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宿屋の娘の恋事情。  作者: 潤ナナ
第一部.宿屋の娘。一節.幼年学舎。
9/24

08。

◇◇◇

「お初にお目文字致します。エリエンスの子、ショーラ伯爵家の長女、カレンデュリア・リュシー・ド・ショーラと申します」


 初めてお城に来て、外廷では無い内廷、つまり王族の住まう王宮の中心に私達は来て居るのです。しかも眼前に陛下とその妃、その御子達が勢揃いですの。緊張します。死にますわ!

 それにしても質素なダイニングね。まあ、広さはウチの王都本宅(タウンハウス)のホール程もありますけれど。でも、陛下が『倹約王』とか『安上がり王』とか言われているのも、ある意味ゴテゴテ着飾る貴族なんかよりも好感が持てるわ。

 何より、今の我がショーラ領になる前のショーラ侯爵の治めていた時分より領地の財政が持ち治したのって、陛下が王太子時代に数年間治めていて下さったことが大きいらしい。

「カレンよ、初めて等では無いぞ。幾度もおうておる」

「陛下、カレンちゃんは、まだ幼き幼女でありましたのよ?」

「おお、そうであったな。ローズ=マリーの言う通りだ。1、2歳の頃よな。覚えておらなんで当たり前であった。そんな訳で、私には、『久しい』としか思えぬ。が、再びこうして会うたのだ。歓迎する」

 陛下が意外と気さくな方で良かった。そう思って、隣のロジールさんに挨拶を促そうと目配せを――――!固まっていた。緊張の極みだったらしいですの。ならば、

「そうでございしたか、覚えていないとは言え礼を欠いたことは事実です。ですので、謝罪致します。それでもお会い出来たことに感謝を申し上げます。

 ―――――――それで、私の隣の彼女も大会の優勝者です。挨拶を」

「はっ、はひぃ。ロジール………。エリィさ……、ショーラ閣下の経営する宿『白竜の窖亭』従業員のロジールです。よろしくお願いいたします。成人の部で優勝しました」

「そして、その隣が」

「再びお会い出来て嬉しいです。アラハバキ・ルナールの長子サラディンです陛下。学生の部の勝者です」

「暫く見ないと子の成長は著しいものがあるな。久しいなサラディン。それとロジールと言うたか。貴女はまだ若いようだが、年は?」

「はい、18です」

「ふむ。ロジールよ。良ければもう一度城に来ぬか。会わせたい者がおる。良いかエリィ」

 奥から出て来たのは紛れもなく、

「お父様!」

「んんー、宿の方は大丈夫。だからいいよティグ。でもロジールの意思を尊重したいよ僕は。だから、その時は僕に言えばいい、ロジール」

 何らかの思案がある会食であろうことは明白であろう。が、蓋を開ければそのまんまだった。


「其方等にばかり紹介させた。許せ。先ず私。知っての通り、国王ティグリス四世。皆に陛下と呼ばれておる」

「第一王妃、フェリシー・エリザベト・ド・プールジョンです。皆からフェーと呼ばれているの」

 誰かが囁いた。―――似てる。何故かその囁きが、『私()』では無く、『私()』であったのは気になった。

「姉様、そんな自己紹介で宜しいの?(わたくし)、第二王妃ローズ=マリー・ユゲット・ド・フイユ。陛下よりフイユ領を賜っております。今回の大会の商品を提供させて頂いております。どうぞ御気軽にローズとお呼び下さい」

 気軽に、とか呼べませんですわ!

「第一王子、ルーメンスだ。私は一回戦で敗退した。次こそは、と思っている。胸を貸して欲しい伯爵」

「機会あらば」

 無難な物言いですわねお父様。

「私、ティリオリー。第一王女よ。12歳。学園に通っているの」

「カティー5歳」

「オーブ5歳」

「すまない、改めて。第二王女カトリーヌと第二王子オベール、双子だ」

 金色の髪、薄紫の瞳が、キラキラですわ。第一王妃殿下の御子でしょうね。。。。可愛い。ウチの双子は、ギラギラした灰色です。まあ、それでも可愛いけれど。

「あなた、フェーお母様と同じね」

 え?ああー、黒髪のこと、ね。

「殿下の仰る通り、同じ色ですね」

「目は金色だな。エリィと同じだ」

 はい、よく言われます。だから春の悪魔と言われるのですよ。

「オベール殿下、僕の娘なのですから、瞳の色が似るのです」

「黒いのよ髪の毛。フェーお母様といっしょで黒いのは何故?」

 私も気になります。

「カトリーヌ殿下、僕もこの子、カレンデュリアの母も同郷……、同じ所の生まれなのです。あっ、僕の白髪があまりにも真っ白だからですね?そう、ですね。例えば、宰相閣下や他の重鎮の方々にも白っぽい人居ますでしょう?そう、ブレ宰相は?」

