07。
◇◇◇
私とフランの直接対決。二回戦の第二試合。二人共同じ得物での試合になった。
短剣とタガー。早さ重視で、手数重視の試合は最初こそ身体強化せず戦っていたのだけれど、私がフランの短剣の柄に打ち込んだことで、フランは多分焦った。いきなりの身体強化魔法でスピードを上げ始めた。
追い付かなくなった私も強化。そのままズルズルと魔法力勝負になって仕舞った。
そうなると、こうなる。
「卑怯だぞ!はぁはぁ、魔法、はぁはぁ、力、勝負だ、なんて、はぁはぁ」
「始めたのフランでしょう、はあはあ、もう!」
ガガガガガ、バババババガンガン。。。ドッ、ドド、カンカンガンガン――――――――。。。
もう、どれだけ強化したのか分かんない。手数勝負です。でも、やっぱり魔法勝負だった。マナを集めきれなくなったフランの疲労が、先に来たようだ。
仰向けになったフラン。
「――――はあはあはぁはぁ、はぁ。ふううぅうぅぅぅ。参った、降参コーサンデスゥ」
「ヤッター!勝ちぃ」
「勝者、カレンデュリアさん!」
後でアラハお母様に訊いたら、もう目で追えなかった。だって!アラハ様が言うんだから、相当の速さだったのですわ!
以降、順調に勝ち進んで四回戦目。準決勝です。
私には、予想通りなんだけれど、観客にとっては番狂わせだったらしい。
だって、最年少出場者の二人が準決勝なのですもの。
「そろそろ用意は良いですか?」
しかし、主審のジャン=ポール・キニスン冒険者組合組合長さん。厳つい顔付きなのにいろいろ気を使った声を掛ける人だよ。そう思うよね。レア。
レアも目を細めて口をニィと開いて微笑んだ。
「それじゃあ――――――始め!」
っうお!間合い詰めようと飛び出したら、同じように飛び出して来たニア。おんなじに抜剣術だ。
――――バンッ!
互いの短剣を短剣で受けた。受けたままで同時、タガーで切り付けに行ったので、タガーとタガーもお互いに受け止める。
若干浅かった私は、タガーを落とした。短剣同士はまだ互いを受け止めた状態だったので、左後ろに間合いを開くつもりで、跳び退いた。
飛び退きついでにレアの右足を蹴り上げた。レア、まさかの転倒。そんな強く蹴って無いのに。
ひっくり返ったレアの頸動脈に短剣を当てる。
「勝者、カレンデュリアさん!」
あれえー?どうして、どうしたの?レア。バランス崩せる程の蹴りでは無かったのに。
「前の試合で捻挫したっぽいんだよね。アイッ、タターぁ。わたし、救護所行くよ」
「肩貸すから」
「ありがとう。お嬢様」
噴水池の北側救護所。
「失礼しまーす」
奥に見知った顔があった。エリィさんのお母様だ。幼年学舎で同じクラスの子エリザベトのお母様。
「こんにちは。エリィのお母様」
「あら嫌だようお母様だなんて!怪我したのカレンちゃんじゃなくて、そっちの赤毛の子だね。あららぁ?おんなじ子がまた来たねぇ?おんなじ顔だよー」
「なんだよ、レアも捻挫?」
「ベルも?」
ベルは右足首、レアは左足首を捻挫していた。双子は怪我も一緒なのだ。で、二人共準決勝敗退。三位決定戦を姉妹で争うことになったのである。
「「初めまして!」」
「あらあらまあまあ、双子ちゃんだよ。エリィの言ってた双子って、貴女達なのね」
「レアです」「ベルです。ウチのお嬢様がお世話になってます」
「まあまあ丁寧に。兎に角、診るね。二人共、怪我をした所、診せて」
そこは双子、順番なんて関係無い。レアは左を、ベルは右足を同時に差し出す。
エリィさんのお母様。心得たもので、両の手で同時に触診。
「んん――――。少し腫れてるわね。骨には異常無いみたい」
酸っぱい匂いの白っぽい練り薬を薄く塗った布を捻挫して腫れている所に張り付けるおば様。お酢を小麦粉等で練った湿布薬だ。
「「ひやぁぁぁぁぁー!」」
「ふふ、冷たいでしょう?」
「「でも気持ちいい」」
「2~3日、走ったり激しい運動は止めてね」
「「ええ~~~!三位決定戦があああぁー!」」
「どう言うこと?」
私が説明したのだが、中々信じて貰えなかった。
自分の娘の同級生が、競技大会に出場しているだけでも信じられないのに、三位決定戦とか言うんだもの。
他の救護所のお手伝いの方に確認に行って貰う程、信じて貰えなかった。私もだが、レアもベルもウソなんてついていないのに信じて貰えないことに少し、ショックだ。
しかも私達三人共、革の防具を着けた格好をしているにも拘わらずだったから。。。
お手伝いの方が、トーナメント表で確認して、係員に尋ねてくれたらしい。事実をエリィさんのお母様に伝えてくれて、ようやく信じてくれた。
「ごめんなさい。おばさんが悪かったわ。まさか、競技会にこんな小さな子どもが出てるなんて思いもよらないわ。しかも三人共準決勝まで勝ち進むだなんて!―――でも、白竜さんところの子ども達だったのよね貴女達って。強いのも頷けるかしら?」
