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043:とびっきりの甘々、メロメロのサキュバス

「あま〜〜〜〜〜いッ!!!!!」


 サキュバスは落ちそうになった頬を強く抑えながら叫んだ。


「あ、あ、あま、甘々! 甘い! 甘くて美味しい!」


 一度味わってしまったら最後。サキュバスの体は〝甘々のストロベリー担々麺〟の甘味を――それだけを欲するようになってしまう。

 サキュバスは体が求めるものに答えるべく、落としてしまった箸を拾い上げて、再び〝甘々のストロベリー担々麺〟を食らっていく。



 ――ズルズルッ、ズーッ!!!



 本来の目的である栄養摂取を忘れて〝甘々のストロベリー担々麺〟を食らう。

 その勢いは止まることを知らない。



 ――ズルズルッ、ズルズーッ!!!



「ん〜。ほっぺが落ちてしまいそうだわ。こんなに甘くて美味しい食べ物は初めて! 夢でも現実でも初めてよ!」


 〝甘々のストロベリー担々麺〟の美味さに歓喜するサキュバス。お気に召したようだ。


「もちもち食感の麺もかなりいいわね。甘くてもちもちって反則よ!」



 ――ズーッ、ズーッ、ズルズルッ!!!



「この麺に絡んでくる肉とか野菜も意外と合うわね。不思議な感じだけど、とっても美味しい!」



 ――ズルズーッ、ズーッ、ズルズルッ!!!



 サキュバスは未だにレンゲを使っていない。ひたすらに麺を食べている状況だ。

 それだけ麺のもちもち感とスープの甘さの相性がバッチリだったのであろう。

 そんな状況だからこそ――


「あ……」


 虚無感が突然訪れる。

 麺を全て食べ切ってしまったのだ。


 まだスープの下には豚挽肉や小さく切れてしまっている麺が残っている。

 しかしそれだけではサキュバスの欲求を満たすことが困難である。

 だからこそサキュバスは次の手に出る。


「このスープも飲んでみようかしら?」


 箸からレンゲに変えてスープに手を出したのだ。

 真っ白なレンゲで苺色のスープを(すく)っていく。

 レンゲは瞬く間に苺色の小さな海を掬い上げた。

 それを躊躇うことも警戒することもなく口へと運んでいく。



 ――スーッ。



「ぷはぁー」


 感想よりも先に溢れた満足の吐息。

 すぐさま遅れてしまった感想を口にする。


「あま〜〜〜〜〜いッ!!!!! なんでこんなに美味しいの? 甘味と酸味と旨味がケンカすることなく同居してるなんて……ど、どうしてなの? こんなに、こんなに美味しいスープは初めてよ!」


 満足の吐息から既にわかっていたことだが、スープの味にもお気に召したようだ。



 ――スーッ、スーッ!!



 二口目、三口目とレンゲを使い苺色のスープを飲んでいく。


「甘くて温かい飲み物ってなんでこんなにも美味しいのかしら? 特にこの甘々のストロベリータンタンメンは絶品ね。心が温まる。本当に落ち着くわ」



 ――ズズーッ、ズーッ!!!



 四口目以降からはレンゲを使わずに丼鉢(どんぶりばち)から直接スープを飲んだ。

 そして一気に飲み干した。


「ぷはあぁ――!!!」


 本日二度目の満足の吐息。

 それも一度目よりも大きな満足度が伺えるほどのものだった。


「勇者、もう一度出してくれる? 甘々のストロベリータンタンメンを!」


 一杯だけでは物足りず、二杯目を要求するサキュバス。


 サキュバス自身でも〝甘々のストロベリー担々麺〟を出現させることは可能だ。

 可能なのだが、たった今食した〝甘々のストロベリー担々麺〟と同等のものを出せるのかと聞かれればそうではない。

 ここは勇者の夢の中であって、勇者の記憶から全て再現されている世界。

 〝甘々のストロベリー担々麺〟を一度食しただけのサキュバスでは、その全てを再現することは不可能なのだ。

 これは現実世界でも同じこと。一度食した料理を材料も調理方法も知らずに、記憶だけを頼りに再現するのが困難なのと一緒のことなのだ。

 だからサキュバスは勇者に〝甘々のストロベリー担々麺〟を要求する。

 その要求に勇者は――


「お待たせしました。〝甘々のストロベリー担々麺〟です」


 〝甘々のストロベリー担々麺〟を出現させて応じる。


「きたっ! そうそう。これこれ。甘々ストロベリー!」



 ――ふーふー、ズルズルッ、ズルズーッ!!!



