最後のチャンス
幼馴染編、ラストです。
「元気?」
「……。」
「やっぱ元気無いか。」
「ごめん、ね。」
「これ、お見舞い品。いちごオレな?」
「………ありがとう。」
「あ、そうだ一つ言いたい事があるんだけど。」
「………何?いいよ……それだけの事をしたから、私はどんな言葉でも受け入れるよ。」
「言ったな?二言は無いな?」
「うん。覚悟は出来てる………これが最後のチャンス、こんな私が貴方に出来る………情けないけど、唯一の贖罪なの、ごめんね?」
「いや良い。なら言うぞ?ちゃんと受け入れろよ?」
「………………うん」
(ごめんね真一、ごめんね。何度謝っても許されない人間だけど、それでも謝らせて?自分勝手でごめんなさい、我儘な女でごめんなさい、それでも貴方に罵倒されて、少しでも罪悪感を増やさないと、それくらいしか私には出来ないの。)
「結婚を前提に、俺と婚約して下さい!」
「…………………………………………え、ごめん。もう一回聞いていいかな?」
「結婚を前提に俺と婚約して下さい!」
「ごめんね、もう一度だけ聞いていい?」
「結婚を前提に俺と婚約して下さい!」
「ごめんね真一、私耳と頭がおかしくなったみたいなの。ナースコールで看護師さんを呼んでくれるかな?」
「結婚を前提に俺と婚約して下さい!」
「…………うん、私イカれたのかな。」
「結婚を前提に俺と婚約して下さい!」
「そうだね、私完全に壊れたんだ。うん。」
「俺と人生を歩んで下さい!」
「本当に駄目になっちゃった、別パターンも聞こえ始めた。」
「俺に時雨を支える権利を下さい!」
「どうしよう、なんでか都合の良い言葉だけが聞こえちゃうみたいなの。お医者さんを呼んでくれるかな?」
「生涯をかけて時雨と赤ちゃんを守らせて下さい!」
「待って、私本当におかしいの。あれ?私起きてる?これって夢だったりする?」
「俺の苗字を貰って下さい!」
「えい、えい、……あれ?あれ?頬をつねっても叩いても目が覚めないよ?」
「俺だけの時雨になって下さい!俺の守るべき大切な人になって下さい!時雨の人生を俺に下さい!俺の人生を貰って下さい!俺の時雨の子供の子供の代まで二人でいてくだ
「良い加減にしろクソガキッッ!!!!!」
「兄ちゃんもう辞めてよ!!恥ずかしいよオレ!?姉ちゃんも止まって!?これ現実だよ!?」
「で?……何でとち狂ってんだい、クソガキ?」
「姐さん、鼻と瞼と頬と顎と耳と腹と脚と手とケツが痛いっす。」
「兄ちゃんが悪いよ。頭おかしいよ。」
「………。」
「それ見たことか。小娘なんてフリーズしてるよ。」
「おかしいな……ここで感動のフィナーレを迎える予定だったんだが。」
「おかしいのはお前の頭の方だよクソガキ。どこの世界に罰を求めている相手に求婚する男がいるってんだい?アンタだけさね。」
「俺が世界で初めて時雨に求婚をした男って事ですよね!」
「お前が世界で初めて弱った経産婦の幼馴染を口説いた大馬鹿者って事だよ!」
「兄ちゃんマジでどうした?イカれた?先生呼ぶ?俺付き添うよ?」
「いや、至って正常運転だよ俺?」
「尚更手遅れじゃないかクソガキ。」
「………。」
「姉ちゃん、何も言わないでこっち見ないで?凄い怖いから。」
「…………なんで?」
「ほら、聞かれてるよクソガキ。きっちり説明しな。何でこんなバカな事をした?」
「説明してよ、バカ兄ちゃん。俺気になって説明を聞かないと帰れないよ。」
「何で、って言われても。」
「「言われても?」」
「……俺が時雨と一緒に生きたい、と思ったからだけど。」
「…………ふぇ?」
「だからその説明をしろクソガキ!」
「良い加減にしてよ兄ちゃん!オレ怒るよ?どうして結婚なの!?どうして婚約なの!?兄ちゃんは姉ちゃんにフラれて、それを受け入れたでしょ!?」
