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2、またしても死亡フラグ(5)

(選民意識が高い奴らが考えそうなことだ)


 ダナース国の前にあったレスカンテ国は、王族と一部の貴族が民に寄り添わなかった故に滅んだ。幼少期に見た、人々が圧政の下で貧困に喘ぐ苦しい記憶が残るエディロンにとって、彼女は最も嫌悪するタイプの王族だった。


 その一方で、側近のセザールが言うとおり、エリス国の王女を妃に娶ることは神に祝福された国の王女が血族に入ることを意味し、周辺国には大きな牽制力として働くことは確かだ。


(国王であるならば、私情より国益を優先させるべきか……)


 エディロンはじっと目を閉じて考える。気は進まないが、致し方ない。


「わかった。王女を娶りたいとエリス国王へ書簡を出そう」

「それがよろしいかと」

「では、手配を頼む」

「かしこまりました」


 セザールはほっとしたように表情を緩めると、途端ににかっと歯を見せて笑った。


「いやー、よかったです。陛下が嫌だって駄々を捏ね続けたらもう勝手に書簡送るしかないと思ってたんで」

「勝手に送る気だったのか?」

「背に腹は代えられませんので」


 セザールはハハッと笑う。そのあっけらかんとした様子を見て、エディロンは額に手を当てながらも苦笑する。


「まあ、お前が妙にかしこまって相談をしてきた時点で俺が望まないなにかの話題を持ち出そうとしていることは予想が付いていた」

「あ、ばれました?」


 腹を抱えて陽気に笑う男をエディロンは見る。


 エディロンの側近中の側近であるセザール=ブラジリエは、エディロンにとって幼いときからの友人でもあった。

 セザールはブラジリエ侯爵家というレスカンテ国当時からの名門貴族家の嫡男であり、ブラジリエ侯爵家はかつてレスカンテ国王の蛮行を諭そうと努力した数少ない家門のひとつだ。


 その慧眼をエディロンの父である先代が買ってブラジリエ侯爵を重用し、その息子もまたエディロンを支えている。建国して二十年が経ったとはいえ、かつての圧倒的な特権が失われて不満を抱く貴族も多い。そんな国内貴族達を上手く牽制できているのもブラジリエ侯爵家が支えてくれているお陰だ。


「まあ、うちがほしいのは『エリス国の王女がダナース国の王妃になった』っていう実績だけですから、気に入らなかったら王宮の奥深くにでも置いて、ある程度好きなようにさせておけばいいんじゃないですかね?」


 エディロンが気が進まないと思っていることを察したのか、セザールがエディロンにアドバイスを送る。


「ああ、そうだな……」


 エディロンは答える。


 気に入らなかったらもなにも、最初からそのつもりだ。その王女と必要以上に関わる気はない。


    ◇ ◇ ◇


 エリス国の王宮を離れて数日後、シャルロットは無事にダナース国入りした。馬車に揺られながら、ぼんやりと外の景色を眺める。農夫が牛に車を引かせて畑を耕しているのが見えた。


(この景色、懐かしいわ)


 この景色を見たのは一度目の人生のときだから、シャルロットにとっては随分と昔になる。すっかりと忘れていたが、いざ目にするととても懐かしく感じた。


(そういえば──)


 シャルロットはふと気付く。一度目の人生では国境のすぐ近くまでダナース国の国王であるエディロン自らが迎えに来てくれて、この景色をふたりで眺めた。


「今回は来ないのね」


 別に来てほしいとも思わないけれど、ちょっとしたことに一度目の人生との違いを感じる。


「……エディロン様か」


 何度もループして過去五回の人生では毎回結婚したけれど、シャルロットが恋をした相手は彼だけだった。その恋心は〝ドブネズミ〟という蔑みの言葉と共に無惨にも砕け散ったけれど。



 移りゆく景色を眺めながらそっと自分の髪に手を伸ばす。指先に触れたのは、金細工の髪飾りだ。幸せになれる特別な髪飾りだと言って、お母様が贈ってくれた大切な髪飾り。


「お母様、今度こそ上手く行くように見守っていてください」


 シャルロットはぎゅっと手を握る。

 今度こそ、絶対に生き残ってみせると胸に誓った。

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