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宿屋の娘の恋事情。  作者: 潤ナナ
第一部.宿屋の娘。二節.冒険稼業。
22/24

08。

◇◇◇

 朝食を取りながら考える。


 あの組合職員、リュシオラって女性の所為で有耶無耶になった話しの一つ、私の護衛しているプロンピエ商会と我が国リコフィニアの貴族の癒着ってのがあったわ。

「お嬢、気になって気になって、夕べは余り寝られなかったぞ!」

「リズロン様、何をお気にされて…」

「磁器!この宿にもあって、見せて貰った。素晴らしいっ!の一言だよ。いいね!で、さあ。連れてって、お嬢お願いっ!」

 瞳をうるうるさせて中年男性が懇願している図って言うのは、許される?リズロン会頭って、何となく小動物を思わせる容姿なのよね。小柄でふっくらした体型で、深い青の瞳が大きくて茶色の髪の毛先が「クルンッ」とか巻いてたりして、なんか可愛いの。

「ええ、構いません。ですが、午後用事がありますので、お昼まででしたら…」





 街の中央区、広場から港へ少しの場所まで辻馬車で向かう。馬車を降り、大通りからまた少し路地に入って直ぐの所が目的地です。

「小さなお店だねぇ。お嬢」

 リズロン様の素直な感想の通り、小さい小物屋さんです。リズロン様の護衛は私と商会の私兵二人。ここ、店主が羊って知ったらリズロン様、どんな顔をするかしらね。


「やあ!来るとは思ってたけど、随分早いね?」

 羊の霊獣なのに名前が肉食獣(リオン)さん、今日も巻々天パーですの。

 この天パーのおかげで、白い御髪(おぐし)が、お父様と被らない分類に(私の中で)ならないのが幸いですの。

「毎度思うけど、お嬢ちゃんって失礼なこと考えているでしょう?」

 まあ、「そうですね。ところで、あの子は?」

「ああ、女の子ね。まだ目を醒まさないよ。随分と、血を流したから、心配だよ。でも、命に拘わるようなことは無いさ」

 自分の血を与えているのね。程々に………。

「後は、磁器の用事?」

「はい。紹介致します。私の護衛業の依頼主の…」

「初めまして。プロンピエ商会会頭を務めるリズロンです。お見知り置きを」

 さかさず右手を差し出したリズロン様。それに反応が少々遅れ、握手をするリオンさん。

 商売なれしていないのかしらね。

「先ずは、現物を見て貰わないとお話も出来無いでしょう。どうぞ、こちらへ」

 店の奥、一昨日見せて貰った磁器を眺めた。あら、増えてる?いいや、無くなった物もあるわ。

「工房を持っていましてね。そのう、そちらを見て貰えたら……、あ、いやっ、この磁器に興味ありましたらーーー、なのですが」

「――――素晴らしい!スッバラすぃぃぃーーーっ!!!是非是非、是非是非、工房に!」

 大興奮のリズロン様。また握手して、リオンさんをブンブン振り回しています。

「工房は、王都の北、ペニンスラ山脈の梺にあります。そのう、馬車で二日の距離なのですが」

「問題無い!さて、行きましょ!早速、行きましょ!」

「後で。いや、そのっ。私の方に問題がありまして…。今、家で保護している少女がいるのです。私の店。………家には、他に人がいないのです」

「ああ、そう言う問題ですか、大丈夫!」

 リズロン様、その根拠は?一体………。商売人とは斯くも大きいものなのですね。

「どうせ、一週間は滞在しなきゃならなくなっちゃったんですから――――」

 ああーっ、私の所為だったんですねえー。ごめんなさいすいません!申し訳無いですうぅぅぅー。。。

「別に、お嬢の所為ではありませんよ?僕には僕の都合、と言うか理由がありましてですね。まあ、お嬢のことと繋がる(リンクする)んですけどもね!」

 か、寛大だよ?大商人は………。。。

 暫く、物色した大商人様(リズロン)。「他のお店も回ってみます」と、リオンさんのお店を後にした。


 辻馬車を拾おうと大通りに出た所で、プロンピエ商会の護衛が一人、こちらに向かって駆けて来た。

「旦那様、只今戻りました」

「で、どうだった?」

「結論から言いますと、極めて『黒』です」

「極めて……と言うことは、確実では無いのだな。――――この旅で、はっきりさせんと……。まあ、いい。引き続き調査せよ」

「はっ!」

 護衛さんまた何処かへ駆けて行ってしまいました。何でしょう?

