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天使?いや女神か。

中性的な人です。




屋上で名も知らぬ男にタコ殴りにされた後。


俺は体の熱を冷まさせる為、そのまま雨の余韻を楽しんでいた。



(色々とスッキリしてきたな、なんか。)



殴られた事に関しては微塵もスッキリしないが、時雨との関係が無事に終わりを迎えた事は良かった。



(多分、オタクとかファッションとか、やる気とか評価とか、その辺も全部含めて嫌いになったんだろうよ、あの感じ。)



そしてその不満をあの男にぶつけた。



(それなら納得出来る。俺自身は嫌いじゃないが、俺の行動全てが嫌いになった、って事だよな。)



あの男は俺を殴る時、時雨が思っていてもおかしくない事を言いながら拳を振り下ろしていた。



「………あ、あ、あー、あー、声が出るわ。」



顔の腫れは雨の冷たさによって引いてきたらしい。

視界も少しだけはっきりとしてきたし、声も少しだけ出るようになった。


だが、このままでは風邪を引いてしまう。

そうなっては後々後悔するのは自分だと思い、俺は屋上を出る。

もう誰も俺を心配などしないだろうが。



買ってきた物を置いていくのは勿体ないと考え、俺は両腕に抱えて階段を降りた。






教室に戻ろうか迷ったが、時雨……()()()がいると思い、顔を合わせて気不味くなる事を避けたい為、俺は部室へと向かった。



「ふひぃ…、雨って濡れた後疲れるのはなんでかね?」



濡れ切った制服を椅子にかけ、脱いだワイシャツを窓際で絞る。



「あ、授業……、サボるか。」



菓子パンの袋を開け、数回食べるだけで飲み込む。

そしてあまり好きでは無いが、いちごオレで流し込む。



「食いもんに罪は無い、っと。」



エナジー缶を開ける。



「現代人にはエネルギーが足りてない訳よ。」



一人でいると独り言が増えてしまう。

昔からの癖だ。

こういう所も嫌われる一端だったのだろう。



「とか考えても遅過ぎだけどね。」



エナジー缶の中身を口に流す。

炭酸はガラガラになった喉を通り胃へと運ばれる。

全身に炭酸が巡るような感覚が好きで、昔からこの味を好んでいた。



(………そう言えば)



これも体に悪い、って言われてたっけ。


思いつく事全てが柊さんから指摘されていた事だと気づく。

女々しい自分の思考回路が本当に嫌になってくる。



奪われる事を拒絶しなかった癖に、捨てられた事を許容した癖に、それでもまだ元カノの事を考えてしまう。


つい先程の事とは言え、引き摺る自分が惨めで笑いが込み上げてくる。



「………なんだぁ」



笑えるじゃん、俺。




それは自嘲だけど。
















そうして缶の中身を飲みながら外を見つめる事数時間。

普段の授業では使われないこの部室に人が訪れる。



「あれ?花屋くん。今日は早い……って何その顔!?」



部室へ入ってくるなり俺の顔を見た調先輩が、俺の元へ駆けてくる。

俺はそんな先輩に対してにへら、と気持ちの悪い笑みを浮かべて挨拶をする。



「ちゃす、部長。先お邪魔してますっす。」


「いやいやいや!その前に何その顔!なんでそんなに濡れてるの!?」


「いや、これは……。」



なんと言おうか?

教室に帰るのは面倒だったし気不味かった為ここに来たが、その後の事を考える余裕が無かった。


顔の腫れを説明するのは女々しくないだろうか、と考えて言い訳を探す。



「…………ここは一つ、見なかった事で。」



だが言い訳は浮かばず、大人の対応を求める。



「無理だから。説明が無いと先生に言わなければならなくなるけど。」



無理だった。

だが諦めるわけにはいかない。



「いや、マジで。トラブルとかじゃ無いっすから。」


「トラブルじゃないのに顔が腫れる程の問題があるの?」



ぐうの音も出ない。

だがそれでもここで引くわけにはいかない。



「調先輩……俺、先輩の事尊敬してるっす。」


「凄いね。ここまで露骨に媚を売る人間を初めて見たよ僕。」



先輩は冷めた目で俺を見る。

だが先程の雨で全身冷え切った俺には、その程度の目線には負けない。



「………先輩、喉渇いてな」


「渇いてないよ。」



早すぎる。

だがここで挫けてはいけない。



「先輩、俺この前本屋で」


「いいから服を着て待ってて。……保健室に湿布を貰ってくるから。じっとしてて。」



先輩はそう言って鞄を置いて保健室へ向かった。


言い訳は役に立たなかったが、先輩は何も聞かずに保健室へ俺の為に向かった。



何故か胸の辺りが少し柔らかくなったような気がした。














調先輩が貰ってきた湿布は俺の顔を覆い尽くした。

湿布の匂いが強烈で鼻がツンとするが、顔をそのまま放置しておくわけにもいかない、と言われて我慢するしかなかった。



「別に真一くんが言いたくないというのなら、僕は聞かないよ?でもそれなら、自分でケリをつける事。いいね?」



先輩は優しい人のようだった。

今までも優しい印象だったが、この人はこんな俺に天使みたいな対応をしてくれた。



「調たんマジ天使」


「やめよう?鳥肌が立つから。」



調先輩は天使扱いが気に入らないようだ。



「………、今日はこのまま帰った方がいいよ。その顔で本を読める?」


「すんません、この顔は親から貰ったものですぐには変えられないっす。明日整形してくるんで。」


「誰が君の顔面評価をしたのかな?」


「先輩が」


「僕は君の怪我の事を言ってるんだけどなぁ……その目で本を読めるのか、って話。」



確かに本を読めるほど目を開けるのは難しい。

調先輩は本を読む時間に本を読めない俺を気遣ってくれていたというのか。



「調先輩マジ女神」


「性別変わったね?僕男だからね?」



そうだった。

先輩は男だった。

だが女子と殆ど変わらない見た目をしているし、顔は学校全体でもトップクラスに美しい。

女でしたと言われてもおかしくないレベルで可愛いのだから、もう女で良くないか?



(うーん……時雨と別れてから思考がまともじゃない気がする。)



現実逃避は続行中だ、という事だろうか?



俺は調先輩に礼を言い、部室を後に家へと帰宅した。




ヒロインではありませんのであしからず。

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[一言] このクズ先輩ボコボコにしてぇ
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