06。
◇◇◇
初戦こそ瞬殺だったマルセルさんでしたが、二回戦目は少々苦戦しておりました。
お相手の方は、盾持ちの短剣使い。短剣、と言っても刃渡り50センチ程でしょうか。
槍の突きを上手く盾で防ぎ、剣で去しています。
一端間合いを空けた。と、思った瞬間、マルセルさんは一気に一直線に飛び出しました。
直線過ぎます!躱されますわ。と、思いましたが、綺麗に鳩尾に決めました!
盾を突いて、そのまま右手剣の柄の部分を狙って突いて鳩尾へ攻撃って感じでした。
「私には、盾を突いてからの五段突きに見えたのですが、ジョゼにはどう見えましたの?って、何時の間に来たのジョゼ?ちょっとビックリ」
「さっきカレン様の美しい御髪に引かれまして。こう、フラフラと」
大丈夫でしょうか?ジョゼフィーヌ。。。
「私には、六段突きに見えました。盾を押し込めるのに三回、右手を狙って一回、その間に相手さん盾を身体の中心に移動させたようで、それを払うのにもう一度盾を突いて。で、鳩尾へ。実際は、三段突きを二回やったと言う感じでしょうかね」
強いのねマルセルさん。ひょっとしたら、給仕のお仕事の休憩時間、アラハ母様やお父様と鍛練しているのだろう。
ロジールさんが、計算出来るようになったのだって、休憩時間に一生懸命お勉強したからなのだと思うわ。
マルセルさんは危な気無く勝ち進み、四回戦目も一撃必殺でした。残すは決勝戦のみとなりました。
真っ赤な頭が二つ近付いて来ました。レアベル双子姉妹ですの。
「お嬢様、やっと見つけました。エリィ様が審判の西側の競技を観戦していると思いました」
「だからわたし等、赤旗の方に居たんです。ですが、青旗の方で強い槍使いの女の子が居るって聞いて、マルセルだろうとレアも言ったので、こちらに来たんです」
「どお、サラお兄様勝った?」
「「勿論圧勝!」」
「身体強化すら使って無かったみたい」「しかも、毎回得物換えてたし」
凄いなあー、サラお兄様。――――と言うことは、ある意味、同門対決!?
これは、面白そうですわね。
あ、いけない。急がなきゃ!
「レアとベルはこの競技会出るのかしら?」
「「勿論出るに決まってるっしょっ!」」
「抽選これからでしょう?行きましょうよ」
「あー、終わったよ対戦決めの抽選」
はあ!?
「お嬢様とジョゼ、来なかったから最後に残った木札になってた。ジョゼは赤」
「お嬢様は、青の第三試合だったよ。レアも青。私とジョゼが赤。じゃ、私第二試合だから旦那様の方に行くね」
「おい、私は第何試合だ?」
「第一」
「早く言え!急ぐぞベル」
そんな訳で急いで防具と得物を選んだのだけれど、八歳時の手に丁度良い籠手が無かった。
「仕方無いわね。ブーツも合う大きさの物は無さそう」
「運営の人に訊くが良い。もしかするとあるやも知れぬ」
「ルー君いたのね。第何試合なの?」
「私は第四試合だ。二戦目でカレンと当たる」
「でんk……、ルー君、ルー君の第四試合の相手って俺だぜ?」
「「フランっ!」」
うわー、殿下と試合かあー。と思ったら、フランかあー。殿下とは何度か手合わせして全勝している私。フランとは……、多分、おんなじくらいの力量よね。強化魔法使わなきゃ………。ああー、でも一勝しないとね。取り敢えず。
ところで皆、身長高いわよねえ。ああ、そうか、八歳児なんて私達だけよね。『12歳以下の部』だったわ。皆、歳上のお兄様お姉様なのよね。
ルー君が九つで私の一つ歳上だし、背丈は私と同じくらい。周りの子は………、ああー、頭一つ高い子ばかりですわあー。
それに、女の子は私とレア、二人だけっぽいですわね。まあ、頑張りましょう。
「青の一回戦、第三試合の子は次の試合の控えの円に入って下さい。向かって右がアンベール君。左側はカレンデュリアさん」
「はい」
「けっ!女かよー。しかもチビだし。まぁ、楽に勝てんなら何でもいいさ」
うっさいわねー、お相手の男の子は私を舐めてらっしゃる。楽勝なのは、こっちなのよ!ふふんっ。
アンベールって男の子、私と同じく得物は短剣ね。盾は持って来て居るけど、舐めているのなら、使わない可能性があるわ。
「勝者、ジャン君!」
――――ワアアアアアァァァーーーー。。。
「第三試合の方は、競技円に入って下さい。中央の二本線の手前まで進んで」
「はい」
私が競技円に入ったところで、観客の中から「おぅ!アンベールぅ余裕じゃん」「アンベール、泣かすなよぉー!」って声が聞こえた。
こうあからさまに軽んじられると、少々、イラっと致しますわ。速攻決めちゃいましょう!
