表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/71

039:魔王VS偽勇者、勇者VS偽魔王

 魔王と偽勇者、勇者と偽魔王がそれぞれ対峙する。


「残念じゃのぉ。一生担々麺の味を知れぬとは」


「は? 何の話だ? タンタンメン? なんだそれ?」


「おぬしが負けるって話じゃよ。まあ、殺しはせんので安心するんじゃな」


 挑発的な魔王の言葉に偽勇者はギリッと歯軋りを鳴らした。


「おぬしらの計画、恐怖政治(テロル)は、ダs――」


「――もらった!!!」


 偽勇者の不意打ち。瞬きの刹那、偽勇者の聖剣による剣撃が魔王の首を捉えたのだ。

 卑怯だと思うことなかれ。

 ここはもう戦場だ。開始のゴングもなければルールなどない。

 殺すも生かすも勝者次第の戦場なのだ。


「――なッ!!」



 ――パリリリィンッ!!!!



 偽勇者の驚きの声とともに聖剣が砕けた。


「偽物の聖剣なんてそんなもんじゃろうな。痛くも痒くもなかったぞ?」


「う、嘘だろ!? どんだけ強力な補助魔法をかけてもらったんだよ! ふざけんな!」


「補助魔法? ああ、さっき()()()()()()()()()か。あれはかなりのものじゃったのぉ。守りたいって気持ちがひしひしと伝わった。後でエルフと女魔術師にはサービス券をやらんとな」


「は? 解けただと? サービスケン? 意味わからねーこと言ってんじゃねーよ」


「おぬしの小さなおつむじゃ理解も難しいじゃろうな。まあ、いい。それで話の続きじゃったな。おぬしの恐怖政治(テロル)は、ハッキリ言ってダサい。信頼があってこそ下の者たちが力を発揮して動くというのに。それをわかっておらんとは情けない男じゃのぉ」


 魔王は呆れたと言わんばかりの表情をしながら偽勇者に向かって言った。

 呆れた時に行うジェスチャーとともに。


「お前に何がわかるって言うんだ! オレたちの計画は後少しでうまくいくんだよ! あの城を、元魔王城をいただいて、それで達成するんだ! オレたちの恐怖政治(テロル)がな!」


「それをダサいと言っておるんじゃよ。そんなやり方じゃ、いつまで経っても魔王には勝てんぞ?」


「その魔王がいねーじゃねーかよ。勇者に負けてこの世界の端っこにでも逃げたんだろ? そんな弱い奴にオレが負ける訳ねーんだわ!」


「そうか。それじゃ試してみるといい」


「試す? さっきからお前意味が分からねーよ。魔王と友達だって言うのか? だったら今ここに連れてこいよ! お前共々ぶっ殺してやるからよー!」


「そうか。そうか。それは楽しみじゃのぉ。それじゃその言葉が虚言ではないことを祈っておるぞ」


 魔王は足音を鳴らさずにゆっくりと偽勇者の元へと向かっていく。

 そんなゆっくりと歩いているはずの魔王には残像が残っていた。


「へッ! 動きがとろすぎて残像の意味がねーんだよ。聖剣は砕けちまったが、俺にはスキルがある。それでお前の心臓を――」


「――心臓をなんじゃ?」


 目の前でゆっくりと向かって来ているはずの魔王の声が真後ろから響く。

 反射的に偽勇者の瞳は声がした方へと動いていく。


「ちなみにおぬしが見ている残像もこの声も、妾にとっては数秒前の()()の出来事になるのぉ」


「は?」


 時間を超越した魔王の拳が偽勇者の脇腹にダメージを与える。

 


 ――バキボキッ!



