069:現れた二人の刺客、立ち向かうはスケルトンキング
勇者救出のため王都に向かった担々麺連合軍。その道中で――
「まったく勇者は……何度も何度も……はぁ……」
女剣士がため息を吐きながら呆れた顔をしていた。
そんな女剣士から溢れた言葉が気になったのか、邪竜が念波を送る。
『何度もということは過去にも似たようなことが?』
邪竜の念波は女剣士のみならず、担々麺連合軍全員の脳内で再生された。
そのためもう一人の人物も反応することになる。
「妾も気になるのじゃ!」
魔王だ。過去、敵として対峙していた魔王だが、勇者が過去に何度も誘拐されたという事実を知らないため、興味を見せているのだ。
「ああ、勇者は何度も魔獣や村人たちに誘拐されたことがあった。村人に関しては誤解が多かったがな。まるでヒロインだよ。あいつは……」
「ヒ、ヒロイン!? ゆーくんがヒロイン……悪くないのじゃ」
勇者が誤解によって人々に攫われる姿を想像して、なぜかご満悦になる魔王。
「魔王ちゃんニヤニヤするのは勝手だが、元パーティーメンバーだった我らのことも少しは考えてほしいな。大変だったんだぞ?」
女剣士は再びため息を吐いた。過去の思い出が蘇ったのだろう。
そんな女剣士の横では、同じく元勇者パーティーの女魔術師がうんうん、と何度も頷いていた。
「じょ、常習犯……ですっ」
女魔術師にも思うところがあったということだ。
「まあ、妾もおぬしらの気持ちはわからなくはないぞ。長くゆーくんと共にしていたからのぉ。そういう可愛いところ結構あるのじゃ! お茶目なのじゃなぁ〜」
「お、お茶目って……まあ、いいか」
惚気にしか聞こえない魔王の言葉に女剣士は再びため息を吐きそうになったが、なんとか堪えたのだった。
「恋は盲目というやつね。うふふっ」
「あの二人の恋は本当に盲目よ。夢の中とは言え、見てるこっちが恥ずかしくなるほどにね」
「淫魔でも恥ずかしいって、二人は一体どんなプレイを?」
「いや、純粋すぎて恥ずかしいと言いますか……真っ直ぐな恋すぎて恥ずかしいと言いますか……とにかく甘々! そう! ストロベリー担々麺のように甘々!」
「あら、そうなのね。激辛担々麺のように私は激辛でハードな恋の方が好みよ」
「激辛でハード!? 二人からは想像できないなぁ〜」
辛党のエルフと甘党のサキュバスは魔王たちの会話を楽しげに聞いていたのだった。
この二人意外と気が合うようだ。
「皆さん、ピクニックに行くんじゃないんですよ。もう少し気を引き締めてください!」
どうやら担々麺連合軍のまとめ役は、情報屋の羊人のようだ。
リーダー的存在の魔王や女剣士に強く言えるほど彼らの信頼関係は担々麺によって築いている証拠でもある。
担々麺連合軍の誰かが暴走したとしても、きっと彼がまとめてくれるだろう。
羊人がいなければ、邪竜やスケルトンキングが代わりにまとめてくれるだろう。
常連客たちの集まりによって結成された担々麺連合軍だが、曲者揃いということもあり、それが逆にバランスが取れていたりもするのである。
「情報屋の言うとおりだぜェ! 見ろッ! 客人だッ!」
牙を鳴らしながら鬼人が言った。
鬼人の視線の先には人影が二つ。明らかに担々麺連合軍を待ち構えている二人がいるのだ。
「敵か!? なら世界最強の龍人であるこの俺が出ようではないか! くはははははっ!!」
「オレも戦うガオ!!! グルルルルル」
やる気十分な龍人は拳を合わせた。
その隣に立つ虎人は牙を力強く唸った。
そんな二人に対して敵は――
「ケタケタケタケタ……」
「……スー……スー……」
奇妙な声を出しながら佇んでいた。
その姿はまるで自分の意志がない人形、操り人形のようだった。
そして何より
「か、仮面を被っているわ! 前に私を襲った仮面の二人組にそっくりよ! でも雰囲気はまるで違うわね。こ、怖いわね……」
妖精族の少女が反応したように敵は仮面を被っているのだ。
「偽勇者と偽魔王の時と同じ仮面ッスね……でも何ッスか、この……殺気のような……」
下っ端盗賊も妖精の言葉を肯定するように、仮面の二人組の異様な気配に怯えていた。
「ケタケタケタケタ……」
「……スー……スー……」
下っ端盗賊のような常人でも感じるほどの殺気を放つこの二人は、仮面を被っていることも踏まえて魔女が放った刺客で間違いはない。
そんな刺客二人を見ながら邪竜が何かに気付いたのだろう、『なるほど』と声が漏れたかのように念波を発した。
「邪竜殿もお気付きで?」
