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前世の記憶

時折、前世の悲しい記憶が蘇ることがある。


ああ、また蘇ってきた。前世は本当に柴犬だった。名前は無かった。


どこで生まれたのかは、とんと見当がつかない。


物心ついた時には、多頭(たとう)飼育(しいく)崩壊(ほうかい)の現場だった。


俺と、何匹かは救出されたが、それ以外の多くの者たちは、(さつ)処分(しょぶん)という名目で、ガス室に送られて殺されたという。


それから俺が連れてこられたのは、保護犬、保護猫活動をしているという保護施設だった。


俺は、生まれてこのかた、体の毛の手入れをしてもらうことも無かったので、全身ボサボサの毛むくじゃらだった。そこに現れたのが、アイダ・マサノリという、本業のタレント活動のかたわら、某番組の企画でトリミングを行っているという。


この時のトリミングで、見違えるように、きれいさっぱり。ああ、きれいさっぱりとは、こういう感覚なのか、体毛を切ってもらってきれいになるとは、こういう感覚なのかと。


彼に対して『偽善者』という言葉を投げかける者もいたようだが、俺にとってはまさに救世主、命の恩人の一人でもあった。


それから俺は、預かりボランティアで一時的に、ある家に預けられた。


譲渡会までの期間だったが、生まれて初めての幸せな時間を過ごした。そして譲渡会で、新たな飼い主のもとへ。その飼い主も、預かりボランティアの家と同様の、優しい家族だった。


いや、彼らにすれば、当たり前のことを、普通に行っているだけだという感覚だったようだが、その当たり前の、普通のことができないような人間も、一方ではいるのだから、本当にこの両者が同じ人間という種族なのか?と、首をかしげたくなる。


そんな中、とある国で独裁者が現れた。そして、突然他国へと侵略戦争を開始した。

その国では、捨て犬や捨て猫をガス室で殺処分するように、人間がガス室で殺処分されるという。

それだけではない。戦場では、独裁者の意に沿わない自軍の兵士でさえ、殺されるという。

脱走兵なども容赦なく殺した。まさにあの独裁者のなせる業といえよう。

そしてついに、あの独裁者は核のボタンを押した。


俺の、前世での幸せな時間は、あの核戦争によって、奪われた形だ。

あの独裁者は、自らのしでかした戦争によって、結局自らの身も滅ぼすことになった。

第三次世界大戦は、ある意味、究極の拡大自殺といえよう。




しかし、それもこれも、前世の話。今は人間型の種族、ケモミミ族として、この世界で幸せに暮らしている。

さて、今日もいつものように食事をして、いつものように、友達とたわいのないおしゃべりをする。




また、前世の記憶がよみがえってきた。


サウシードッグ


サウシードッグとは、生意気な、図々しい、大胆な犬という意味らしい。まさに、俺みたいな犬のことか。

なぜ『サウシードッグ』なんて呼ばれるようになったのか。それは俺の前世での飼い主の娘が、

『サウシードッグ』という音楽グループのファンだったらしく、彼女(かのじょ)(いわ)く、「音の響きがかっこよかったから」だそうだ。

その家で飼われてからは幸せだった。第三次世界大戦が起こるまでは。

いい人も、悪い人も、あの戦争で死んだ。おそらく死んだだろう。そして1万年後の、今を迎えた。




あの娘は、ほんとに可愛い娘だったな。


ネコミミでもいいから、不意にフラッと現れたりしないかな?いや、お互いに気づかないかな?


それになんと、俺に最初にトリミングをしてくれたアイダ・マサノリのファンでもあった。

この人たちは、今頃どのあたりに転生していることだろう。

まさかアイラが、あの娘の転生してきた姿か?

それとも、うさぎ耳のミッフィーが、あの娘の転生してきた姿なのか?それはわからない。


そしてそして、謎といえば、知恵の統治者と名乗る人物の正体。まさかアイダ・マサノリが、その知恵の統治者に転生してきたのか?


その真相は、今もってわからずじまい。しかしながら、今は、このような形で関わりを持っているということだけは事実だ。


サウシードッグ、それも悪くは無いな。


あの娘のことを思うだけで、俺の前世の思い出は、彼女色に染まる。


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