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宿屋の娘の恋事情。  作者: 潤ナナ
第一部.宿屋の娘。一節.幼年学舎。
3/24

02。

◇◇◇

「今日の午後お客様がいらっしゃる。大切なお客様だ。午後3時頃の予定。それまでにお店を片付けておきたいから、早目に帰って来ておくれ。僕の可愛い娘」

「ですがお父様、本日は(あけぼの)曜日で、王都のお屋敷でのお勉強です。私が行かなければ、お屋敷で、肩身の狭い思いをレアとベルが感じてしまうのでは」

「それについては問題無いよ。今日の二人の勉強は侍女としての授業だってさ。先生は彼女達の母親のアデールだしね」

 朝食時、お父様はそう仰っておりました。


 何時も朝食は、厨房のテーブルで取ります。忙しい時はサンドイッチを摘まみながらお父様は調理、私は給仕に勤しむのです。

 宿屋、白竜の窖亭は、20名の大部屋、つまり雑魚寝部屋が二階に二部屋。個室が六部屋。。二人部屋は四つ。3~5人用のお部屋が四つあります。それが、我が白竜の窖亭。最大74名のお客様がお泊まり出来るのです。

 実際、稼働率って言うものは、七割くらいだって、そう宿の帳簿係で金庫番のフランとサラお兄様の母親、アラハお母様は仰っている。


 何時もはお休み翌朝は、混む。週末より、泊まり客が多い。けれど、何故か今日は空いていた。

 本日いらっしゃるお客様は、非常に大切な方なのだそうで、昨日と今日はお客様の調整をした。と、お父様が仰った。経営的に大丈夫、……なのですか?

 結構過ごしやすくて安い宿、って評判なのですの。いいのかしら?『安い宿』とか言われて……、ああ、『サービスの割には安い』ってことでしたのね。



 兎に角、幼年学舎に行きましょう。何だろ今日は。。。朝から他人のお母様のお話しばかりだったわ。私が気にし過ぎなだけかしら。。。


「フランって、お母様が居て良いわね」

「そうかも知れないけどさあー、俺等兄弟に父さん居ないし、と言うか、父さんが誰か分かんないらしいぜ。母さん。そう言う意味じゃ、おまえはいいよ。ある程度大きくなったら教えて貰えるんだ。思うぜ?だっておまえ、生まれた後にエリィ様が引き取ったんだろ?」

「―――うん。そう言えばそうだった。ごめんフラン……」

「気にすんなっ」

「レアとベルのお父様は?」

「ウチ等の父ちゃんショーラ領の竜の谷、地竜の討伐中に地竜に踏まれて死んじゃった」「そう、死んじゃった。ベルの言った討伐ってエリィ様…旦那様のぉー、………何だっけ?」

「子爵位から陞爵されて伯爵位になって、領地を大幅に下賜される切欠になった討伐だろう。有名な話だよなレア、ベル」

「旦那様お一人で地竜200頭やっつけたって話しだよ。お嬢様」

「ベル、盛り過ぎじゃないのその話し…」

「あーーー、でもお嬢様の攻撃魔法見ると納得出来ます。スッゲーですもの」

「だよな、レアの言うの俺、分かる」


 そうなのだろうか?お父様、お強いのは存じております。が、私、そんなにトカゲじゃ無いと思うわ。

 私、自分で思っているより魔法強いのかな―――――?

 幼年学舎の昇降口。

 いっつも嫌みとか言って来るパン屋のレオポルド。

 アイツキライ。


「おう、おはようレオポルドぉ」

 何だよフラン、あんなヤツに挨拶しちゃってさっ。

「おはようフラン。あーれぇ?まだおまえ居ンの?もう秋だぜ。春はとっくに終わったのに、東に帰り損ねたンだあー黒いあくm「(オー)!」」

―――ザザアーーーンンン。

「う、ああああ、びしょびしょだあー。何すんだ黒い悪魔ぁー」

「泣くとか。。。貴方、男の子でしょう?早く教室入りましょう、先生がいらっしゃいますわ」

「で、でも、だってこんなびしょ濡れじゃあ、教室何て入れて貰えないよぉー」

「マナで生成した水ですから、私の集めたマナが霧散したら、水の形態保てなくなりますの。実際には濡れて無いのですわ。後5分から、そうね15分経てば、きっと消えますのよ?」