「お店巡りをしますけど、お嬢、どうします?」

 どうしよう。一応、午後伺います。と、アルバン閣下には約束取り付けていることだし………。

「私、リズロン様にお供させて下さいませ!」

 腕を出して来たリズロン会頭。ああ、エスコートして頂けるのですね!では、喜んで。。。


 いろんなお店を周りました。家具屋さん金物屋さん魚屋さん、貴金属店宝石店、面白いのが流木店です。

 曲がった物、真っ直ぐな物、何れも角が取れて全体的にツルツルした感じの木です。


 何に使うのでしょう?と訊きますと、「これ等は、装飾品だよ」と、リズロン様は仰いました。

 リズロン様は何点か購入したようです。気にいったのでしょうか?まさか、とは思いますが王都で売り物にするのでしょうか?売れるのですかね。




 お昼、ジョゼ達と待ち合わせているお店に入りました。


 こう言う時のジョゼは便利です。他のお客様より座っていても頭一つは高いのです。見つけやすさ世界一です。

「お嬢様、先に頂いてました」「お嬢様、ここ魚料理が美味しいようです」

 レアとベルが、赤い魚の煮込み料理でしょうか?美味しそうです。

 はっ、まさかこれが、『金目鯛』?

「残念ですが、違います。カレン様。レアとベルの料理は『赤魚の煮付け』と言う物だそうです。金目鯛とは違う魚だと訊きました。因みに私は、各種魚介のサンドイッチと言う物です。いろいろな味が楽しめ……」

 取り敢えず私、座りました。早速注文訊きが、いらっしゃいました。

 勿論、注文を訊かれました。が、しまった!メニューを見ておくの忘れていたわ!


 羊皮紙、紙といった物は、庶民にとって高級品です。メニューを木の板等に書いた物を各テーブルに置いている白竜の窖亭の方が珍しいのです。普通、大抵のお店は、メニューをお店の外壁の木板に大きく書いておくか、店に入って直ぐの所にお品表があるものです。お客はそれを見て自分の注文する物を決めてから着席するのが普通なのです。

 ですので、こう言う時は皆様決まって言う言葉。

「お薦めは、何かしら?」

 例に漏れず、私も定番の台詞を言いました。まあ、魚介類の名等知りませんですし、結局は定番の台詞を言ったと思うのです。

「お薦めっすか?『オレンジ定食』っすね」

 はあ?魚介の美味しいお店で、『オレンジ』!?

「あの、オレンジ、とは果物の、……ですの?」

「あっはっはぁー、お客さん冗談キツいぜ?アレだアレ。えっとおー、鮭のパスタとカラス貝のワイン蒸し…」

 私以外の三人が「ガタッ」っと立ち上がり、帯同している剣の柄に手を掛けて…………。。。

「お、落ち着いて落ち着いて!ジョゼ!レア!ベル!お座りなさいっ!!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。。。


 少し大声だったようです私。店内の皆様の視線を一斉に受けています。

 おまけに、注文を訊きに来られた店員さん尻餅を搗いて仕舞いました。床にペタンと座っています。

「ごめんなさい驚かせて。この者達は、私を守ろうとしただけなの。その、『カラス』って黒いでしょう?私の国、こう言う私のような黒髪が珍しくて、お伽噺でも黒髪の悪魔のお話があって、それで私、辛い目に合うことが多くて……。でも、ごめんなさい怪我は無いかしら?ところで貴女、立てますの?」

 店員さんは、腰が抜けたみたいです。まあ、三人が三人共、殺気の威圧感が凄かったですもの。

 ジョセとレアが店員さんを抱き上げている間に、ベルが椅子を一脚用意して下さいました。

「本当にごめんなさい」

 椅子に座ったままの店員さん。暫くこのままかしら?


