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宿屋の娘の恋事情。  作者: 潤ナナ
第一部.宿屋の娘。二節.冒険稼業。
19/24

05。

 ◇◇◇

「誰?その方達」

 翌日、アラハお母様とフランの連れて来た冒険者風のお二人。ギャスバル、オスカーと名乗った二人は深傷を負っていた。

 フランとアラハお母様が出掛けた先、王都北西のフォリオ村近くの森林で、助けたのだそうだ。

 フォリオ村は、以前私が討伐したゴブリンの被害に遭っていた集落だ。


 森の沼地で多頭大蛇(ラードーン)種に襲われていた二人を見つけ助けたのだと、フランは言う。

「スゲェのっ!切っても切っても生えるんだぜ首。俺、何個切ったろ?最初見た時、頭16個だったんだぜ?それがよお、あと首一つって時に、ボコボコ生えやんのっ!そう言うの何度か繰り返して、いい加減くたびれて、母さんに代わって貰ったわ。無理だわぁーあれ」

「ああ。彼処で、ねぇさんが助けてくんなきゃ俺もギャシーも死んでた」

「凄かった。この姐さん。物干し竿見てえな剣で、蛇の首、一気に刈ってさあ。胴体も二擊目にゃ真っ二つだったよ」

「姉じゃ無え、母さん!母親だって、言ってんだろ?わっかん無えーにーちゃん達だなあー」

 共に13歳のオスカー、ギャスバルは冒険者になって二年。思いの外、ランクが上がらず、フォリオ村近くの森で魔物狩りや、薬草の採取を日々行っていたのだそうだ。

 森は魔物が多く、狩ってはギルドに持ち込んで、換金を繰り返して日銭を稼いでいた。と言うことらしい。

 ルナール親子に命は救われたのだが、大怪我をしてしまっている。先立つ物も無い状態で結局、暫くアラハお母様を頼らざる負え無いとか。。。


「だったら、ウチで働け」

 と連れ帰った。


「人助け。なのでしょうけれどアラハお母様、傷が癒えるまで、彼等は働きようも無いし、治療費だって掛かります。まあ、治療に関しては、」

「カレン、止めな。ネージュ(あの子)使うのはダメだ!」

「どうしてアラハお母様?何故いけないの?私には治す手段がある。だったらネージュの力を使うのは、使う理由になるしょう?」

 私の善意は、人々の為にならないのだ。と、アラハお母様は仰った。


 空き部屋……、従業員用の一室をオスカーとギャスバルに提供した。

 幸い酷い怪我であった。

 毎日、傷や骨折部の包帯や綿紗(ガーゼ)を取り変えた。

 綿紗には塗布薬を塗り込むのだが、そこにネージュの回復魔法も込めた。


 あの日直ぐ意識を失ったお二人。

 それから数日間、彼等の意識は戻らなかった。

「――――んんー?あれえ………。綺麗な子。。。」

「―――天使…様?………ここは、天国でしょうか?」

 起きた!四日目の朝、ギャスバルさんとオスカーさんが目を覚ました。

「オスカーさん………でしたかしら?それと、ギャスバルさん。ここは天国でも無いし、私は天使でもありません。寧ろ、『黒い悪魔』と、呼ばれることが多いのですよ。私………。まして、綺麗だなんて、、、忌み嫌われる黒髪、ですのに……」

 ギャスバルさんもオスカーさんも、混乱していらっしゃる様子です。

「君は誰?」

「ここは、何処?」

「今、説明致しますが、その前にアラハお母様に知らせて参ります。お待ち下さいませ!」




「おぉーーーっ!意識戻ったかあー。今大丈夫かや?」

 首肯したお二人にアラハお母様は続けて言う。

「あたしは、おまえ等を襲った多頭大蛇(ラードーン)を倒して救った。国の軍兵でも城の騎士でも、王都を守る警邏隊でもあたし等は違う。。。これは、分かるな?」

「はい。」

「つまり………」

 アラハお母様は仰る。無償で、人助けをする冒険者はいない。そこには当然、賃金が発生する。

 まして、部屋の提供。治療に掛かった代金、人件費。これ等を支払う義務、と言う物があるのだ。と………。

「概ね、まあ、概算だが、金貨三枚。カレンの看病と治療の人件費も入れて、ってトコだね。でもまあー、ここの主人、トカゲ……、エリエンスか、組合で相談してから、だが」

「あ、のう、アラハお母様、私のは、いりません」

「カレンデュリア。そうはいかないよ?宿の仕事はこいつ等の為にやれなかったのだし、その間、こいつ等の看病を毎日行った。(フェンリルの治癒力も使って。。。)そうだろう?」