「貴方達、そんなこと言ってって大丈夫?あの女の子、白竜の窖亭って言う宿の一人娘よー。因みに、あたいの弟子でもあんのよぉー」
「白竜の………?あーっ、英雄さんの子どもぉ!」
「おーい!アンベール気ぃ付けろ!その子案外、強いかも知れねぇぞ!」
アラハお母様、見に来たんだ。まあ、フランも参加してるしね。―――少し相手の男の子、警戒したみたい?置いて来た盾、取りに戻ったわね。どのみち負ける気しませんわ。歩き方からして、あの男の子、隙だらけですもの。
「いいですか?それでは―――始めっ!」
…………。
って、あれ?来ない。短剣、中段に構えたまま立ってる。私の予定だと男の子、絶対突進して来ると思ったのに。だから、剣を脇差しに差したまま待っていたのにぃー!アラハお母様から習った抜剣術使うつもりだったのにぃー。
それなら、いいわ。先制ですわっ!
男の子の身体の真ん中に向けて跳躍、間合いに入ると同時に中段から上段に構えを換えた男の子は剣を振り下ろす。
当然、正直に真っ直ぐ進む私じゃ無い。振り下ろされる剣に当たる筈も無く、男の子の右の横を通り抜けざまに腰から抜いた短剣で右手に一撃、追い抜きながら身体を右に捻って背中に一撃。
男の子は、前のめりに倒れた。
右手に一撃入れた時点で、剣は手から離れていたのだけれど、二擊目、入れちゃった。故意に。。。
「勝者、カレンデュリアさん!」
――――ワアアアアアァァァーーーー!!!
ゴンッ。。。
「―――ったーぁーい。。。」
「カレンっ!あの子にあんた、酷いことしたんだよ。後はどうするか自分で考えなっ!」
観客の中から跳んで来たアラハお母様に拳骨を食らった。うん、知ってる。二擊目、必要無かった。
二擊目は試合じゃ無くて只、痛めつける目的だったんだ。侮られて、悔しかったし。
座り込んでいる男の子の正面に立って私は頭を下げる。
「アンベール様、ごめんなさい。背中に一撃当てたの、貴方に舐められたって思ったからです。痛い目に合わせてやるって思ってしまいました。実際、酷いことしました。もし、お許し願えるのならこの試合、私の負けで結構ですので」
何か、会場静かになっているみたい。
「いいよ。オマエの勝ちは勝ちだ。俺の方こそ、試合舐めて掛かってた。こう言うの『おごり』とかって言うんだろ?だから、俺の負け。参りました!」
頭を下げた私の前に立ったアンベール君は私に深く礼を取りながら言ったのだった。
再び歓声………、では無く、拍手の音が会場を埋めていた。
「アラハお母様、叱って下ったことと私の過ちに、私カレンは感謝と謝罪を致します。アラハ様、ありがとうございます。そして同様の過ちを繰り返さぬよう邁進致します」
「カレン、真面目過ぎるよ。いいんだまだ八つだろ?間違うことは悪く無い。それも子どもの特権さ!」
男らしいですわ。アラハお母様ってば!
「オマエ強ーなっ。完敗だぜ俺」
アンベール様は、さっき応援していた友達のところに来たようだ。ついでで私に話し掛けているのかしら?
