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アインの旅立ち【回想】

俺はアイン。柴犬族。耳は柴犬の耳、それ以外は見た目も人間と変わらないが、一つだけ決定的に違うところがある。

それは嗅覚(きゅうかく)だ。俺の嗅覚(きゅうかく)は犬並みで、ほんのわずかなニオイでも嗅ぎ分けることができる。これが、柴犬族の特徴だ。


ある日のこと、どこからか、今までに嗅いだことのないようなニオイを感じた。どうやら、この町に存在するニオイでは無いらしい。

そして、俺たちは初めて、この町の人(?)以外の人々(?)の世界を知ることになる。


見た目も、今まで見たことの無いような者たちだ。

いったい彼らは何者なのか?


父親、母親、それと娘のようだが、父親らしき者はライオンのオスの顔、母親らしき者はヒョウのメスの顔、娘らしき者は、ウサミミだ。ウサミミなら、俺たちの町にもいるが、また違う種類のウサギらしい。どこから来たのだろう。


ケモミミ族は混血が進み、同じ一家でも違う種類の動物の顔、動物の耳になることは、そう珍しいことではない。俺のところも、母方の祖父がゾウで、母方の祖母はシマウマ、母親はリカオンの耳、その一方で、父方は祖父母も父も、皆、柴犬の耳だ。

さらには、ケモミミ族でも、耳だけケモノのやつもいれば、顔もケモノというやつもいる。


なぜそうなるのかは、誰にもわからないという。

ただ、1万年という長い進化の過程で、そうなっていったのではないかという。

もっとも、地球の生命の進化の歴史からすれば、その1万年でさえ、少しの時間でしかないという。


オスライオンの顔の父親 レオニダス

メスヒョウの顔の母親  レオパルト

ウサミミの娘      ミッフィー


レオニダスと、オブリガード先生とが、何か話をしている。


レオニダス「我々は、知恵の統治者から遣わされた者だ。ここに来る途中で、猿人族という者たちを見かけた。かつては高い知能を持っていたであろう者たちだが、いまやそれは見る影も無い。

知恵の統治者からの勅命で、ケモミミ族の実態調査、とりわけ、柴犬族、そして先程の猿人族について、特に詳しい実態調査をせよとのお達しが、つい今しがたあったばかりだ。

知恵の統治者は、テレパシーを使い、我々の心に語りかける能力をお持ちだ。」


知恵の統治者、と呼ばれる謎の人物、実は異世界転生者で、世界中の、あらゆる時代、あらゆる分野の本を集め、世界大図書館を建設したという伝説の人物だ。

世界大図書館には、1万年前の先の大戦で失われた知能を集約する場所になっているという。

そんな伝説の人物の使いの者が、なぜここに?


レオニダス「おや?もしかして君は、柴犬族の少年か?」

アイン「はい。その柴犬族の、名前はアインと言います。」

レオパルト「私は、レオパルトよ。」

ミッフィー「私はミッフィー。私より年は上みたいだから、お兄ちゃんになるのかな。」

アイン「よ、よろしく。」




謎の猿人族、その正体は?


アインは、町の外に出るのは初めてだ。町から一歩外に出ると、そこはわずかに草木が生えるだけの、荒野となっていた。

第三次世界大戦は、放射能を撒き散らし、大地を不毛の地へと変えていた。

わずかに残っていた、自分たちの住める土地に、それぞれの種族の居住区を建設してはいたが、それ以外の土地で生活するのは不可能に等しかった。


先の第三次世界大戦の影響で、草木も生えないだろうという状況になったが、これも放射能の影響なのか、かつての地球には生息していなかった、異形の怪物や、食虫植物などが生息するようになった。

空には、巨大なロック鳥、海には、体長が15メートルにもなる巨大なサメや、大王イカなどが普通に泳いでいる。

かつての人間たちは既に滅び、我々ケモミミ族は、わずかに残る安全な土地を切り開き、そこに町を建設して住んでいた。


以前から比べると、ずいぶん安全になってきたようだ。


俺は、柴犬族のアイン。鼻がきく、ということ以外は、これといって取り柄があるわけでもなく、まだ何者にもなっていない少年だ。


猿人族、というのがどういう種族なのか、興味を持ち始めていた。しかしながら、ろくな武器も装備も持たないで、大丈夫か?


