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8.真相と黒幕(11)

 リゼットが立ち上がって叫ぶ。


 すると、地を揺らすような咆哮が部屋の中に響き渡った。


「娘。俺が偽りを言っていると侮辱するか」


 怒りを孕んだ低い声に、リゼットは「ひっ!」と悲鳴を上げる。そのまま腰を抜かし、その場にへたり込んだ。


「しかし、どういうことだ? 神使は王位継承権を持つ王族に遣わされるものでは──」


 混乱する状況に青くなったエリス国王がぶつぶつと呟く。


「ああ、そうだ。だが、そいつには俺以外が遣わされたから、俺はこいつについた」


 ガルは斜め後ろにちらりと視線を投げる。バチッとシャルロットと目が合った。


(今わたくし、ガルから『こいつ』って呼ばれた!?)


 怒りん坊な上にこんな口が悪い子だったなんて。唖然とするシャルロットを無視して、ガルは続ける。


「そうしないと、心配で居ても立っても居られないと言うから。こいつは驚くほど要領が悪いからな」

「心配で居ても立っても居られない? 一体誰の話をしているんだ」


 エリス国王は益々混乱した様子だ。


「それは、僕ですよ」


 背後にある謁見室の扉が開かれ、懐かしい声がした。


(え? この声って……)


 シャルロットは振り返る。


「ジョセフ!」


 そこには、一年ぶりに会う弟の姿があった。

 少し背が伸びて精悍になったように見える。そして、その背後にはガルと同じ位、いや、それ以上に大きく神々しい神竜がいた。


「エディロン陛下と相談してタイミングを見計らって登場したつもりだけれど、なんだかすごいことになっているね」


 カツカツと謁見室に入ってきたジョセフは周囲を見回し、肩を竦める。


(エディロン様と相談して? いつの間に!?)


 シャルロットは横にいるエディロンを見る。シャルロットの視線に気付いたエディロンは器用に片眉を上げた。

 本当に今日は知らないことだらけだ。


「王妃様は姉さんの結婚式に便乗してエディロン陛下を殺し、ダナース国の領地を我が物にしようとした。それに抗議に来たエディロン陛下と姉さんと一緒に神竜まで現れて大騒ぎ。こういうことで合ってる?」

「合っているな」


 エディロンが頷く。


「間違っているわ!」


 王妃のオハンナが叫ぶ。


「そもそも最初から間違っているわ。その剣はシャルロットがエディロン陛下との結婚が嫌だと泣くので親心で贈ったものです。全てその子が仕組んだのよ」


 興奮気味に捲し立てたオハンナはシャルロットを睨み付ける。

 それを聞いたジョセフは目を眇めた。


「僕があなたの言うことを信じると?」

「真実よ。あなたは親の言うことが信じられないと?」

「親ね……。笑わせる。僕があなたに何回殺されたと?」


 ジョセフはフッと黒い笑みを浮かべる。


「五回だ。まあ、正確に言うと四回目と五回目はわかっていてそれを受け入れたんだけどさ」


(五回、殺された?)


 胸がドクンと跳ねる。

 ジョセフはシャルロットと同じく今が六度目の人生だ。つまり過去に五回死んでいるはずだが、その死に方を聞いたことは一度もない。


(もしかして、ジョセフは過去の人生で、毎回王妃様に殺されていたの?)


 シャルロットはジョセフを見つめる。


「あなた、何を言っているの?」


 一方のオハンナは眉を顰めてジョセフを見返す。


「まあ、まだやっていないことを言われてもわかりませんよね」


 ジョセフはにこっと微笑んだ。


「でも、放っておけば今回も必ずやる。あなたが正当な王位継承者を生かしておくはずがない。──つまり、僕はあなたを全く信用していないと言っているんです」


 ジョセフは背後を振り返ると、そこにいる兵士に命じる。


「この者達を捕らえて、部屋に連れて行け。命じるまでは出すな」

「なっ!」


 オハンナは怒りに体を小刻みに震わせた。


「何の権限があってそのようなことを!」

「何の権限? 国王の権限です。仮にもエリス国の王妃なら憲法ぐらいよく読んでください。エリス国憲法第八条には神使についてのことが定められている。その第三項に『神使による加護を得た王位継承者が現れた場合、可及的速やかにその者が王位を継承する』とある。つまり、僕がエリス国の国王だ」


 ジョセフは右手を自分自身の胸に当てる。オハンナの目が大きく見開いた。


「嘘よ。嘘だわ!」

「嘘ではありませんよ。連れて行け」


 どうすればいいのか戸惑っていた近衛騎士達は、そこでようやく自分達が仕えるべき相手が誰なのかを悟ったようで、オハンナを取り押さえる。


「無礼者! お母様を離しなさい! 許さないわよ!」


 わめき散らすリゼット達も次々と謁見室から連れ出された。

 最後に残ったのはエリス国王だ。


「ジョセフ! 一体どういうつもりだ」


 エリス国王は憤慨し、声を荒らげる。


「どういうつもり? そのままですよ。王妃の傀儡でしかない国王など、不要です」


 ジョセフは両口の端を上げて朗らかに微笑むと、エリス国王を見つめた。


「どうですか? 見捨てた女と子供に王位を追放された気分は?」


 エリス国王の目が大きく見開かれた。


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挿絵(By みてみん)
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