「アンドレ、白っぽい」

「そうでしょ。若い頃の宰相閣下は、それは綺麗なあま色の髪でしたよ。でも、年を取ると白くなるんです。僕もそれでこのような色の無い髪の毛なのですよ」

「でもエリィ、父上とエリィは学園で、おんなじクラスだと教えてくれたぞ?」

「はっはっはっ、我が息子よ。皆全て同じとは行かないのだ。早い遅い、変わる変わらぬ、と言うことは往々にしてあることだ。そっくりだったオーブもカティーも少しづつ違って来ているだろう?」

 ウソです陛下。お父様の髪は元から(・・・)ではないですか?んん?陛下………、知っているんだ。お父様のこと、アラハお母様のことも。知った上で親しくしているのだろうか?畏れているのだろうか?

 でも確定では無いが確信した。人では無い存在(・・・・・・・)が居ると言う事実を王家は知っている。

「陛下、立ち話しも宜しいのですが、そろそろお客様方にもお座り頂いても宜しいのでは」

「おお、すまぬ。フェーの言う通り、食事をしながら親睦を深めようぞ。それに同期の四人も集まっておることであるのだし」


 それから、一時間。私は、陛下に魔法のことを訊かれた。どの程度使えるのか、持続性は?等。ロジールは鍛練のことを。「もっと修練したい」と答え、陛下はそれに対し、「時々(城に)来なさい」等と仰っていた。

 王妃二人はアラハお母様について、あれこれ尋ねていた。サラお兄様は少々困り顔で、それでも「今度、連れて来ます」等と烏滸がましいと言うか何と言うか、終始こんな感じに時間が経過した。


「カレン、私と違って連戦であったろう。疲れていないか?」

「私はまだ大丈夫です。ルー君の方こそいろいろあって、お疲れではないですか?」

「「「ルー君っ?」」」

 ――――ぬあああーーー!しまったあぁぁぁー!ついつい、昼間慣れて仕舞った呼称を使って仕舞った!殿下呼びするのを忘れてたぁぁぁーーーー!

「仲が良いのだな」「仲良しさん?」「好ましく思っているの?」

 陛下王妃達が言う。異口同音に何か言われた。

「これはアレですわ」

 と、第一王妃。

「そうですね。姉様」

 と、第二王妃。

「婚約でいいだろうエリィ?」

 と、陛下。

「えーっと、どうかなルーメンス殿下?」

 お父様。

「私は望んでおります。ですが、カレンはそれで良いか?」

 殿下、私、そう言われても困ります。どうしよう?ああーもう!

「サラお兄様、は如何ですか?」

「おい、俺にフっても答えが出るわきゃ無ぇーだろうが、自分で考えろ。なあーロジー姉」

「わたしに話しを回してどうする?国王陛下、貴方ならどう結論付けます?」

 って、ロジールさん、陛下にそんな口訊いちゃってどぉするの?っあー、震えてる。ロジールさん畏れ多くてカタカタ震えてる。お顔真っ青だし。

「ムゥ、そうだなぁー、婚約、取り敢えず婚約だけしておこう」

「「取り敢えず、とは何ですか!」」

 え?双子なの王妃達って、ハモった。息ピッタリ!

「あ、いや、そのー結婚して欲しい。と思うよ。うん。で、ルーメンスよ、婚約どうだろうか?」

 って、私にはお父様がいるのに………、知っている結婚出来無いことくらい………。でも、、、。

「兄上、結婚するの?」「兄上、かれんでゅ……、好きなの?」

「二人共。私はカレンが好きだよ。一緒に居たい、と常々思っているよ。勉強していると、カレンは私より勉強進んでいるのかな?とか剣術も強くなっているのかな?とか魔法も何処まで強くなって、わたしを追い越しているのでは?と、何時も気になっているよ」

 んー。んん?何だろう。何だか『好き』とは………。ああ、好敵手ね!ライバル視なのですよ殿下、それは!

「ねえ、ルー、それって、競争相手、だよ?好きの意味が違うよ。『気になっている』んじゃ無くて、『気にしている』相手だってことだよ」

「そうなんですかサラさん?でも、四六時中カレンのことを考えて居ます。もう既にこれは恋でしょう。父上」

「え?えー、どうかなぁどうなんだろうフェー、ローズ」

「もう恋愛です。ほぼ、多分、きっと」

「ですね。もうそれでいいわ」

 では、そうしましょう的な流れで、私と第一王子ルーメンスの婚約は決まった。

 10月(ポンレコルト)の18日の夜の出来事であった。

 その日の白竜の窖亭の食堂は、大いに盛り上がった。


 大宴会だ。

 だが、王宮から婚約の発表はまだ行わ無い。取り敢えず、公式に発表されるまでは口外しないよう口止めはしたと言うお父様ではあったが、宿のお客様、近所のおじ様、そしてその奥様集団が果たして口を閉ざしていられるのだろうか。


