みんなが楽しいひと時を
「はあ」
気の抜けた返事を返す僕。
「それは置いといて、金はどうする?払える――」
「はーい。ちょっといいかな」
再度相手がお金のことを話しかけてきたとき、誰かが割り込んできた。
僕は割り込んできた人を見る。
白銀の鎧と大盾と剣を装備した人がそこにいた。
「げっ」
「人を見て『げっ』は失礼だなあ」
鎧を着た人は、最初に話していた人にそう言うと、僕に話しかけてくる。
「ちょっとお話聞きたいけど良いかな?」
「僕は大丈夫ですが」
相手は周囲を見渡している。
「なんでここに来るんだよ!こうなったら――」
僕と話していた人は正面突破を試みる。関ヶ原の島津のように。
大盾を構え、突破を妨害する鎧の人。
「え?」
僕と話していた人はさらに踏み込んだ。まるで盾に向かっていくように。
(気のせいかな)
勢いよく盾にぶつかり、弾き飛ばされる、僕と話していた人。
「ちくしょう!次は絶対勝つからな!」
僕と話していた人は魔法で霧を呼び出す。
霧が晴れたあと、僕と話していた人の姿は消えていた。
鎧を着た人が苦笑している。
「ひとまず、話を聞かせてもらっても良いかな?」
どうしようか困っている僕に、鎧の人が改めて話しかけてきた。
「あ、はい。ありがとうございました」
僕は返事とお礼を言って、 鎧を着た人と町に戻り、あれこれと話した。
☆
「そんなことがあったのか」
翌日、学校で友人に昨日の話をする僕。
「まったくひどい目にあったよ」
「そうだな。それと感謝だな」
「感謝?鎧を着た人なら、もう伝えたよ」
「最初に話しかけてくれた人には?」
まだと、僕が告げると、友人は最初に話しかけた人の外見を聞いてくる。
「ああ、あの人か。なら、今日お礼しに行くぞ」
友人がそう話すとチャイムが鳴る。
「でもさ、レッドネームだろ、あの人」
「悪役やってんだろ。ロールプレイってやつ」
ゲーム内では正義の味方も悪役も自由、好きにやっていいと話す友人。
「悪役プレイって……はた迷惑な」
楽しい時間を過ごすことが大切と思う僕に、友人は隣の席に座って言う。
「なんか信念あるのかもな。悪の美学とか」