『スケルトンキングもということは間違いないようだな』
邪竜のみならずスケルトンキングも何かに気付いている様子だ。
「なんじゃ? 何に気付いたんじゃ? 妾にも教えてくれなのじゃ!」
「情報はいくらあってもいいですからね。私にも教えてください」
と、魔王と羊人が我慢できずに声を上げた。
「おや? 魔王殿は知らないのですね。他の皆も」
「うぬ。知らぬのじゃ」
「まあ、無理もないか。あの二人は吾輩が現役で冒険者をやっていた頃に名を馳せていた人物――勇者だ」
スケルトンキングの現役時代。それが何百年、何千年前のことなのかは不明だが、邪竜が頷いていることからその考えは十中八九間違いではないのだとわかる。
「ゆ、勇者じゃと!? それもゆーくんとは別の!?」
驚いたのは魔王だけじゃない。邪竜とスケルトンキング以外の担々麺連合軍の全員も驚いている。
『余もスケルトンキングの意見に同意だ。間違いないだろう。奴らは歴代の勇者だ』
「おそらく魔女は現代の者では吾輩らを倒せないと判断したのだろう。その結果、過去の強者を蘇らせた……否、違うな。過去の強者の傀儡を再現した、とでも言っておこうか」
『故人故に、以前の偽勇者や偽魔王のような意思を持った存在にはできなかったのだろうな』
「だが、ここまでの再現……若き頃を思い出す」
『余もだ』
過去の記憶に懐かしさを覚えながらスケルトンキングが一歩前に出た。
「龍人殿、虎人殿、気合十分なところ申し訳ないが、ここは吾輩に譲ってはくれないだろうか?」
「くははははっ! それなら三人でどうだ? 片付けるのも早くなるだろう」
「名案ガオ!!! 体力も温存できるガオ!!」
龍人と虎人は三人で戦うことを提案した。
しかしスケルトンキングはその提案に首を縦には振ることはなかった。
「戦力をここで割くのは勿体ないだろう。吾輩一人で十分だ」
「ひ、一人だと!? スケルトンたちは参戦させないのか?」
「不要だ」
「で、でも相手は昔の勇者なんだろ? だったら世界最強の龍人である俺だけでも!」
「抜け駆けはずるいガオ! 元世界最強の獣人であるオレが出るガオ!」
龍人も虎人も戦う気満々だ。否、それだけではない。
相手は勇者。それも二人。偽物とはいえ感じたこともないほどの強大なオーラを放つ敵だ。
龍人と虎人はスケルトンキング一人では危険だと判断しているのである。
「吾輩は問題ない。二人は世界最強なのだろ? なら今後の強大な敵を相手してくれ。だからここは吾輩に譲ってほしい」
スケルトンキングはなおも首を縦に振らない。
それどころか頑固たる意志が彼にはあった。
「そこまで言うなら譲ろうではないか。くはははははっ!」
「仕方ないガオ。出番は次の機会ガオ」
「感謝する」
龍人と虎人から出番を譲ってもらえたスケルトンキングは、さらに一歩前に出て、担々麺連合軍の先頭に立った。
「魔王殿。傀儡の勇者は吾輩が相手する。吾輩のスケルトンたちは魔王殿に任せた」
「うぬ。任されたのじゃ。そしてここはおぬしに任せたのじゃ」
「任せよ」
スケルトンキングはさらに一歩、また一歩と敵に向かってゆっくりと歩いていく。
仮面の二人はその場から一歩も動かず、スケルトンキングを待ち受ける。
「なるほど。一定距離まで近付かない限りはそちらからは動かないと。それならば――」
スケルトンキングは両手を広げた。直後、詠唱する。
「悪シキ魂ニ闇ヨノ帳ヲ――ダークソウル・バリア!!!」
するとスケルトンキングと仮面の二人を囲う闇色の結界が出現した。
結界の中にいる者を逃さず、侵入者も拒ぶ結界だ。さらにそれだけではない
「結界内はこの世でもあの世でもない。隔離された空間。故に結界外にいる者たちへは反応できまい」
その言葉通り、魔王たちは仮面の二人に反応されることなく、スケルトンキングの結界を横切った。
「吾輩も結界内にいなければいけないというのが欠点ではあるがな。さあ行け! 担々麺連合軍よ! 必ず勇者を救い出し、皆で担々麺を食べようぞ!!!」
「うぬ! 最高の豆乳担々麺を作ってあげるのじゃ!」
「ふはははっ。それは楽しみだ」
スケルトンキングは笑いながら担々麺連合軍を見送った。
巨躯である邪竜の姿も完全に見えなくなったところで、スケルトンキングはさらに一歩踏み出した。その距離は仮面の二人が反応を見せる距離だ。
「さあ、勇者の傀儡よ」
「ケタケタケタケタ……」
「……スー……スー……」
「吾輩が遊んでやろうではないか」
スケルトンキングと歴代の二人の勇者による戦いの火蓋が切って落とされた。




