04。
◇◇◇
私に謝るレオポルド。
そんな時にやって来た彼の母親は、我が白竜の窖亭のランチの常連様。事情を訊いた母親は、「エリィ様の娘さんに何てことをしたんだいっ!」と言って、特大のげんこつをレオポルドに落とした。
幼年学舎で毎日のように私を虐めていた。と言うのを知ると、母親はレオポルドを他の売り子に連れて行かせた。
母親の怒りは本物で、レオポルドの沙汰は、本日の食事抜きとお祭り参加禁止。
三日間、外出禁止で文字の書き取りのお勉強になるらしい。
まあ、そりゃそうだ。お父様のファンの彼女ですもの。その娘にだって嫌われたく無いわよね。
「ご母堂。彼によく言っておいて欲しいのだ。カレンを愚弄する行為は私の敬愛するフェリシー妃殿下に対する侮辱と同義だと。不敬であると。もし同じことがあれば、それを私が知った時、ここに居るビビ……、騎士ル・ゼー卿が捕らえに行くと。彼は近衛騎士団の所属だ。心得よ。そう伝えて欲しい」
「いいえ、もうカレンちゃん、家のバカ息子が一ヶ月以上も酷いことしてたんでしょ?暫く学舎休ませます。ル・ゼー様でしたっけ。家のレオポルドお祭り終わったら、連れてって下さい」
「ビビ君、どうだい?」
「そうですねエリエンス卿。まだ八つですか?ならば、騎士団の雑用でもさせましょう。一週間程」
「宜しくお願いします」
大変恐縮したレオポルドの母親。せめてものお詫びです。と皆に一つづつホットドックをくれた。
「カレン、カトラリーが無い。それ以前にテーブルが無い。どうしよう?」
「どっかのお貴族様って思ってたけど、相当世間知らずだねルー坊。こうやって食べるんだよ」
「は、はしたない!ロジール嬢止さないかっっって、カレンまで立ったまま、歩きながら………、皆そうなのか?作法なら仕方が無い。私も………、ああ、母上に知れたらしかられる。おおーー母上っ!」
先の方に大きな姿絵。結構リアルだ。ローズ=マリー殿下の立絵とフェリシー殿下の立絵。お二人の姿絵が飾ってあった。
「へえーほぉーんとカレンちゃんじゃん。マジでカレンちゃん大人になったら、こうなります。って感じの絵よねロジー」
「うん、ビックリだよ。マジカレン」
「ええ、私も初めてカレンデュリア嬢を見た時に王妃様かと思いました」
「だろうビビ。私が言ったではないか!」
この二人、自分の身分バレて良いのかしら?と言うか、殿下がビビさんのことバラしたし。
ホールを通ってギルドの中庭。商業組合って結構お堅く無いのかしら?王都や国の委託で、徴税もしていて厳しいってエリザベトが言っていたわ。
でも、ギルドの職員さん笑顔で売り子してる。怖い感じしないわね。
「おはよう……、では無いわね。こんにちは」
「カレン!来てくれたのね。私待ってたわ」
中庭の中央付近で出店している。『ムトン精肉店』の看板。へえー、『ムトン』ってオレリーさんチの屋号かしら?もしそうなら随分昔からの肉屋さんね。だってムトンって羊肉だもの。
「ねえ、カレン来たよ!」
「何人居る?今焼くからー」
エリィさんが売り子で、オレリーさんが調理?
「オレリーさんが調理するの?お父様、お友達、お料理出来るの!凄い!」
「そうだね。僕の可愛い愛し子のお友達は凄いね」
「ねえねえ、そのイケメン誰?ひょっとしてひょっとして……」
「初めまして。僕はカレンデュリアの父親。エリエンスと言います。エリィと皆に呼ばれているよ」
「ええー、カレンのお父さん、なの?」
「そうよ」
「マジかあー。あ、初めまして、私、カレンの友達のエリザベト。あ、あのっ私もエリィって呼ばれてましゅ」
あ、噛んだ。
「僕と一緒なんだね」
「きゅうううぅぅぅ」
「わあー!エリィが倒れたあー!」
お父様ってば。イケメンって、本当に罪よね。時々倒れちゃう人、居るのよね。
「でも、ホント、綺麗なお父さんねカレンのお父さんって、ウチのなんて、肉屋って感じの親父だもんなー。羨ましいわカレン」
「こんな父だけどね武闘派なのよ?トカゲ頭だし」
「何?トカゲって」
「喧嘩っぱやいの。兎に角、戦うって言う戦闘特化な竜の思考なの。お父様」
「そうは見えないわね。ねえ、それよか紹介して、そっちの男の子」
ねえねえルー君こっち来て、と手招きする。
「初めまして、私は時々ですがこちらのカレン嬢のお店に世話になっています。ルーメンスです」
あー!本名名乗っちゃったよう。殿下あー、あんた隠す気無いでしょう!
