05。
◇◇◇
「誰?その方達」
翌日、アラハお母様とフランの連れて来た冒険者風のお二人。ギャスバル、オスカーと名乗った二人は深傷を負っていた。
フランとアラハお母様が出掛けた先、王都北西のフォリオ村近くの森林で、助けたのだそうだ。
フォリオ村は、以前私が討伐したゴブリンの被害に遭っていた集落だ。
森の沼地で多頭大蛇種に襲われていた二人を見つけ助けたのだと、フランは言う。
「スゲェのっ!切っても切っても生えるんだぜ首。俺、何個切ったろ?最初見た時、頭16個だったんだぜ?それがよお、あと首一つって時に、ボコボコ生えやんのっ!そう言うの何度か繰り返して、いい加減くたびれて、母さんに代わって貰ったわ。無理だわぁーあれ」
「ああ。彼処で、ねぇさんが助けてくんなきゃ俺もギャシーも死んでた」
「凄かった。この姐さん。物干し竿見てえな剣で、蛇の首、一気に刈ってさあ。胴体も二擊目にゃ真っ二つだったよ」
「姉じゃ無え、母さん!母親だって、言ってんだろ?わっかん無えーにーちゃん達だなあー」
共に13歳のオスカー、ギャスバルは冒険者になって二年。思いの外、ランクが上がらず、フォリオ村近くの森で魔物狩りや、薬草の採取を日々行っていたのだそうだ。
森は魔物が多く、狩ってはギルドに持ち込んで、換金を繰り返して日銭を稼いでいた。と言うことらしい。
ルナール親子に命は救われたのだが、大怪我をしてしまっている。先立つ物も無い状態で結局、暫くアラハお母様を頼らざる負え無いとか。。。
「だったら、ウチで働け」
と連れ帰った。
「人助け。なのでしょうけれどアラハお母様、傷が癒えるまで、彼等は働きようも無いし、治療費だって掛かります。まあ、治療に関しては、」
「カレン、止めな。ネージュ使うのはダメだ!」
「どうしてアラハお母様?何故いけないの?私には治す手段がある。だったらネージュの力を使うのは、使う理由になるしょう?」
私の善意は、人々の為にならないのだ。と、アラハお母様は仰った。
空き部屋……、従業員用の一室をオスカーとギャスバルに提供した。
幸い酷い怪我であった。
毎日、傷や骨折部の包帯や綿紗を取り変えた。
綿紗には塗布薬を塗り込むのだが、そこにネージュの回復魔法も込めた。
あの日直ぐ意識を失ったお二人。
それから数日間、彼等の意識は戻らなかった。
「――――んんー?あれえ………。綺麗な子。。。」
「―――天使…様?………ここは、天国でしょうか?」
起きた!四日目の朝、ギャスバルさんとオスカーさんが目を覚ました。
「オスカーさん………でしたかしら?それと、ギャスバルさん。ここは天国でも無いし、私は天使でもありません。寧ろ、『黒い悪魔』と、呼ばれることが多いのですよ。私………。まして、綺麗だなんて、、、忌み嫌われる黒髪、ですのに……」
ギャスバルさんもオスカーさんも、混乱していらっしゃる様子です。
「君は誰?」
「ここは、何処?」
「今、説明致しますが、その前にアラハお母様に知らせて参ります。お待ち下さいませ!」
「おぉーーーっ!意識戻ったかあー。今大丈夫かや?」
首肯したお二人にアラハお母様は続けて言う。
「あたしは、おまえ等を襲った多頭大蛇を倒して救った。国の軍兵でも城の騎士でも、王都を守る警邏隊でもあたし等は違う。。。これは、分かるな?」
「はい。」
「つまり………」
アラハお母様は仰る。無償で、人助けをする冒険者はいない。そこには当然、賃金が発生する。
まして、部屋の提供。治療に掛かった代金、人件費。これ等を支払う義務、と言う物があるのだ。と………。
「概ね、まあ、概算だが、金貨三枚。カレンの看病と治療の人件費も入れて、ってトコだね。でもまあー、ここの主人、トカゲ……、エリエンスか、組合で相談してから、だが」
「あ、のう、アラハお母様、私のは、いりません」
「カレンデュリア。そうはいかないよ?宿の仕事はこいつ等の為にやれなかったのだし、その間、こいつ等の看病を毎日行った。(フェンリルの治癒力も使って。。。)そうだろう?」
そう仰るアラハお母様に、私は従うことしか出来無かった。
内緒で、ネージュの力も使ったのも知られていたのだし………。
「まあ、そんな訳で、おまえ等二人。明日から仕事だ。頑張って、払え!」
翌日、お二人は宿の仕事。廊下や、お客様の退室したお部屋の片付け掃除。替えた寝具の洗濯。
