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047:二人の天才、イチャイチャは平常運転

 常連客連合軍とスケルトン軍団が担々麺専門店『魔勇家(まゆうや)』の正面で対峙している。


「魔物スケルトンキング。あなたたちの目的はなんですか?」


 女魔術師が背丈ほどの杖をスケルトンキングに向けながら言った。

 普段からは想像できないほどハキハキと、そして威圧的なオーラを放ちながら言った。

 よほど担々麺が食べられなくなってしまうのが嫌なのだ。

 その気持ちは女魔術師の後ろにいる者たちも同じだ。

 全員が敵意に満ちた視線をスケルトン軍団に向けている。


「魔術師か……厄介な。それに気になる人物がもう一人、いや、もう一匹と言った方が正しいか。災厄で最凶の邪竜よ。復活したという噂は本当だったようだな。ふんっ、相手にとって不足なしだ」


 スケルトンキングも威圧的で禍々しいオーラを放っている。

 予想していた通りスケルトンキング率いるスケルトン軍団は、ここへ戦いに来たのだ。


「答えなさい! あなたたちの目的はなんですか?」


 女魔術師は先ほどと同じ質問を繰り返す。

 魔法の杖を激しく発光させ、怒鳴るように言ったところ以外は先ほどと同じだ。

 答えなければ魔法を放つぞ、という脅迫に近いものでもある。


「吾輩らの目的はただ一つ。この城にいる()()()()()を亡き者にすることだ――!」


「「「WOOOOO!!!」」」


 スケルトンキングが杖を天高く掲げながら叫んだ直後、149体ものスケルトンが一斉に咆哮した。

 スケルトンキングの叫びがスケルトンたちを鼓舞させたのだ。


「待て! どういうことだ!?」


 声を上げたのは先頭に立っている女魔術師の横に並んだ女剣士だ。

 スケルトンキングの発言に何やら引っかかる点があるらしい。


「どういうことも何も、言葉のままだ! 吾輩らは()()()()()をあの世へ送りに来たのだよ――!」


「「「WOOOOO!!!」」」


 スケルトン軍団は再び咆哮した。

 スケルトンキングはスケルトンたちを鼓舞するのに余念がない。

 戦闘への熱を冷ますことなく更に奮い立たせたのだ。149体ものスケルトンを率いているだけの実力がある証拠だ。


「我が引っかかるのは、なぜ魔王と勇者の二人なのだ? 普通ならどちらか片方じゃないのか?」


 女剣士の主張はもっともだ。

 長きに渡る世界大戦が終結した現代でも未だに魔王を恨む者、勇者を恨む者は存在する。

 しかし魔王と勇者の両者を恨む者など、(まれ)にしか聞いたことがないのである。

 その稀の存在が目の目にいるというのはスケルトンキングの発言から事実だというのがわかるのだが、女剣士はその数、稀と呼べないほどの150体もの存在を受け入れられずにいるのである。


