03。
◇◇◇
最近良く話し掛けて来るオレリーさん。
肉屋のオレリーさんはジョゼフィーヌと同じ匂いのする女の子ですの。危険なので、触らず触らず付き合って行きましょう。
って、そう言うのが分かったのは私が抱きついたから、、、なのよね。言うなれば、私が彼女に火を点けたからなのだろう。
「―――――――でね。大きな姿絵を飾るって話しになってぇ。………ねえ、訊いてる?カレンって、時々ぼぉーっとしてるわよね」
「ごめんなさいオレリーさん。何のお話しでしたかしら?」
「お城から大きな姿絵を市場が賜ったそうなの。陛下とお二人のお妃様の揃った姿絵を市場の何処に飾ろうかって言う商店主の話し合いがあったの。私もその姿絵見て来たの。第一王妃様って綺麗だったわ。何だかとってもカレンに似て綺麗な方なのね!」
「はあ?何言ってンのぉ。こいつが綺麗だってぇ、バッカじゃねー」
「ったく、レオポルドっていっつもああよね。わっかりやすいわー」
「ねえねえオレリー」
「何、エリィ」
「第一王妃様のお名前、ミドルネーム『エリザベト』って言うのよ!凄いわ」
「ええと、確かお薬屋さんのエリィさんですわよね?エリィさん、……んーっ、お父様と同じなのって、言いにくいですわ。ところで、何が凄いのかしら?」
「えー、カレンデュリアさんって何か、凄い!あたしンチ薬屋って知ってたの?」
「ええ、先月の自己紹介で……」
「ホントだあ!オレリーの言った通りだとか、スゲーわあー!ま、それはいいや。市場の中央の商業組合の一階の小さな店舗がたくさんあるギルドホールの中に展示するって訊いた。父さんが、言ってた。じゃあ無くて、あれよ、あれ!あたしといっしょなのよエリザベトって名前がっ!」
「何処がいっしょ?あんたエリィでしょ?」
「そうか、エリィさんの名前って『エリザベト』さんなのね。愛称がエリィさんってことなのね。。。ウチのお父様も愛称がエリィなの」
「そうそう!カレンデュリアさん当たり!ってか、英雄さんとあたし、おんなじ呼び名なの?!素敵っ!」
「へぇー貴女、エリザベトだったんだ。小さい頃からずっと一緒だったのに貴女の名前、ずうっとエリィだと思ってた。知らないわたしにショックだわ!」
「でさっ、あたしも見た姿絵。何だかあんたが居たのよ。フェリシー王妃ってきっとカレンデュリアさんと同郷なんだわ!って思っちゃったぁー。目の色が王妃様は紫ってだけで、他はあんたとおんなじに美人よ。あんた……じゃ無くて、あたしもカレンって呼ぶ。カレンって悔しいけど美人だもん。カレンのお父さんも美人ってか、イケメンだもんねっ。家のお父さんと取り替えてくんない?」
「――――やっ!絶対やっ!!!」
ああ、もうあったま来ちゃうううぅぅ!何この子!頭来たっっっ!