日当一人、大銅貨四枚と銅貨五枚。二人合わせて大銅貨九枚。
アラハお母様の仰った概算額、金貨三枚。だったのだが、冒険者組合の長ジャン=ポールさんにアラハお母様が相談すると彼はこう言ったのだ。。。
「普通、『救出』なんて、依頼は無い。依頼を出すなら、『捜索』だ。アラハの場合、見つけてからの救出だった訳だ。それでも、追加報酬、ってのが発生すンだろうな」
捜索願い、であれば大銅貨数枚~金貨数百枚。救助報酬にしても、同様、少額から、それこそ貴族やその子女であったなら、金貨数百枚~何千枚になる。
つまり、依頼主の言い値。なのだ。相場はあって、無いような物だと、ジャン=ポールさんは仰ったそうな。。。
オスカー、ギャスバルは貴族でも、この王国や王都、組合に取って、さして重要な人物では無い只の冒険者、駆け出しの紫級冒険者。只の餓鬼なのだ。
だから、救出は金貨五枚。これは多頭大蛇と言う非常に稀で、魔物の等級的に殺傷級、人災級より、災害級であったことが大きい。
私の看護、治療の人件費は五日で銀貨五枚。包帯塗布薬綿紗のお代は少額なので、まあ免除。
二人は白竜の窖亭に金貨五枚銀貨五枚、そして従業員用の一室、と言っても泊まったのだから宿泊費も発生している。それ等の借金を払うことになった。
住み込みで………。
一ヶ月頑張ってお仕事して、銀貨29枚……つまり金貨一枚と銀貨九枚。そこから、食費や従業員宿所の代金を差っ引いて、幾ら残るのだろう?
だから、お二人のお仕事は続いて行くことになった。
そうして過ごす内、身体が元通りになるに従い、オスカーとギャスバルさんは、私達と朝の鍛練を行うようになった。
私達の素振りや走り込み、身体作りの為の腕立て伏せ、腹筋運動や懸垂を真似て、毎朝頑張り始めましたの。
戦い方も只、剣を振るって弓を射ってと言うだけの、所謂我流。きちんと習うことは無かったと言うお話しですわ。
「それなら、お父様、アラハお母様に習えば良いのでは?」
と言う私の提案にお二人は、「畏れ多いです」と固辞しようとしました。
宿の主人のお父様の朝は早いです。
いくら前の晩に朝食の仕込みを行っていたとしても、朝6時には、厨房に立っているのです。
お父様のベッドに毎夜潜り込む私も早起きです。お父様に抱き付いているのですもの、お父様が起きれば起きますわ。
「やあっ!」「とおっ!」
カンッ、カンカンッ、バシ、ドン…カラン。
「イッテーえ!」
「ま、参りまし、た」
厨房に立つ前、必ずお父様は素振りをします。
人族等より長い生のお父様達。人間よりも長い戦いと鍛練を重ねたお父様ですら、毎朝の素振りは欠かさないのです。
その時間の一部をオスカーとギャスバルに割いて、剣技を教授するのでした。
朝食前にお二人は、ボコボコになっていることも多いのですが、適度?の運動と規則正しい生活で、健康も体力も付いて来たのだ。と、お二人は私に仰るのでした。
朝の鍛練、午後のお勉強。夜は、自主的に修練。時には、レア、ベルの双子とフランが付き合って教えたり、手合わせしたりの数ヶ月。
「こう言う生活、悪かぁー無えなぁー」
「だなぁ、オスカー」
「おまえ等、そんなんで良いのかよ?おまえ等だって、冒険者だろ?明日から付き合え!」
こうして、フランは半ば強引に冒険者稼業の再開をお二人にするのでした。
「大体、ここの給金だけで支払える額じゃ無えーだろぉーが!?借金をよおー!」
多頭大蛇討伐で、等級の上がったフランは青。オスカーとギャスバルは、紫。その三人のパーティーが結成されました。
因みに、冒険者の|等級は、黒→紫→緑→赤→青→銀→金。
と、上がる。しかし『青』以上の等級は何らかの功績、貢献があってからの昇級なのである。
フランとオスカー、ギャスバルのパーティー名は、『狐の竿』。
「ねーさんの竿のように長い剣に憧れて。寧ろ、ねーさんが憧れです」
「ああー、ねぇさんの竿!」
「あのさぁ二人共ぉー。姉さんじゃ無えーって!母さんだって。もう結構いい年。ってか、かなりの…イッテエー!痛ぇじゃん!!!それに、『竿』って………。母さん一応、女だぜ?」
「おい、息子。ミステリアスなのがいいんだよ女ってなあー!覚えとけっ!それに枕詞に『一応』付けんな。。。姉でいいんだよ君達」
と、そう言った訳で、臨時の従業員では無くなったお二人。何時までも、 従業員部屋を使うことは出来無いのです。
