027:襲撃を受けた魔勇家、魔王と勇者の安否は?
〝災厄で最凶〟の邪竜カタストロフィーが城の上空から姿を消したのと同時刻、魔王マカロンが口を開く。
「迂闊じゃった……」
反省の色を浮かべながら、すぐ近くにいる勇者ユークリフォンスへと話かけている。
「ゆーくんが《絶対防御壁》を展開していなければ、この城は崩れ大惨事になっていたに違いない……妾の気の緩みが招いた不幸じゃ。くっ、ゆーくんに見惚れすぎておったわ。すまぬ。そしてありがとうなのじゃ」
魔王マカロンが言うように、邪竜カタストロフィーが放った光線にいち早く気付いた勇者ユークリフォンスは、特殊な力――勇者の加護による力で《絶対防御壁》を展開し、城を守ったのである。
しかし感謝されている勇者ユークリフォンスにもしっかりと言い分があった。
「いや、正直のところあと一撃放たれてたらヤバかった。まーちゃんが機転を利かせて幻影魔法を発動してくれてなかったら本当にヤバかったぞ。まーちゃんのおかげで、攻撃を仕掛けた何者かが満足して帰っていったんだからさ。手柄は全部まーちゃんのだよ。まーちゃんが居てくれて本当に助かった。俺はこのことを一生忘れないと思う。というか目に焼き付けた。幻影魔法を発動しているまーちゃんはすごく神秘的だったよ」
邪竜カタストロフィーが見ていた光景――瓦礫と化した城と辺り一帯の火の海、その光景は魔王マカロンの幻影魔法によるものだったのだ。
この幻影がなければ、城が崩壊するまで何度も光線を放っていたに違いない。
そうなった場合、勇者ユークリフォンスが展開した《絶対防御壁》だけでは城はおろか、大切な人の命すら守ることができなかったであろう。
それだけ強力な光線が放たれていたと言うことなのだ。
「妾こそ、ゆーくんが居てくれて助かったのじゃ。二人の力で難を免れたと言うことじゃな! 妾も忘れんぞ。ゆーくんのスキルを発動するそのかっこいい姿を。魂に焼き付けたのじゃ! それでじゃ! 誰が妾たちの城に攻撃を? 心当たりはあるか?」
一番の懸念点は誰が攻撃を仕掛けてきたかだ。
担々麺専門店とはいえ、ここは元魔王城だ。
元魔王城を攻撃してくる者などそうそういないはず。
「俺は心当たりなしだ。魔王城を狙ったってことは、魔王軍に恨みでもあるんじゃないか?」
「恨みか。恨みを買うことばかりをしてきたからのぉ。誰じゃろ? だが、世間では魔王も魔王軍も亡き存在。それにここはもう料理屋じゃぞ! とんだ八つ当たり野郎が居たもんじゃのぉ。見つけ次第懲らしめんといかんのじゃ!」
「だな。でも本当に何もかもが無事でよかったよ。それじゃ開店準備の続きをしようか。開店と同時にエルバームさんが来そうな気がするからな。急がなきゃだぞ」
「うぬ。そうじゃな。妾はあの龍人が『くははははっ』と高笑いしながら最初に来店すると予想しよう。外れた方は草抜きじゃ!」
「草抜きか。いいぜ。でも待て! 予知魔法とか使ってないよな?」
「そんなもんは使っておらぬよ。ズルして勝ちたいとは思っておらん。それは勇者であるおぬしがよく知っておるじゃろ? ささ、開店準備の続きをするのじゃ」
二人は何事もなかったかのように中断していた開店準備を再開した。
そして開店準備が終わり営業が開始した直後、魔勇家に一番最初に来店したのは、正義の盗賊団の二人――ブリガンとバンディーだった。
魔王マカロンと勇者ユークリフォンスの予想が外れたことになり、二人で草抜きをする約束をしたのだった。




