06。
◇◇◇
10日掛かって国境を越え、更に10日で、目的地ペニンスラ王国王都『ラ・ジャンブ』に到着の予定だと、商会会頭でこの商隊リーダーのリズロン様は仰いました。
二頭立ての馬車六台。護衛は、プロンピエ商会の……、と言うより、リズロン様の私兵、騎乗兵が三人、と私達四人。
最初こそ、「餓鬼のままごと」とか、「俺達、子守りじゃ無えー」って、言われていたものですが、ひと度戦闘状況に陥れば、そんな言葉も払拭されました。
そして、ペニンスラ王国の王都ラ・ジャンブに着いたのでした。
「へえー。猫っぽい人、狼……犬かなぁ?いろいろだ!」
「獣人とかもだけど、人種自体もいろいろ……」
本当だ。肌の色も少し褐色な方も、真っ黒な方も。髪色だって、私と同じ黒髪の方も多い。
私の黒髪って、ここでは普通なのね。リコフォニアには少ないけれど、南のここは多い感じです。
逆に、白い肌の方は少ないですね。
「「お嬢様、お嬢様。あれ!」」
レアとベルの二人の指差す向こうには、屋台がありました。屋台の上には、『串焼き各種。カキ、アワビ、つぶ貝他』ですって!
「買って参りましょうか?」
「いいえ、私もいっしょに行きたい。だって、見て選びたいじゃないですか。それに焼いているトコロも見たいのですもの!」
『ねえ、カレン。ボクも出ていい?』
「いいけど、身体小さくしてくれる?」
串焼き。それと薄い麦粉で出来たパンのような一枚皮に包まれた物。パンケーキのようで、その中にいろいろな食材が入ったパン。のような物を立ち食いして歩きました。
フェンリルのネージュは、魚の生臭さが嫌いらしく、特に青魚と言う種類の魚はお気に召さないようで、お肉や赤身の魚を食べました。
特に『ツナ』と言うのを大変気に入ったようです。
暫く屋台巡りをしました。
お腹が膨れた頃、私は小物店でいろんな色の貝殻が鏤められた小さなガラスの小物入れを手に取って見ていました。
「白い嬢ちゃん、気に入ったかい?」
その男性は、私に声を掛けていたのでした。
でも、『白い』だなんて、お父様でも無い限り、私に対して使う言葉ではありません。
黒いとか、黒髪の。とは呼ばれても『白い嬢ちゃん』は初めて言われた言葉でした。
「あなただよ。その真っ白な肌の君。君に声を掛けたんだ。その磁器のような肌の小さな淑女」
「申し訳ありません。私、ですのね」
「そう、磁器のような君」
「磁器、と言うのは?」
そう私が訊くと、おじさんは指差します。
それは、真っ白なお皿でした。
それは、淡い青の塗料で細かい模様が描かれたお皿でした。
「君は、北の国のお姫様かい?」
「いいえ、お姫様ではありません。ですが、北の王国……。リコフォニアから来ました」
「そうなのかい?私にはお姫様にしか見えないのだがね。君がそう言うのなら、そうなのだろう。でも、本質は『白』なのだ。お嬢ちゃんは……」
『―――カレン!ヤバい、こいつヤバい逃げろ!』
ネージュの避難警報に私は、飛び逃げようと背中に注意を集中して………。
「大丈夫。私も君達と同じなのだから…………、私は、そう、『羊』だよ。君達の親御様と同じように長い生を持つ者さ。若い私である君達」
同じ存在。人の中にお一人で暮らして、寂しくは無いのかしら?
「孤独。それを感じることはある。でも時々、君達みたいな子が訪れる。寂しくは無いよ。ところで――――――」
店の奥にたくさん、お皿やお茶碗。更に、お茶セットも取り揃えている。見ないか?買わないか?と、羊さんは一生懸命売ろうとしている。「同族の誼で…」とかも言い出した。
そして商売トークは更にヒートアップして行くのでした。
『町娘っぽくしていもカレンは、貴族っぽいもんね。お金持ってそうだよねー』
空色のワンピースで、髪は結わずそのまま流しているだけですのに!ワンポイントで、八つの時の誕生日に王子王女殿下達に貰った金盞花の髪飾りを付けているだけですのに。
でも、透き通るように真っ白で、特別って感じのする食器ですわよね。綺麗だと思う。。。
「君も白くて、特別って感じの女の子だよ?」
「ええーっと、あのっ、今、手持ちは少ないのです。それに私、では無いのですけれど、商品の買い付けでこの町に来たの。商人さんと後でまた来ますから…」
小物店の店主?から解放されて、少々惚けていました。
お店を出て、直ぐ。でしたかしら?真っ暗になりました。
頭から麻の袋を被されて、担がれて何処かに連れて行かれました。
袋詰めのまま、私が投げ入れられた場所は、少し湿っぽく南国の暖かい空気では無く、少し肌寒い所です。
おそらく、地下室でしょうか。
「大人しくしていれば、痛いことはしねぇーよ嬢ちゃん」
地下室らしき所で、袋から出されました。
『ねえボク、暴れようか?』
(ネージュ、今はまだいいわ。様子をみましょう……)
先ずは、情報収集。行動はその後でも十分です。
「結構上玉な嬢ちゃんだなぁ」
「おおー、いいねぇ。北の王国の娘、らしいな」
「なら、足も付き難い、か?」
「多分、な。だが、少々お上品だ。お貴族様んトコの娘って感じだな…、ちょっと不味ぃーなぁ」
「足付く前に売っ払っちまえばいいンだよぉ!」
部屋の外は、三人ってトコロ?ね。
(ねえ、ネージュ。影、渡って行けましたわよね?)