「へえええーカレンってこんなにほっぺ膨らませて怒ることあるのね!」
「貴女が悪いのよ。エリィ。でもカレンってば、父さん好き過ぎでしょー!?」
そうよ大好き!だけどね最近、殿下が優しくて……、何だろうこの気持ち。エリィさんやオレリーさんも褒めてくれたけれど、違う感じ。殿下。
「ぶつぶつ言ってる」
「この子、時々どっか行っちゃうのよ。面白いわね。第二王妃様はどう思った?エリィ」
「お日様?綺麗って言うより明るいお日様。ぽやぽやした感じ。日向ぼっこ的な感じ」
「あー分かるぅ。お外でお昼寝的なあれよね!」
「学院の時の同級生で、お二人共大親友だったのですって、今でも仲良しなお二人だそうよ」
「なあにそれ、誰に訊いたの?」
「誰って、殿下に………」
「「マジか?」」
「――――え?何が……」
「何って、王子様とお話し出来る程の身分なの?カレンって!」
「はあああーーしまったあー。ついっ(喋っちゃったああぁぁぁーーー!)。あの、内緒ねっ!お願い二人共!!!」
「しょうかないなぁー」
「じゃあさぁ、誰にも言わない代わりに、一度会わせてくれる?」
エリザベト。怖い。約束させられてしまった。私………。
10月の第3週目の宵の月曜日から日の出曜日までの三日間、休日になる。
この期間、『ポンレコルト祭』、豊穣祭が行われる。
因みに、一週間は六日。曜日は、宵の月、曙、日の出、昼日、日没、黄昏曜日。この六つの六日間。である。
最初の宵の月曜日にお忍びで、ルーメンス殿下が南地区の『白竜の窖亭』にいらっしゃる予定になっている。護衛のビビも一緒と言う話しですの。
次代の国王陛下に護衛一人って、どうなの?と思って殿下に訊いた。答えたのはお父様。
「ああ、それは大丈夫。僕も一緒に行くからさー」
って、お、お、おーぉぉ、お父様とディトなのっ?私、お父様とディト。。。ああ、神様ありがとう。
豊穣の神であり、愛も司る神『イン=アンナ』様、ありがとうございます!ついでに、出産も司っている神様なのっ!
因みに、イシュトリア神国の神はイン=アンナ神。
あっ、王子が邪魔。。。
いやいやいやいや、お父様に王子様。両手に花って状況ですわ!これは、凄いことです。
邪魔になるのは子爵の二男ですわ。
バスチアン・ブノワ・ド・ル・ゼー。通称『ビビ』。あれさえいなければ………。
――――いけない。こんな考え、本当に悪い子になって仕舞います。自分の欲望に呑み込まれてはいけない。私は誇り高いエリエンスの娘なのよっ!自分の欲にまみれて減俸になったあの三人、レオとジョゼとヴィー。彼等のようになってはいけないわ。
お祭り当日の朝。
宿の朝食の給仕もほぼ終わり、片付けを行っていると、二人が来た。ビビと殿下ですの。
「おはよう。………ルーく、ん」
そう、今日は町歩きをするので、殿下呼びをしないようルーメンス殿下に前々から言われていたのだ。
「おはようカレン。息災であったか?」
「はい、でn…ルー君もご健勝のようで何よりです」
「ああ、今日の日を楽しみにしておったしな。カレンと一緒に一日過ごせる。そう思ったら、昨夜は中々寝付け無かった。何時ものように髪を触って良いか?」
ここのところ殿下は私の髪の毛を触りたがる。
暫く髪を触り、、、捲り。私が「……あのー、食器片付けと掃除がありますので」と言うまで触っていた。
「ならば、私も手伝おう!」
「じゃあールー君。食べ終わったお客様の食器下げてくれる?」
お父様、躊躇無く王子を使うようですわ。
ルーメンス殿下は要領がいい。
通いの従業員マルセルさんが一度教えただけで、テキパキ食器を洗い場に下げて、テーブルを拭いている。
まあ、尤も庶民の常識が皆無なので、テーブルの拭き方。布巾の絞り方から教えなければならなかったようで、最初マルセルさんは困惑していた。
その内にマルセルさんの仕事を奪う程になっていたのだが………。
掃除も終わり、一息着く頃、教会の鐘が鳴った。
一つ鐘、午前9時の鐘ですの。
因みに、鐘の音は一日六回。朝6時に二つ鐘。9時は一つ。正午三つ、午後三時に一つ、6時二つ。最後午後9時一つ。