「私、カレン。オマエって名前じゃ無いわ」
「そりゃ悪かったカレン。それと、俺に『様』付けすんな!貴族じゃあるめぇーし」
「じゃあ、君。でいい?アンベール君」
「もうそれでいいや。今度もう一回、戦わせてくれ」
そう言って、アンベール君は友達の所へ戻って行った。
「フランと王子、始まるよ」
「アラハお母様、どちらが勝ちますか?」
「フラン、だね。王子……、ルーだったわ。ルーは得物の選択誤ったみたいだ」
「やっぱりそうでしょうね。ルー君、サーベルとかレイピアのような突きの方が得意ですよね。なのに短剣。しかも盾持つとか、足枷、自分で嵌めるような物ですの」
「ルー、慎重になりすぎたようだ」
「あ、マナが!」
「ああ、集め出した。身体強化するんだな」
「それでは―――始め!」
ルー君速攻だ。フランは動か無い。身体を僅かに右に反らしただけ、初撃から間違ってるよルー君。上から叩き付けようとするからフランに時間を与えているんだよ。突きで行けば……、とは思うけれど、大きめの盾を持っているから動きが遅くなるんだよ。
ああーっ、二擊目の前にフランの左手のタガーがルー君の鳩尾に、右手の短剣は首筋に当てている。
「………ま、参った」
あっさりだよう。
「勝者、フラルゴ君!」
――――ワアアアアアァァァーーーー!!!
二人共、中央で礼をして握手している。こう言うの見ると、ああ、男の子っていいなあー、って思うの。羨ましいわ。
「負けた。やはり、武器の選択、悪かったな」
さっそく反省しているよ殿下。
「余裕だったぜ。初っぱな、剣振り下ろしてくれんだもん、余裕で対処出来るってもんよ。ルー、強化してスピード上げたつもりだろうが、二擊目に移るの遅れるんだぜ?振り下ろした剣止めるなり軌道変えるなりしねーから、読みやすいんだ。だから、足を掬われるんだって!てか、俺が掬ったけどな」
「調子に乗り過ぎだ」
「いってーよ母さん」
フランはアラハお母様に叩かれた。
レアの第七試合。相手の男の子は、身長170くらいありそう。レアは私と変わらない背丈だから、130センチに足りないくらい。
「あー可哀想ねあの子」「即負け決定だなぁ。」「あんまり痛いことしないで上げて」「審判!棄権させろ!」そーだそーだ!
―――ざわざわざわざわ。。。
「っせーよっ!おい今、棄権させろってほざいたヤツ、誰?」
「私だが。」
「よし賭けようぜおっさん!アラハ、今持ってる金貨、あっちのおっさんに見せたげてー」
金貨?持って無いでしょう。……あれ?金貨出した。何処から?
「ウチの宿の娘が負けたら、これあんたに渡すぜ?でも、その餓鬼負けたらあんた、何を出す?」
「……。私も同じものを」
「アラハ!賭け成立だぜい。張り切ってヤるよう!」
あ~あぁー。おじ様、大損ですわ。良いのかしら?こんな賭けごとしちゃってえー。
「あたしは、白竜の窖亭の金庫番アラハバキ・ルナールだ!この勝負の証人になってくれるヤツは声挙げなぁー!」
―――オオオオオオオオオオオオオオーーーー。。。
うわあぁー。アラハお母様の思うつぼだよ。おじ様、賭けを止めてーーーーっ!
「50枚だ!」
あー、もっと酷いバカが現れたああああーーー!
「そこに居るのは私の息子だ。悪いが君、私と、代わってくれ」
あ、おじ様、引っ込んだ。うんうん、賢明な判断ですわ。
「ああ、受けるさ。おっさん、ホントに良いのかい?なら、あたしも50枚――――」
ジャラジャラ~~~。。。だから、金貨どっから出しているの?アラハお母様!?
「それには及ばん。オマエが勝ったら金貨50枚。私が勝ったら、オマエを頂こう」
あー、アラハお母様って、見た目二十歳前後だもの。メリハリボディーだし。見た目は、ねー。
「ああ、いいよ。勝敗決した後の撤回は禁じる。了承ならその契約の言葉を言え。――――我に答えよ、人の子よ。言霊は契約と同等、対価は命。。。答よ。契約の言葉を
―――おのが名と了承の言葉を」
「私は、ミニョレー子爵家嫡男、名をシリル・オレール・ド・ミニョレー。この勝負了承した!」
その瞬間、閃光が走った。噴水池の東側は真っ白な光に包まれた。
「お、おい、女ぁ。一体、一体何をした!?」
「魔法さ。契約とは、呪いと同義と知れ、人の子。逃れられぬぞ?契約からな。なぁーに、反故にしたらその対価が命、ってだけさ。あたしもおまえも、な」
「な、何者だ。女!」
「忘れたのかい?宿屋の金庫番、って言うたろう?」
「あのーぉ、よろしいですか?試合始めますよー。では、いいですね―――――始め!」
ミニョレー氏の息子さんの得物は、大人用の槍。2メートルくらいの長さがある。
対するレア。短剣とタガーの二刀流ですの。
レアは息子さんの鋭い突きを左右に避けて去なして、少しづつ間合いを詰めに行ってる。上手いわ。
幾度目かの突きを短剣で受け、そのまま弾いた。一気に身体強化したよ。
突き出した槍は撥ね除けられたフランの左上の空を突き進み、間合いを完全に詰めたフランのタガーは、鳩尾に突き刺さった。
木製のタガーだけれど、きっと痛いわね。
倒れた息子さん、案の定かなり痛かったみたい。斬首するかの如く、短剣を彼の首に当てるフラン、勝敗は決した。
「勝者、レアさん!」
―――――うわああああああああああああああああああああーーーー!!!!