「―――じゃあ、授業始まってるじゃんっ!俺、遅刻じゃん」

「仕方無いhじゃ無い。もう、そう言う悪口言うからよっ!始めにケンカ吹っ掛けたのは貴方でしょう?私は、反撃しただけ」

「―――クッソォー、覚えてろぉー!」

 レオポルドを昇降口に置いて私は教室に入った。


 今日から10月(ポンレコルト)

 この王都南地区の国民児童学舎、大人達の言う幼年学舎は八歳から十歳迄の子どもの学舎(まなびや)だ。

 数年前迄『国民児童学舎』って言う何となく堅苦しい呼び名じゃ無く、『幼年学舎』って呼ばれていたのだそうだ。

 先々代の国王陛下のおかげで、私は嫌な思いをする。

「お貴族様なら、家庭教師雇って、お屋敷でお勉強すりゃーいいじゃん」って、言われることがある。

「英雄の娘だろう?何で俺等庶民と一緒にお勉強すんだよー」

 結構傷付く。

 だって私の家って『宿屋』です。お手伝いとかあるし、自宅で勉強出来ないですの!

「貴族街にお家有るんだってな。そっち住めよ。お貴族様はお屋敷でお過ごし下さいな」

 王都本宅(タウンハウス)になんて住んだら、お父様に毎日会えないわ。

 お父様、自分の宿大好きだもん。

「人と触れ合えて、食事喜んで貰えて――――」

 嬉しそうなお父様が好き、楽しそうなお父様が好き。私の好きはお父様。お母様とかなんて、居なくたっていいわ。私、十分幸せですもの!




「――――んんー手を挙げて無いのはカレンデュリアさんだけ、ですね?カレンデュリアさんに当てますよ。。。え~と、我々のリコフォニア王国の北にある国、その名前は?と言う質問です。授業中ぼぉーっとして居るので当てました」

「申し訳ありません先生。お答えします。答えは、『イシュタリア神国』です。現在の神国君主は、もう10年、教皇『コルデーロ』猊下です。以上です」

「凄いわね、カレンデュリアさんって」「授業訊いて無かったのに答えたぁー」「朝の魔法も凄かったけどさぁ、頭も良いんだ」「英雄の娘だろう?」「剣術とかも習ってるって、ほら2組のルナールってやつも剣術やってンだってっ!先生は英雄だぜ。いいなー」


「皆さん授業中です。お静かにっ。お隣の国の国主様のお名前も出ましたーーー。では、我が国の国王陛下はーーーーー、では、レオポルド君!」

「――――あぁー、ええとぉ何とか四世、です」

「ヤッベー、レオぉ不敬罪だあー!」

――――レオヤバいぞーーーー!不敬罪待った無しぃぃぃ。バカだバカだと思ってたけど、マジバカ~~~~。

 子どもたちがお喋りをするものだから、教室は騒がしくなった。

「お静かにっ!今一番大きな声で不敬罪と言った、ええとモーリス君。陛下のお名前は?」

「――――えーとぉ、何とか四世。すみません。。。」

「モーリス君、人のことは言えませんよ?レオポルド君、モーリス君、教室の後ろで、今日の授業が終わるまで立っていなさいっ!仕様が無いので、カレンデュリアさんの模範解答です」

「はい先生。現在の国王陛下は、ティグリス四世陛下。即位前まではティグリス・ヤニク・ド・リコフォスと言うお名前でした。えっとぉ、今もこの名前です。ですが、ブラン大公領をお持ちですので、ティグリス・ヤニク・ド・ブラン公とお名乗りのこともあると訊いております。後は第一王子のルークス殿下が立太子しておりませんので、プレスキール大公領も陛下は王太子時代からお持ちであることから―――――」