「今日は、ルー君も手伝ってくれたから、早く片付いた。皆ありがとう。そう言う訳で、マルセル、ロジール二人はお祭り行っといで」
「本当ですかエリィさん」
「嬉しい!夕方戻ればいいのかしら?」
「ああ、マルセル。5時には帰って来て欲しい。僕もその時間には戻る予定だ。それとアラハバキ。今日は店番はいい。10時にヴィーが来てくれることになってる。だから、サラディンもフラルゴも宿のことは手伝わなくていいよ。寝具の洗濯や部屋の掃除も本宅の雜約女中が来る。お祭り楽しんでおいで」
お父様はそう言うと、マルセル、ロジール、サラお兄様、フランに各々小さな革袋を渡した。
フランの受け取った袋には大銅貨が五枚入っていた。
「旦那様、これ多くないですか?兄さんの袋と間違えたのですか?」
「いいや、サラディンのにはもう少し多く入れたよ。それはフラルゴの分さ」
マルセルさんもロジールさんも受け取った袋の中を見て驚いている。
「去年の冬至祭でも頂きましたが、それより多いです。ってか日当の給金より多いです」
「年に何回もある訳じゃないし、それにお祭りは冬至祭と違って三日間だよ?そのくらいないと楽しめ無いでしょ?」
「え?!私、明日も貰えるかと……」
「ロジールは欲張りだなー。旦那になるヤツ大変だぜー」
「うっさいっサラ、ちょっと思っちゃっただけだから……。すみませんエリィさん」
「はは、ロジールは何時も面白いね」
お父様に言われて耳まで真っ赤になるのであった。
「あ、あのっ私、夕食分の仕込み手伝いますっ」
「大丈夫マルセル。もう殆ど終わっているよ。今日はランチお休みにしているし、お祭り楽しんで」
「あ、あのっ、エリィ様、わっ私と一緒にお祭り行きませんか?」
おおーー、マルセルさんお父様にアタックだよぉー。でも残念。
「お誘いは嬉しいのだけれども、僕のお客のルー君達と僕の麗しの娘とお祭りに行くんだ。ルー君、お祭り初めてだから案内を―――「だったらそれ手伝いますっ!!!」」
うわあーーー、マルセルさんグイグイ来るなあ。もう肉食系と言うより猛禽類ですわね。
気が付くとロジールさんもご一緒に行動していらっしゃいました。
ロジールさんは、ハイエナですの?
「我が愛し子カレンデュリア、何処から行こうか」
市場は北の貴族街と南の平民街の間にある。王都ウィスペルの中心にあるのだ。中央広場を挟んで西と東に別れている市場。その東側の真ん中より平民街依りに商業組合の大きな建物がある。
「お父様、私の友達の子が食べにおいでって誘って下さっているの。ギルドホールのお庭に出店しているの。そこに行きたい。最初の分だけ奢って下さるって仰ったのだけれど、人数増えちゃった。大丈夫かしら?」
「なに、問題無い。ここは私が持とう」
とルー君が金貨を出した。
「――――ねえ、ルー君、あのね、それ使えないよ?」
「何故?これはお金であろう。大は小を兼ねる。と言うではないか」
「ねえルー坊、どんなに高くてもせいぜい銅貨五枚だよ。それ一枚で二百個買えちゃう。っつか、ルー坊は屋台ごと買うつもりかい?」
ちょーーーーっ、ロジールさん不敬です。よりによって王子を坊主呼ばり、とか………。
「そうだよルー君、かえってお店の迷惑だよ?それ仕舞いな。今日は私が………ぁー、ぇぇーと、私、お金出すからっ!」
あー、マルセルさん苦しそう。せっかっく臨時収入があったのに、ってところかな?驚いたのは、ロジールさんだよ。何時の間にか計算早くなったみたいね。
「マルセル嬢、でん…ルーさんの分は、私が出しますので、お気遣い無用です。ですがそのお心遣い、感謝致します」
「皆、いろいろ無知で申し訳ない。いろんなことを知らぬ故、その都度指摘して欲しい。すまぬ」
ビビさんは騎士の礼を取るし、ってか、王族が頭下げた………、良いのか?お父様。
って、お父様ニコニコ笑っているし、楽しんでいるなあー。
ギルドホールの入り口。
サンドイッチとか売ってる。売り子は、、、うわーぁぁ。最悪レオポルドだ。
「おい、黒い悪魔女!まだ東に帰って無ぇーのかよっ!!」
あー、早速、悪口言って来た。嫌だなあー、お父様も居るのにぃー。ああー!お父様にマナ、マナ集まってるうー!