「ショーラ閣下にカレンデュリア嬢との婚約を打診しているのですが……、中々良い返事が頂け無くて困って居る王子が私です。えーとカレンのお友達の~~~」
「ああー、私、オレリー。えっとカレンと結婚したいの?ルーメンスさん?」
おおーい、何サラっと自身の秘密を吐露しているんです。って、私に求婚したの?ルー君。
「―――うーん。。。あら?結構イケメン君」
「起きたのエリィ。エリィダメよ?ちょっかい出しちゃ。たった今、王子様カレンに求婚してたんだから。っつか何、イケメンもう一人」
「初めまして、僕はカレンの父親のエリエンスだよ」
「ヤッベー!何このイケメン率、スーパーノヴァとか起きそうだよう!!!こんど、ってか明日、エリエンス様の食事食べに行きます。私、オレリーと言います。カレンと仲良くさせて頂いてます!」
「もし良かったら2時過ぎくらいがいいよ。そうしたら少しお話し出来ると思うよ」
「では、明日にでもお伺い致します。。。串焼き―――六名ですね。これから焼きますが、皆さん甘だれと塩胡椒、どちらがいいか選んで下さい!」
思っている以上に大きな肉串のようだ。甘だれと塩胡椒の二本食べようと考えていたが、
「カレン、僕と少しづつ食べよう」
お父様の提案に乗ることにしました。お父様は塩胡椒。私は甘だれ。
マルセルさんとロジールさんも甘だれと塩胡椒を、ルー君とビビさんも肉串シェア……。
「どうせ食べるなら、カレンといっしょが良かったよ……、何でビビと」
「殿下、流石の私も傷付きますよ?」
「エリザベト嬢。貴女がお薬店の娘さん?」
「どうしてそう思ったんですか?」
「カレンと同い年くらいで、胡椒がここにあるってところかな」
「うわぁー、物知りですね。ルーメンスさん」
「香草や香辛料の中には薬になる物も多いから、食品店より、胡椒を扱っている薬屋さんって多いって言うよね」
「そうです」
「へー、ルー君よく知ってたね」
「経済学も勉強しないといけないんだ。香辛料、特に胡椒はお金になる。まぁ、昔程重要な商品じゃ無いけどもね」
「まだ九歳で私と同じくらい子どもなのにルーメンスさんはもう国のこと考えてんだぁ。大変なのね王子様って」
「何故私が王子と、エリザベト嬢」
「さっきオレリーに言ってたじゃん。私聞こえてたわよ。それに聞こえて無くても、その口調とか所作とかで、貴族かなぁって直ぐにバレるわ。どんな格好しててもね」
「カレンの宿で勉強したのだが……」
「カレンの所じゃ無理!だいたいカレン事態上品でしょ?特に立ち振舞い。女の私でも惚れそうになる程綺麗だもの。座っていても品があるのよーカレンって」
「むっ、確かに……」
「そうだ。提案する!あなた、時々私んチ来なさいよ。町民の立ち振舞い教える。その代わり、私に貴族……王族でもいいわ……、その立ち振舞いとか所作教えて!交換条件よっ」
「おおー、それは良い。是非お願いする」
そう言って二人は固い握手をした。何となく面白くなかった。何だろう。 友達に私だけの友達取られたみたいな感覚………。私、少し嫌な子になりそう。。。
このことがあって二ヶ月とちょっと、冬至祭の近付いたある日。久し振りにお会いしたルーメンス殿下は、すっかり庶民になっていた。
流石、要領と物覚えに特化した王子だ。。。
その辺の話しはもう少し後で…………。
「はい、肉串出来たわよー。熱いから気を付けて食べてね」
結構大きい。30センチくらいある串だ。
「おや?これは魔獣肉だね?」
「エリエンス様、魔獣肉知ってるんですか?伯爵様でしょう」
「うん、僕元々冒険者だからね」
「で、殿下いけません!」
「ああーうん、時々ビビってウザイよね。ショーラ卿も食べているでしょう?大丈夫だよ」
「伯爵様なのに冒険者?って言うか宿屋の主人でした」
「そう、叙爵されて男爵位賜ったのって15年くらい前だもん」
「同級生だった陛下を暗殺集団から単独で守って、騎士の称号と男爵位を受けたと父に訊いております。その後も各地で功績を上げて、本当は侯爵位を下賜されるはずなのに固持していると………」
「ごめんねルー君。僕はあの宿が大好きでね。領地の運営とかあまりしたくないんだ」
「結構穀物で成功していると訊き及んでおります」
「ビビ君までー。甜菜は偶々だよ?気候にあってたってのもあるよ」
そう、お砂糖の需要が増えて来たのと、元々東の砂漠から来る塩の玄関口になっていたのは大きい。砂糖の帝国方面への輸出が楽だったのだ。塩の帝国、王国間の商隊の道が出来ていたのだから。
「そうだ忘れていたけど、帝国通らず南方の香辛料の取り引きも目処が付いてね。エリザベトさんのウチで取り扱うなら声掛けておくれ」
「ホントですか?父さんに相談してみます。エリエンス様、ありがとう!」
何かお父様ってば凄い。飄々としてるのに意外とやり手!