『行けるけど、どうすんの?』
ネージュには、外の様子を見に行って貰いましょう。
同じ部屋に子どもがもう一人居ます。お名前は?と、訊こうと思い薄暗い部屋の中で踞っている様子の子に近付きました。それで気が付いたのです。
湿っぽいと感じたのは、血。その子の流した、飛び散った血でした。据えたような匂いも錆びた鉄の匂いも血の匂いだったようです。
もうこの子、殆ど、呼吸も出来ていないわ!
(ネージュ!直ぐ来て!!!)
『なぁーにカレン?んんー。その子、もう助から無い。例えボクが治せても、流した血が多過ぎだよ。無理』
(でも、数分でもいい。何とかならないネージュ!!?)
『やるだけ、やるよ。でも、ボク力使い切っちゃうよ?ボク手伝え無くなる。どうやってここから出る。カレン?』
「やあ君達は、あの子の友達かい?あの白いお嬢ちゃんの?」
「誰のこと?そんな子どもは知らん」
「髪の黒い、白い子だけど……。君達は、特にあの子の匂いがするんだけどなぁー」
「黒……カレン様か?」
「「私達のお嬢様です!」」
自分の店を出た所で、連れ去られたらしい娘のことを知ったジョゼフーヌとレア、ベルナデット。そして、気になったこの男はカレンを探しているのだと………。
――――ドッ、ォォオオーンンン。。。
大きな音が響いた。
男の店から程近い細い路地を抜けた先に建つ、倉庫のような家屋からだ。黒煙が上がっていた。
その方向から、真っ白な物が跳んで来る。
「ジョゼ、レア、ベルぅぅぅー!お願いこの子、この子を助けて!」
ネージュに背負わされた赤茶けた布……、では無かった。小さな少女だったのだ。
もう、駄目かもしれない。無駄かもしれない。それでも何か方法があるかもしれない。ここから出さえすれば。。。
私は、この地下室唯一の戸に向け、火球を放った。戸の向こうに居るであろう人間等、どうなったって構わ無いわ。
大きな音と同時に戸も壁も、おそらく男達も吹き飛んだであろう。壁も天井も無くなって、明るい空が見える。
そして私は、お父様のに良く似た硬く白い鱗のある翼を広げた。少女を持ち上げ、地下室からネージュの待つ外へと飛翔した。
近くにジョゼと双子、それから羊……のおじさんが来ていた。
「どうしよう?どうしたら?どうすれば、この子助かる?ねえ、ジョゼ、レア、ベルぅ!!!?」
いきなり羊が私を引き寄せ、そして、抱き締めた。
「―――羊、とか言う呼称止めぇぇぇー!なんか嫌」
すいません。羊のおじさん。。。こうですか?
