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058:国王と魔女、捗る暗躍

 妖精族の少女が〝究極のミニ担々麺〟の魅力に気付いた日の深夜、国王の寝室では――


「今日も()()()()()共が敗れそうだな。それも担々麺に取り憑かれた者たちに……」


 顎髭(あごひげ)を生やしたダンディな老人――この国の国王が深刻そうな表情を浮かべながら言った。


「敗れたって……嫌な言い方だな〜。今は準備期間だと思ってよ。情報収集ってやつ。だからまだ負けてないんだよ」


 ベットの上でゴロゴロと転がりながら国王の話を訊いている少女は、国王とともに魔王と勇者の暗殺を暗躍する魔女だ。

 重たい空気にならずにいるのは、魔女が小動物のように愛くるしい仕草を見せているからである。


「でも正直驚いているよ。勇者パーティーの剣士と魔術師の仮面はともかく、邪竜の仮面がやられちゃうだなんてね。魔王と勇者の仮面の次に出来の良かったボクのおもちゃだったのにさ〜」


「それだけ担々麺に取り憑かれた者たちが危険だということ。あの料理は(わし)の世界を狂わせる恐ろしい料理だ。だから早く魔王と勇者を消さねばならない」


 世界を恐怖政治(テロル)で支配しようとしている国王が危険視しているのは、魔王と勇者が作り出してしまった異世界の料理――担々麺だ。

 魔王と勇者という存在以上に担々麺を危険視しているのである。

 担々麺を作り出せる魔王と勇者を消し担々麺を歴史から排除することが、国王の恐怖政治(テロル)計画の第一歩となるのである。


「まあまあ焦らない焦らない。焦ってもいいことなんてないよ〜。今日だってたくさんの情報が集まったんだからさ。さらに強力になった勇者パーティーの剣士と魔術師のおもちゃができるよ。あと邪竜の仮面を倒した鬼人と龍人と虎人のおもちゃもね。仮面が完成するまでもう少し待ってよ。X(エックス)デーにはちゃんと面白いものを見せるからさ〜」


「その言葉信じてもいいのだな?」


「ボクとキミの仲でしょ?」


「そうだった。楽しみに待つとしよう」


 国王は安心したのか、深刻そうな表情から解放されていた。

 そして体も身軽になったのか、ゴロゴロと転がっている魔女のベットに深く腰を下ろした。

 一息ついたところで国王が疑問を口にする。


「ところでなぜ同じ仮面を作らないんだ? 魔王と勇者の仮面を量産すればいい話ではないのか?」


「あ、あれ? 言ってなかったっけ? 同じ人間の仮面は作れないんだよ。同じ人間が存在しないようにさ、一人に一枚って決まってるんだよ。まあ壊れてからならもう一度作ることが可能なんだけどね。そこは人間とは違うところだよ。器となる肉体があればいいだけだからね、だから魔王と勇者の仮面を量産することはできない。いや、待てよ……そうか、そうだ。なんでボクはこんな簡単な事に気づかなかったんだ」


 何かに気付いた魔女はベットから飛び起き、ベットに腰を下ろしている国王の正面に立った。

 そして無邪気な少女のような笑顔を溢しながら、ぴょんぴょんとその場を跳ね始めた。

 その手には国王の両手が握られている。ぴょんぴょんと跳ねるたびに国王の手も上下に動く。


「作れる! 作れるよ!」


「何か閃いたみたいだな」


「うん。キミのおかげでね。魔王と勇者の仮面を複数作ることが可能だよ。だって歴代の魔王と勇者の仮面を作っちゃえばいいんだからさ!」


「歴代の……なるほど。それなら一人一枚という条件を満たすというわけか。それに歴代の魔王と勇者となると……」


「そう。今の魔王と勇者なんかよりもずっとずっと強い! ボクは生人にばかり目を向けていたよ。すっかり故人ことなんて忘れてたからね。ふふっ。楽しくなってきたよ。すぐに情報を集めてね。歴代の魔王と勇者全員分の情報を。それと所持品もここに全部持ってきて。魔力が残っていれば良し。細胞が見つかればなお良し。ふふっ」


「貴重な国の財産をそんな簡単に持ってこいとな……」


「キミの国でしょ? 今もこれからも。だから簡単でしょ?」


「まったく、国王使いの荒い魔女だ」


「魔女という存在はいつの時代もそういう生き物だよ。明日また来るわ。それまでにお願――」


 魔女が立ち去ろうと一歩踏み出した瞬間、国王の手がそれを拒んだ。


「支払いが先ではないのか? お前も興奮しているだろ?」


「も〜う。そういう興奮じゃないってー! 仕方ないな〜。でもまあ、キミのおかげで閃いたわけだし……ちょっとだけサービスしてあげるよ」


 その瞬間、国王は魔女を引き寄せベットへと押し倒した。


「今夜の国王様は猛獣なのね。ふふっ」


「お前がそうさせたのだよ」


 国王と魔王は朝日が昇るまで互いに体を求め合った。いつも以上に激しい一夜を過ごしたのだった。

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