私の彼氏はロクデナシ
あと二話で幼馴染が寝取られた理由がわかります。
私には恋人がいた。
幼い頃から一緒にいる幼馴染という奴だ。
彼の名前は花屋真一。
家が隣という事もあって、私の家族と真一の家族は仲が良い。
弟も真一の妹とよく一緒にいる……というか真一の妹が私の弟の事を好き過ぎるからだと思うけど。
真一はとても優しい人だ。
誰かを虐める事が大嫌いで、傷つける言葉を吐く事すら嫌だという性格。
温和な性格を、当時の私はカッコいいと思っていた。
小学生なんて『誰かを虐める事で優位に立つ』のが当然の生き物だった。
私も暴力や悪口が嫌いで、彼のスタンスに憧れていた。
反面、走るのは遅いし、テストはサボっていたから、そういう所は残念だと思ったけど。
それでも『周りと違って桁違いに優しい人』である彼に、私は惹かれていった。
空気の悪い時は周りを笑わせてくれて。
誰かが落ち込んでいる時は励ましてくれて。
相手の意見は尊重して自分の意見は二の次に。
真一が他の子と違って大人に見えていた。
だから私は中学に上がって彼に告白をした。
長年一緒にいたし、私は彼に好意を抱かれている事も気付いていた。
絶対に受け入れて貰えると分かっていた。
結果として、それはその通りになったし。
でも恋人になってから見えてくるものがあった。
私は動く事が好きで、アウトドア派の人間だ。
以前から続けていたテニスを高校でも部活として選んだ。
体を動かす事って、ストレスを発散させられる。
それに何より楽しい。
そんな風に思っていた私は真一にも同じようにスポーツの楽しさを分かって貰おうと、彼に部活に入る事を勧めた。
でも彼が入ったのは『運動をしない文芸部』。
私の帰りが部活で遅くなる為、その時間を待つ為に決めたと友人伝手に聞いた。
私は複雑だった。
確かに待っていてくれるのは嬉しい。
二人きりになれる数少ない時間を取れるのは下校時間と休み時間くらいだから。
でも少ないのは理由がある。
彼は休みの日、絶対に外に出ない。
自室のパソコンの前から絶対に動かない。
それは、私達が『帰宅したら顔を合わせられるようにカーテンを開ける』という約束をしている時も、モニターを見ている際に、ふとこちらを見る程度しか気にかけてくれない。
そんな邪魔でしかないパソコンが嫌いだった。
恋人よりも優先する意味が分からなかった。
だから私と彼が休みの日に遊ぶのは殆ど無い。
私は部活の為に、休日でも練習をする時がある。
だから殆ど彼と休みは合わないけど……ごく稀に合う休みでも遊んでくれないのは嫌だった。
登校時間も一緒にいたいと思っていた。
でも彼は『朝の時間』を一人でいたいと言う。
朝食も本当はちゃんとした物を食べて欲しい。
コンビニで買う食料なんて、体に悪いものしかない。
それを毎日毎食食べているのだ。
何度も言った。
きちんと朝、家で食べよう、と。
コンビニへ行かないで一緒に登校しよう、と。
健康的な食事をしないと将来が心配だよ、と。
そうすれば朝、早く家を出なくても一緒に登校出来るのだから。
そうすれば恋人として一緒にいる時間が増えるのだから。
そうすれば私達はいつまでも一緒に生きていけるのだから。
真一は行動を変えない。
私は一人で登校するしか無かった。
隣の家には彼がいるけど、私が起こしても彼は起きない。
真一ピアスの穴を開けた。
オシャレをするという事を否定はしないけど、ピアスは校則で駄目になっている。
規定内の大きさだし片耳だけ、色も黒で違反してない、と言うけど……それでも校則ギリギリを攻めるなんて……あまり気持ちの良いものじゃなかった。
髪もオールバックにしていた。
染めていないから問題無い、整髪剤も規定内、と言っていた。
でも男で長い髪なんて気色悪いし、私は整髪剤の匂いが嫌いだった。
昔は普通だったのに。
真一は高校生になって私の嫌いなタイプの格好を好むようになってしまった。
私はそんなだらしの無い真一と歩く事が恥ずかしくなり、次第に真一と遊ぶ事を避けていった。
真一は本が好きだった。
難しい漢字も言葉も知っていて、それはとてもカッコいい事だと思っていた。
でも周りの同級生が昔読んでいた『ライトノベル』?とかいう気持ちの悪いジャンルの本を、真一は周りが読むのをやめて高校生になった今でも読んでいる。
アニメも漫画も。
いい歳して未だに続けている。
恥ずかしかった。
好きという気持ちより、嫌いという気持ちの方が多い時もあった。
それでも真一が好きだった。
惚れた弱み、という奴だと思う。
どんなにダメな真一でも、どれだけ私が苛立つ事があっても、結局許してしまった。
それでも嫌な物は嫌だった。
