表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

本音と新たな事実

二部スタートです。






俺は病院の外にいる。


今春風は吹いておらず、病院からそれなりに離れた場所に設置してある喫煙所には、三人の人間がいる。


タバコを吸っているのは二人。


一人は女性で、もう一人は男性。


勿論俺は未成年なので喫煙はしていない。


タバコを吸うわけでもないのに喫煙所にいるのはマナーやモラル的にアウトかもしれないが、それでもここが一番いい。


()()()()()()()()()()()()()



「で?話ってのはなんだい?」



そう言って俺を睨みつける女性は、()()()()()()()()柊時雨の現在の隣人の女性。


そしてもう一人の男性は、その旦那さんだ。



「いや、姐さん方にはお世話になったと伺いましてね?そういえばお名前もお聞きしてないな〜、と。」


宇佐美(うさみ)やよい。そっちのハゲはアタシの旦那、名前は宇佐美(うさみ)和泉(いずみ)。」


「いやぁ、初めまして。俺の名前って女っぽいでしょ?よく言われるんだよなぁ!」


「……そっすね、ちょい驚きました。」



和泉さんは自分の名前に対して笑っているが、俺とやよいさんはお互いに睨み合っていた。

やよいさんが俺を睨んでくる理由は分からない。


でも俺がやよいさんを睨む理由は簡単だ。


殴られた蹴られたなんてどうでもいい。

それじゃないんだ。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



大勢の人間が敵に回った時雨に突然出来た味方。

厳しい言い方もするけど、それでも時雨の為を想って言ってくれる優しい人なのだと思う。


それだけに目的が分からない。理由も不明だ。



「やよいさん。…本当に助かりました。」


「ハッ!やめとくれ。礼を言うなら時雨本人の口から聞きたいよ、アタシは。」


「………なぜ、時雨の味方をしてくれるんですか?」


「あ?」


「だってそうでしょう?……やよいさん達夫婦から見れば、時雨は異臭を放つ部屋の住人で、自分達にとってデメリットを与えてきた相手です。助けてくれる理由が分からない。」


「………。」


「安心したいんです。……俺や弟以外の味方が、絶対に時雨を傷つけない安心が欲しい。」


「そんなもんどこにも無いよ。……失せな。」



やよいさんはタバコを灰皿の中に落とし、次のタバコを咥えながら後ろを向いてしまう。


話は終わり、そう思った。



「………俺からで良ければ、話そうか?」


「オイ!やめな!」


「別に良いだろう?……俺も壁越しに大体聞こえてたけど、この子は優しい子だよ。……きっと、()()()()()()()()()()()()()()()


「……どういう事ですかね?」


「……俺とやよいには二人の子供がいたんだ。」



和泉さんは語り出す。



「今から十六年前。……俺が高三、やよいは高一の年齢だ。その時、馬鹿な俺達は盛りに盛っていてね。」


「……。」


「やよいが進学する前からの付き合いだった俺達は、やよいが進学した直後、妊娠してしまったんだよ。」


「それは……。」



時雨と似ている。

だがそれだけでここまで手を貸してくれるものか?


やよいさんはこちらを見ない。

和泉さんだけが、悲しげな表情の微笑みを浮かべて俺を見ている。



「……お腹の子は双子で、男の子と女の子だった。けど昔は今よりも病院のレベルが低くて、安全な出産を安定して行える時代じゃなかったんだ。」



医療レベルの差。

それは命を落とす確率に関わる大きな差だ。


昭和が終わって十年そこらの時代は、色々な技術が発達していった時代だと教わった。


()()()()()()()()()()()()()()


今じゃ殆ど聞かない自宅出産や個人出産がたくさんあった時代だ。


その時代に双子。


しかも10代の女の子が。



「………男の子は残念な結果になってしまった。逆子、と呼ばれる状態だった。……そしてもう一人の女の子、その子は無事に産まれてくる事が出来た。………でもやよいの家は大きな家でね。……率直に言うと、赤ちゃんを奪われたんだ。」


「奪われた、ですか。」


「うん。当時何も出来ない子供だった俺とやよいは、おやの言う通りに赤ちゃんを親に預けた。……そして、赤ちゃんは誰か分からない親戚の養子として引き取られ、俺とやよいはその事で家と訣別して街を出た。」



産まれてこれなかった子供は可哀想な運命だと思うしかない。


だが生まれてきた子供は?


高校生の両親に育てられて幸せになれるか?


裕福な親戚の家で生まれた事にする方が幸せだと思わないか?



そう言われ、二人は諦めるしかなかった。



「……だからアタシ等は妊娠と出産の重さを知ってる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……見ていられなかったんだよ。」



時雨は生まれた子供と生きる未来を捨てようとした。

子供を育てる機会を二度も奪われた人達の前で、自らその権利を放棄しようとしていた。



「………譲るつもりはありません。ですが、ならばどうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……赤ん坊は結局、自分のお腹を痛めて産んだ子供じゃない。」


「それに俺達は奪われた人間だ。確かに赤ちゃんを持っている時雨ちゃんが羨ましいさ。けど俺達が時雨ちゃんから赤ちゃんを育てる権利を奪ったら、俺達はやよいの家の人間と同じ事をしたという事になる。」


「そしてもう一つ。」



やよいさんはタバコの吸い殻を灰皿に投げ捨てる。



「……アタシのガキが生まれたのは十六年前、生きていれば時雨やアンタと同じ歳の子供って事になる。……自分の子供と同じ歳になるガキが、自分と同じ事に苦しんでいたら?……手を伸ばしたくなる。足掻いて前を向けと言いたくなる。」


「………十六年も。」


「君と時雨ちゃんは私達にとっては自分の子供を想像させるし、時雨ちゃんの赤ちゃんは私達の赤ん坊を思い出させる。……それが私達が時雨ちゃんを助けたいと思った理由だよ。」




悲しい


あまりにも悲しい話だ


愛する者と生きる権利を奪われた?


俺はその痛みに耐えられるのか?



「………一つ、聞いていいですか?」


「あぁ。勿論だ。」


「何か質問があるのかい?」


「………今、お二人の実のお子さんはどちらに?」


「…………実はね、もう一つ時雨を助けた理由がある。」



先程とは比べ物にならないほど、後悔を含んだ微笑み。

和泉さんだけでなくやよいさんですら。



「………君達の同級生に私達の娘がいる。」



「アタシ等は会えない。……知らない人だと思われるのがオチだ。」



「名前は宇佐美葉月(はづき)。……時雨の元友人だ。」




それが時雨を助けた理由だ。













二人はそう言った。

今日は多分ここまでです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば、あの部屋の同居人は? [一言] 若気の至りとしか思えん小僧を止めるのが大人の仕事だよ、宇佐美さん。
[一言] 宇佐美夫妻が時雨を娘に重ねているのではないか?とは予測していました。 宇佐美夫妻の名前がなかなか出なかったのは、こう言う事でしたか… 底抜けにお人好しの真一が、この先、葉月とどう絡んで行く…
[一言] 彼女が浮気しなくても 二人も価値観の違いが大きすぎます。 これは幸せの結合だとは思いません。 作者さんの更新に感謝します。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