、視聴覚室、放送室、とりあえずあの辺にこのコイツを隠そう!)
とか考えてるうちに三年生の不良学生(死語)どもがコマチにちょっかいをかけてきた。
もちろんコイツらは就職組だから勉強や教師なんて関係無い。というか見た目がすでにオッさんだ。
「ねぇねぇ、君の名前は?」
俺はギョッとして飛び上がった(やめろ!馬鹿!)
ワルたちの手がコマチの肩に手を触れた瞬間。
「痴れ者!」
コマチの肘打ちと手刀と裏拳が一閃し、三人が顔面から血を吹きながら倒れた。
あちゃ〜やっちまった!
早くて見えなかったが、コマチは正面を向いて座ったまま、片手で男三人を瞬殺したみたいだ。
恐るべし狩猟民族。
三人は顔面を押さえながら転げ回り教室の中に女子の悲鳴が響き渡り、教室はたちまち阿鼻叫喚の地獄絵図になった。
うわっ!ヤバい!よりによって校内一のワルどもに手を出して勝ってしまった!終わりだ!
俺は人混みを掻き分け一目散に教室を飛び出した。
「待てタスク!どこ行く!」
コマチは忍者の様にスルリと人混みから抜け出し俺を追いかけてくる。
ウゲっ!なんちゅう運動能力だ、さすが狩猟民族。
いや待てよ…そうか!考えてみたら俺が逃げればコマチは勝手について来るんだ。
それならば。
俺はダッシュで隣の校舎にある理科実験室に向かったが、あらダメだ。ここは教室から丸見えだ。振り返るとみんなが廊下の窓から見ている。
それに考えてみたら放送室や視聴覚室は職員室の目の前だ。逃げる所が無い。
廊下の角をさらにターンして階段を駆け降りると、
あった!あそこなら!
校舎の一番奥にある図書室に飛び込んだ。
よかった。授業中だから誰も居ない。
図書の貸し出しカウンターを飛び越えて、さらに奥にある司書室のドアに飛び込む。
振り返るとコマチもカウンターをヒラリと飛び越えて追って来る。
そのさいスカートがめくれて右側の腰の白い肌が見えた。
(ウギャっ!やっぱり履いてねぇし!)
俺はあわてて扉を閉めた。
壁にもたれてゼーゼーと荒い息をするが隣にいるコマチは顔色ひとつ変えてない。
というかコイツはいつの間に部屋の中に入ったんだ。
猟師だと思っていたが、考えてみたらあの猟師ファッションは『くの一』の衣装だよな。
小学生ぐらいのチョビ助から急に大きくなってたり、ひょっとして本当に忍者かな?
などと考えていると図書室のヌシである司書のカワサキさんが来た。
「ようタスク!来たな有名人!」
派手な赤い服に長髪を束ねてメガネをかけた司書のカワサキさんが俺をからかってくる。
「勘弁してくださいよ川崎さん、もう大変なことになっちまったんですよ」
「川崎かをる」
このカワサキ女史は大学院で民族学やら考古学やらの研究室に居た研究員さんだ。
例のウチの裏庭の古墳を発掘するためにわざわざ東京からこの町に移住して来た変人である。
ところがこの町の学芸員には空きが無くて、仕方なくウチの学校の司書になったらしい。
そのせいか休日になると家の近所のコンビニや裏山でカワサキさんをよく見かける。
最近では俺の家に勝手に上がり込んでウチの居間で婆ちゃんや近所の老人たちとお茶をしながら世間話をしてたり、俺の部屋のベッドの裏のエロ本の調査をしてたりする。
何をやってるんだこの人は?
まぁカワサキさんは早い話が学校の仕事に関しては全くヤル気は無い人だ。
俺としてはありがたい。地獄に仏だ。
カワサキさんはマジマジとコマチを調査している。
「ほぇ〜スンゴイ美人だねぇこの娘、将来世界三代美女とか呼ばれるんじゃない」と真顔で言っている。
「何すか?それ」
「あん、御三家とかビッグ3の事よ。日本人って『三大ナントカ』が大好きじゃん。
「炭水化物、たんぱく質、脂質」が三大栄養素でしょ。
三大祭りなら祇園、天神、神田とか、
三大道場なら「剣は千葉、力の斎藤、位の桃井」
時代劇なら「阪妻、千恵蔵、アラカン」とか」
民族学とかやってるせいか趣味が古い。
どうりでウチの婆ちゃんと話が合うワケだ。
「んで?三大美人とは?」
「世界三大美女は『クレオパトラ、楊貴妃、小野小町』ね」
「なんで世界三大美女に日本人が入ってるんすか?」
「日本人が勝手にランキングしてるだけだからね。
それに小野小町だって本当に美人だったのかどうかは記録が無いわ」
カワサキさんは笑った。
さすが学者さんだ。なんだかんだでムダに詳しいな。
ん?待てよ…小野小町って?
思わず横を振り向いてコマチを見ると、コマチは大きな眼を細めてニンマリと笑った。
「ほほう、この時代では妾は三大美女であるか。もっともな話じゃな」
……………え?
何言ってんだこの狩猟民族は。
〜02 「世界三大美少女?」〜 完
(=φωφ=)今回は妖怪は出ません。学園ドラマ…でもないけど、まあ。