 はっきりと骨が折れる音が鳴り響いた。

 その瞬間、偽勇者は膝から崩れ落ちた。


「ぐぁああああああああああああ」


 死んだ方がマシだと思うほどの激痛。

 折れた骨が内臓に刺さったのだ。外へと飛び出している骨もある。


「闇属性魔法の応用じゃよ。拳に重力を乗せてちょっとだけ重くしたんじゃ。残像も闇属性魔法の応用じゃな。妾以外の時の流れを遅くしたのじゃ……って聞いておらんか」


 激痛に耐えられなくなった偽勇者は意識を失っていた。

 どこから意識を失っていたのか。それは悲鳴が消えた時だろう。

 話しをするのに夢中になっていた魔王には、その瞬間は分からなかったったが。


「最後に決め台詞じゃな。おぬしに食わせる担々麺はないのじゃよ。ふふっ、決まったのじゃ」



 魔王VS偽勇者――一撃で粉砕した魔王の勝利で幕を閉じる。

 もう一つの局面――勇者VS偽魔王でも決着が着きそうな場面だった。



「まーちゃんみたいにさ魔法を使える人たちのこと羨ましいって思うよ。まーちゃんの隣に立つと尚更な。俺みたいに魔法の才能がない奴らは必死に剣だけを振るしかなくてさ。いつか魔法が使えない人はこの社会の歯車から外されるんじゃないかってビクビクしてた時期もあった。でも努力を続けた。努力したからこそ魔法が使えない俺にも勇者の加護やらスキルやらを得ることができた。みんなは俺のことを天才だと言うけど、実際そうじゃないんだよ。努力だ。必死に努力して俺は掴み取ったんだ。誰よりも努力した。何倍も何十倍も。お前たちは努力をしたか? したと思ってるだけじゃないか? 限界を決めてないか? 努力せずに力を得たんなら、お前たちは俺たちには勝てないぞ」


「は? さっきから何言ってるの? 気持ち悪いんだけど。それと早く死んでくんない? というかなんでアタシの攻撃が当たらないわけ?」


 偽魔王は氷の槍を飛ばしたり、炎の弾を連射したり、と勇者の命を狙った攻撃を幾度となく仕掛けているが、その全てが独り言をぶつぶつと呟く勇者に(いと)容易(たやす)(かわ)されていっているのである。

 それが苛立ちの原因となった偽魔王は、広範囲の土属性魔法や雷属性魔法で攻撃をするものの、それも難なくと躱されていったのだ。


「勇者の独り言だよ」


「ほんっとに、意味わかんない! キモいキモいキモいキモいキモいキモいぃいいいい!」


「キモいキモいって仕方ないだろ。武器を忘れたんだから、こうやって躱さないと死んじまう」


「だったらアタシの攻撃をその体で受け止めて死ねばいいじゃんかよー!!!」


 偽魔王は光の矢を放った。

 光属性魔法によって出現した光の矢だ。それは音を超えて光の速さで的を狙う矢。

 命中率は100パーセント。放出されれば最後、的に定めたものに当たるまで消失することはない。


「的は心臓! 心臓を貫くまでその矢はお前を狙う!」


「そういうのも使えるのか。でもお前の魔法を羨ましいとは思わないな」


 勇者は光の速度で向かって来た光の矢を素手で受け止めた。

 そしてパキッと木の枝を折るかのように割ったのだった。


「この魔法の弱点ってさ、術者が込めた魔力量に依存するってことなんだよね。それ以上の力でねじ伏せちゃえば、当たらずとも消失する。まあ、自然の(ことわり)だよな」


「う、嘘……な、なんで、ど、どうして……」


「なんでって……そりゃお前が努力してないからだろ。努力せずに得たお前の魔法なんてこんなもんだよ」


「ありえないありえないありえないありえないわ! そんなのありえない! お前気持ち悪すぎる! キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい!!」


「さっきからキモいキモいって……魔王を名乗ってる割には、なんか幼稚だな。俺の知ってる魔王はもっと威厳のある喋り方してるぞ? お前語彙力なさすぎ。頭悪すぎ」


「ふ、ふざけるなー!!!! 死ねー!!!!」


 偽魔王は全身に魔法を纏い、己の体を弾丸にし勇者に向かって突っ込んだ。

 それに対して勇者は背筋をピンッと立たせて右腕を前に伸ばした。


「あっ、あと今の俺の発言は、お前をおびき寄せるための挑発だから。安い挑発に乗ってくれてありがとう。これで俺の()がお前に届く」


 勇者の構えはデコピンのそれ。

 中指を折り曲げて親指の腹で抑え、伸ばそうとする力を蓄えてから親指を離して中指を対象にぶつける動作のこと。

 攻撃手段になるかも知れないが、子供の遊び程度のものだ。当然ながら防御手段にはならない。

 それでも勇者は中指に力を込める。


「お前に食わせる担々麺はねぇよ」



 ――バスンッ!!!



 弾かれた中指は偽魔王の額に直撃する。

 偽魔王の突進の勢いも相まってか、その衝撃は凄まじいものだった。

 仮面を被っていて表情は見えないが、きっと泡を吐いているに違いない。

 そう思える音が仮面の中から聞こえたのだ。


 そして偽魔王はその場に倒れた。


「いてててて。やっぱり聖剣がないとダメだな。うまく戦えなかった。今度は短剣でも良いから常備しておこう」


 勇者VS偽魔王――デコピン一つで勇者が勝利を飾る。

 偽物たちは本物たちの手によって呆気なく散っていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