8.真相と黒幕(8)
◇ ◇ ◇
その晩のダナース国の王宮は、上を下への大騒ぎだった。
なにせ、国王の成婚という国を挙げての祝いの日に、その国王の暗殺未遂という国を揺るがす大事件が起きたのだから。
当然のことながら、エディロンがその対応にかかりきりになった。
そのため、すぐ近くにいるにもかかわらずシャルロットは結婚式のあとから彼に会うことすらできなかった。
そんな中、エディロンがようやくシャルロットに会いに来てくれたのは結婚式の日から一週間ほど経った日だ。
「では、やはり黒幕はエリス国なのですか?」
シャルロットは震えそうになる声を必死に抑え、冷静になろうと努める。
「ああ、間違いない。あんな奴でも命は惜しかったようで、ハールス卿が全て自白した。結婚式の日に使われた剣も残っている」
エディロンは頷く。
「一体誰が?」
「ハールス卿は、オハンナ妃だと」
「なんてこと……」
シャルロットはやるせなさを感じてぎゅっと手を握る。
ことの真相は、シャルロットの想像を超えていた。
国によって王制の規則は様々だが、ダナース国では世継ぎがいない国王が崩御するとその王位継承権は一時的に王妃の預かりとなる。
ダナース国の国王であるエディロンとシャルロットが結婚すれば、シャルロットはダナース国の王妃となる。つまり、その状態でエディロンが死ねば、王位継承権はシャルロットが一時的に持つことになるのだ。
そして、それこそが彼らの狙いだった。
結婚式を終わらせたあとにエディロンを暗殺してしまえば、シャルロットが次に結婚した相手が国王となる。
ハールス卿はエディロンの平民を重用する政策に大きな不満を持っており、王妃様であるオハンナはそれを利用しようとした。エディロンを殺す手助けをして彼を次の国王にする見返りに、ダナース国の領地の一部をエリス国へ。そうすれば、息子により広大な国を与えることができるから。
(だから毎回、他国に嫁ぐ度に手のひらを返したように手紙を送ってくるようになったのね)
思い返せば、シャルロットが嫁いだ国々はどこも同じような王位継承の制度になっていた。
その腹黒さを垣間見て、恐ろしさのあまりに身震いする。
まさか自分の義母がこんな恐ろしいことを企んでいたなんて。
「さすがに今回の件は看過できない。正式に抗議しに行く」
エディロンはきっぱりとそう言う。シャルロットははっとして顔を上げる。
「わたくしも……、わたくしもエリス国に連れて行ってください」
「シャルロットも? しかし、あそこはあなたにとって辛い思い出も多いのではないか?」
エディロンは眉を顰める。
エディロンが婚約期間中にシャルロットのことを色々と調べていたことはシャルロットも聞いていた。きっと、その過程で祖国でのシャルロットの境遇も知っているのだろう。
「いいえ、大丈夫です。それに、これはわたくしの祖国が起こした問題です。わたくしは、その結末をしっかりとこの目で見なければなりません」
「…………。わかった。一緒に行こう」
エディロンはシャルロットの決心を悟ったようだ。
「ありがとうございます」
シャルロットはぎゅっと両手の拳を握る。
エリス国にはまだ弟のジョセフがいる。
全ての問題をしっかりと解決しなければならない。