「魔王に殺されたスケルトン。勇者に殺されたスケルトン。その二者が手を取り合った。ただそれだけだ」


 手を取り合えるものなのだろうか。そんな疑問が女剣士の脳内に浮かんだのだが、それを口にすることはなかった。

 その代わり別の疑問を口にする。


「ではなぜここへ? ここには魔王も勇者もいな――」


「――嘘を吐くな――!!!」


 女剣士が言葉を言い終える前にスケルトンキングが怒りに満ち溢れた声で怒鳴った。

 そんなスケルトンキングに女剣士は気圧される。無意識に一歩後ずさってしまうほどに。

 気圧されたのは女剣士だけではなく、先頭に立っている女魔術師もだ。

 このままでは心が恐怖に支配されてしまうのも時間の問題である。


『なぜ嘘だと思うんだ? 根拠はなんだ?』


 気圧された女剣士と女魔術師に代わって質問を繰り出したのは邪竜だ。

 思念伝達による質問だが問題はない。魔物にも思念伝達は通用するのだ。


「魂を感じるのだよ。奴らの……魔王と勇者の濃厚な魂がな!」


『魂か……』


「そうだ。吾輩は貴様らとは違って個々の魂を見極める力を持つ。いくら魔法で偽装したところで、吾輩スケルトンキングの前ではお見通しなのだよ――!!!」


「「「WOOOOO!!!」」」


 今までで一番大きな咆哮だ。

 スケルトンキングの合図を待たずに今にも襲いかかって来そうなほどスケルトンたちは殺気立っている。


「さぁ! 出てこい! 魔王! 勇者! 貴様らの子分が(しかばね)となるぞ? いいのか? 魔王! 勇者!」


 スケルトンキングは城に向かって叫んだ。魔王と勇者の魂を城の中から感じ取っているのだろう。

 では肝心の魔王と勇者はどこにいるのかというと――


「すげーな、まーちゃんって……」


「いきなりどうしたのじゃ? ゆーくんよ」


「改めてまーちゃんの天才っぷりに感動しちゃってさ。もっと好きになった」


「よ、よすのじゃ! は、恥ずかしいではないか!」


「天才って言われるのそんなに恥ずかしいのか?」


「そこじゃない! そのあとじゃ!」


「そのあと?」


「もうよい! もうよいのじゃ! なんでもないのじゃー!!」


 と、いつものようにイチャイチャトークを繰り広げていたのだ。

 それも常連客連合軍とスケルトン軍団が対峙する真横でだ。


「なぜ出てこないのだ!? 魔王! 勇者!」


 いまだに城に向かって叫び続けるスケルトンキング。

 魔王と勇者は真横にいる。城の中から反応がないのは当然だ。


「確かに魂を感じる。なのになぜだ? なぜ反応がないんだ!」


 個々の魂を見極める力を持つスケルトンキング。その精度は100%と言っても過言ではない……のだが、魔王は、そんなスケルトンキングの力をも上回る魔法で正体を隠し通したのだ。

 そして自分たちの魂を再現し、城の中のある場所へと放ち魔王と勇者が城内にいるように仕向けたのだ。

 だからこそ先ほど勇者は魔王のことを『天才』だと称賛したのである。


「もしや吾輩らスケルトン軍団に怖気付いたか?」


「「「KARAKARAKARAKARAKARA」」」


 スケルトンたちはスケルトンキングの軽口にカラカラと笑い出した。

 顎が小刻みにカタカタと動き、同じように小刻みに肩も上下に動いている。

 その姿は不気味極まりない。

 1体でも不気味なのにそれが149体同時となれば、意気込んで先頭を切っていた女魔術師の心を恐怖心に塗り替えるのに十分すぎる要素だろう。

 その証拠に――


「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」


 女魔術師は生まれたての子鹿以上にガタガタと小刻みに震えてしまっていた。

 スケルトンと女魔術師。その小刻みに震える様はいい勝負といえるだろう。

 その勝負の行方は――


「すーん……」


 女魔術師が意識を失いスケルトン軍団の勝利で幕を閉じた。


「くっ、やはり耐えられなかったか」


 女剣士は意識を失った女魔術師を抱えた。

 この場に寝かせるわけにはいかず、肩を貸すような感じで女魔術師を支えている。

 もはやこの状態になってしまえば、女剣士も戦闘不可能だろう。

 そう思った羊人はすぐさま女剣士から女魔術師を受け取ろうとする。


「魔術師さんは僕が」


「あぁ、頼む」


 非戦闘員だからこそできる精一杯のサポート。そして迅速な対応だ。


「ゆーくんのところのドジっ娘魔術師大丈夫なのか? 意識失ったんじゃが?」


「まあ……うん。大丈夫だろう。ああいうの日常茶飯事だったし」


「日常茶飯事って……ゆーくんも苦労してたんじゃな」


「記憶の中で一番新しいのは……確か火の玉だったかな? 赤と青の火の玉が飛んでてだな。その二つが重なって……って今そんな話してる場合じゃねー」


「気になるところで終わってしまったのぉ……残念じゃ」


「今夜ゆっくり話してあげるからそんなに落ち込まないでくれ」


「こ、こ、こ、今夜!?」


「おう! 今夜な! 俺も最後まで話したいからさ」


「絶対じゃぞ? 絶対に今夜じゃ!」


「おう!」


 一触即発の場面が目の前で繰り広げられているというのにも関わらず、魔王と勇者は平常運転だ。

 しかしそんな平常運転はここまで。魔王と勇者はこの事件の解決に向かうため、頭を切り替えて歩き出した。

 そしてスケルトンキングの正面で足を止める。


「なんだ貴様らは?」


 魔王と勇者はスケルトンキングの問いに()()()()()答える。


「俺たちはここの経営者だ」「妾たちはここの経営者じゃ」


 二人の声が重なった。阿吽の呼吸の如く二人のシンクロ率は双子以上に凄まじい。


「経営者……なるほど。この城はそういう場所になったのか。迷惑をかけたな。すまない」


 スケルトンキングは律儀に首を垂れて魔王と勇者に謝罪する。

 突然の謝罪に魔王と勇者は罪悪感のようなものを覚える。


(な、なんか悪いな。俺、キミたちの標的なのに……というか、スケルトンキングって意外と素直だな。さっきも質問には全部答えてたし。そのおかげでスケルトンキングたちの目的もわかった。俺とまーちゃんだ。俺の推測だが、スケルトンキングたちは俺とまーちゃん以外には危害を加えるつもりはなさそうに見える。そうじゃなきゃ今戦っていないのがおかしい。力を温存しているという可能性もあるが、さっきの素直な態度からしてその可能性は薄い。話せば分かるやつなんだろうな。むしろ担々麺が気軽に食べられなくなると思ってる常連客たちよりも話が通じるかもしれない。だったらやることは一つだ。利用させてもらうぞ。スケルトンキング)


