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9.それぞれの未来(2)

最終話です。

途中で誤字脱字報告をくださった皆さん、本当にありがとうございました。とても助かりました!

    ◇ ◇ ◇


 戴冠式はそれはそれは素晴らしかった。

 式典の会場では魔法による祝福の花と光が舞い、宝石のちりばめられた王冠を被ったジョセフの後ろには神々しい神竜が寄り添っていた。


「エリス国王、万歳! エリス国に益々の繁栄あれ!」


 どこからともなく祝福の声が上がり、それはすぐに会場全体に大きなうねりを起こす。

 神使の加護を得た国王が誕生するのはおよそ百年ぶり。国民の喜びもひとしおだった。


 シャルロットは精一杯の拍手を贈り、弟の新たな門出を祝福する。


「とてもよい式典だったな」


 式典後の祝賀パーティーで、一息ついたシャルロットと一緒にテラスに出たエディロンが言う。


「ええ、本当に。弟のあんな立派な姿を見る日が来るなんて、思ってもみませんでした」


 シャルロットも先ほどの光景を思い出し、感慨深く頷く。


「リロもとても神々しくて、皆さん見惚れておりましたね。本当に素晴らしかったわ」


 エリス国に神使の言い伝えを知らない人間はいないが、実際にその神使を目にしたことがある人はいない。それだけに、人々もより一層興奮していた。


「まあまあだったな。だが、神々しさで言えば俺のほうが上だ」


 テラスの手摺りにちょこんといる羽根つきトカゲが偉そうにそう宣う。


「まあ、ガルったら」


 シャルロットはくすくすと笑う。

 あとから知ったが、神力を得て成長したガルは自身の姿を小さく変えることもできるらしい。言われてみれば、リロもいつも小さかったと気付く。

 今日は小さくなれと言ったらとても不服そうにしていたが、結局こうして小さな体になってついてくるところがとても可愛い。本人に「可愛い」と言うと怒りん坊に火が付くので言わないけれど。


「何がおかしい。俺は事実を言ったまでだ。お前の要領が悪すぎるから、バランスを取るためにより優れた俺がお前についてやったんだ」

「ええ、そうね。ありがとう」


 シャルロットが軽くお礼を言うと、ガルはふんと鼻を鳴らす。


「久しぶりにここの庭を散歩でもしてくる」

「ええ、行ってらっしゃい」


 シャルロットはガルの小さな後ろ姿を見送る。

 言葉が通じない間もずっとあの調子でシャルロットに偉そうに説教していたのだろうか。色々想像すると、とってもおかしくなる。


 爽やかな夜風が頬を撫でた。

 テラスから魔法の明かりに照らされた、薄暗い庭園を眺める。


「懐かしいです」

「何が?」


 シャルロットの呟きに、エディロンがこちらを見る。


「一度目の人生で、わたくしはここでエディロン様に出会いました」

「ああ、そういえばそんなことを言っていたな」


 エディロンは思い出したように頷く。


(たしか、エディロン様がわたくしの髪飾りを見て驚いたような顔をされたのよね)


 懐かしく思っていると「シャルロット。その髪飾り──」とエディロンが言った。


「髪飾り?」 


 エディロンはなぜか驚いたように目を見開いていた。


 一度目の人生の再現のようなエディロンの反応を不思議に思いながらも、シャルロットは自分の耳の上に付けられた髪飾りに手を触れる。そして、すぐに違和感を覚えた。


(え? 壊れている?)


 いつもと触り心地が違う。慌ててそれを外す。

 手のひらに乗せて改めてそれを見て、シャルロットも目を見開いた。


「花が……」


 花が咲いていた。蕾だけの地味なデザインだったはずの髪飾りは、満開に咲いた花が幾重にも咲き乱れている。そして、花のひとつひとつの中央にダイヤモンドが埋め込まれていた。

 この髪飾りを見て『地味なデザイン』という人はまずいないだろう。


(幸せになれる髪飾り──)


 これが贈られたときの母の言葉を思い出す。そうして、ハッとした。


(魔法が完成したのね)


 母は片田舎の村娘でありながら、その噂が遠い王都にまで広まるほどの大魔女だった。今までのループは全て、母の魔法だったのだと気付く。


(お母様)


 亡き母を思い、目頭が熱くなる。そして、このループはもう二度と起きないのだと悟った。

 涙ぐむシャルロットは指先で目元を拭う。


「申し訳ありません。少し感傷に浸ってしまいました」

「…………。いや、構わない」


 エディロンはシャルロットの手から髪飾りを取ると、それをシャルロットの髪に着ける。


「これから先、あなたのことを必ず幸せにする。六回分の人生の愛情を、あなたに贈ろう」

「エディロン様……」


 胸がジーンと熱くなる。

 遠回りをして六回分の人生の重みがあるからこそ、自分が望んでいた道はこの人の隣なのだと確信できる。


「六回分の愛情なんて宣言してしまっては、あとが大変ですわよ?」

「問題ない。シャルロットのほうこそ、覚悟したほうがいいな。俺に嫌というほど愛される」

「ふふっ。望むところです」


 シャルロットとエディロンはお互いに見つめ合い、くすくすと笑う。


 背後からは楽しげな音楽が漏れ聞こえてくる。

 これから先の未来を、シャルロットは知らない。けれど、この人とならば大丈夫。


 ──未来はきっと、たくさんの幸せで満ちているのだから。


〈了〉


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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