花冠はタンポポで
わたしは自分がそんなにいい人間ではないことを知っている。
友達が死んだのに涙ひとつ出なかったのだから。
あんなに仲が良かったのに。
わたしには少し未来のことがわかる能力があった。
ある日、同級生の女の子を助けた。
『ありがとう!おかげであたし階段落ちなくてすんだよ』
なんどもありがとうを繰り返すあの子と仲良くなった。
『この問題がわからないの?あのね、この問題はね・・』
算数のわからない問題を丁寧に教えてくれた子。
『わからないとこがあったらいつでも聞いてね』
学校帰り、みちくさをして、一緒にタンポポで花冠を作って遊んだ子。
ホントに仲良くできる友達ができたんだと思っていた。
少し未来ことがわかる能力は、誰かのためになる能力だと思った。
『なんだよ、未来のことがわかるならテストの問題もわかるんだろ?カンニングと同じじゃねーか』
男の子のその一言で何か壊れてしまった。
少し未来のことがわかる能力は、悪用ができる能力なのだと思われるようになった。
からかわれるようになった。
わたしといるとカンニング女と呼ばれるから。
仲の良かった子達は離れていった。
あの子も離れていった。
おはようと話しかけても、なんの言葉も返してくれない。
もうわたしには誰も話しかけてくれなかった。
『ねえ、あたし達と仲良くしましょうよ。だからあたし達がケガしそうになったら教えてね?』
隣のクラスの女の子達から声をかけられた。
その子達は休み時間や放課後、どこに行く時もわたしをつれ回すようになった。
ある日の学校の帰り、仲良しだった子に呼び止められた。
『ねぇ、ホントにテストの問題もわかるの?あたしにも教えてよ。そうしたらまた仲良くしてあげる。あの子達には教えてあげるんでしょ?ずるいわよ』
わたしは学校には行かなくなり、
転校が決まった。
県外の、遠い知らない土地に引っ越すことになった。
転校が正式に決まったとたんに担任の先生から連絡が来た。
『最後の思い出に遠足に参加してはどうか』
母は怒りすぐに断ってくれた。
先生は今度は仲の良かった子達を伴って遠足の誘いに来た。
母はきっぱりと断った。
『何もしていない子供を集団で苛めて何が最後の思い出だ。ふざけているのか。わたしが何も知らないとでも思っているのか』
母のきつい言い方に泣き出す子がいた。
あの子だった。
仲の良かった子。
学校の遠足バスが事故を起こした。
わたしのクラスのバスだった。
一人が死んだ。
あの子だった。
仲の良かった子。
泣いてしまった子。
その子のお葬式で誰かがわたしのことをこう言った。
『遠足に来なかったのは事故が起きるのを知っていたからだ』
その子の両親がわたしの家を訪れて、玄関先で怒鳴り散らした。
『知っていたならなぜ教えてくれなかったのか』
父が警察に通報し、彼らは警察に連れていかれた。
後日、彼らの両親が謝罪に訪れたが、母は拒否した。
わたしは知らなかった。
事故が起きるなんて。
本当に知らなかったのだ。
お弔いの花のかわりに、
タンポポをつんで花冠を作った。
あの子の家のそばに置いてこようと思った。
母は『ついてくるからやめなさい』と言った。
引っ越しの日。
わたしは玄関にタンポポの花冠を置きざりにした。
時がたてば花冠は白い綿毛になるだろうか?
ただ枯れてしまうだけなのだろうか?
小さくなっていく、わたしの住んでいた家。
さようなら。
涙が流れた。
それでも流れた涙は
あの子の死を悲しむ涙ではなかったのだから。