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完璧を求める意思

おはようございます。

朝から頑張っていきたいと思います。






学校で行われるテストの時間。


その時期、周りのクラスメイト達は決まって同じ話をする。



「なぁ、お前今日のテストどう?」


「いやマジでキツい。範囲広過ぎじゃね?カバー出来ないくらいだわ。」


「分かるわ〜、俺なんかゲームする時間も無かったし。」



クラスメイトの男子達は自分達の恥を自慢し合って恥を重ねている。



「ねぇねぇ、今日の放課後駅前のお店見に行かない?」


「いいじゃん!どうせうちら補習だし?先に景気付けで行きますかぁ!」




女子達は既に自分達がダメな結果を迎える事を受け入れている。


私はそれらの会話を聞いて苛立ちを募らせる。



(どうして自分が頭が悪い事を笑って話せるの?どうしてゲームなんてくだらない物で遊ぶ時間を作れない事を嘆くの?どうしてその恥を恥と思わないの?)



やはり男なんて馬鹿しかいない、と思う。

どいつもこいつも真一と同じようなものだと感じる。



(どうしてまだ終わっていないテストの結果を受け入れているの?どうして最後まで足掻こうとしないの?補習なんて恥ずかしい事だと思えないの?)




女子もそうだ。

光一先輩が言うように、底辺の人間は底辺と傷を舐め合う事しかしない。

良い点数を取る事が勉強をする理由なのに。


それをしないのなら学校を辞めればいいのに。



私はクラスメイトと会話をする事が、嫌になっていた。

底辺と絡んで底辺になるのが嫌だからだ。


どうせ底辺にいるこの人達は、卒業しても底辺みたいな職に就くしか出来ないのだろう。


私は、私以外のクラスメイトを見下し始めていた。


それでもそれを表面には出さない。

それを言って傷つけるのは可哀想だし、優しさで仲良くしてあげているのだ。


底辺でも、一応人間なのだから。


上のステージにいる立場の人間として、少しは親切にしてあげようと思っていた。














だがそれから、私は少しだけクラスメイトを嫌いになる。


真一と別れてから、私の周りの人は私の周りにいる事が少なくなったのだ。


朝の挨拶とか、連絡事項の時とか、そういう時は会話をする。

でも休み時間やお昼の時間、ホームルームの前後なんかは、皆んな私と会話を避けるようになってきた。


いくら底辺の人達とは言え、会話の無い時間が続くとつまらなく感じる。

それに、一人でずっといるのは模範的な生徒を目指す身としては不健全だと感じた。



「ね、ねぇ。」



私は、私の親切を仇で返すクラスメイトに苛立ちつつも、少しだけ会話を試みる。



「……ん。どした、柊さん。」



私が話しかけて数秒後。

私の席の横で、私と反対側のクラスメイトと話をしていた男の子が私の言葉に反応してくれる。



「この後の授業ってさ、範囲どこだったか分かる?」



本当は範囲など分かっているけど、適当な会話が思いつかなかった為に、嘘をついて会話をする。

そうすれば誰とも会話をしないつまらない時間は終わるし、私に範囲を教えてあげた、という優越感をこの男子に施して優しくしてあげる、という事も出来る。


私の計算は完璧な筈だった。



「………いや、分かんねぇわ。悪いけどさ、先生に聞いてくんね?」



そう、男子は言った。

そして男子は元の方向を向いて先程まで話していたクラスメイトとの会話を再開する。



「あ、ありがとね。」



私は隣の男子にそう言ったが、男子の耳には入らなかったようで、私の言葉は宙に消えていった。















テストの結果が発表された。


当然、私の順位は学年のランキングにも載っている。

一年の中で3位という好成績だ。


私はその結果に完全に満足はいかないものの、それなりの自信と満足感は得る事が出来た。



みたか


どうだ


これが私の成果だ



そんな風に私は順位表の周りに集まった同級生達を見下す。


だが



「うわ、俺順位いるじゃん!」


「マジか!どこどこ?」


「ほら!数学の24位!」


「やばくね!?お前天才じゃん!」


「いや、やっぱ無理だわ。俺全然やって無かったからなー。」


「いやいやいや!それ終わってから言うなし!つかお疲れ様会どうする?」


「ファミレスでゲーム大会は当然でしょ?」


「だよな。っし!今日の放課後な!」



自分の順位を見て喜ぶ者、落ち込む者。


その違いはあれど、皆楽しそうな顔をしていた。

私の順位を見て何かを思うような人は一人もおらず、なのに。



「………待って生徒会の子、1位じゃん!」


「流石生徒の代表の一人だわ。」


「5位の子も弓道部の美人さんっしょ?ヤバくね?顔が良いと頭もいいわけ?」



私よりも高い順位の子も、私よりも低い順位の子も、私と違って皆から注目を集めていた。



(………なんで)



なんで私の順位は注目されないの?



