2、またしても死亡フラグ(4)
◇ ◇ ◇
ダナース国は大陸の海岸沿いにある、比較的国土の大きな国家だ。その成り立ちはまだ日が浅く、建国されてから二十年ほどしか経っていない。
元々、ダナース国のある地域にはレスカンテ国という全く別の国があった。レスカンテ国は絶対王制の国家であり、国王の命令は絶対だ。名君であればなんら問題ないのだが、残念ながら今から三十年ほど前、ときの君主として即位したレスカンテ国王はあまり国王としての才のない男だった。
国政をおろそかにして遊びに興じ、不要な城を建てては権力を誇示し、挙げ句の果てに建国以来最大のハーレムを作り上げた。そして、気に入った女性達に贅沢をさせ、自身も昼夜を問わず宴に興じた。金がなくなると民から取り立てる税金を増やし、諭そうとした側近達を反逆者として捕らえ、また贅沢をした。
そんなことを繰り返しているうちにレスカンテ国民は疲弊し、中央政権への不満は蓄積する。
そして遂に立ち上がったレジスタンスに主導され国民は蜂起し、国王とその一族は処刑された。その後にレジスタンスのリーダーが国王となり建国されたのがダナース国だ。
そんな背景がある故に、ダナース国は国王がいるものの、議会は貴族からなる貴族院のほかに平民からなる衆議院があり、平民も政治に参加できるようになっていた。
そして、ダナース国の現国王であるエディロン=デュカスは現在二十六歳。ダナース国を建国したレジスタンスのリーダーの息子だ。
六歳でただの平民から国家元首の息子となったエディロンは、それはもう必死で勉強した。
レジスタンスのリーダーとして組織をまとめた父に憧れ、剣や武術には特に力を入れた。しかし、他の勉強をおろそかにするわけでもなく国語、算数といった一般教養から歴史、政治、経済、はたまた科学分野までしっかりと学んだ。
誇張ではなく、起きている時間はその全てを父のような存在になるための努力に費やしたと言っても過言ではない。
その甲斐あって、三年ほど前に前国王が崩御し僅か二十三歳で即位したエディロンのことを、周囲は献身的に支えてくれた。エディロンにとって彼の側近達は臣下であり、盟友であり、なににも代えがたい家族のような存在である。
──普段は。
「セザール。またその話か」
執務室で仕事をしていたエディロンは今さっき切り出された話に、はあっとため息を吐いた。
「なんども申し上げて恐縮ですが、そろそろ本格的に考えるべきです。エリス国の王女は既に結婚適齢期を迎えております。いつどこに嫁ぐかわかりません。他国と話が纏まる前に、我が国に迎えるべきです」
「エリス国の王女、ねえ……」
エディロンは読んでいた書類の端をつまらなそうに指先で弾く。
先日、エリス国の国王主催で周辺国を招いた大規模な舞踏会が開催された。数年に一度開かれるその会は、周辺国家含め最も大きな社交の場だ。
外交上、周辺国の王族との人脈を広げ友好を深めておくことは非常に重要だ。エディロンも重々それは承知しているので、その舞踏会に参加した。
(エリス国の王女と言えば……)
亜麻色の髪を美しく結い上げた、小柄な女性が脳裏に思い浮かぶ。大きな緑色の目はくりっとしており、まるで小動物を思わせるような見た目だ。
しかし、その可愛らしい見た目とは裏腹に、内面は気位が高く気難しそうだと感じた。
現に、そのとき初めて出会ったエディロンに対してあからさまに顔を顰め、関わるのが嫌そうな顔をした。恐らく、ダナース国の歴史を知った上で自分のことを嫌悪しているのだろう。
「他国の姫じゃだめなのか?」
「エリス国の王女が望ましいです。エリス国は神の祝福を受けた国と言われております。国土は狭いものの国民の中に一定数、不思議な魔法を使える者がおり周辺国からも一目置かれている存在です。その姫君を陛下が妃として迎えたとなれば、周辺国もこれまでのダナース国を見下した態度を改めるでしょう」
「そのエリス国の王女自身が我が国を見下しているように見えたが」
エディロンはハッと鼻で笑う。
エリス国の王女のあの目を、エディロンは何度も見たことがある。にこやかに受け答えしているが、内心では『平民が作った張りぼての国家』と見下しているのだ。