それにしても、百獣の王ライオンと、一介の柴犬とが、このように行動を共にするなんて、考えもしなかった。


それにしても、まるで原始時代だ。一応、農耕や畜産は行われてはいるが、それでも弥生時代くらいの水準ではないか。


そこには、かつての高度文明の痕跡は、残っていなかった。


そうこうしているうちに、猿人族の住み家という場所に到着する。


この猿人族が、かつては人間と呼ばれた者たちが退化した、成れの果てであると気づいたのは、さらに後のことだった。


ここは、砂漠同然、その中に、鉄格子のような扉がある、粗末な建物がある。


得意の鼻で、ニオイを嗅いでみる。人間のニオイがするかと思ったが、それらしいニオイは感じられなかった。


すると、扉が開き、中から類人猿らしき者たちが、姿を現す。その容貌は、まさにアウストラロピテクスそのものだった。オブリガード先生が読ませてくれた本で、見たことがある。


「お前たちは、何者だ?」


言葉は話せるらしい。まずは先に名乗るべきと思った。

ところが、俺には彼ら猿人族の話している言葉が、さっぱりわからない。どうやら彼らは、猿人語という言葉を使っているようだ。

そこで、猿人語がわかるという、レオニダスに頼んで、話をしてもらうことにした。


レオニダス「我々は、知恵の統治者から頼まれて、ここに来た。繰り返しになるが、また例の話を聞かせてほしい。」


猿人族「知恵の統治者か。あのお方か。我々の1万年前の先祖の話を聞きたいのか。

今日は何だ?1万年前の先祖たちが、どういう食生活をしていたのかを聞きたいのか。」


どうも、レオニダス一家と、猿人族、そして知恵の統治者と名乗る人物とは、知り合いのようだ。

しかしやはり、どういう内容の会話をしているのかを聞き取ろうと思っていたのだが、聞き取れなかった。猿人族の言葉は、やっぱりわからなかった。




アイン「話をしてきたのか?」

レオニダス「ああ。」


俺には、猿人語がわからないから、何を話しているのかはわからなかった。ただ、何か重要なことをはなしているということはわかった。


レオニダス「1万年前の人間たちが、この世界をこんな世界にしてしまった。」

レオパルト「ええ。地球上に現れた生き物の中で、最も愚かなのは人間だと聞きましたが、その愚かな人間たちの中でも、愚かな人間たち。

第三次世界大戦は、そうした愚かな人間たちがしでかした戦争なのよ。」

ミッフィー「私には、難しいことはよくわからないんだけど。」


俺にも、難しいことはよくわからない。


レオニダス「昔々、高層ビルが建ち並び、高速道路の上を車が行き交い、公共交通機関も何でもあった時代があった。

高度文明の恩恵を受け、いろんな娯楽を楽しみながら過ごしていたんだろうな、あの時代の人間たちは。

おっと、私はついつい、説教じみてしまうところがあるようだな。私の悪い癖だ。」


それから、その高度文明は戦争で滅び、その成れの果てが、今の猿人族だということか。


ならいっそ、新暦ゼロ年からまた歴史を始めようか。


ここまで、何の活躍もしていない。とはいえ、愚かな戦争をするのも人間なら、高層ビル群や高速道路や、公共交通機関のような高度文明の利器を築き上げるのもまた、人間だと思った。


その昔、このあたりにも高度文明があり、人々はその豊かさと便利さの中で暮らしていた。

俺らは、生まれてこのかた、その高度文明というものを見たことが無い。

だから、一度でいいから、それを見てみたい。願わくば、その恩恵を受けるような生活をしてみたい。

そう願った。




すると、いつの間にか、その文明の利器が目の前に現れて、俺は驚いた。


「すごいな、いつの間にこんな。」


それは、スマートフォンと、自動車。馬が引く馬車すら、めったに通らないのに、馬が引かなくても走る、恐ろしく早い乗り物、それが自動車だ。


いずれにしても、それを使う人間の心次第で、利器にもなれば、凶器にもなる。


帰りは、自動車に乗って、町に戻ることにした。


なお、自動車に乗っていると、変な気分になるような人もいるとか。これが、車酔いというやつか。


その変な気分、車酔いを止めるための、酔い止めの薬というものもあるらしい。


それだけ俺らは、外の世界のことを何も知らなかった、知ろうともしてこなかったのかもしれない。


そういう生活では、日にちの感覚すら必要なくなるのだろう。あれが何月何日の出来事だったとか、いちいち気にしていない。


畑と、豚小屋が見えてきた。牛舎、鶏舎もある。


田んぼもある。レンコン畑もある。そして、俺らの住む家へと、出迎えた。



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