タイムトラベルの原理
タイムトラベルの原理。この謎を解き明かせば、
過去に存在しないはずのものが過去に存在したり、未来に存在しないはずのものが未来に存在したりする、その謎が解ける。
最も解りやすい説明をすれば、何者かがタイムトラベルを使って、自分たちの時代のものを別の時代に持ち込み、それがそっちの時代で普及していくというもの。
俺たちの時代が、どんな時代か、一番肝心な説明を忘れていたような気がした。
俺たちの時代には、『国』などというものは存在しない。いくつかの集落があるだけだ。
俺たちの集落の他にも、集落はある。しかし移動手段もこれまで無かったので、行ったことは無かった。
『世界大図書館』で本を読みあさっていたのは、そのタイムトラベルの原理を見つけるため、そして、エナジートレインという移動手段を持ち込んで、それによって、世界中をつなぎ、交流を図るため。
タイムトラベルの原理があれば、俺たちも、遠い過去の時代や、未来の時代に、行ったり来たりできる。いや、20XX年の時代から見れば、俺たちの今生きている時代もまた、遠い未来の時代だろう。
俺も、行ってみたくなった。20XX年の時代へ。
どんな時代だったのか、この目で実際に見てみたくなったのだ。もちろん、前世の俺、柴犬だった俺に偶然会ってしまうというリスクはあるが。
20XX年に行きたくなった理由はもう一つ。
それは、あの第三次世界大戦を起こした人間たちが、どのような考えの人間たちだったかを見てみたいと思ったから。そして、一言ぐらい言ってやりたいと思ったから。
しかし驚いたことに、西暦20XX年に関する記録の中でも、2020年代前半の、2020年1月から2024年3月頃までの、ある事柄に関する、いっさいの記録が残されていないという。
これはいったいどういうことなのか。同時代の記録の中でも、スポーツやエンタメの記録は逐一、残っているというのに、ある感染症に関する記録と、それから、とある国際紛争に関する記録が、見事に、いっさいがっさい、消されているという。
これは明らかに、不都合な真実を後世に伝えられたくないと思った、しかるべき立場の人物の指令によって、意図的に消された、と考えるのが妥当ではないか。
西暦でいえば、2020年代。その前の2010年代、2000年代、1990年代、1980年代と呼ばれた時代も含め、ありとあらゆる分野の記録の宝庫となっている。
タイムトラベルの原理によって、タイムマシンが完成すれば、書物や遺物、写真や映像といった媒体だけでなく、実際にタイムマシンを使ってその時代に行ってみて、調査をすることもできるようになる。
さて、タイムマシンの開発は科学者連中に任せて、俺たちはただひたすら、タイムマシンの完成の報を寝て待て、という指令だ。