「お客さんの気持ち、あたい、分かる」

 そう言って、三角巾を頭から外した店員さん。

「あたい、こんなだろう。まあ、見た通り、何時だって仲間外れさ」

 頭を覆っていた三角巾の下からはお耳がぴょんと飛び出て来ました。店員さんは獣人の兎人族のようです。只、右耳の長さが半分の所から切れていました。

「あたい等の種族は、耳の長さが自慢になるのさ。長けりゃ長い程良いってされる。こんな半分耳は論外って訳さ。だから、嬢ちゃんの気持ち、ちと分かる」

 もう落ち着いた。と店員さんは戻って行った。


「オレンジ定食だよ!」

 テーブルに置かれたお料理。なる程、鮭の身も黒い貝殻のカラス貝もオレンジ色の中身。全体がオレンジ色の定食ってことだった。

 うん、少ししょっぱいが、美味しい。旨い!




 昼食後、冒険者組合へと入る。また、絡まれるのだろう。が、まあ、何時ものこと。

「組合長さんいる?黒炎(ノワールフレム)って言えば、分かると思うけど」

 受付窓口で、レアが言うと、窓口職員の後に居た方が立ち上がり、奥へ入って行った。


 暫く時間が掛かりそうなので、私達はテーブル席について待つことにした。

「飲み物でも奢ろうか?」

 二十代中程の男性…、冒険者がそう言って近寄って来た。

「さっき、昼メシ食ったばっかだし、いらない」「気持ちだけ貰っとく」

 ベルとレアが答えると、まぁ、そう言わずに……、と言いつつ、私の隣の椅子に座った。

「俺、ヨシュア。よろしくな!嬢ちゃんは?」

「カレンです」

 ほらほらぁーそっちのこ子は?と。

「ジョゼ」「レア」「ベルよ。もう名乗ったから~。用は無えーんだろ?他所、行けよ」

「よおよお、おまえ等さっき『黒炎』とか言ってなかったか?」

 なんとなく、不快な方ね………、ああ、この方、終始ニヤニヤしているからだわ。

「よおってぇー。黒炎って、あの黒炎か?」

 私達と同じ名のパーティーがあるのだろう。

「どの、黒炎ですか?」

「黒炎って、あれだろうがここ数年、北の国で暴れ回ってるって噂のー」

 知らないです。こう言うのなんと言いましたっけ?

「「ウザイです」」

 レア、ベルそう、それです。『ウザイ』です!

「失せろ!」

 怖い、ジョゼ怖い!とか思っていたら、男性冒険者さん顔が紅潮して来ました。お怒りでしょうか?


「おっまたせぇー!カレンデュリアちゃんレアちゃんベルちゃん!…………ジョゼフィーヌさん」

 何故かジョゼの名前で、明らかに声のトーンが落ちたリュシオラさん。

「リュシオラさん、気持ちは分かるが、あからさまに、気持ちを下げるの止めてくんない?結構来るものがあるよ私だってさぁー」

 意外、ジョゼでも気落ちするのね。気を付けましょう私。


「おい、おいおい!俺を無視すんのか?俺はこの若さで、(アジュール)なんだぜぇ」

「お客が来るって言ってんのに中々帰ら無い商業組合の職員が来ててさぁー。って思ったら、違ってた。私、勘違いしちゃった。呼ぶの遅れてゴメン!」

「何が?」


「おいっ!」

 階段でリュシオラさんとお喋りしながら登る私達を追いかけて、後のベルの肩に手を掛けたさっきの男性冒険者。

―――ドタンッ!

