見切り発車
次か次の次で浮気理由発覚予定です。
それは放課後だった。
俺は顔を腫らしたまま、自宅へと向かっていた。
雨は降っていたが傘を持っていなかった。
天気予報を見る習慣なんて無いしスマホで確認してから家を出る、なんて事もしない。
だから俺は雨に晒されたまま帰っていた。
家に着いて直ぐに気づいた。
だが少し考えれば分かる事だった。
俺の隣には柊さんが住んでる事を。
俺の住む家の隣には新築の大きな家がある。
その家には広い庭と豪華な門があって
その門の前には
柊時雨がいた。
柊さんは傘を刺していた。
だが長時間その場にいたせいか。
足元はびしょびしょに濡れているし、傘をさしていても効果が薄い豪雨の中にいれば、顔も髪も濡れてしまう。
彼女は捨てられた子犬のようになっていた。
俺は何も言わない。
いや、何も言えない。
先程柊さんに関わらないように、と痛めつけられて教えられたばかりというのもある。
だがそれ以前に彼女の様子に異質なモノを感じ、その場に立ち尽くしているしかない、という状態でもあった。
「………どうして帰ったの。」
柊さんは重い口を開いてそう言う。
「………。」
俺は何も言わずにいる。
雨は未だに降り続けている。
「今まで一緒に帰っていたよね。」
柊さんの表情は見えない。
重苦しい雰囲気は分かっても、彼女は下を向いている。
「なんで、置いていったの。」
「………。」
俺は何も言わない。
「何か言ってよ。」
「………。」
俺は何も言わない。
「なんで」
「………。」
俺は何も言わない。
「どうして」
「………。」
俺は何も言わない。
「どうして私を責めないの!?」
「………。」
俺は何も言わない。
「私浮気したんだよ!?どうして怒らないの!?どうして何も言わないの!?」
「………。」
俺は何も言わない。
「浮気した癖に平気な顔して『なんで置いていったの?』なんて恥ずかしい事を言ってるのに!どうして怒らないの!?」
「………。」
俺は何も言わない。
「一回や二回じゃない!何度も何度も!真一の彼女の癖に、先輩と一緒にいた!」
「………。」
俺は何も言わない。
「それなのに真一の前に懲りもせずに来てるんだよ!?どうして馬鹿にしようともしないの!?」
俺は何も言わない。
「昔からそうだよ……!いつまでも同じように生きて!」
俺は何も言わない。
「努力もしない!真面目に何かに取り組もうともしない!」
俺は何も言わない。
「私が部活をやっている時も!勉強をしている時も!真一は一つでも何か頑張った物はあるの!?」
俺は何も言わない。
「私と一緒にいてふざけているだけ……!ずっと訳の分かんないアニメとか漫画ばっかり見て!先生に怒られても直そうとしないで!それだけでも酷いのに不良の真似事なんかして!」
俺は何も言わない。
「一緒にいて恥ずかしいよ!」
俺は何も言わない。
「………ここまで言われても、まだ何も言わないんだ。」
俺は何も言わない。
「先輩の言う通りだ。」
俺は何も言わない。
「真一といても何も楽しくない。」
俺は何も言わない。
「私だけ馬鹿みたいに勉強して、部活も頑張って。」
俺は何も言わない。
「一緒に頑張ろうね、なんて言っても何も意味が無い。」
俺は何も言わない。
「先輩は優しいよ。」
俺は
「最初は真一がだらしない事を怒ってくれたし。」
俺は
「私をおざなりにしている、って私の事を想ってくれたし。」
俺は
「部活も面倒見てくれて、真剣に教えてくれて。」
俺、は
「真一と違って私以外に興味なんて無いの。」
おれ、は
「私を愛してくれるの。」
お、れ、は
「真一……ううん、あなたなんかと付き合うんじゃ無かった。」
お、、れ、、は
「もう関わらないで。浮気してたのは認める。でもあなたと一緒にいるのは吐き気がするほど嫌なの。」
もう
「先輩と付き合うから。……あなたと付き合っていた事なんて思い出したくも無い。」
もう
「………何もしないなら底辺でいれば?どうせ何もしないクズなんだから。」
もう
「どうせあなたの周りも底辺だけでしょ?……もうクラスでも話しかけないで。というか消えれば?生きてる価値無いよね?何もしないクズだもんね!?」
もう
「私を取り返そうともしないカスだもん!私が奪われても何も言えないゴミだもん!殴られても殴り返さないクズだもん!死んでもいいよね!?」
「…………うるせぇ。」
黙れ、もう。
「………はぁ?うるせぇ、って。誰に向かって言ってるの?底辺の癖に。」
「お前マジうるせぇ。」
「やっと口を開いたと思ったら同じことしか言えないの?……やっぱゴミだね。」
「そのゴミと付き合って、そのゴミに嘘つきまくってたお前もゴミだよな。」
「うるさい!あなたなんて喋るだけのゴミなんだから!」
「お前もうるさいって言ってる……いや、どうでもいいや。」
俺は家に入ろうとする。
「話は終わってないよ?逃げるの?」
「終わりだ、柊さん。」
「………柊さん、」
「ん?」
「………あなた。柊さん、って私の事を呼んでる。……先輩に言われて怖かったから?それとも自分のクズ加減に気づいて態度を改めた?」
「あー、そうだよ。それでいいよもう。」
家のドアに向かって歩く。
だが柊さんが家の前に立ち憚る。
「良くない!」
「いやいいだろ。話は終わり。これ以上話す内容ある?」
「私はある!」
「まだあんの?元カレ下げてー、今カレ上げてー、今までの不満ぶちまけてー、その上今カレに頼んで元カレぶちのめしてー、まだやる?まだ足りない?そんなに俺と付き合ってた時間はお前の人生に於いて損失しか産まなかった?」
「そうだよ!まだまだ言いたいことは山ほどあるよ!」
「無理無理無理。……柊さんの言葉を借りるけどさぁ、これ以上お前といると吐き気がするかも。」
「……ッ!…う、うるさい!吐いちゃえばいいんだ!あなたなんて吐いて気持ち悪くなっちゃえばいいんだ!」
「お前も同じだから。つかもう無理。マジで。………お前、って言っちまった。わりぃ。……柊さん。」
「ッ!も、もう怒ったから!」
「あ、そう。」
俺は玄関の鍵を取り出す。
「私幸せになるから!」
「そりゃ良かった。お幸せに。」
玄関の鍵口に鍵を刺す。
「あなたがどれだけ不幸になっても絶対に知らないから!」
「ま、他人?になるのか?なら当然だろ。じゃあね。」
ドアを開けて中に入る。
「絶対絶対絶対!別れた事を後悔させてやるから!」
「さいっなら。」
俺は玄関を閉めた。
次回へ続く。