嘘つき
俺が嘘に気がついたのは、どんよりと雲に覆われた日のことだった。
「そういえばフィーラってあんま食べないよな」
「そう?まぁ、元々少食だからね」
そう言って笑う顔に少しだけ違和感を覚える。
「そうか?」
「君は変なこと聞くんだね…?
キクルくんだってそんなに気にしてない事だよ?」
気のせいだと自分に言い聞かせると、フィーラの食器を片付け始める。
「ちょっと気になっただけだ、気にしないでくれ…」
「あ…食器、片付けてくれるんだ…ありがとう!」
でも、その笑顔は偽物じゃない気がして、少しだけ安心した…
…あれ?なんで偽物だと思ったんだ?
「どういたしまして」
少しの違和感、それは…
その嘘に気がついたきっかけだった。
❀フィーラ
「早く行って!」
まさか僕が仲間をかばうことがあるなんて…
昔の僕に言ったら絶対に信じてもらえないよね。
「だ、だけど…」
でも、生きていて欲しい人がいるから…
「今、敵の足止めができそうなのって僕だけでしょ?
…早く行って…僕、本気出して仲間を巻き込まない自信ないから」
「っ…仕方ありません…撤退します…
フィーラさん…増援を呼んで来るまで生きていてくださいね…」
「わかってる…キクルくん、ありがとう」
「絶対…絶対に助けを呼んでくるから!」
「ヒナルちゃん…ありがとう…」
「待ってろよっ…」
「ふふっ…ありがとう、ライザくん…
それじゃあ、みんな…またいつか会おうね!」
きっとこれが…仲間たちにつく最後の嘘になる。
だって、僕はもう生き残るつもりなんてなかったから。
❀キクル
救援を呼ぶため、僕らが走っていると…突然、ライザが足を止める。
「ライザ…?」
少し俯きながら、自信なさげに言う様子は、ライザらしくない。
「なぁ…フィーラの様子…おかしくなかったか?」
「え?別に変なところなんてなかったと思うけど…」
「僕も特段おかしなところはなかったと思いましたが…」
「そうか…そう…だよな…」
そう言いながらも、ライザは焦りのようなものを浮かべた…
一体、何があったんだ…?
「…一体…何を焦っているんですか?」
「いや…なんでもない…早く救援を…」
❀ライザ
『ふふっ…ありがとう、ライザくん…
それじゃあ、みんな…またいつか会おうね!』
あの笑顔…何処かで見た気がする…
朝の、あの…偽物の…作り物のような笑顔…
「ライザ…?」
「なぁ…フィーラの様子…おかしくなかったか?」
否定してほしい、でなければ…
「え?別に変なところなんてなかったと思うけど…」
「僕も特段おかしなところはなかったと思いましたが…」
「そうか…そう…だよな…」
ああでも、本当は生き残るつもりなんてなかったとしたら?
それは…
「…一体…何を焦っているんですか?」
「いや…なんでもない…救援を急ごう…」
それならば急がないといけないだろう…
失いたくない…だってもし失ってしまうなら…
今は考えないようにしよう、フィーラを助けるためにも…
ああ…嫌な予感がする。
❀❀
俺が戻って来たときに見たのは…切られ蹴られ殴られ犯されたフィーラ…
そして仲間達がそれが死んでるのかを確認している光景だった。
「はは…やっぱり…フィーラは嘘つきだ…
無事に帰ってくるつもりなんて、無かったんだろ…?」
残されたとき、相手が何を思うかもわからないで…
❀❀
俺はフィーラが死んだ日から一ヶ月ほどなにも食べようとしなかった…
だけど二人は諦めずに食べさせてくれたらしい。
でも…俺にはその時の記憶は残っていない…喪失感だけがあった。
その空虚な喪失感を埋めるために、俺は復讐を始めた。
❀❀
フィーラを失った日から、ずっと灰色に見える世界。
それは復讐を終えても変わらなかった。
でも…でももし、もう一度会えるとするなら…
今度は、共に生きていきたい。
グサッ
❀❀❀
「はっ…」
今のは夢か?
夢にしては鮮明だったような…
「ライザくん?どうかした?ぼうっとして…」
「いや…ごめんな…」
「もう…二人共呼んでるよ?」
「わかった、今行く…」
失いたくない、失いたくない…
もう二度と、失わない。
何をしてでも…
❀フィーラ
「あ〜あ、嘘つきの匂いがしたんだよ…」
…嘘つきの名前は君に譲ってあげる。
だから、絶対に許してなんてあげないからね。
なんて…あぁ、本当なら…僕が犠牲になるはずだったのに…
何が原因だろ?普通に考えて人間にこんなことできるわけないんだけど…
「…っ…どうして死んじゃったの…?」
「ライザ…なぜあんなことをしたんですかっ?」
僕はなんとなく、その理由を知っている気がする。
ふと、その理由に思い至って、思わず呟く。
「…そっかぁ…ライザくんは…僕を助けるために…死んじゃったんだね」
「フィーラさん、なにか言いましたか?」
「いや、何も言ってないよ」
確証はない、でも…なんとなくそんな気がした。
もし…本当にライザくんが死んだ理由がそれなら…
助けられるかもしれない。
今の記憶と、そして…ライザという名前を犠牲にして…
あぁ…なんだ、とても簡単なことじゃないか…
「フィーラさん…?」
「…僕はこのパーティを抜けるよ」
「そんなっ…!どうしてなの?フィーラ!」
「な…なぜですか…?」
「ライザくんが死んでしまったしね…一度解散して新しいメンバーを集めてよ」
巻き込めない…この子達は、これからこの世界の未来を繋ぐ子達だから。
「わかりました…このパーティを、解散します…」
「私はキクルくんと一緒に行くよ!」
「ヒナルさん、ありがとうございます」
「それじゃあ、また僕らの道が交わることを願ってるよ!」
もう二度と、会えなくなっても…
僕は、君たちが______だから。
過去に戻ってまたパーティ全員から、僕のことを忘れさせればいい。
僕も…もう一度嘘つきになろう…きっとこれが、最後の嘘になるよ。
みんなごめん、さよならだって言えない臆病者でごめんね。
だから僕はまた嘘をつくんだ。
◇???
あの子と生きていきたいって言うから任せてみたのに、また失敗か…
まぁ良いや…どうせ暇つぶしだったしね。
次はどの物語をいじってみようかな…?
ああ、次はぐちゃぐちゃにしてみてもいいよね?
ボクって混沌も大好きだからサ!