謎の猿人族
謎の猿人族、その正体は?
アインは、町の外に出るのは初めてだ。町から一歩外に出ると、そこはわずかに草木が生えるだけの、荒野となっていた。
第三次世界大戦は、放射能を撒き散らし、大地を不毛の地へと変えていた。
わずかに残っていた、自分たちの住める土地に、それぞれの種族の居住区を建設してはいたが、それ以外の土地で生活するのは不可能に等しかった。
先の第三次世界大戦の影響で、草木も生えないだろうという状況になったが、これも放射能の影響なのか、かつての地球には生息していなかった、異形の怪物や、食虫植物などが生息するようになった。
空には、巨大なロック鳥、海には、体長が15メートルにもなる巨大なサメや、大王イカなどが普通に泳いでいる。
かつての人間たちは既に滅び、我々ケモミミ族は、わずかに残る安全な土地を切り開き、そこに町を建設して住んでいた。
以前から比べると、ずいぶん安全になってきたようだ。
俺は、柴犬族のアイン。鼻がきく、ということ以外は、これといって取り柄があるわけでもなく、まだ何者にもなっていない少年だ。
猿人族、というのがどういう種族なのか、興味を持ち始めていた。しかしながら、ろくな武器も装備も持たないで、大丈夫か?
それにしても、百獣の王ライオンと、一介の柴犬とが、このように行動を共にするなんて、考えもしなかった。
それにしても、まるで原始時代だ。一応、農耕や畜産は行われてはいるが、それでも弥生時代くらいの水準ではないか。
そこには、かつての高度文明の痕跡は、残っていなかった。
そうこうしているうちに、猿人族の住み家という場所に到着する。
この猿人族が、かつては人間と呼ばれた者たちが退化した、成れの果てであると気づいたのは、さらに後のことだった。
ここは、砂漠同然、その中に、鉄格子のような扉がある、粗末な建物がある。
得意の鼻で、ニオイを嗅いでみる。人間のニオイがするかと思ったが、それらしいニオイは感じられなかった。
すると、扉が開き、中から類人猿らしき者たちが、姿を現す。その容貌は、まさにアウストラロピテクスそのものだった。オブリガード先生が読ませてくれた本で、見たことがある。
「お前たちは、何者だ?」
言葉は話せるらしい。まずは先に名乗るべきと思った。
ところが、俺には彼ら猿人族の話している言葉が、さっぱりわからない。どうやら彼らは、猿人語という言葉を使っているようだ。
そこで、猿人語がわかるという、レオニダスに頼んで、話をしてもらうことにした。
レオニダス「我々は、知恵の統治者から頼まれて、ここに来た。繰り返しになるが、また例の話を聞かせてほしい。」
猿人族「知恵の統治者か。あのお方か。我々の1万年前の先祖の話を聞きたいのか。
今日は何だ?1万年前の先祖たちが、どういう食生活をしていたのかを聞きたいのか。」
どうも、レオニダス一家と、猿人族、そして知恵の統治者と名乗る人物とは、知り合いのようだ。
しかしやはり、どういう内容の会話をしているのかを聞き取ろうと思っていたのだが、聞き取れなかった。猿人族の言葉は、やっぱりわからなかった。