「………簡単だろ。駄目な男だからフラれた。幸せになってほしいから受け入れた。……でも好きな人は幸せにならずにこうなった。見ていられなかった。だから求婚した。」
「過程を飛ばし過ぎたろこのクソガキ!」
「マジで言ってる………?ねぇ兄ちゃんマジなの?」
「おう。まじもマジ、本気と書いて本気で求婚してる。つってもまだ結婚できない年齢だから婚約だけどな。」
「」
「絶句だよ。姉ちゃん絶句だよ兄ちゃん?」
「当然さね。こんな場面での求婚なんて、見たことも聞いたことも無い。世界中どこを探してもこの状況で、このレベルの問題を抱えている相手に求婚するなんて事あるもんか。」
「………前例がなきゃ駄目ですかね?」
「あ?」
「あ、兄ちゃんがちょっと反抗的な目してる。」
「………。」
「俺は幼馴染が好きなんです。………恋愛対象としてじゃないとしても。こいつが幸せになる事を願っているんです。こんな俺でも。………でも俺は彼氏としては最低だ。周りに言われましたよ。友達としてはいいけど彼氏としてはナイ、って。」
「………。」
「まぁ、だろうね。」
「えー……兄ちゃんってそんなにモテないの?」
「モテるよ?めっちゃモテるよ?俺はお前の姉ちゃんと付き合ってたのよ?」
「でもフラれたじゃん。」
「ちょい黙ろうか弟分。」
「良いから続けなクソガキ。舎弟の言葉にムキになってんじゃないよジャリ。」
「………おほん。で、だ。時雨に嫌われた後、俺は周りの意見を参考にして自分を磨いてみました。食生活とか、生活リズムとか、後、趣味もあまり目立たないように隠れて楽しむ事にしました。」
「おおっ!兄ちゃんそれ凄いじゃん!あの兄ちゃんがアニメを見ない時間があるなんて驚きだよ!」
「………続けな。」
「………はい。そして気付きました。これじゃいくらなんでも時雨とつり合うどころか、男としてあまりにも情けないと。」
「………ッ」
「あ、姉ちゃんがちょっと反応した。」
「気づいたのは良い。……けどそれはアンタが自分を磨くきっかけになっただけさね。それがどうして小娘と結婚したい、という願望になったんだい?」
「………!………!」
「姉ちゃん喋ろう?頷くの速過ぎて、それだと首痛めるよ?」
「………で?」
「俺は幼馴染が俺を捨てた後、幸せになるものだと思っていました。……けどその後の幼馴染は幸せに見えなかった。多分、本当に幸せではなかったと思います。……高校の先生や部活の先輩、同期、クラスメイト、それらの人達からの評価はかなり低いものだったと覚えています。」
「………うん。」
「あ、喋った。」
「放っときな。今はクソガキに喋らせる。その後に返事をさせるよ。」
「!」
「え、そうなの?姉ちゃん……この後の返事、ちゃんと考えてから話した方がいいよ?」
「続けます。………去年の6月でした。幼馴染とクソゴミ久川先輩が消えたのは。」
「………。」
「らしいね。」
「オレ、覚えてる………姉ちゃん、学校から帰ってこなかったんだよ。オレ、心配したんだよ?」
「………。」
「俺はその次の日の朝、家に帰らず、学校にも来ない幼馴染が心配で聞き込みをしました。………ですが俺が発見出来たのはその数ヶ月後の事でした。」
「………………。」
「でも兄ちゃんが探してなかったら、今頃姉ちゃん、まだ何処にいるのか分からないままだったよ?」
「やるだけの事はやった。……その成果が後になって実を結んだってだけさ。………チッ、禁煙がムカつくねぇ病院は。」
「時雨のお腹には子供が。そして両親は時雨の事を切り捨てました。………耐えられなかった。とても見過ごせる事じゃなかった。」
「オレ、今日絶対家に帰らない。兄ちゃん、今日泊まり行くね。」
「おう。当たり前だ。可愛い俺の舎弟………義弟をあんな悪魔の家に置いていくなんて耐えられん。………後、妹がキレる。」
「オレ、本当にとうさ……親父が嫌いになった。かあさ……お袋も酷いよ。姉ちゃんの事助けないで、ずーっと喧嘩してるんだもん。」