 思考を終えた勇者はスケルトンキングに向かって口を開く。


「いやいや、謝らないでくださいよ。それよりも魔王と勇者の魂の反応があるって本当ですか?」


「ああ。間違いない。絶対だ。スケルトンキングの名にかけて嘘ではないと誓おう」


「でも魔王と勇者なんていませんよ? 勘違いなんじゃないですか?」


「人間よ。吾輩を愚弄(ぐろう)するか?」


 スケルトンキングから殺気に満ち溢れた禍々しいオーラが放たれた。

 しかしそれに一切動じることなく、勇者は続ける。


「では実際に中に入って確認してみてください。ここは魔王と勇者が最後に戦った場所。そして二人は行方不明。もしかしたら彼らの魂がここに残っているのかもしれませんよ。魂だけなら呼びかけても答えてくれませんよね?」


「なるほど。確かにそれは一理あるな」


 放たれていた禍々しいオーラが一気に引いていく。勇者の言葉に納得したのである。


「だが、この目で――この魂で確認するまでは信じないぞ! そうだろ? スケルトンたちよ」


「「「WOOOOO!!!!」」」


 スケルトンたちはスケルトンキングの言葉を肯定するため咆哮した。


「そのための確認です。では中へどうぞ。あっ、罠の心配は不要ですよ。ここはもう料理屋ですからね」


「この目で、この魂で確認するまでは信じないと言ったばかりだろ。罠があったとしても吾輩には通用しないがな……吾輩ら全員で入らせてもらうぞ」


「どうぞどうぞ」


 勇者はスケルトン軍団を城の中へと誘導することに成功した。

 そんな時だった。

 勇者の脳内で声が再生される。もちろんその声の持ち主は邪竜だ。


『店主よ。これは一体どういうことなのだ?』


 その声は勇者だけではなく常連客たちにも思念伝達されていた。

 その証拠に常連客たちの耳目が勇者に集まっている。


「スケルトンたちの戦う理由が無くなればさ、客として迎え入れてもみんな文句言わないだろ?」


『それはそうだが……』


「心配しなくていいよ。さっきも言ったけど150人増えたからって調理時間はそんなに変わらないよ」


 勇者の発言にエルフが信じられないといった表情で口を開く。


「そんなことが可能なの? 人数が増えるとオーダーが増えるわ。そうなってしまえばれば調理時間も自ずと増すのが当たり前よね? 調理時間にそこまで影響しないだなんて信じられないのだけれど……」


 数々の料理屋を見てきたエルフだからこその主張だ。

 その主張に勇者は――


「俺たちプロだから。担々麺作りのさ」


 あたかもそれが普通かのように、さらっと答えたのだった。


「って!? もう最後のスケルトンが入ったぞ! いくらなんでもスムーズすぎるだろ!? みんなも入ってくれ!」


「え? 僕たちもですか?」


「当然だろ。担々麺に何かあったらどうするんだよ」


 その勇者の発言は担々麺好きに対しては反則級の発言だ。

 むしろ担々麺好きを強制的に動かす魔法の言葉でもある。


「わかりました! 担々麺を守ります!」


『羊人よ。魔術師を担いだままじゃ大変だろう? 余の背中へ』


「は、はい! お願いします」


 羊人は気絶したままの女魔術師を邪竜の背中に乗せた。

 そのまま常連客たちは最後尾のスケルトンの後に続いて城の中へと入っていった。


「俺たちも行くか。って、まーちゃん?」


 魔王に声をかけた勇者は魔王の異変に気付く。


「お〜い? 固まっちゃってどうしたんだ?」


「……った……のじゃ」


 微動だにしない魔王から微かに声が漏れた。


「ん? なんて?」


「ゆーくん……」


「お、おう。どうした?」


「かっこよかったのじゃ! 妾はいつでもサポートできるように準備してたんじゃが、一人でどんどん進めて、全員を城の中へと入れて……策士じゃ! 策士! 天才じゃ! 好きじゃ! 大好きじゃ!」


 絶賛する魔王。彼女の瞳はキラキラと星のように輝き、頬は朱色に染まっていた。

 その言葉は先ほど勇者からかけられた称賛の言葉によく似てる。似てるのだが、これは意図的に選んだ言葉では無く、自然と声に出たもので、魔王が心から感じているものだった。


「は、恥ずかしいから……よせって」


「天才に天才と言っただけじゃよ! 恥ずかしがることなんてないじゃろ」


「そ、そこじゃない! そのあと! そのあとの言葉ー!」


「そのあとの言葉じゃと?」


「も、もういいってー! なんでもない!」


 と、先ほどと同じようなイチャイチャトークを二人は繰り広げたのだった。


「早く俺たちも中に入るぞ! スケルトンたちを客にするため、常連客たちが戦わずに済むため、そして()()()()()()()()()()()()()


「うぬ! そうじゃな! 大事な大事な()()()()()()()を果たすのじゃ!」


 魔王と勇者は息ぴったりに一歩踏み出した。

 歩幅もタイミングも、呼吸も鼓動まで、考えていることまでも何もかもがこの時の二人は同じだった。

 これを一心同体と言わずに何と言うのか。それほどまでに二人は強く結びついているのだ。



 ――チャリンチャリンッ。



 城の中へと入り、銀鈴の音色を奏でながらゆっくりと扉を閉めたのだった。

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