「カレンデュリアさん、もう結構です。それ以上はこの学舎の上、11歳からの国民学舎で学ぶことです。皆さん、カレンデュリアさんに拍手です」

――――パチパチパチパチ………。。。


 2時限と3時限目の授業の間に四半刻の休憩時間がある。

 女の子が一人私に寄ってきた。

「ねえ、カレンデュリアさん。あのぉ貴女って、何時勉強しているの?家の母さんが英雄さんトコの女の子、良く働く娘さんだよって言うのっ。夕方から夜まで、給仕のお仕事してるんでしょう?」

「うん、私の家は宿屋で食堂だから……。でも、夕食の給仕前に時間が出来るから、宿の食堂でお勉強しているの。それに、三年前くらいから来ているウィスペル学園の卒業生のお姉様がいて、暇な時間に勉強とか剣術見て貰っているの。きっとそれでお勉強出来ているんだわ」

「へぇー。えっとわたし名前、オレリーって言うの」

「うん。肉屋さんの娘さんよね」

「良く知ってるわねぇー」

「自己紹介で仰っていたから、覚えているわ」

「それって入学式の日の話し、一ヶ月前だよぉ。カレンデュリアさん凄いっ」

「名前長いから、皆にはカレンって呼ばれているの。だからオレリーさん、カレンでいいわ」

「分かったわカレン。ところで今日これから遊べる?」

「折角のお誘いで恐縮なのですが、これから大切なお客様をお迎えするので、授業が終わり次第帰って来るよう父に言われていますの。また次の機会にお誘い下さいませ。お誘い、ありがとう嬉しかったわオレリーさん」


 凄く嬉しくて思わずオレリーさんに抱きついた。

 何故かオレリーさんはオレリーさんのストロベリー色の髪の毛と同じ色の顔色になっちゃった。

 これって、あれだ。ウチのジョゼフィーヌと同じ感じの人だ。オレリーさん、要注意人物と認識を改めよう!





 白竜の窖亭に帰り着くとやはり、ランチ時だ。混んでる。アラハ母様はお会計台から動けない。今日の通いの給仕さん……、おっとりしたマルセルさんと計算苦手のロジールさん。

 ロジールさんをフランが上手くフォローした。って、18歳のロジールさんが八歳児に助けられたとか、どうなんだろう?

 あら、今日はアトラさん居るんだ。余裕ねっ!

 さあーて、私も着替えて給仕に入ろう。


 食堂は何時もお茶の時間の頃お客様が居なくなる。何時も午後3時前から5時頃まで、お父様は夕方の仕込み。給仕の私達の休憩時間。

 だからこの時間、私は勉強する。

 今日は久し振りにアトラさんがいらっしゃって居るので、剣術かお勉強……と思ったのだけれど、お父様の仰る大事なお客様が来店する。

「カレンちゃん、今日はお勉強?剣術?それともカレンちゃんの魔法見せてくれる日?お姉さん魔法見たいの!」

「ごめんなさい。アトラお姉様。今日これから大事なお客様がいらっしゃる予定なの。だから、アトラお姉様はゆっくり休憩なさって下さい」

「あらぁー残念――――――――あ、馬車来た。停まったわね。お客って、あれかなぁ?―――――あぁ、ぅ!」

 アトラお姉様が固まった。

 背の高い衛士様を見て、アトラお姉様が固まりながら、厨房へ「ソソクサ」ち、逃げて行く。行こうとして、お父様にぶつかった。何か喜んでいる。お姉様只じゃ、転ばない凄い人!