「一応自慢します。ウチのお嬢様は、決勝戦に出るんです!」「多分、相手はわたし達と同じく旦那様の伯爵家の侍女ジョゼです!」
「じゃあ、上位四位までカレンちゃんところで独占ってこと?凄い、凄過ぎるわあ!」
エリィさんのお母様は大いに驚いていた。
その後、救護所の奥様達にいろいろ質問攻めに合いました。おかげで、16歳以上の部の半分近くの試合が見られませんでした。
サラお兄様とロジールさん勝っているかな?当然アトラさんも出ているかしら。
―――――あ、アトラさん、公爵家の御令嬢だった。出たくても出られないのよね。
応急処置が終わって、噴水の南にあるトーナメント表で参加者と勝敗を確認した。
赤い旗の方にサラお兄様とロジールさんが出場していた。もう二回戦も終え、三回戦つまり準々決勝が始まっていた。
三回戦第二試合に急がないと 。サラお兄様とロジールさんの試合に遅れてしまうわ。
「ちょっと待って!」
ベルが叫ばんばかりの大声で私とベルを呼び止めた。
「アトラさん、青い方に出てる!第三試合に出場だよ!」
「長いね。この試合」
赤旗にはおそらく、アラハお母様やフラン、マルセルさんが応援しているだろう。お父様が審判だし。
と言う訳で、我等三人は青旗側を観戦している。のだが、アトラさんとお相手の方の一進一退が続いている。二人共長剣だ。でも、アトラさんの剣の方が短い。
もう私達が観戦始めて10分近く時間が立つ。
そして、アトラさん、競技線間際まで追い詰められている。もう殆ど後が無い。
アトラさん打ち負けてよろけた!っと、私は思った。赤毛の双子もそう思ったのだろう。両手をアトラさんに付き出している。周りの観客皆、アトラさんの競技線から落ちて負ける。と思ったであろう。
ところが、よろけたのは演技!その体制で、剣は弾き落とされましたと言わんばかりに競技線上に落として、相手の左脇を擦り抜けるようにアトラさんは半回転、相手の後ろに瞬時に入って両手で押した。
私は見た。アトラさん膝カックン噛ましたのを!競技線越えの男性。キョトンとしている。
「あれ?」
男性は訳わからんと言う感じで固まっていた。
「勝者アトラ!」
―――ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。。。。ァァァァァァァ。。
歓声と拍手が暫く鳴り止まなかった。
第四試合、準決勝。アトラさん、さっきの戦法はもう効果が無いと分かってか、長剣では無く、槍に得物を変えていた。
お相手は長剣。
突きの猛攻虚しく、アトラさんが渾身の突きを決める直前、大きく動いたからだろう。隙が出来た。さかさず間合いを詰めら鳩尾にぴたりと剣先を付けられた。
「参りました」
「勝者、ブリュノ!」
アトラさん、残念でした。でも、私は勉強になりました。
篝火が燃え始めた。篝火の他に魔石を使った灯りも用意されている。
もう5時になる。帰らなきゃ食堂、夕食、給仕、どうしよう?決勝戦は休憩挟んで6時から開始だと、運営の方が触れ回っていた。お父様のところへ行こう。
アトラさんが双子と私に気が付いて来てくれたので、後を双子に任せて赤旗の方へ走った。
途中 、トーナメント表の所を抜けようとしたら、脇の下に手を入れられ持ち上げられた。
「きゃあああぁーー!……。あっ!?お父様」
高い高いされて仕舞っている私。お顔が熱を帯びて来るのが分かる。
恥ずかしい。より、嬉しいと思っちゃっている自分が恥ずかしい。
「そんなに急いで、何処に行くんだい?僕の可愛い君」
「お、お父様。あの下ろして下さいませ」
お父様は椅子に座って私を抱いたままご自分の膝に横座りさせた。
「それで、慌てているのは何故だい」
お父様の声が耳元で響いて、更にお顔が熱を帯びる。
「や、宿の夕食、準備とかお父様、どうなさるのだろうかと気になったので、訊きに行こうとしておりました」
「僕の愛しい君は、お仕事の心配をしてくれていたの?大丈夫。運営の人にお願いして、お屋敷と宿に使いを出したから。ついでにお屋敷のピエールを宿に派遣して貰った。多分今夜はお祝いになるのだからね!」
ピエールさんは、お屋敷の料理長さんです。
「お客様方にご馳走を振る舞うのですね!お父様、なんと言う素晴らしい思い付き!!!」
そしてお父様は私を抱いたまま、甘いお菓子を口に入れて下さった。「もういっぱい、止めて!」と言うまで。。。
決勝第一試合。16歳未満の部は、サラディン対マルセル。
第二試合。12歳以下の部は、私カレンデュリア対ジョゼフィーヌ。
第三試合。16歳以上の部は、ロジール対ニコラ。
で、ニコラって誰?
