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1、始まりの人生(2)

『陛下がお呼びです。本日、謁見にお越しください』

『お父様が?』


 シャルロットは不思議に思った。


『なんの用事かしら?』

『伺っておりません』

『そう……』


 父であるエリス国王に最後に会ったのはもう数ヶ月も前のことだ。

 呼ばれる用件が思いつかない。


 けれど、国王から呼ばれて断ることなどできるはずもない。

 持っている中では一番見栄えがよいドレスに着替え、ピンク色の長く美しい髪をハーフアップにするとそこに金細工の髪飾りを付ける。蕾がいくつか付いたデザインのこれは、母であるルーリスの数少ない形見のひとつだ。


『これはね。幸運を運ぶ髪飾りよ』


 元気だった頃、笑顔でそう言ってこれをシャルロットの髪に付けてくれた母の面影が脳裏に甦る。


『お待たせしました』


 準備を整えたシャルロットは玄関先で待つ近衛騎士の元へ行く。


 案内された謁見室は贅を尽くした豪華な部屋だ。見上げる程に高い天井からはシャンデリアが吊り下がり、円柱状の柱の上下には精緻な彫刻が施されている。


『お待たせしました、国王陛下。シャルロットでございます』

『うむ、よく来たな』


 久しぶりに会う父はシャルロットを無表情に見下ろす。


『今日来てもらったのは他でもない、お前の結婚が決まった』

『結婚ですか』


 シャルロットももう十九歳。ちょうど結婚適齢期を迎えている。いつ政略結婚の話が出てもおかしくないとは覚悟していたが、いざ話が決まったと聞くとやはりドキリとした。


『お相手の方を伺っても?』

『ダナース国の国王、エディロン=デュカスだ』

『ダナース国のエディロン=デュカス陛下……』


 その名前を聞いた瞬間、シャルロットは大きく目を見開いた。脳裏に甦ったのは、数カ月ほど前の出来事だ。


 ・・・


 その日、エリス国では諸外国の来賓を招いた数年に一度の大規模なパーティーが開催されていた。

 シャルロットも王女の端くれなのでその場に参加していたのだが、どうにも落ち着かない。


(普段と違いすぎて、落ち着かないわ)


 シャルロットは下を向き、自分の姿を見る。

 いつもはボロボロのすり切れたドレスを着て離宮で凍えているが、流石に今日ばかりは本宮より支給されたいつもより豪華なベージュ色のドレスを着ている。豪華と言っても、腹違いの妹──リゼットが着ている幾重ものレースを重ねた煌びやかなドレスに比べたらまるで普段着のようにシンプルなものだが、それでもシャルロットにとっては特別に感じた。


『ごきげんよう、リゼット。久しぶりね』


 シャルロットは久しぶりに会うリゼットに挨拶をする。


『あら、お姉様。気が付かなかったわ。ご機嫌よう』


 リゼットは話しかけられて初めてシャルロットの存在に気付いたようだ。シャルロットの顔から足下まで視線を走らせると、意味ありげに口角を上げる。


『その格好、お姉様にとてもお似合いね。それにその髪飾り、随分とお気に召されているのね』

『ありがとう。ええ、そうなの。それにこの髪飾りもとても気に入っているのよ』


 シャルロットは褒められたことが嬉しくなり、表情を明るくする。

 シャルロットの髪には、今日も母の形見の髪飾りが付いていた。髪飾りはこれしか持っていないから他に選びようがないのだが、気に入っているというのは事実だ。


『ふうん』


 リゼットはシャルロットの反応になぜかつまらなさそうに扇を揺らす。

 シャルロットはリゼットの亜麻色の髪に視線を移す。そこにはたくさんの宝石があしらわれた髪飾りが輝いていた。


『リゼットの髪飾りも素敵ね』

『も?』


 リゼットは不愉快そうに眉をひそめる。


 ──と、そのとき、見知らぬ男性が声をかけてきた。


『もしかして、エリス国の王女殿でいらっしゃいますか?』


 声をかけられたのはリゼットのほうだ。リゼットは一瞬で表情を取り繕うと、にこやかに『ええ、そうですわ』と答える。


『私はラフィエ国の第二王子のコニー=アントンソンと申します。是非、私とダンスを──』


 隣国の王子を名乗ったその男性はシャルロットの前でリゼットに自己紹介をすると、リゼットの手を取る。そして、シャルロットのほうを向いた。


『少々姫君をお借りするよ、侍女殿』


 にこりと笑いかけられ、シャルロットは呆気にとられて固まる。その反応に、リゼットはフッと小さく笑った。


『少々行って参ります、お姉様』

『え? 姉君様でしたか。これは失礼しました』


 リゼットの言葉に、目の前のコニー王子は慌てた様子だ。シャルロットは小首を傾げ、小さく微笑む。


『いいえ、お気になさらず。楽しんでいらして』


 遅ればせながらシャルロットにも挨拶をしようとしたコニー王子に軽く手を振ると、すすっと広間の端に寄った。


(わたくし、侍女だと思われていたのね)


 自分としてはとても素敵な格好をさせてもらったつもりでいたので、ショックが大きい。

 大広間を行き交う男女を見ると皆自分よりずっとキラキラした衣装や宝飾品を付けていることに気付き、急激に恥ずかしくなった。


 弟のジョセフが一緒であればまだ心強かったのだけれど、生憎近くにいない。



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