 そう仰るアラハお母様に、私は従うことしか出来無かった。

 内緒で、ネージュの力も使ったのも知られていたのだし………。

「まあ、そんな訳で、おまえ等二人。明日から仕事だ。頑張って、払え!」


 翌日、お二人は宿の仕事。廊下や、お客様の退室したお部屋の片付け掃除。替えた寝具の洗濯。

 日当一人、大銅貨四枚と銅貨五枚。二人合わせて大銅貨九枚。

 アラハお母様の仰った概算額、金貨三枚。だったのだが、冒険者組合(ギルド)(メートル)ジャン=ポールさんにアラハお母様が相談すると彼はこう言ったのだ。。。

「普通、『救出』なんて、依頼は無い。依頼を出すなら、『捜索』だ。アラハの場合、見つけてからの救出だった訳だ。それでも、追加報酬、ってのが発生すンだろうな」

 捜索願い、であれば大銅貨数枚~金貨数百枚。救助報酬にしても、同様、少額から、それこそ貴族やその子女であったなら、金貨数百枚~何千枚になる。

 つまり、依頼主の言い値。なのだ。相場はあって、無いような物だと、ジャン=ポールさんは仰ったそうな。。。

 オスカー、ギャスバルは貴族でも、この王国や王都、組合に取って、さして重要な人物では無い只の冒険者、駆け出しの紫級冒険者(パーピュアランカー)。只の餓鬼なのだ。

 だから、救出は金貨五枚。これは多頭大蛇と言う非常に稀で、魔物の等級的に殺傷級、人災級より、災害級であったことが大きい。

 私の看護、治療の人件費は五日で銀貨五枚。包帯塗布薬綿紗のお代は少額なので、まあ免除。

 二人は白竜の窖亭に金貨五枚銀貨五枚、そして従業員用の一室、と言っても泊まったのだから宿泊費も発生している。それ等の借金を払うことになった。

 住み込みで………。

 一ヶ月頑張ってお仕事して、銀貨29枚……つまり金貨一枚と銀貨九枚。そこから、食費や従業員宿所の代金を差っ引いて、幾ら残るのだろう?

 だから、お二人のお仕事は続いて行くことになった。




 そうして過ごす内、身体が元通りになるに従い、オスカーとギャスバルさんは、私達と朝の鍛練を行うようになった。

 私達の素振りや走り込み、身体作りの為の腕立て伏せ、腹筋運動や懸垂を真似て、毎朝頑張り始めましたの。

 戦い方も只、剣を振るって弓を射ってと言うだけの、所謂我流。きちんと習うことは無かったと言うお話しですわ。

「それなら、お父様、アラハお母様に習えば良いのでは?」

 と言う私の提案にお二人は、「畏れ多いです」と固辞しようとしました。


 宿の主人のお父様の朝は早いです。

 いくら前の晩に朝食の仕込みを行っていたとしても、朝6時には、厨房に立っているのです。

 お父様のベッドに毎夜潜り込む私も早起きです。お父様に抱き付いているのですもの、お父様が起きれば起きますわ。


「やあっ!」「とおっ!」

カンッ、カンカンッ、バシ、ドン…カラン。

「イッテーえ!」

「ま、参りまし、た」

 厨房に立つ前、必ずお父様は素振りをします。


 人族等より長い生のお父様達。人間よりも長い戦いと鍛練を重ねたお父様ですら、毎朝の素振りは欠かさないのです。

 その時間の一部をオスカーとギャスバルに割いて、剣技を教授するのでした。

 朝食前にお二人は、ボコボコになっていることも多いのですが、適度?の運動と規則正しい生活で、健康も体力も付いて来たのだ。と、お二人は私に仰るのでした。

 朝の鍛練、午後のお勉強。夜は、自主的に修練。時には、レア、ベルの双子とフランが付き合って教えたり、手合わせしたりの数ヶ月。

「こう言う生活、悪かぁー無えなぁー」

「だなぁ、オスカー」

「おまえ等、そんなんで良いのかよ?おまえ等だって、冒険者だろ?明日から付き合え!」

 こうして、フランは半ば強引に冒険者稼業の再開をお二人にするのでした。


「大体、ここの給金だけで支払える額じゃ無えーだろぉーが!?借金をよおー!」

 多頭大蛇(ラードーン)討伐で、等級(ランク)の上がったフランは(アジュール)。オスカーとギャスバルは、(パーピュア)。その三人のパーティーが結成されました。


 因みに、冒険者の|等級は、(セーブル)(パーピュア)(ヴァート)(ギュールズ)(アジュール)(アージェント)(オール)

 と、上がる。しかし『青』以上の等級は何らかの功績、貢献があってからの昇級なのである。


 フランとオスカー、ギャスバルのパーティー名は、『狐の竿(ペルシェルナール)』。

「ねーさんの竿のように長い剣に憧れて。寧ろ、ねーさんが憧れです」

「ああー、ねぇさんの竿!」

「あのさぁ二人共ぉー。姉さんじゃ無えーって!母さんだって。もう結構いい年。ってか、かなりの…イッテエー!痛ぇじゃん!!!それに、『竿』って………。母さん一応、女だぜ?」