「私の名はリオン。次から、そう呼んで」
「リオン……。羊なのに獅子とか、、、受け狙いなの?」
「それより、その子にこれを………」
羊のリオンは、徐に自分の腕をナイフで切り付け、「これを飲ませろ」と言う。
リオンの傷口に少女の口を近付けるが、とっくに意識も飲む力さえ残ってはいないようであった。
私は、リオンの腕に口付け、彼の血液を吸う。甘い味がした。
「だからって、糖尿病とかじゃ無いよ?ホントだよ!」
彼が何を言っているのか分から無い。兎に角、口に含んだレオンの血を少女に直接口を付け、舌を使って飲み込ませた。
心無しか、「うらやまけしからん」と言うジョゼの声を聞いた気がした。
なんとなく薄ら寒い気が、、、。
真っ白だった少女の頬にほんの少し赤みが差した。
「もう、大丈夫さ!―――それで、お嬢ちゃんはどうするんだい?拐われたんでしょう?」
「そうだった。皆、お願い。私の出て来た所、そこで倒れている筈の誘拐犯。捕まえて!」
少女は、リオンさんのお家で預かって貰い、誘拐犯達は王都軍の頓所へと運んだ。
おそらく、犯罪奴隷として鉱山か炭鉱にでも送られるだろう。そう頓所の兵士は言っていた。
詳しく拐われた時のことを訊きたいと言う兵士さん。
「だが、今日はいろいろ、疲れただろう?」
と兵士さんは言い。
「明日、迎えを出すので午前中は、宿泊中の宿で待っていて欲しい」
と仰った。
のんびり過ごす筈が、とんだことに巻き込まれちゃった。ついて無いなあー。。。
翌日、朝食を取り終えたタイミングで、兵士が三人やって来た。
軍の頓所内の会議室のような所へ通された。中に、二人の兵士と、もう一人貴族の着ている服にしては質素な物を着た四十代の男性が座っていた。
早速、若い方の兵士から、質問される私と双子にジョゼ。
私は先ず、拐われた経過をお話しした。
兵士からは、ジョゼと双子が捕まえた男性は、五人。三人が地下室の前に居た見張り。外の二人が連絡、指示を受ける役割であったとのことだ。
そして、倉庫の建屋がほぼ全壊していたことで、冒険者組合から職員を呼んだのだと言う。
「初めまして。私は、組合で、長の役職に就いている……」
「あ、あのっ、ひょっとして、貴方が、『アルバン・アフリア』様。ですの?」
「良く分かったね。外国のお嬢ちゃん。あの破壊力だ。もしかしたら冒険者。または、魔導師の師弟ではないか?と、王都の兵隊が組合に相談に来たものでね。もしも冒険者であれば、四人共、カードの提示をお願いしたい。まあ、実は君を知っているのだがね?」
「閣下、この少女をお知りなのですか?」
その兵士の襟に付いた階級章は、一本の白線に星三つ。おそらく、大尉であろう。頓所の責任者だろうか?
「君は、カレンディア・リシュー・ド・ショーラ嬢であろう?」
「……ショーラ!?ショーラと言うのは、彼のショーラ伯爵のショーラでありますか?組合長殿」
「ああ、あの北の王国、ショーラ伯爵閣下、英雄。その英雄の娘さんが、この娘なものですよ。隊長殿」
「なんと!」「なんとなんとっ!」
驚き過ぎです。兵士さん達。でも、その後見せた組合証を見て、二度ビックリさせました。
「カレン・リシュー。十歳。『銀』章入りのカード………。じゅ?じゅ、十歳ぃぃぃーーー!!?」「あ、ははは、ははあぁぁぁ。。。隊長、何です?僕等なんかより、強いんですか?この女の子が……。あはははぁー」
乾いた笑いの兵士さん達に、脱出の手段と、同じく囚われて居た少女が、危ない状態であったこと等を覚えている限り伝えた。
その少女の状況を聞いた隊長は、他の兵士に指示を出した。
間も無く、状況を報せに戻った兵が仰るに、まだ意識は戻っていない。と言うことだった。それでも、2~3日で意識も回復するだろうと言うことだ。
合わせて、奴隷堕ちするであろう誘拐犯の処分が、一週間掛かると言う。
まあ、そこは商隊リーダーのリズロン様と相談しなければならないのですが。。。
「もし、今から時間が取れるようなら、組合で君達の話しが訊きたい」
そう、組合長のアルバン・アフリアは仰った。
◇◇◇
あれから、七年以上経つんだなあー。。。そう思うと、感慨深い物がある。
前にペニンスラ王国に来た時は、この国の西側からのルートだった。
今回は帝国ルート、ペニンスラ半島の東側のルートだ。
ペニンスラ王国は、このペニンスラ半島全域が一つの国だ。半島は中央の山脈で東西に別れていて、半島の東側は頻繁に帝国の版図に組み込まれている。
勿論、武力での侵略で、である。
最近は、40年程前に王国に帰属出来たと、確か本に書いてあった。
山がちなこの国は、獣人が多い。長寿な種族、人種でもあるエルフ。……アールヴとも呼称される種族も居る。らしい………。
「久し振り。白いお嬢ちゃん。私だよー!」
屋台を物色中の私に声を掛けたのは、ライオンの名前の羊さん。
あの子。私と一緒に拐われていた少女を養子にした妖魔だ。
「あのさぁ、違うよ?妖魔じゃ無く『妖精』若しくは『霊獣』だよー」
ええー!?『妖精』は無い。無い無い!だって、羊だよ?妖精って、もっとこう、可愛い感じ?でしょう。妖魔ってのが、しっくり来る。そんな気がする。。。
「なら、お嬢ちゃんは、何?」
んんーん。何だろう?リオンさんやアラハから私を見ると、……やっぱり、中途半端な存在に、なるのかなあー。
「で、今回もウチから何か買って行く?」
そこは、若旦那、アランさんに相談だ!