「美味しいね。銅貨二枚で結構ボリュームあるし」
「オークとグランボアのお肉だよ。マルセル」
「へえええー!分かるものですか?エリィ様」
「マルセル。実は時々ウチでも出しているんだよ。ボアとかオーク。ほらウチのアラハバキの長男のサラ。冒険者やってるだろう。そのおかげで、結構魔獣肉貰えるんだ。それにアラハバキのヤツがさ、肉食べたくなることがちょくちょくあって、夜中に狩に誘われるんだ」
「お父様っ!それ言っちゃいけないことです!」
「ああー言っちゃたー。僕の発言今の無しで」
「ショーラ卿、どおやって夜中に城郭都市である王都から出られるって言うのです?」
あちゃー。。。ビビさんならそう思うよねー。まあ、普通に夜中閉ざされた市壁の外出られ無いもん。
どうやって誤魔化そう………。うう~~~ん。
「ビビ、あまり追求するなって陛下に言われているだろう。多少のことは目を瞑って、耳を塞げ」
「で、ですが殿下、我々騎士や都市を守る兵に取って看過出来ぬ事柄です」
「それでも、だ。常人の考えの上に居る存在を我等の物差しで測るで無い」
「はっ!承知致しました」
だよねえー。ビビさんの立場なら、そう思うよね。
「お父様、発言と行動には常に責任が着き纏うって仰っているのは、私の記憶が正しければ、お父様だったと思うのですが」
「全く持ってその通り。カレンデュリアの言うのが正しい。自重する。でも何でカレン知ってるの?」
「夜中ベッドから出て明け方帰って来るでしょう。翌日の宿の食事豪華になるじゃない。もう皆迄言わせ無いで!」
―――――――――暫し静寂――――――――
「――――ねえ、お父さんと寝てるの?」
「マジ父さんと?ファザコンだと思ってたけど、マジもんかよー」
「ええー、皆お父様と寝ないのおーっ!」
◇◇◇
「今時の八歳児ってマセてんな」
17歳の私に嫌われた青い稲妻のリーダーのロックさん。数日で復活した。
と言うか、今時って、随分昔の話しですわ。
「おい、『青いイナズマ』じゃあ無ぇーよぉ。そっかもう10年近く前の話しなのか」
「わたし等もう18ですよ」
「そうです我等18ですね。お嬢様の方が少しだけ我等より後で生まれてますから、まだ17ですね」
「え?赤毛達もカレンちゃんと同い年………、なの?マジ?」
「おいロック!テメー今の間は何だ!」「何処見て言ってんだ殺すぞ」
「「わりとマジで!」」
「お胸の成長は人各々。今なら御者のレオさんの需要を満たして居る唯一の存在です。良かったですねレア、ベル」
「何気にディスってんじゃ無ぇーよ」「このユリ野郎!」
「おい、『ユリ』と『野郎』は性別違うぞ双子?」
「レオさんって何方です?」
「エドっちの気になるのそっち?」
「はい、ちっパイ好きな方なのは分かります。話しに出てたレオポルド君では無さそうだなってレアさん」
「レオは、ショーラ家の御者だよ。っかエド凄い。わたしとベルの区別つくんだ」
「しゃべり方とかで……、何となく」
凄いです。まだ三週間くらいですのにもう区別が付くとか、、、エドさんは観察力のある方です。是非ウチで欲しい人材と言っても過言ではありませんね。
「そのレオですが、まだ八つだった私とベルの入浴を覗いたんです。お嬢様が入浴中だと思ったって、言うのを自分で言って。もしお嬢様が大きいお胸になったら御者辞めるとか言った下衆野郎です」「罰として旦那様に歓楽街に連れて行かれた翌日言ったんですよ。と言うか、一話目で語っています。全く、忘れっぽい人ですね」
それにしても、やはり砂漠の夜は寒いです。ブルブル。。。
「お寒いですかカレン様?では荷台からもう少し毛布を持って来ましょう」
「ありがとうございますアラン様」
「ホント、気が利きますね若旦那さんは」
「でもまあ、スゲーファザコンだと思うぜカレンちゃんって。やっぱ今みてーに寒いと父ちゃんのベッドが恋しいかー」
「ロックさん本当に貴方は失礼な方です。お父様のベッドは15の今ごろ卒業しておりますわ!」
「「マジかー」」
ロックとエドは、ファザコンを初めて目の辺りにした。