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2、またしても死亡フラグ(1)

ここから6回目の人生です。


 蝋燭の明かりを頼りに刺繍の針を進めていたシャルロットは、窓の外から聞こえてきた優雅なオーケストラの調べにふと手を止めた。


「舞踏会が始まったわね」

「そうみたいだね」


 シャルロットの呟きに、同じ部屋にいた双子の弟であるジョセフが頷く。今日は、諸外国の来賓を招いた数年に一度の大規模な舞踏会が本宮で開催されているのだ。


「ジョセフ、いかなくてよかったの?」

「いかないよ。病弱で立ち上がれない設定なんだから、行ったらおかしいだろ」


 剣を磨いていたジョセフは手を止めると、首を横に振る。


「それもそうね」


 シャルロットは頷く。


「王妃様は僕が来なくてせいせいしてるんじゃないかな。諸外国に対してフリードだけを王子として紹介することができて、次期国王として地位が確固たるものになったって」

「ジョセフ……」


 フリードとは、シャルロット達の義理の弟である第二王子だ。国王と王妃様の間にできた子どもであり、まだ十歳になったばかりだ。


 そんなことないわ、と言いかけて、シャルロットは口をつぐむ。過去にジョセフが王位継承権を巡ってどんな目にあってきたかを、なんとなく知っているから。

 エリス国の王位継承権を持っているのは国王の子どもであるジョセフとフリードの二人だが、王妃様は当然のように自分の息子であるフリードを推している。そして、王妃様の顔色をうかがっている国内貴族も軒並みそれに同調している。


「姉さんこそ参加しなくてよかったの? 今度こそ幸せな結婚に繋がるような良縁が見つかるかもしれないのに」


 ジョセフは、逆にシャルロットに聞き返してきた。


「いいの! わたくし、ようやく気付いたの。結婚するとだめなのよ!」


 シャルロットは胸の前で、ぐっと拳を握る。


 シャルロットとジョセフのふたりには、不思議な記憶がある。それは、前世の記憶だ。


 実は、今回の人生はふたりにとって六回目の人生だった。

 摩訶不思議なことに、ふたりとも死ぬと時間が巻き戻り、再び新しい人生がスタートするのだ。


 シャルロットにとって、それはダナース国で夫のエディロンに殺されたあの日から始まった。

 毎回巻き戻るのは母が亡くなって暫くした時期だ。そして、弟のジョセフも大抵二十歳前後で命を落とし、気付くと母が亡くなって暫くした時期、すなわちシャルロットがループするのと同じ時点になっているという。


 最初のループが発生したとき、シャルロットとジョセフは酷く混乱した。取り乱したふたりの様子を見て慌てたお世話係が大急ぎで医師を呼んだほどだ。

 結局、医師は〝母を亡くし、急激な環境変化による一時的な混乱状態〟と判断した。


 しかし、シャルロットは間違いなく過去の人生の記憶があったし、ジョセフも同じだった。だからこれは夢などではないと確信し、ふたりはこの人生をよきものにしようと誓いあったのだ。


「そっか、姉さんは結婚するとその日に死ぬんだっけ?」

「そうよ。過去五回、全部そうなの」


 シャルロットは刺繍の糸の後始末をすると針をソーイングボックスに戻し、はあっと息を吐いた。

 最初のループが始まってからというもの、シャルロットは様々なことを試みて人生を明るいものにしようと努力した。



 まず二度目の人生。


 運命を変えた舞踏会で、そもそもエディロンに会わないように細心の注意を払った。そして、ダナース国側からの申し入れがあった時期より前に、件の舞踏会で出会ってしつこく言い寄ってきた国内貴族──ラシュレイ侯爵家の令息の口説き文句に頷いた。

 別に彼に恋していたわけではないが、殺されるくらいなら別の人と結婚したほうがましだと思ったのだ。 


 ところがだ。


 なんと、ラシュレイ侯爵令息には元々婚約者がいた。シャルロットが口説き文句に頷いたので、彼はその婚約者を手ひどく捨てていたのだ。

 結果、結婚式に乱入してきた元婚約者の女に刺され、シャルロットは命を落とした。 



 三度目の人生。


 またループしたのかと驚いたものの、前回よりは落ちついて対処できた。

 色々考えたシャルロットは、自ら進んで政治の駒となりダナース国とは別の大国ラフィエ国に嫁ぐことを決意した。


 ところがだ。今回も想定外なことが起きた。

 輿入れで自国から連れてきた男性護衛騎士に、一方的な好意を向けられたのだ。


 挙式当日、控え室で『一緒に逃げよう』と口説かれ、シャルロットは混乱した。

 なんとか彼を思いとどまらせようと説得していると、口論の現場を目撃した婚約者であるラフィエ国の第二王子に浮気をしていると誤解されてしまう。


 結果、シャルロットは不義を理由に殺された。



 四度目の人生。


 過去の人生で三回連続殺されたシャルロットは、殺されそうになったときも対抗できるようにと剣の鍛錬を始めた。

 四度目の人生にして初めて握った剣だったが、鍛錬を始めるとなかなか面白かった。本格的に騎士になろうと決意し、妹であるリゼットの護衛騎士になった。


 ところがだ。またしても想定外が発生する。

 リゼットに帯同して訪問した隣国クロム国の王太子になぜか気に入られてしまい『お前を妃にする』と宣言されてしまったのだ。


 隣国の王太子の宣言を無下にすることもできず、シャルロットは彼に嫁ぐことになる。

 結婚式当日の夜、緊張を解すために寝台の隣に置かれた酒を飲んだら喉と胸が燃えるように熱くなり、あえなく命を落とした。


 恐らく、毒死だろう。

 せっかくした剣の鍛練は、毒の前ではなんの意味もなさなかった。


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