何度も真一に更生してほしいと頼んだ。
真一は一度もうんと言わなかった。
私は真一へのストレスを、部活で発散するようになった。
「柊さん、荒れてるね?」
「えっ?」
私はテニス部のコートで、壁に向かって何度も球をぶつけてストレスを発散していた。
そこに彼が現れた。
「なんだか怒っているように見えるけど……神聖なコートの上で苛立っているのは良く無いな。」
彼はそう言った。
私はそう言われて恥ずかしく思い、そっぽを向いた。
「でもその熱い想いをテニスにぶつけるなら、試合で発揮しよう。どうかな?俺とひと試合。」
私は真一へのストレスが溜まり過ぎてどうにかなりそうだった。
だから彼に言った。
「……私、今とてもイライラしているんです。」
「なら尚更。……いいよ、俺が全部受け止める。」
「……いいんですか?」
「ああ。可愛い後輩の為ならそれくらいなんて事ないさ。」
彼の事は知っていた。
男子テニス部の部長で、三年の久川光一先輩。
テニス部での実力もかなりのもので、大会での優勝経験も何度もある人だ。
その実力と甘いマスクで、女子テニス部長での人気もとても高い。
私には真一がいるから特になんとも思わなかったけれど、こうしてちゃんと見てみると、とても整った顔立ちをしているのが分かった。
「では、お願いします。」
「喜んで。」
先輩はとても強かった。
私もそれなりに実力があると思っていたけど……ストレスが溜まっていた事もあり、最近の私は不調続きだった。
それでも簡単には負けないと思っていた。
けど結果は惨敗。
息も切れ切れという状態の私と比べて、先輩は汗ひとつかいていなかった。
「はぁっ、はぁっ、はあっ。」
「強いな。……でもなんだか調子が良くなさそうだ。」
「………んっ、私。」
「なに?どうしたの?言ってごらん。」
私の息が整うまで待ってくれる優しい先輩。
「私……強くなりたいんです。」
「そうかい。」
「どうしたら強くなれますか!?」
先輩は少し考える姿勢をしてから言った。
「……俺が教えようか?」
「え」
「柊さんのポテンシャルは高い。けれどそれ以前に何か悩みを抱えているように見える。」
「それは……」
「俺としても可愛い後輩が真面目に取り組もうとしてるのに、悩みで潰れてしまうのは勿体ないと思うんだ。どうかな?柊さんが望むなら、俺とマンツーマンで練習をしてみないか?」
「………。」
私は悩んだ。
先輩は真剣にテニスの為に私に提案をしてくれている。
けれど私には恋人がいる。
いくら部活の為とはいえ、他の男性と二人きりで練習するのはいい気がしないだろう。
「……ひょっとして、恋人とかがいる?」
「……はい。すみません、試合に付き合ってもらって悪いんですけど、彼に申し訳ないので断らせてください。」
私はそう言った。
ストレスの原因は真一だけど、それでも他の人と一緒にいるのは彼に対する裏切りだ。
「そうか。でも……その彼氏くんも柊さんが練習するのを望んでるんじゃない?」
「え?」
先輩は何を言っているのだろう。
「自分の彼女がテニスの上手い実力のある人なら自慢になるよ?俺だったら心底嬉しいね。……それに柊さんの彼氏は『強くなる機会を自分の嫉妬で潰す』心の狭い男なのかな?だとしたら同じ男として少し可哀想に思えるよ。」
「そんな事ありません!でも、他の男の人と一緒に二人で、というのは……」
「確かに俺は男だけど……これは神聖なテニス部内での話だ。練習して強くなる事が目標なのに、そのチャンスを捨てるのは、少し向上心に欠けるんじゃないかな?」
「………。」
向上心の有無。
それは私が真一にいつも言っている事だ。
それを私が持っていない、というのはどうなのだろう?
「それに君が持っているその悩み。多分だけどその彼氏くんに対してじゃなくて?」
「!……どうしてそう思うんですが?」
「分かるよ。柊さんに彼氏くんの話をした時、柊さん苦虫を噛み潰したような顔をしていた。」
そうか。
私は真一の話を聞いてそんな顔をしていたんだ。
「俺が男だっていうのが不安なのは分かる。でも俺は可愛い後輩で、テニスに対して真剣な女の子を放っておけない。……だからどうかな?この部活の時間だけ、俺は君の練習をコーチする、そして柊さんの不満や愚痴を聞いて悩みを受け止める。」
「……それは。」
それはとても魅力的だ。
テニスは強くなれる。
誰かに言いたかった、けれど恥だと思い言えなかった真一への不満を打ち明けられる。
私は『頼りになる』先輩の提案を受け入れた。
さて続きます。
えー、ポイントとか感想待ってます。
Twitterも一応やってます。
……こんな感じでいいんですかね?後書き。