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2、またしても死亡フラグ(3)

(えっと、これは……)


 シャルロットは努めて冷静に、状況の整理をする。

 どうやら、ダナース国の国王であるエディロンからエリス国の王女を妻に望む書簡が届いているようで、それに対してリゼットが『絶対に嫌だ』と駄々を捏ねているようだ。


(こんなことになっていたのね)


 二度目の人生以降、シャルロットは毎回ダナース国からの書簡が届く前に自分の結婚を決めるか、出ていくかしていた。なので、自分の知らないところでこんなやり取りが繰り広げられていたとはちっとも知らなかった。


 一度目の人生ではシャルロットを名指しで求婚があったが、二度目以降はあの舞踏会でエディロンには会っていない。この書簡に書かれた『エリス国の王女』というのはリゼットを指していると考えて間違いないだろう。


(リゼットはリゼットで、大変だったのね)


 もう自分は修道女になる許可をもらったので関係ないことだ。

 完全に人ごととして、彼らのやり取りを眺める。


 さめざめと泣くリゼットに寄り添っていた王妃のオハンナは悲痛な表情で国王を見上げた。


「あなた。こんなに嘆き悲しむリゼットを行かせることなどできません。なんとかなりませんの?」

「そうは言ってもだな」


 国王陛下は眉根を寄せ、あごひげを撫でる。彼とて嫌がる娘を嫁がせることに良心の呵責を感じているようだが、国と国の均衡などを考えるとこの申し入れを無下にすることは難しいのだろう。

 特に、ダナース国は建国以来経済的な成長も著しく、軍事力も強い。敵に回すと厄介な国なのだ。


「そうだわ!」


 そのとき、リゼットが叫ぶ。そして、部屋の隅で第三者よろしく佇んでいたシャルロットをまっすぐに見た。


(な、何!?)


 目が合った瞬間、嫌な予感がする。


「ダナース国の国王は『エリス国の王女』と言ったのでしょう? なら、お姉様でもよいのではなくて?」

「わ、わたくし!?」


 シャルロットは驚いて、素っ頓狂な声を上げる。


「わたくしは無理ですわ。だって、修道女として神の花嫁になりますから」

「でも、まだ神の花嫁にはなっていないわ。なら、ダナース国王の花嫁でもよろしいのではなくて?」


 名案が思いついたとばかりにリゼットが捲し立てる。


「そうよ! リゼットではなくて、シャルロットを行かせればいいのだわ。ねえ、あなた。そうすれば、荒波を立てずにあちらの顔を立てることもできますわ」


 リゼットの横にいた王妃のオハンナまでその案に同意し始めた。


「む、無理です!」


 シャルロットは必死にその提案を否定する。

 ダナース国の国王の元に嫁ぐなどとんでもない。


 脳裏に甦ったのは、一度目の人生だ。

 かつてその男に恋をして、喜んで嫁いだ。その結果〝ドブネズミ〟と言われて初夜に斬り殺されたのだ。


 そして、その日からおかしなループが始まった。


 絶対に嫌だ。冗談じゃない。


「ほら、わたくしって地味で陰気だと噂になっているようですし」

「そんな噂、ダナース国には届いていないわよ」


「社交界に一度も出ていないから、礼儀作法もなっていないわ」

「今から習えばいいでしょう」


「先方はリゼットを望んでいるわ。わたくしよりずっと素敵ですもの」

「そんなこと知っているわよ! わたくしが嫌なのよ!!」


 にこっと笑いかけると、リゼットが顔を真っ赤にして淑女らしからぬ怒鳴り声を上げる。 

 

 ──そのときだ。


「なるほど」


 リゼットとオハンナ、そしてシャルロットのやり取りを黙って聞いていた国王がようやく口を開く。


「確かにそれは名案だな。シャルロット、先ほどの許可は取り消しだ。お前には、ダナース国の国王エディロン=デュカスの元に嫁ぐことを命じる」

「へ……?」


 シャルロットは唖然として父である国王を見る。


「反論は認めない。話は終わりだ」

「お父様、お待ちください! わたくしは神の花嫁に──」


 シャルロットは真っ青になって首を横に振る。


「おい、お前。シャルロットを離宮に送り届けろ」


 国王はシャルロットの声を無視すると、近くに控えていた騎士のひとりにそう命じる。命じられた騎士が、取り乱すシャルロットの腕を引いた。


「お父様!」


 悲痛な叫びも虚しく、シャルロットは謁見室から引きずり出される。

 謁見室の扉が、目の前でバタンと閉ざされた。


(嘘でしょう?)


 まさか、六度目の人生で最初に自分を殺した男に再び嫁ぐことになるなんて。


 目の前が真っ暗になる。

 扉と一緒に、自分の明るい未来も完全に閉ざされたような気がした。




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