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2、またしても死亡フラグ(2)

 そして五度目の人生。


 かくなる上は、平民になろうと決意した。

 王宮を抜け出して放浪の旅に出て、行き着いたのは辺境の港町だ。シャルロットはそこで、自作の刺繍を売って細々と生活するようになった。


 貴族の流行を取り入れたシャルロットの作品はたちまち評判になり、シャルロットは町の人気者になった。そんな中、シャルロットはお客のひとりである青年と親しくなり、一生女ひとりで生きるのは難しいかもしれないと思い彼からの求婚に頷いた。


 ところがだ。やっぱり想定外は発生した。


 シャルロットに思いを寄せていた男性は彼以外にもいたらしい。

 結婚式当日、シャルロットの店の常連である別の男に『俺のものにならないなら、死んでくれ』と言われて殺された。



 そうしてとうとう六回目の人生、即ち今世に突入した。


 過去五回の人生を振り返り、シャルロットはとある法則に気付いた。それは〝結婚するとその日に死ぬ〟ということだ。

 そう気付いたシャルロットは、一生結婚せずに修道女になろうと決心した。


 最低限参加を求められていた夜会や舞踏会も、今世ではなにかと理由を付けて一切参加しなかった。さらに、誰かに思いを寄せられて突然言い寄られることを警戒し、人前に出るときは常時俯いて顔を隠した。陰気な姫だと噂されているようだが、男性から敬遠されることは好都合だ。


「今度こそ上手く行くわ」

「だといいけど。いい加減、そろそろ抜け出したいところだよね。今回の人生、僕は今のところいい感じな気がする。後は、適当なところで外出してそのまま行方不明にでもなるよ」


 ジョセフは磨いていた剣をテーブルに置くと、肩を竦めて見せる。そして、ちょうど近くを歩いていたペットの羽根つきトカゲ二匹を抱き上げた。


「わたくしも今度こそ大丈夫よ。舞踏会はおろか社交界すら一度も出たことがない『変わり者の姫』を貫き通したもの。いくら王女だって、こんな女を娶ろうとする人なんていないわ。後は、修道女になりたいって陛下に願い出るだけね」


 シャルロットは自信満々に胸に手を当てる。

 今世では今のところ上手く行っている。だから、この後も上手く切り抜けてみせる。



    ◇ ◇ ◇



 当分無理だろうと思っていた国王陛下への謁見は、思ったよりもずっと早く許可された。

 指定された日、シャルロットは緊張の面持ちで謁見準備をした。


「じゃあ、行ってくるわ」

「上手く行くといいね」


 意気込むシャルロットに、ジョセフも声援を送る。多くは語らないが、シャルロット同様にジョセフのほうもこれまで五回の人生で色々なことがあったようだ。

 どうにか上手いことできないかと試行錯誤しており、今世では〝ひたすら病弱設定を貫きとにかく目立たない〟という作戦に出ているようだ。


 ちなみに、ジョセフは健康優良児で風邪を引いたところなどシャルロットですら一度も見たことがない。


「うん。頑張ってくるわ」


 出発しようとしたシャルロットは離宮の玄関をあける。

 そのとき、ジョセフに呼び止められた。


「そうだ。姉さん、ちょっと待って」


 なんだろうと思って振り返ると、ジョセフが近づいてきた。

 ジョセフは片手を上げると、シャルロットのおでこに人差し指を当てる。ふわっと空気が揺れたような気がした。


「今のはなに? 何かの魔法?」


 シャルロットはジョセフに尋ねる。

 ジョセフは過去五回のループを経て、いつの間にか魔法が上手く使えるようになっていた。今世ではジョセフの魔法に何度も助けられたものだ。


「上手くいきますようにっていうおまじないだよ」

「ふうん? ありがとう」


 シャルロットが笑顔を見せると、ジョセフも笑みを漏らす。

 どちらからともなく手を上げる。ふたりの手がハイタッチでぶつかるパシンという音が響いた。




 そうして到着した本宮の一室。

 シャルロットは目の前で繰り広げられる光景に、困惑していた。


「嫌です。絶対に嫌ですわ! なぜわたくしが、あのような野蛮な者に!」


 取り乱して叫んでいるのは、妹のリゼットだ。


 なぜこんなことになっているかと言うと、シャルロットが国王陛下に修道女になりたいと願い出て無事にその許可をもらった直後、謁見室の入口にいた警備の騎士達の制止を振り切ってリゼットとオハンナが突如乱入してきたのだ。


「リゼット。そうは言っても。先方は『エリス国の王女を是非』と望んでいる。かの国を敵に回すのは得策ではない」


 苦々しげな表情でそう答えるのは国王陛下だ。


「病弱だから無理だと伝えてください」

「すでに会っているのだ。病弱というのは言い訳だとすぐに気付かれる」

「では、他の王子から求婚は来ていないのですか!?」


 リゼットの問いに、国王は近くに控えていた宰相へ視線を送る。宰相は首を左右に振った。


「今のところ、断る理由がない。お前は王女だ。気に入らないから、という理由は通用しない」

「そんなっ!」


 リゼットは国王の言葉に、さめざめと泣き出した。


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挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)
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