「おい、息子。ミステリアスなのがいいんだよ女ってなあー!覚えとけっ!それに枕詞に『一応』付けんな。。。姉でいいんだよ君達」

 と、そう言った訳で、臨時の従業員では無くなったお二人。何時までも、 従業員部屋を使うことは出来無いのです。

 よって、雨風凌ぐ場所を何処かに確保しなければならなくなりました。私は「そのまま、お部屋使わせてあげても」と、お父様に言ったのですが、

「それでは他のお客に対して失礼だろう。小さな愛し子よ」

 それで、お父様の提案で、大部屋に居を移しました。


 ここ、白竜の窖亭は、あまり長期でのお泊まりを許しておりません。何故なら、他のお客様からすると、まるで予約客のように写るからです。

 ここは、白竜の窖亭。数々の武勲を挙げ、『勲功(シュヴァリエ)』更に、叙爵され男爵、子爵、伯爵になった国の英雄シューラ卿の宿。しかもイケメン!そのお父様のお食事が頂けるのです。そして、娘も冒険者として有望。数ヶ月で銀級(アージェントランカー)の実力者。それに王子様の婚約者、、、自分で言って恥ずかしいですわ。

 いわば、皆の憧れ、偶像(アイドル)達の住まう宿、なのです。ですから、予約をしたいお客様は多いのです。

 予約をして、その方がいらっしゃらないいらっしゃるに拘わらず。予約部屋として空き部屋になっているのです。

 それでも良いから、キャンセル待ちでも泊まりたい。と言うお客様に迷惑を掛けますし、宿としても迷惑です。

 なので、予約は取らないのですの。他の宿屋さんが、当たり前に予約客を取っていようが何しようが、ウチはウチ他所は他所ですの。


 翌日、早朝~と、言っても、一つ鐘の後…つまり午前9時の後、朝食もその片付けの終わった後に、フラン達は冒険者組合の建屋に向かいました。

 因みに、組合は一日中営業しています。

 『狐の竿』は、パーティー結成後の初めてのお仕事で、どんな楽しいことをするのでしょう?


 そして、私達『赤い金目鯛』はと言うと、プロンピエ商会の会頭リズロン・プロンピエ様からの指名で、香辛料と他の買い付けの商隊の護衛依頼を受け、出立しました。

 目的地は、ペニンスラ王国の王都『ラ・ジャンブ』です。







 ◇◇◇


「で、俺等を拾ってくれたおまえ等、カレンの知り合い、なの?」


 アランの商隊に放逐されたロック、エド、マチアスの三人は、北へ帰るフラン達一行に拾われた。

 拾ったのは三人の護衛する商隊であった。

「俺等、リコフォニアに戻る商隊。プロンピエさんトコの商隊なんだけど、あんた等何でカレン知ってんだ?―――――――あ、え?一緒だった?ってどう言うことだ!?結婚式だろ?カレン、結婚したんだよなっっっ!!!?」

 その時、初めてフランは知った。


 カレンディアが、婚姻の儀から脱げ出しのだ。と、言うことを。。。




◇◇◇

 二頭立ての荷車五台を大牛(グロストロー)が引く、その帆には肉が干してある。

 ジョゼ達の仕留めた大将蛇(セルパンジェネラル)の塩漬け肉だ。

 帝国の西端、砂漠の玄関口の町ロンターノで買い付けた日用品、食品を行商しながら、このペニンスラ王国の王都『ラ・ジャンブ』を目指し南下中であったのだ。

 蛇の塩漬け干し肉は、食糧であり、私達の収入の一つですの。

 勿論、冒険者としての本分は忘れていません。

 商隊の護衛です。

 気になるのは青い何でしたっけ?のロック達三人。捨てて来たのです。

「僕は捨てて良かったと、寧ろ早くに捨てるべきだったんです」

 進行速度上がったでしょう?と、プロンピエ商会の若旦那アランさんは仰います。「本当に、お荷物でしたね」と、あっけらかんと言うのです。

「それに、傷心のカレン様にしつこく言い寄ったり…」

「嫌がるお嬢様に不躾なことを言ったりやったり」「ホント、()な野郎でした」

 そうね。大切にしようと思った物を食べて仕舞いましたし、容姿をバカにするようなことを言ったり………。

「でも、まあ、死な無いでしょうね。蛇肉持ってたし」「ああ言うやからは、しつこく死な無えーモンです」

 せめて、無事をお祈りしておきましょう。。。


 それから一週間と少し。帝国の町、ロンターノを立ってから、半月後、ペニンスラ王国王都『ラ・ジャンブ』に到着しました。

 行商で、幾つかの町や村で売買して着いた王都。買付目的で来たのではありますが当然、在庫…売り物はあります。

 御して、目的の買付。そのことはこのラ・ジャンブを出立する前日でもいいので、取り敢えず宿泊場所の確保その後、観光も良いでしょう。そうアランさんが仰りました。

「ゆっくり致しましょう。少し良い宿、取りますね!」

 アランさん、ありがとう!

「最低四日、この町に留まります。売れ筋、仕入値の見極めがありますので。その間の宿代と宿の食事は、経費ですのでお支払いは結構ですよ」

 うわあぁー。重ね重ね、ありがとうアランさん!


 そんな訳で、町へと繰り出した私達でした。。。


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