(私は努力を怠らなかった。)



模範的で優秀な生徒を目指していた。



(………確かに1位じゃなかった。でも5位の子も褒められてるのに。)



私よりも優秀な人が誉められているのは分かる。

でもどうして私よりも低い順位の子が、目立つの?


その子の事は知っている。

光一先輩が、弓道部にいる可愛い一年が最近話題だと言っていた。


でも私もかなり可愛い方だと自覚している。

それこそその子にも負けないくらい。


頭だけの生徒会の男の子にも負ける。


顔も成績も同じくらいの子にも負ける。


勉強でいい結果を出したのに。



どうして私は誰にも褒められないの?



そんな事を考える。


私はその場から動けなかった。

少しでも体を動かそうとすると、涙が溢れそうだった。

なんで?なんで?なんで?


どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないの?


私が誰よりも努力をしているのに。

私が誰よりも一番真面目に活動してるのに。


そんな気持ちでいっぱいだった。







「おっすおっす。相変わらずやばいくらい頭良いな。」








そんな時、私に話しかける人がいた。







「昔からどうやって点数取ってるのか分からんけど、それキープしてんのは、凄い通り越して怖いくらいだわ。」








無神経に話しかけるその声は私に向かって放たれている。








「総合3位も凄いけど教科別だと1位もあるじゃん、おめでとさん。」




真一。

私が捨てた幼馴染。


光一先輩が何度も殴りつけた私の元カレ。


その元カレが、私に労いの言葉をかけてきた。



「………なんで話しかけてくるの」


「……へ?あ、そうか。俺柊さんと会話しちゃいけんかったわ。スマソスマソ。」



私は真一に話しかけられた事で涙が引っ込み、その勢いで真一を睨みつける。



「……アンタなんて、どうせランキングに乗らないような成績でしょ?なんでここにいる訳?」



私の語気が強まっていくのが分かった。

ここ最近のストレスが、全て真一に向けられていくのも。



「いや、こういうのってお祭りみたいなもんじゃん?誰々の成績がやばいーとか、俺の順位下がってるー、とか。そのついでに知り合いが好成績残してるから、おめでとうくらい言おうとかと。」



真一はヘラヘラと笑いながらそう言い、側頭部を掻く。

私はその態度に無性に腹が立った。



「………どうして」


「ほっ?なにが?」



戯けた顔をして聞き返す真一。



「どうしてアンタが私にそんな事を言う訳!?」



私は真一の胸元を掴み言い放つ。



「いや、別に理由とかないけど……なんとなく?」



真一は私のそんな態度を何とも思わないように返答する。



「他の人は誰も言わないのに!なんで寄りにも寄ってアンタな訳!?」


「いや、だから別に理由とか……つか声大きいぜよ?皆さんいるから少し静かに……」


「私は誰よりも努力をしているのに!どうして何もしないで遊んでばかりの底辺にいるアンタがそんな楽しそうに生きてるの!?」



私は真一に罵倒を続ける。

真一の言うようなお祭りムードだったその場の空気は冷め、私の発言に皆が注目する状況に変わった。



「どいつもこいつも遊んでばかり!学校は遊ぶ場所じゃないの!なのにどうでも良い事ばかり話す男子!慎みのかけらも無い女子!そしてアンタみたいな何も考えない能無しばっか!」


