表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

改めるには時間がかかる

続きます。





柊さんとの会話は想像以上に疲れた。


元々女の気持ちなんて理解する事は無理だと思っていたけど、ここまで男女で思考に差があると思わなかった。

まぁ、一つ社会勉強になったというか。


そういう事にしておこう、うん。


知らない事を知れた。

という事で良いことがあったというカウントをしておこう。


俺は濡れた服を脱衣場に放り投げ、下着だけになって自室へと向かう。


風呂に入るにも着替えが必要なのだ。


俺は着替えを乱暴に衣紋掛けから取り、そのまま風呂場へ向かう。

一日の疲れを取るにはやはり風呂しかない。



(………うん、やっぱ不満あったね。)



体を洗うのも程々に。

俺は浴槽に浸かり、雨で濡れた体を温める。

エナジー缶で無理矢理体力を回復させていた体から、許容範囲外の疲労が溶け出すように抜けていく。



何もしないカス。


向上心の無いゴミ。


努力もしないクズ。



何度も言われて、痛めつけられて、こっ酷く裏切られて、ようやく自分の評価が()()()()()()分かった気がする。



そりゃそうだ。


高校生にもなって勉強も運動も青春も、何一つ真面目に取り組んで無い。


恋人がうだつの上がらない男なら普通は嫌だろう。


昔の小説にも向上心が無い者はうんたらかんたら〜、って言葉があった気がする。



(柊さんが求めてたのは一緒に切磋琢磨してくれる彼氏であって、飲み物で機嫌を伺うような情けない男じゃないって事。)



その点、あの男は優秀らしい。


何だ……そう、あれだ。


部活の面倒を見てくれた、だっけ?


中学からテニスを続けてきた柊さんにとって、テニスどころかスポーツに対して興味の無い俺なんかよりも、テニスが上手くて真剣に向き合ってくれる『頼りになる先輩』の方がいいって話だ。


まぁ分かる。


損得で言えば間違いなく向こうを選ぶ。


多分、俺が柊さんでも直ぐに俺みたいな奴は見限るだろうし。



オタク……キモい、ね。


いやまぁ、俺の趣味が気に入らないのは昔からなんとなくだけど知ってた。


最近じゃ色んな人がオタク趣味を隠さないから、万人受けしてきたジャンルもあるだろうけど……無理な人間は一定数いる。


アニメの作り込み、漫画家の情熱を感じる作画、ゲームでしか体験する事が出来ない喜び。

そのどれもが、俺にとっては『現実での嫌いな勉強』や『疲れるだけのスポーツ』よりも大切だっただけだが……。


そういえば柊さんは昔から言ってたなぁ……。


「こんな気持ちの悪い物を見る理由が分からない」


「漫画なんて所詮嘘の話しか書いていない」


「パソコンの前で一日中いる人間が理解できない」


よく考えたらめっちゃ否定してたよな。

なんで気づかなかったし俺ぇ。



不良気取り、とか。

まぁ?この髪型もピアスも、確かにめっちゃ評判悪い。

オールバックにしてる時も整髪剤の匂いが嫌いー、とか。

ピアスが似合わないー、とか。


ぼっこぼこに言われてましたなぁ。



けどこれは俺が好きでやっているファッションな訳で。

いくら恋人でも、ファッションまで相手の趣味に合わせるのは違うでしょ。


その結果、一緒に歩いていて恥ずかしいと思わせたのは申し訳ないけどさ。



エナジー缶もめっちゃ言われてたわ。


不摂生だし、菓子パンだけだと健康に悪い。

俺の為を想って言ってくれていた言葉を、俺は一度でも真に受けて聞いたことがあったか?


いや、無いな。

やっぱカスだわ俺。


……でも毎日自炊とか怠いじゃん?

コンビニのパンだって美味しいし、金を払うだけですぐに食べられるんだぜ?


いや確かに長期的に見るとめっちゃ無駄遣いだよ、うん。

でもその分の金は小遣いで賄ってるし、母親でも無いんだからそこまで気にする事も無いっていうかさぁ。


……それでも言ってる事は分かるんだけどね?



相手の言葉一つ一つを、冷静になり、噛み砕いて、相手の真意を理解しようとする。


するとどうだろう。


相手の二股は別として、相手の言い分に筋が通っている部分があるという事に気づける。



うん、嫌われる要素は沢山あった。



鬱憤が溜まって浮気になった。



そこまで辿り着くことが出来る。



でも最後の最後で『浮気は違うじゃん』という考えに至る。



結局、他人の心なんて分からないのだ。



俺は長く湯船に浸かり過ぎた事に気づき、急いで浴室から出る。


風呂から出て直ぐに俺は、凝りもせずエナジー缶を開けて飲み干した。










次の日の朝。


俺はなんとなく『偶には朝早く学校行ってみよう』と思い、普段より一時間早く家を出る。


柊さんから言われた言葉に正しい部分があるという事実を受け止め、気分転換に少しだけ行動を変える事にした。


だが朝食を作るのは面倒なので、コンビニで菓子パンとエナジー缶を買うのは変わらない。


言われても全部は改めない。


ここにきても俺は中途半端なカスだった。



店内には様々な商品が陳列されており、期間毎に新商品が新しく並ぶのがいつもの光景だ。



「エナジー、エナジー、エナジー、っと。」



お目当てのエナジー缶を探すが、今日は売り切れのようだった。



(……偶にはお茶でも飲んでみるか?いや、でも炭酸じゃない飲み物ってなんか喉が汚染されてる気がすんだよなぁ。)



俺はいつものエナジー缶の、別の種類を選ぶ。

菓子パンは新商品を選んだ。



「フルーツ系のパンを考えた奴って発想力やばいよな。」



会計を済ませてコンビニを出る。


普段より少しだけ金額が高かったが、いつもと違う朝食を食べられるのは気分転換には丁度良かった。



今日は良いことがありそうだ。



軽い足取りで学校へと向かう。



時間はいつもより三十分早かった。




次回、急展開です。

もう少し続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が無気力系(ガチ)の甲斐性ゼロ感がよく描けてるなとw 常に自分の趣味優先で彼女さんの趣味に付き合う気ゼロ。朝の時間を割くことすら嫌がってるあたり、休日のデートに付き合うなんてことも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