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3、死にたくないので、婚約破棄していただきます(5)

誤字脱字の報告ありがとうございます。大変助かってます!

 しかし、怒りのままに問いただした結果引き出した言葉に、今度は混乱した。


『わたくし、結婚というものがとにかく嫌なのです』


 心の底から嫌なのだろう。その台詞は魂の叫びのようにすら聞こえた。


 エディロンは困惑した。

 国をまとめ上げようと努力する父をすぐそばで見守ってきただけあり、人を見る目は確かだと自負している。彼女の言葉には、嘘はないように感じる。




(これは予想外だ)


 エディロンは自分をまっすぐに見上げるシャルロットを見つめ返す。


 結婚を止めて欲しいとはっきりと言い切った態度とは裏腹に、よく見るとその手は小さく震えていた。本当はエディロンに意見するのが怖いのだろう。


「方法はなんでも構いませんの。医師が診察した結果、わたくしが子を成せない体だったというのはいかがでしょうか? もしくは、不貞を働いたとか。あ、なんなら病死したことにしていただいても構いませんわ」


 シャルロットはエディロンに向かって、必死に説得を試みようとしてくる。

 その必死な態度を、エディロンは冷静に観察した。


 国と国が合意した婚約を破棄をするにはそれ相応の理由が必要だ。今シャルロットが提案した理由は、どれを選んでも彼女の評判を貶めることになるだろう。

 それに、死んだことになどすればそこからの人生は全く別人、かつ平民として生きることになる。王女であった彼女にとって、それは茨の道だろう。


(そこまでして婚約破棄したいのか?)


 嫌がる女性に無理強いすることはエディロンとて本意ではない。

 しかし、これは国益のための政略結婚なのだ。周囲から下に見られるダナース国に神に愛された国の王女を迎えることにより、周囲の認識を改めさせるための。


「シャルロット王女」


 エディロンの呼びかけに、シャルロットがびくりと肩を揺らす。


「これは国と国の約束事だ。あなたの〝生涯独身を貫きたいから〟という私的な事情で、取りやめることは難しい」

「そんな……」


 シャルロットの顔が、目に見えて青ざめる。

 彼女自身も自分が提案していることを押し通すのは難しいと理解しているのだろう。口をきゅっと引き結び、空色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


(どうするかな……)


 唇を噛みしめて泣くのを耐えるシャルロットの姿は、エディロンの同情心を誘うには十分だった。国のためとはいえ、彼女に対して意地悪をしたいわけではないのだ。


 だが、エディロンは国王として『では、この結婚はなかったことに』と言うこともできない。


「では、こんな案はどうだろう? 結婚式を行うまでの間に、この政略結婚をしなくても問題がないほどに外交上のダナース国の地位が改善すればあなたとの結婚も取り消していい」

「え? 本当ですか!?」


 真っ青だったシャルロットの顔が、一瞬で明るいものになる。


「ああ。この結婚を申し入れた理由は、ダナース国の国際的地位を向上させることだ。その目的を達成しているならば、お互いの意にそぐわない政略結婚をする必要がない。あなたがどこでなにをしようと、好きにすればいい」


 エディロンはそこで言葉を止め、シャルロットを見つめた。


「ただ、婚約期間は一年が限度だ。それ以上結婚を引き延ばせば、逆に周辺国に妙な憶測を呼ぶ」

「ええ、わかります」


 シャルロットはエディロンを見上げ、大真面目な顔で頷いた。


「それでよければ、約束しよう。あなたは好きなように過ごしてくれ。ああ、俺が協力を求めた際はきちんと協力してほしい」

「もちろんです!」


 シャルロットはこくこくと頷く。


 自分で提案しながらも、心が痛んだ。

 一年以内に政略結婚が不要になるほどに対外的にダナース国の評価を上げる。それは数百メートル先にある的を一発で弓矢で射貫くような話──つまり、実現不可能な無理難題であることをエディロンは承知していた。

 けれど、他に案が思いつかない。


 一方のシャルロットは、全く悲観している様子はなかった。


「わたくし、陛下のお役に立てるよう精一杯努力させていただきます。ダナース国に繁栄がありますように」


 そう言ったシャルロットは、満面に笑みを浮かべる。


(……っつ!)


 花が綻ぶかのような笑顔を向けられ、妙な感覚がする。


(おかしな姫君だな)


 シャルロットへの第一印象はそれに尽きる。だが、嫌な気分は全くなかった。



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