 床で受け身も取れず踞る男性冒険者。


 そして組合長室へ。

「だから、入室の歳、ノックをしろとー。何度言えば分かるのだリュシオラぁー」

 ロリ閣下だ。

「失礼致します」

 部屋に入ると、既にお客さんが一人。先程、リュシオラさんの言っていた商業組合の方なのでしょう。

「初めまして。商業組合(ギルド)で組合長の補佐を務めている。デボラと申します」

 女性だ。なんと言う色気!なる程です。

「古語で確か、蜜蜂さんですね。名は体を表す。とは言え、とても良いお名前ですね。貴女のあま色の髪にぴったりな感じがします」

「驚いた!こんな小さな淑女(レディ)が、凄く博識なんて!あなた、お名前は?」

「名乗らずに失礼をいたしました。お初にお目に掛かります。わたくし、カレンデュリアと申します。以後お見知り置きを…」

「あら、あなたがカレンちゃんなの?もう、閣下から散々訊いた名前!」

 どう言うことでしょう?って言うか、警戒し過ぎです。威圧感凄いですよ?皆!ネージュ、は流石です。寝ていますね。

「皆~、大丈夫ですわ。ネージュも警戒しておりませんもの」

「ですが、カレン様」

「そうです」「お嬢様!」

 何を警戒する必要が……………。あー、なる程です。

「アラハお母様に似た感じがするのですね?」

 三人共、首肯しました。

「何かしら?」

 どうしましょう。言わないと言う手は、この場合、悪手でしょうね。。。


「わたくし等の親しくしている方に、デボラ様のような雰囲気……空気を醸し出す方がおりまして、冒険者でして、大変お強い方なのですが、その、気分を損なわれるかもしれませんが………、異性を手玉に取るのが上手な方なのです。それで、皆が警戒を」

「あらあら、そんな()がいらっしゃるのですね?お会いしたいわね。まあ、ここにもお一人いらっしゃいますわね。無意識な魅了を使う方が」

 ロリ……ご自身のことですよアルバン閣下。

「何度かデボラ殿も会っていると思うのだが。まあ、その話しはまた今度」


 その後、閣下は、私とあの少女が拐われたことと関連した事案を幾つか教えて下さり、その全てがリコフィニア王国の貴族の所業、若しくは関係するらしい、と言う話しをして下さった。

 只、証拠が無いのだ。と言う。

「今回おまえ達は、護衛依頼で、ラ・ジャンブに来たのであったな。その商会『プロンピエ』だったか?その商会の人間か何かに不自然な言動とか、そう言う感じのすることとかはないか?何かなかったか?」

 不自然、不穏な感じ。うーん?あったようななかったような………。

 等と、私が引っ掛かりを紐解こうと思考していました。

 すると、ジョゼが、話し初めました。

「今回、初めてプロンピエ商会の行商に付いての仕事だったのですが、私、と言いますかショーラ家の我々にとってプロンピエ家と言うのは持ちつ持たれつの関係にあるのだと思っています。ですが、昨日、違和感を感じたことがありました………」




◇◇◇

「――――そう、それで逃げてここまで来ちゃった。私これからどうしたら」

 と、婚姻の儀ことを散々訊いて頂いて……まあ、愚痴をぶちまけました。

「答えは、私が出してあげる物じゃ無いから、自分で考えるのでしょう貴女は何時も」

 多分、そうなのだろう。何時か解決するのだとしても今は、苦しい。


「ところで、うちの旦那。折角、お呼ばれして喜んでリコフィニアへ行ったのですよ。しかも、長年胸を焦がした初恋の相手と邂逅するのも厭わずにっ!なのに昔馴染みのカレン達はいない。知古の英雄エリエンス、妖女アラハバキに会えても嬉しさ半減処じゃあ無いわよ!ったく。まあ、子ども生まれそうで、私が行けなくなったことで、こうしてカレンデュリア達に会えたのだから僥倖っちゃ、僥倖。私個人的には、ね!でもね。変じゃ無い?直前まで王子の嫁が五人だったってのを知らなかったって!普通気が付かない?カレン、おかしいよ?」

 薄々、そんなこともあるだろう。とは、思わ無くもなかった。


「親し過ぎるなあーとかは、幾度となく思ったし、考えに及んだこともあった。と今更、思うの。けど、信じたく無かったのっ!優しいよルーメンス。でも、誰にでも優しいの!不安とかあった。でも、私のルー君って思う時、『独占欲』って言葉が心に浮かぶの。ルー君は、私だけ(・・)のルー君なのに、同時に思う。彼は皆の王太子なんだ。私の所有物じゃ無い。って」

 でも、それでも。と考えてしまう。


 ああー、この思考の反復(ループ)は、何時終わるのだろう。


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