決勝第二試合が始まる。主審はお父様なのですわ。もう決勝第一試合は終わっているようです。こちらでは無く、東側の青い旗の方で行われたのです。優勝者は分かりません。
同じ時、こちらでは三位決定戦でした。勝ったのは、余裕でアトラさんです。
第二試合が始まります。
「いいかい二人共、―――――――始め!」
互いに得物は一緒、短剣にタガー。攻撃、攻撃そして攻撃ですよジョゼ!
防げ、防げ。私はジョゼに反撃の機会を与え無い。どんどん競技線に追い込む。切る切る突く切る突く。
間も無く競技線。
後、3メートル。
後、1メートル。
後、50センチ。
後………。と、この辺りで攻守交代ですの。3合4合と打ち込まれたところで、上段から振り下ろされたジョゼの剣を受け、若干しゃがむ姿勢を取って剣を受けた場所を軸にジョゼの左脇の下を後ろを向きの姿勢に半捻り。彼女は今、短剣を振り下ろす、完全に左足に重心を持って来ている。だから左膝裏を蹴った。思いっきり。
バランスを失い左に身体を回しがら、仰け反るジョゼの身体。そしてその首に剣を当てる。
―――ピトリッ。。。
「そこまで!勝者、カレンデュリア!―――――わあああーい!お父様は嬉しいっ!」
結果、12歳以下の部の優勝者は私。16歳未満の部は、サラお兄様。16歳以上の部は、ロジールで決したのです。
よって、国王陛下との晩餐には勝者である私、サラお兄様とロジールさんが参じることとなったのですわ!
因みに、三位決定戦、12歳以下~は、救護所から双子の競技低停止を受けた運営の判断で、と言うか、「双子はまだ八歳の児童。それを無理に順位を決めるのも酷だろう」と言う某組合長様の計らいで同率三位、としたのだと……。16歳未満~の第三位は、マルセルさん。16歳以上~は、アトラさん。アトラさんは優勝出来なくて寧ろ良かった様子ですの。だって、公爵令嬢ですもの。いろいろバレると大変なことになるそうですわ。
噴水池のある中央広場の直ぐ北側にある貴族街を抜け、王家の紋章の入った馬車は、ウィスペル城の南門から王宮に入る。
初めて私は国王ディグリス四世陛下にお会いするのです。
◇◇◇
今年の12月の22日は冬至、そして私の18歳の誕生日です。
朝、パーティーメンバーで私の侍女である彼女達から、素敵な贈り物を頂いた。
オアシスから移動して、本日の野営を準備。薪を集めるにもここは砂漠。煮炊きする為の薪等の燃料はないのです。
ですから、石炭を使ってます。
直火での焼く料理は身体に有害なので、もっぱら煮物くらいにしか使え無い石炭ですが、薪に比べ嵩張りません。まあ、それでも嵩張るのだけれど………。
私は、大蠍の塩漬け肉と干し野菜に香辛料を入れスープを作り、それに焼き固めたパンを添え、夕食の準備を整えます。
因みに、宿屋の看板娘で十歳から冒険者をしている私も料理は出来ますの。簡単なやつなら。
「祭りの大会の優勝者だけでも凄いですが、カレンさんの家の関係者が多く上位入賞者になってますね」
食事しながら当時のお話しに初めて食い付く青い奉公のマチアスさん。
「ホントだね。白竜の窖亭って宿じゃ無くて、剣術道場か何かじゃ?」
「あの年の豊穣祭以来、毎年、優勝者を出している宿って、有名に輪を掛けて都の名物宿になったんです」
「ベルさんの言った通り、有名な宿だから俺等でも『白竜の~』と聞くと王都のあそこだって分かんだよ。ついでに泊まったし、何回も」
「エド、おまぅえっ、カリッ、よくベルとレア区別付くよなーぁ。……カリッ」
あれ?無い。無い、無い、無い無い。懐にもポッケにも無い。何処へやったかしら?何処へ。何処に?
「ねえロック、食事に手を付けていないけれども、今、何を口に入れているの?」
「ん?あむぇだま。イチゴ味?さっき、おまえが作ったスープ鍋の側に落ちてた」
その刹那、私はロックに格闘術を教授した。
受け身を知らないロックは伸びて仕舞ったが、きっと良い授業になったであろう。