って、ちょーっ!殿下のが急速マナ収束中!こ、これって!火魔法!?ヤバい、ヤバくね?
「だっ、ダメダメダメダメッ!でんkる……、ルー君!押さえて押さえてっ!お父様ルー君押さえてって!お父様ダメダメ!ダメよおー!!!レオポルド謝ってっ!死にたく無かったら私に謝ってっ」
「なんで俺が、悪魔女に謝んだよぉー。バカかっつうのっ!――――――ぅぁぁああああっ!!!」
そう、レオポルドの見た物は巨大な火球。殿下の火球とお父様の火球。まだ接触もしていないのに通りに敷き詰められた焼き煉瓦が真っ赤になっている。
「おっお父様っこれは子ども同士の喧嘩!でんか……ルー君、こんなのやっつけても貴方の品位が、品格地に堕ちます。同じレベルに堕ちたいのですか?」
二人の火球が霧散した。レオポルドは通りの地面に頭を擦り付けて泣きながら謝っている。
「貴様、顔を上げよ」
言われたレオポルドは、涙と鼻水まみれの顔を上げた。
「フェーははう……第一王妃フェリシー殿下に対し先程の貴様の言動は不敬であろう?カレンを貶めるとはそう言うことだ!―――「近衛呼んで参ります」―――ビビ止めて!」
「はっ!」
「王妃に失礼だし、何より、私のカレンデュリアに対しても「カレンは僕のカレンだよ?」―――あーショーラ卿もぉー黙ってよ!こんな綺麗な淑女に失礼だと君は思わないかい?カレンは一番綺麗なのに君は悪魔だって言う。僕はカレンデュリアは、天使じゃないかと思うんだ。間違って天界から地上に落っこちて来たのだ!と、初めて会った時思ったよ。君だって本当はカレンが可愛いって思っているのではないの?」
「―――ごめんなさい」
「謝る相手は僕じゃないよ。可愛いカレンデュリアに謝ってくれ」
殿下、素では一人称『僕』なんだなあー。って思ったりしたけど何気に私、口説かれてる?
「えっと私15だから……六つ差。行けるわね!ルー坊射程圏内。将来的に、っつか、既にイケメン!」
「もう、マルセル、どう見てもカレンちゃんにゾッコンよ?ルー坊。まあ、マルセルがルー坊狙うんなら、ライバル減るから良いけどさー」
って、ウチの従業員、こんなのばっかですの?
◇◇◇
「女ってこう言うの多いよな」
「ウチのカレン様を口説こうとした貴様が言うか?」
「うっせーよ!デカ女がっ」
確かにジョゼは背が高い。185センチって言ってた。でも私は………。
「ロックさん、私、人を見目で差別したり、バカにする方が一番嫌いですの。私が幼少の頃、どれだけ傷付いていたか、たくさんお話ししましたよね。にも拘わらず、ジョゼに何を言いました?ジョゼは中々のプロポーションです。兎に角、そう言う貴方を私は軽蔑します。嫌いな方の一人として記憶しますね!」
その後、ロックさんはエドさんとマチアスさんに連れて行かれました。
17の私は、塩湖から三日のオアシスに居ます。ここに宿はありません。
旅人は皆、思い思いの場所で野営するのです。野営なのに快適です。とても今、12月とは思えません。
焚き火の爆ぜる音を聞きながら敷物の上に仰向けに寝転び空を見る。
星が落ちて来そう。
星空ってこんなに綺麗だったんだ。
少し離れた男性達のテントからシクシクと断続的に響く音。………ああ、声か。
翌朝、真っ赤に泣き腫らしたらしい青ナントカのリーダー、ロックが居た。