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3、死にたくないので、婚約破棄していただきます(4)

「わたくしとの結婚を、取りやめてください」

「は?」

「わたくしとの結婚を、取りやめてほしいのです」


 シャルロットは二度、同じ言葉を繰り返す。


「…………。なんだと?」


 問い返すエディロンの声は低く、怒りに満ちていた。それこそ、シャルロットが一度も聞いたことがないほどに。


 シャルロットはびくりと肩を揺らす


「それは、ここがダナース国だからか?」

「え?」


 質問の意図が摑めずに、シャルロットはエディロンを見返す。その金色の瞳の奥に怒りの炎がゆらいでいるのを感じ取り、ごくりと唾を呑んだ。


(どうしよう。なんて答えれば……)


 回答によっては、この場で斬り殺される。そう感じるほど、エディロンからは怒気を感じた。


 目まぐるしく頭を回転させる。下手に嘘をついてもエディロンには見破られるだろう。


「実はわたくし……、結婚というものがとにかく嫌なのです」


 暫く視線を彷徨わせていたシャルロットは、観念するとまっすぐにエディロンを見つめ、そう告げた。

 返事を聞いたエディロンの表情から一気に毒気が抜ける。


「なんだと? ダナース国に嫁ぐのが嫌だからでは?」

「いいえ? どの国でも嫌ですし、相手が誰であろうと嫌です」


 シャルロットは首を横に振る。


 シャルロットは結婚するとその日に死ぬ。

 その法則ははっきりとしていて、過去五回の人生では全部相手が違ったけれど結局同じ結末を辿った。つまり、だれと結婚しても結果は同じなのだ。


「どうかお願いします。なかったことにして頂けませんか?」


 シャルロットは必死で言い募る。


「陛下もわたくしとの結婚を望んでいらっしゃらないでしょう?」

「なぜそう思う?」

「顔を見て侍女と間違える人が自分との結婚を熱望してるわけがないことくらい、わかります」


 シャルロットの答えに、エディロンは顔を顰める。


「侍女と勘違いしたことは謝罪しよう。だが、あなたも大きな勘違いをしている」

「勘違い? 陛下はわたくしの妹のリゼットとの結婚を望んでいたのでは?」

「相手は誰でもいい。俺は『エリス国の王女』を望んだのだ。つまり、あなたでも問題ない」

「っつ!」


 シャルロットは言葉を詰まらせた。

 てっきり誰からも愛されるリゼットとの結婚を望んでいるのかと思いきや、違ったようだ。そして、エディロンはエリス国の王女──つまり自分との結婚を望んでいる。


(なんとか説得しないと……)


 ここでエディロンを説得できないことは即ち、自身の死を意味する。もう五回も無駄死した。最悪な未来がわかっているのに、受け入れることなどできない。





 一方のエディロンは困惑していた。


 まず、セザールから王女が到着したと報告されたときから違和感は始まっていた。


『陛下が仰っていたような高飛車な感じじゃなかったですよ。きちんと私に対しても礼をもって接していたし、出迎えた城の者達にも会釈して手を振っていました』


 エディロンはそれを聞いて、意外に思った。あの王女ならダナース国の者になど絶対に頭を下げることなどないと思っていたから。


 来たばかりで、猫でも被っているに違いないと判断したエディロンは、早めにエリス国の王女に会うことにした。

 いろいろと釘を刺しておく必要があると思ったからだ。


 離宮の最奥の部屋の前に辿り着くと、エディロンは扉をノックする。


『ど、どうぞっ!』


 鈴を転がすような可愛らしい声だった。

 扉を開けると、そこにはひとりの可憐な女性がいた。


 腰まで下げたピンク色の髪、水色なのだが中央にいくにつれて色が変わり虹を思わせるような不思議な瞳、真っ白な肌は陶器のようで頬はピンク色に色づいていた。エディロンをまっすぐに見つめ、佇んでいる。


(王女はどこだ?)


 エディロンは数カ月前、エリス国の王女と舞踏会で会っていた。目の前の女性とは違う。

 ということは、この可憐な女性は王女が連れてきた専属侍女だろうと判断した。


 ところがだ。


 目の前の女性は王女その人だった。


『第一王女のシャルロット=オードランでございます』


 そう言われてようやく事態を理解する。セザールがエリス国で会ったのは第二王女、目の前の女性は第一王女であり、別人なのだ。


 そして、シャルロットと名乗った今日来たばかりの婚約者はとんでもないことを言い出した。


『わたくしとの結婚を、取りやめてください』


 そう言われた瞬間に、沸々と怒りが湧いてくる。この女もまた、ダナース国を平民の国家、自分が輿入れするような価値がないと見下しているのか。



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