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8.真相と黒幕(3)

「ありがとう」


 エディロンが返す。


「ありがとうございます。遠いところからの参加、嬉しく思います」


 シャルロットも無難な言葉を返す。


「こちらこそ、このような喜ばしい席に参加できて光栄です。両陛下もお喜びですよ」


 オリアン卿にそう言われ、シャルロットは曖昧に微笑み返す。

 これまでいないかのように扱ってきたくせに、急に手のひらを返したように祝福の言葉を贈ってくるなんて殊勝なことだと皮肉のひとつも言いたくなる。


 諸外国からの来賓の方からの祝福が終ったころ、今度は国内貴族からの祝福が始まった。


「おめでとうございます」

「ダナース国に幸ありますように」


 次から次へと挨拶に来るその多くは建国二十周年の祝賀パーティーでお会いしたことがある方達だ。

 永遠に続くのではという挨拶がようやく終ったころには、だいぶ夜が更けていた。シャルロットの元に、女官長が寄ってくる。


「妃殿下。そろそろご準備のために──」


 そう言われてエディロンに視線を向けると、エディロンは小さく頷き返してきた。


「ええ、わかったわ」


 シャルロットは女官長に促されるとおりに部屋に戻ることにした。


 今宵は結婚式の夜。

 新王妃であるシャルロットには披露宴と同じ位大事な役目が残っている。国王であるエディロンとの閨だ。

 それは周知の事実であり、準備のために新王妃が先に披露宴会場をあとにするのは多くの国で見られる習慣でもあった。


(ここまでは上手くいっているわよね?)


 シャルロットは披露宴会場から部屋に戻る途中、今日のことを振り返る。不手際はないはずだ。


「おや、シャルロット妃殿下」


 考え事をしながら歩いていたシャルロットは突然話しかけられてハッとする。顔を上げると、廊下の前方から歩いて来るのはハールス卿だった。今日の結婚披露パーティーに参加しているのだろう。


「ご機嫌よう、ハールス卿」

「もうお戻りになるのですか?」

「そうしようと思います」

「さようですか。もう少しお話ししたいと考えておりましたが、残念です。また後日」

「ええ。また今度」


 シャルロットは軽く会釈すると、また歩き出す。


(このやり取り、一度目の人生でもやった気がするわ)


 結婚披露パーティーのあとに、王宮の中でハールス卿と偶然会う。

 一回目の人生と全く同じだ。


(でも、絶対に未来を変えてみせるわ)


 今度こそ死なない。そして、エディロンと幸せになりたい。

 シャルロットは決意を胸に、最後の舞台の場となる寝室へと向かった。



   ◇ ◇ ◇



 結婚披露パーティーが終り、ケイシーを始めとする侍女達にピカピカに体を磨かれたあと、シャルロットは寝室のベッドに腰掛けていた。

 壁際に置かれた振り子時計をちらりと見る。


(あと一時間半……)


 シャルロットはこれまで、結婚すると必ずその日に死んだ。そのタイムリミットまで、あと一時間半。時計の音が自分の命のカウントダウンのように思えて、体が震えてくる。


 いやが上にも緊張してくるのを止められない。

 気持ちをどうにか落ち着かせようと座っている大きな天蓋付きベッドのシーツを指でなぞる。そして、自分が一度目の人生と全く同じ行動をしていることに気付いて苦笑した。


 そんな中でも、一度目の人生と違うこともある。

 この寝室にシャルロットがひとりきりではないことだ。


「シャルロット。大丈夫か?」


 必死に震えを止めようと指を握り込んだとき、大きな腕に包み込まれた。


「やはり、今からでもシャルロットはこの部屋に残って、俺だけが隣の部屋に──」

「いえ、大丈夫です!」

 

 シャルロットは大きく首を左右に振る。

 それでは、一度目の人生と全くの同じ状況になってしまう。


 ここは国王の寝室であり、入口はふたつある。

 それぞれ、国王と王妃の部屋へと続く扉だ。しかし、どちらも堅牢な造りをしている上に特殊な構造の鍵を使っており、鍵を持たない第三者が開けることはほぼ不可能だという。

 つまり、ここダナース国の王宮の中でも最も侵入しにくい部屋のひとつなのだ。

 

 だからこそエディロンは、自分だけが外の私室にいるからシャルロットは安全なこの部屋にいるようにと言ってきた。ちなみに王妃の私室にもセザールがいるので、そちらからの侵入も不可能だ。


 ここは安全だ。

 そうはわかっていても、今日だけはどうしてもひとりになりたくない。


「心配するな。シャルロットのことは、絶対に俺が守る」


 エディロンはシャルロットを自分の膝に乗せると、しっかりと抱き寄せて安心させるように背中を撫でる。


「はい」


 その温もりが心を落ち着かせてくれて、シャルロットもエディロンの胸に顔を寄せた。


(大丈夫。エディロン様はわたくしを殺したりしないし、守ってくださるわ)


 そう自分に言い聞かせた。


「来るとすればそろそろだな……」


 エディロンの小さな呟きが聞こえた。

 ドキッと胸が跳ね、シャルロットはエディロンの存在を確かめるようにその服をぎゅっと握る。


 セザールの情報では、今夜ここにエディロンの命を狙う者が現れる可能性がある。そして、エディロンとシャルロットは敢えてその策略に気付かないふりをして刺客を呼び込むことを選んだ。つまり、いつ曲者が現れても不思議ではないのだ。



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