「………小娘とツッパリ小僧の親は、かなり典型的な毒親だね。」
「本当そうだよオバサン!お袋なんて作る料理が全部毒みたいに不味いんだ!」
「違う。義弟よ、そうじゃない。」
「次にオバサンと呼んだらお前のモノを使えないようにしてやるからな?ツッパリ小僧。」
「はい、姐さん!」
「………。」
「で?それから?」
「俺は思いました。独りになってしまった時雨を、俺は嫌われていても助けたいと。」
「………。」
「かっこいいよ兄ちゃん!」
「ほぉう?言うは簡単だ。で、それで結婚かい?」
「はい。俺は付き合っていた過去があります。そして嫌われた原因も本人の口から聞いています。つまり彼氏として無理でも、欠点を直していけば人生を支える手伝いくらいは許して貰えるのではないか、と。そう思いました。」
「………。」
「なるほどねぇ……理にはかなってる。」
「…おおお!なんか凄いよ!」
「そして先程、時雨の口から俺の言葉を受け入れるという『言質』を取りました。………これで死角は無い。俺の完全勝利だっ!」
「黙りなシャバゾウ。」
「最後でめっちゃ落とすね?兄ちゃん。」
「………。」
「………時雨、もう一度だけチャンスをくれないか?」
「俺と一緒に生きていくのは、嫌か?」
「……ううん。」
「俺が傍にいる生活は嫌か?」
「……ううん。」
「俺と結婚をして欲しい。……今は無理でも、その為に婚約をして欲しい。」
「……駄目だよ。」
「時雨。」
「私は真一を裏切ったの。心も体も。……私は汚れきっている身なの。真一の傍にいる資格なんて無い。一緒にいても真一が嫌な思いをするだけだよ。」
「……そんな事は無い。俺は時雨が傍にいない事が嫌なんだ。」
「私の事は好き?」
「あぁ、好きだ。」
「なら、キスできる?」
「………。」
「結婚するって事は、それ以上の関係になるって事だよ?私と赤ちゃんの為にお金を稼いで平気?他人の子供だよ?他の男の手垢がついた女だよ?」
「………。」
「こんな事を言える立場じゃない事は分かってる。……私は真一の事が好き、なんだと思う。」
「………。」
「分からないの。真一と一緒にいたい、真一と生きていきたい、真一となら怖くない。……そう思う。でも好きって何?私が真一を好きだというのなら、どうして私は久川先輩について行ったの?」
「………。」
「ほらね?………他の女の子と幸せになってね。ありがとう、さような「ン」
「あ」
「あ?」
「」
「………」
「」
「………」
「!?」
「………」
「!……ッま」
「………」
「ま!………おね」
「………!」
「長いんだよクソガキ!!!!!」
「ねぇ急に行動するのやめてよ!?本当どうしてそうなの兄ちゃん!?」
「姐さん、痛くない所が無いです。」
「ああそうかい。くたばりなクソガキ。」
「兄ちゃんマジそういう所だからね?」
「反省も後悔も無いね!」
「潰すか?」
「弁えます姉御!」
「クソ雑魚兄ちゃん……」
「………いいの?」
「………ああ。」
「私、いっぱい間違えちゃったよ?」
「俺もだよ。」
「駄目な所ばっかだよ?」
「俺と一緒に成長して行こうぜ?」
「私、まだ心が未熟だって」
「人生長いんだ。俺も姐さんの言う通りのクソガキなんだよ。」
「いっぱい、いっぱい酷い事したよ?」
「俺も一緒に償うよ。一緒に謝ろう。一緒に反省しよう。」
「赤ちゃんも、お金も」
「全部俺も一緒に背負う。……背負わしてくれ。」
「本当に………本当に、私で、いい、の?」
「お前じゃなきゃ嫌だ。時雨。」
結婚してくれ。時雨!
如何でしたか?
多分批判多いんだろうなーとは思いますが……これが作者の想定していた幼馴染編のラストです。
光一先輩へのざまぁはまだですので、それ後々に書きます。
次回からは幼馴染の友人編を書いていきます。
感想、評価お待ちしています。
閲覧ありがとうございました。