本日最高の歓声が騰がったのではないのかしら。
そそくさと会場を後にしようとするミニュレー氏であったが、、、
「ぐわああああーーーっ!ううう、あああああ。ああ、うううう、くる、苦しいーーー。た、助けて、医者、医者をぉぉぉ!」
「医者じゃあ、無理さ。こっちは言質取ってんだよ?」
「どう、どうすれ、ば、いい、の、だ。うううう、どうすれば!」
「誠意を示せば良い。人の子よ。約束を違えるな。って言ってんの。さあ、誠意を示せ。一応注意しておくよ。『この賭けはイカサマだ』とか、『この勝負は無効だ』『試合自体行っていない』『無効試合だ』とか言葉に出すと、大変なことになるよ。言葉を選んで且つ、誠意を見せなさい。シレル・オレール・ド・ミニョレー」
「き、近日中に金貨50枚を――――」
「あのねー。分からないかなぁ。今、胸痛いだろ?払う気が無いからだよ?いいかい、よく訊きな。恐らく今日の宵頃には確実にあんた。命を落とすだろうさ。誠意は本日中に示しなさい。この我を少しでも求めた。欲したんだ。そのくらいは安い物であろう?」
「分かった。悪かった。直ぐに用意する。受け渡しの場所は、我が屋敷で……。うぅぅぅ、うおおおーーー。。。」
「度しがたい程のバカだねえ。言ったろ、反故にすると命が無いって。あたしを屋敷で害しようとか考えても思っても、契約からは逃れられない。言霊って言ったろ?急いで支払いな。受け渡し場所は、ここ。急げよ?」
地面に座ったまま項垂れているミニョレー氏。従者が駆け寄って暫く。その従者は北へ走って行って仕舞った。多分だけれど、金貨を用意するのだろう。
神様に逆らっちゃいけないと思いますの私。
◇◇◇
大蠍の営巣地の岩場から二日。最後のオアシスに着いた。
今は12月の22日の早朝。早朝と言うよりも、未だ東の空は白んですら無いから夜の内って感じなのだけれど、朝食食べたら出発なのよ。
そして、本日18歳の誕生日を迎えた私。18年前の冬至の明け方に生まれたんですって、お母様……、王妃殿下が仰っておりまたの。
「「お嬢様、お誕生日おめでとう!」」
「カレン様、おめでとうございます」
「三人共ありがとう。私に付き合ってこんな所まで来て仕舞ったのよね。すまない。でも、ありがとう!」
誕生日のプレゼントと言って渡された袋には、ピンクと赤と黄色の丸い飴玉。
「私等三人みたいでしょう。たまには甘い物食べないとカレン様」
許したつもりは無いのに、許されていると思っている青い包装紙のリーダー、ロックが寄って来た。
「昨夜寝落ちしちまってよぅ、で、何とかって子爵家から金貨はせしめた。ってところまでは覚えてんだ。その後どうなったんだっけ?」
「襲撃を受けた。その日の夜中に白竜の窖亭の周りと壁に油をたんまりぶっ掛けて、火を放なたれた。兎に角、厩にも中庭に回って宿の周りと壁に油を掛けたんだ」
「マジでか?でも、オマエ等今生きてっから大事無かったってこったろ?」
「ウチには、大魔法使いが三人も居るから、一瞬で鎮火。でも証拠残す目的と、結構老朽化してた家屋なので、わざと少し酷目に焼いた貰ったの」
「えげつ無ーなー。ベルの母ちゃんがそうしろって言ったのか?」
「いいや、言い出したのはご主人様」
「英雄ショーラ卿が?」
「そう、悪知恵働くんだよーウチのご主人様。それとわたベルじゃ無い。レアよ」
中々、ベルナデットとレアの見分けが付かないロックである。