 噂が拡がる速度と言う物は、一体どのくらいの速さなのだろう。おそらく、予想し得ない速さの拡がり方をするのだろう。

 じわりじわり、とでは無く、ある日とんでも無い所から拡がり始める。あっちこっちに飛び火して、噂話の逆輸入もあり得るのだ。

 何せ宿のお客様は大半が冒険者と行商人。


 私達が夜9時少し前に宿の食堂に入ると、テーブルは勿論、カウンターもお客様に溢れて居た。

 新たに他のお店から椅子とテーブルをお客様が持参して下さった。宴会会場は食堂の中庭に通ずる戸を開け広げ、外にまで及んだ。

 そして私達の帰宅時から、飲食無料を遂行した。

 やはり他のお店からアルコール類を持参して下さるお客様、何時か吟遊詩人も参入していていた。

 口々に皆は、「おめでとう」「お目出度い」と仰る。優勝のことか、婚約のことか、それとも両方なのか。兎に角、お褒めの言葉をたくさん頂いた。繰り返しですが、大いに盛り上がった。




 そして深夜。白竜の窖亭は炎と黒煙に包まれたのである。


 本日の決勝戦の最中にシリル・オレール・ド・ミニョレーの従者と名乗る者が、アラハお母様に約束の金貨50枚を持って来たのだ。賭けで負けたミニョレー氏は、アラハお母様の絶対約束を違えることの出来無い魔法によって契約をされた。


 彼は、こう認識した筈。

 先ず、観客の前で宣言する。契約の内容を自分の名と共に約束。この場合は、賭けで負けるとミニョレー氏は金貨50枚を、アラハお母様は身体を差し出す。と言うこと。それを不履行したりそう言う考えが強くなると命を失う。と………。

 だが、アラハお母様の凄いところは、この魔法、実は幻覚幻聴な幻想魔法だと言うこと。

 約束の方法、契約の方法。これらはフェイク、ウソなのだ。本当に思い込むと、まるで命に拘わるかの如く苦しくなる。苦しくなるだけで、本当に苦しい訳じゃ無い。苦しみと痛みの幻想なのである。

 死に至らぬ痛み苦しみなのだ。まあ、それでも苦しみが長時間続いたら心が壊れて仕舞うので、要注意です。

 因みに、本当の契約魔法は、お互いの血液等を使うのだそうです。

 と言うことを踏まえて。金貨を取り戻し、嫌がらせ以上のことを行いたい、と思う方はこう言うことをするだろう。だから、『襲撃』が今夜から数日の間にあろうことは、容易に予想出来た。

 先ず、暗殺。これは準備が結構必要。安直で浅慮な人が考え付く安易な方法は焼き討ち。

「ほぼ、焼き討ちされると僕は思うよ」

「トカゲもそう思うかい。あたしも同意見だ。」

「トカゲ言うなよ。キツネばばあ。でだ、焼かれるのなら、僕から提案があるんだ。それは――――――――――――」

 何と言う漁夫の利であろう。棚ぼたかしら?私は、このお父様の娘ですが、こんなに腹黒くありません。




◇◇◇

「ごめんなさい。悪かったです。許して下さい」

 一生懸命、謝罪の言葉を並べているのは、青い包茎のリーダー、ロック23歳です。


 18の誕生日の朝、私の大事な仲間から頂いた素敵なプレゼント。赤とピンクと黄色、三つの飴玉。各々、レア、ベル、ジョゼの髪の色だ。食べる何てとても出来無い。砂漠の只中で、録に物資の無い中、考えて用意したであろうプレゼントをこともあろうに食べやがった。その重罪人がロックです。

 許せる筈がありません。許せる条件もありません。但し、困るので、私は言いました。

「謝る言葉が、鬱陶しい。私に話し掛けないで下さい」

と。



「それで、襲撃者の方々を最終的には許したんです?」

「どうして許すと思ったのですマチアスさん。まあ結局、魔が差したのでしょうから、最後はね。でも、それなりに罪に問われて、それなりの罰は受けておりますよ。尤も、お父様に言わせれば、貴族に貸しを作っておくのは、ある意味後ろ楯。しかも今回の貸しは大きいから、後々色々役に立つ。ですって」

「中々、策士ですねー英雄さんは。俺、弟子になりたい!」

 そう言ったマチアスさんの茶色い瞳はキラキラしていた。


「俺、貸し作ったから、後ろ楯に……」

「「なるわきゃ無ーよ!」」「高々赤級冒険者(ギュールズランカー)風情がぁー、カレン様のお側に居ることすら叶わぬ男の癖に」


 少々、ですが可哀想に思って仕舞いました。憐れなロック。



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