「あま〜〜〜〜〜いッ!!!!! この甘さ、本当に最高よ! 果実の甘さ! 本当に美味しいわ!」


「果実の……甘さ……」


「ええ。そうよ。砂糖とかじゃ再現できない甘さね。それも苺以外の果実も入ってそうよ。隠し味かしら?


「苺……以外の……果実……」


「相当(こだ)って厳選した果実みたいね。こんなに美味しい料理一体誰が考えたのよ。これを考えた人は天才だわ! 天才!」



 ――スーッ、ズルズルッ、ズルズーッ!!!



 箸とレンゲを器用に使い、麺とスープを交互に食べ進めた。

 先ほどの麺だけスープだけを食べる食べ方よりも、交互に食べた方が美味しいのだと気付き実践したのだ。

 夢の中を主戦場としているだけあって適応力は凄まじいのである。

 そしてあっという間に〝甘々のストロベリー担々麺〟を平らげて――


「おかわり!」


 三杯目のおかわりを要求する。


「いくら食べても太らないもんね。どんどん食べるわよ」


 いくら食べても太らない。まるで夢のようだが、実際にこれは夢――勇者の夢の中だ。


「それにたくさん食べれば食べるほど栄養にもなるし! 貴方(あなた)の栄養も魅力的だけれど、今日はこれを食べ続けたいわ!」


 勇者の強大な精気をも上回る〝甘々のストロベリー担々麺〟の美味さ。そして魅力。

 夢の中とはいえここまで人の心を魅了する担々麺は恐ろしいの一言に尽きる。


「お待たせしました。〝甘々のストロベリー担々麺〟です」


 有無を言わさず出現したばかりの〝甘々のストロベリー担々麺〟の麺を右手の箸で掴み左手のレンゲでスープを掬って、その苺色に染まったレンゲで麺が溢れないようにしながら口へと運んだ。



 ――ズルズルッ、ズルズーッ、スーッ!!!



「あま〜〜〜〜〜いッ!!!!!」


 勇者の夢の空間にサキュバスの歓喜が響き渡る。

 そのままサキュバスは、勇者の意識が覚醒するまで〝甘々のストロベリー担々麺〟を食べ続けたのだった。



 勇者の夢の空間は、記憶から作られた世界であるのは確かだが、それと同時に想像(イメージ)によって作られた世界でもある。

 サキュバスが食べたあの〝甘々のストロベリー担々麺〟言ってしまえば勇者が目指している完成形だ。

 現実世界でその完成形を作るのにはかなり苦戦しているらしく、その手掛かりすら掴めていない。

 だからこそ〝甘々のストロベリー担々麺〟は『魔勇家(まゆうや)』のメニューにも採用されていないのだ。


「ふぁぁあああ。おはよう世界」


 腕を大きく広げ、固まった筋肉をほぐしながら世界に挨拶を告げる勇者。

 そして右手で頭を抱えながら独り言をぶつぶつと呟き始めた。


「なんか……なんか、とてつもなく変な夢を見たような気がする……ストロベリー担々麺がたくさん出てたような……そういえばストロベリー担々麺って試作途中だったよな。求めてる甘さがどうしても出なくて投げ出しちゃったんだっけか。さっき見た夢だと誰かが美味しそうに食べてくれてたような……。あー、なんか良いアイディアが浮かびそうな予感がするんだけど、全然浮かばねー! 夢でなんか見たような……。ストロベリー担々麺を完成させるヒントとかを……う〜ん。ダメだ、やっぱり思い出せない。思い出せないが、もう一回ストロベリー担々麺に挑戦してみるのも悪くない気がしてきたぞ!」


 きっかけはどうであれ、夢を見たおかげで諦めかけていた彼の心に再び苺色の灯火が宿ったのである。


「よしっ! なんだかやる気が(みな)ってきたぞ! こうしてはいられない! まーちゃんにも早く会いたいし! 寝起きだけど行くかッ!」


 こうして勇者はこの日から毎晩のように〝甘々のストロベリー担々麺〟の夢を見るようになったのだった。

 そして〝甘々のストロベリー担々麺〟の試作にも励んだのだった。

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