「あれ?オレリア嬢ではありませんか?何故このようなところに?」

「ば、バスブノ先輩!何故ここにっ!」

「ああ、私は仕事だ。護衛任務中。つか、その名前の略し方、止めて!」

「そうだぞフェーレス公爵令嬢。それにこやつは皆、ビビと呼んでおる。まあ、最初にビビと呼称したのは、まだ四歳であった頃の私の弟と妹であったがな!今では皆、親しみを込めてビビと呼ぶ。愛されておるのだ」

「えええええーー、何で殿下が下町の、しかも冒険者の多い地区、そんな宿泊施設兼大衆食堂に何故、来るんですぅぅぅ!!!」

「お忍びですよ。オレリア嬢」

「ああ、エリィ様ぁー、どうして何故わたくしの名前をぉぅ」

「いやあー、身分隠して遊びに来ているのだと、今まで思ってたんだけど、違ったの?」

「―――――きゅううぅぅぅん」

 アトラお姉様が失神!しかも、幸福そうに………。大人は解らないわあー。


「おい、貴様……、そこの黒髪のぉっ。失礼した。女性に対して酷い物言いをした。出来れば、許されよ。私は、ルーメンス。ルーメンス・フェリックス・ド・リコフォスと言う。美しい艶やかな黒髪のお嬢さん。貴女のお名前をこの無礼なルーメンスに教えては頂けないだろうか?」

 ルーメンス殿下は右手を握りそのまま拳をご自分の胸に当てて騎士の礼を取った。

 礼をした殿下に私は驚いたが、それより何より、この私の悪魔って言われる黒髪をお父様以外の方に褒められた。『美しい』ですって何を?私の真っ黒な髪が美しいって?ウソよ。この王子はウソ付きだ!

「お初にお目文字致しますルーメンス殿下。ショーラ家エリエンスの一人娘、カレンデュリアと申します。ですが殿下、わたくしのような皆に嫌われる忌むべき髪色を、そのようにお褒め頂き―――――」

「カレンデュリアとやら、ちとそれは言い過ぎだ。その髪を私は美しい。と、そう申したのだ。私の敬愛する王妃、フェー母上に対する冒涜であろうカレンデュリア嬢。先程の発言、出来れば撤回して頂けないだろうか?それに、貴女自身にも失礼であろうよ?何と言ったかなショーラ卿、北東の島国ではこのような髪色を―――」

「濡羽色ですよ殿下」

「そう、濡羽色。美しいとされている髪色なのだ。フェー母上や貴女の髪は――――――って、どうした?私の言い方が悪かったのか?何故泣くのだ。すまぬ。私が悪かった」

「殿下、殿下。こいつ学舎で虐められてるんです。黒髪で、そんで持って琥珀色の瞳、って言うか金色の瞳。黒髪金目の春の悪魔そのものってね。母親が寝物語に使う定番の怖いお伽噺の悪魔といっしょって―――」

「ビビ、おまえ知ってるか?」

「はい、母に良く寝しな、訊かされました。悪いことしたら黒髪の悪魔が拐いに来るって」

「オレリア嬢は?」

「私も知ってはおりますが、カレンデュリア嬢の髪色。私は大好きですし、何より美しい髪だと前から思っております。まあ、見た目も良いですし、何よりも良い子ですわ」

「そうなのか。私は知らなかった。そのようなお伽噺等……」

「そりゃー、王城じゃあ言えないっしょ?第一王妃殿下が黒髪ですもんねー」

「何だおまえ?何となく失礼なヤツだな」

「ごめんよ殿下。俺、一般の庶民だし、言葉遣いとか分かんねーンだ。ごめんよっ!」


 何か私、褒められ過ぎて嬉し泣きして寝ちゃってた。




◇◇◇

「と言う感じに初めて家族以外の方にこの黒髪を褒めて貰えたの。ルーメンス殿下はその後もちょくちょく宿に遊びに来て下さって……、こんな優しい方に私が惚れるのも時間の問題だったわ」

 17歳の私は、塩貿易を行う商隊の護衛だ。野営の度、私の昔話しをしている。

「最初っから好きだったみてーだな?」

「そうね。エドさんの仰る通りだったかも………」

 

 塩湖の湖畔の野営地は、結構寒い。


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