「多方面に喧嘩売るの止めよう?比喩とかじゃなくてマジで売ってるの気づいて?」



真一は私を宥めるようにそう言うが、私は真一のそんな態度に尚更腹が立ち、怒りをヒートアップさせる。



「……柊さん。」


「なに!?今私はコイツに話してるんだけど!」



私は声をかけてきた人の方を向く。


そこには私の隣に座るクラスメイトの男子がいた。



「柊さんさ、俺らの事見下してるよね?」


「はぁ!?だったら何?どうせ皆馬鹿みたいに騒いでるだけじゃない!」


「いや、確かに俺ら遊んでる事多いけどさ。」


「じゃあ見下されても仕方ないよね!どうして私の事を無視するの!底辺の癖に!」


「………女の子にこんな事言うのは嫌だけどさ。」



男の子は頭を掻き、深呼吸をしてもう一度私を見る。



「最近……というか、柊さんが真一と話すのを避けてからだけど、冷たくなったよね?」


「………、なら、なに。」


「いや、普通に絡みたく無いと思ったから。」


「………。」



私の怒りは止まらない。

だけど言葉が詰まる。



「………普通彼氏の事無視とかしないっしょ。ま、多分別れたんだろうけどさ。それでも俺らに対しても凄い嫌な対応をする様になったから。」


「……それは、皆が真面目にやらないから。私達は学生で、勉強が第一なんだよ?部活もそう。お母さんとお父さんが働いたお金で私達は高校に通わせて貰っているの。なら」


「それだよそれ。」



男子は続ける。



「柊さん、凄い美人じゃん?真面目だし。でもそれでも性格は最悪になった。……俺らクラスメイトの事を馬鹿にするような目で見るし、テニス部の奴らも柊さんの事が苦手……いや、嫌いになるくらい嫌味な性格になったって言ってる。俺らもそれは分かるよ。その場にいなくても多分そんな感じで生きているってなんとなく分かる。」


「……それは、皆が真面目にやらないからだよ。」


「俺らって別にロボットじゃないんだ。……先生はそういう普通の生徒を目指してほしいって言ってるけどさ、それでも柊さんと同じようにクソ真面目に生きるのは息が詰まるんだわ。」


「………。」


「虐めたいとかじゃなくて仲良くしたくないな、って思うから。だから皆柊さんに関わらないようにしてるだけなんだ。……本当申し訳ないけど、今の柊さんは最低な性格だと思うし、最低な人間だと思う。」



そう言われて私の顔が真っ赤になるのが分かった。


私は周りの生徒の顔を見渡す。


睨みつける人、嗤っている人、無表情に見る人。


でも一番多いのは憐れむ目をする人。



私は今、自分が憐れに思われていると気づいた。



「……だからさ、柊さん、もう少し周りと同じように」


「…………い。」


「……え?」


「………うるさい。」


「え、ちょ、柊さ」


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」



私は真一を睨みつける。



「アンタが悪いんだ!」


「おっと、俺ぇ……?」


「アンタみたいないい加減な男と付き合ってたから!私はアンタみたいな奴が嫌いになったんだ!」


「ちょ、待って待って……マジで落ち着いて?いいから保健室行こうぜ。いや、本当。煽ってる訳とかじゃなくてね?俺が言っても信用無いかもしれんが、今の柊さんマジで気狂いみたいな」


「うるさい!」


「ンガッペ!?」



私は真一の顔を殴りつける。

そしてそのまま、生徒の中を走り抜けて校舎の外へと飛び出していく。















「おい、花屋。……その、なんつーか、大丈夫?」


「ん?……あー、ま、所詮はおなごの癇癪よ。」


「その癇癪で鼻から鮮血出てるけど」


「血も滴るいい男の定めよ……」


「いや普通にめっさキショイんけど……」


「でも花屋くん優しいよね。……普通あそこまでされたらキレると思うけど。」


「いや、怒るのってカロリー使うやん?エナジー缶でもカバー出来ないのはキツいっすよ。」


「理由がイカれてんだよなぁ」


「………ま、考えは人それぞれ。つか保健室は俺が行ってきます。」


「ちょい待ち。……すっっっごい聞き辛いんだけどさ、もしかしなくても………別れた?」


「ご想像にお任せっ!柊さんの名誉に関わるしぃ?」


「それだけで分かる返答有り難う。……本当に大丈夫かよ?」


「鼻血なんて数分で止まるべ?」


「そっちじゃねーよタコ。………柊さんだよ。」


「………まぁ、思春期って色々あるやん?大目に見てあげてさ、頼むわ。」


「………まぁ、必要な時に話すくらいなら別に。」


「私も。」


「………そうだな。俺も別に虐めたい訳じゃないからな。でも悪いけど、一緒に会話をしたり遊んだりは勘弁してくれよ?」


「そこまでは言わんぜよ。………けどまぁ、ここまで大勢いる中でのあの大立ち回りじゃん?多分これから辛いと思うんだわ。」


「本当お前……優し過ぎてキモいわ。」


「ほんそれ。」


「うん。」


「マジで。キモ過ぎ。」


「絶対彼氏にしたく無い。友達までかな。」


「優しいけどその何倍もキモい、普段の言葉もキモい。」


「きもぉい。」


「待って泣くから、泣いちゃうから!そこまで立て続けに言われると泣いちゃうから!もっとキモくなんぞええんか!」




















後日。

私は教室へ登校する事を拒否し、生徒指導室へ登校する事になった。






夏は暑いですね。

熱中症と感染病に気をつけましょう。


続きます。

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[気になる点] > 「………まぁ、思春期って色々あるやん?大目に見てあげてさ、頼むわ。」 「………まぁ、必要な時に話すくらいなら別に。」 「私も。」 「私も」って誰、1ミリもわからんのだけど。 三人…
[良い点] 引くくらい優しいな主人公はw
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