よって、雨風凌ぐ場所を何処かに確保しなければならなくなりました。私は「そのまま、お部屋使わせてあげても」と、お父様に言ったのですが、
「それでは他のお客に対して失礼だろう。小さな愛し子よ」
それで、お父様の提案で、大部屋に居を移しました。
ここ、白竜の窖亭は、あまり長期でのお泊まりを許しておりません。何故なら、他のお客様からすると、まるで予約客のように写るからです。
ここは、白竜の窖亭。数々の武勲を挙げ、『勲功』更に、叙爵され男爵、子爵、伯爵になった国の英雄シューラ卿の宿。しかもイケメン!そのお父様のお食事が頂けるのです。そして、娘も冒険者として有望。数ヶ月で銀級の実力者。それに王子様の婚約者、、、自分で言って恥ずかしいですわ。
いわば、皆の憧れ、偶像達の住まう宿、なのです。ですから、予約をしたいお客様は多いのです。
予約をして、その方がいらっしゃらないいらっしゃるに拘わらず。予約部屋として空き部屋になっているのです。
それでも良いから、キャンセル待ちでも泊まりたい。と言うお客様に迷惑を掛けますし、宿としても迷惑です。
なので、予約は取らないのですの。他の宿屋さんが、当たり前に予約客を取っていようが何しようが、ウチはウチ他所は他所ですの。
翌日、早朝~と、言っても、一つ鐘の後…つまり午前9時の後、朝食もその片付けの終わった後に、フラン達は冒険者組合の建屋に向かいました。
因みに、組合は一日中営業しています。
『狐の竿』は、パーティー結成後の初めてのお仕事で、どんな楽しいことをするのでしょう?
そして、私達『赤い金目鯛』はと言うと、プロンピエ商会の会頭リズロン・プロンピエ様からの指名で、香辛料と他の買い付けの商隊の護衛依頼を受け、出立しました。
目的地は、ペニンスラ王国の王都『ラ・ジャンブ』です。
◇◇◇
「で、俺等を拾ってくれたおまえ等、カレンの知り合い、なの?」
アランの商隊に放逐されたロック、エド、マチアスの三人は、北へ帰るフラン達一行に拾われた。
拾ったのは三人の護衛する商隊であった。
「俺等、リコフォニアに戻る商隊。プロンピエさんトコの商隊なんだけど、あんた等何でカレン知ってんだ?―――――――あ、え?一緒だった?ってどう言うことだ!?結婚式だろ?カレン、結婚したんだよなっっっ!!!?」
その時、初めてフランは知った。
カレンディアが、婚姻の儀から脱げ出しのだ。と、言うことを。。。
◇◇◇
二頭立ての荷車五台を大牛が引く、その帆には肉が干してある。
ジョゼ達の仕留めた大将蛇の塩漬け肉だ。
帝国の西端、砂漠の玄関口の町ロンターノで買い付けた日用品、食品を行商しながら、このペニンスラ王国の王都『ラ・ジャンブ』を目指し南下中であったのだ。
蛇の塩漬け干し肉は、食糧であり、私達の収入の一つですの。
勿論、冒険者としての本分は忘れていません。
商隊の護衛です。
気になるのは青い何でしたっけ?のロック達三人。捨てて来たのです。
「僕は捨てて良かったと、寧ろ早くに捨てるべきだったんです」
進行速度上がったでしょう?と、プロンピエ商会の若旦那アランさんは仰います。「本当に、お荷物でしたね」と、あっけらかんと言うのです。
「それに、傷心のカレン様にしつこく言い寄ったり…」
「嫌がるお嬢様に不躾なことを言ったりやったり」「ホント、ヤな野郎でした」
そうね。大切にしようと思った物を食べて仕舞いましたし、容姿をバカにするようなことを言ったり………。
「でも、まあ、死な無いでしょうね。蛇肉持ってたし」「ああ言うやからは、しつこく死な無えーモンです」
せめて、無事をお祈りしておきましょう。。。
それから一週間と少し。帝国の町、ロンターノを立ってから、半月後、ペニンスラ王国王都『ラ・ジャンブ』に到着しました。
行商で、幾つかの町や村で売買して着いた王都。買付目的で来たのではありますが当然、在庫…売り物はあります。
御して、目的の買付。そのことはこのラ・ジャンブを出立する前日でもいいので、取り敢えず宿泊場所の確保その後、観光も良いでしょう。そうアランさんが仰りました。
「ゆっくり致しましょう。少し良い宿、取りますね!」
アランさん、ありがとう!
「最低四日、この町に留まります。売れ筋、仕入値の見極めがありますので。その間の宿代と宿の食事は、経費ですのでお支払いは結構ですよ」
うわあぁー。重ね重ね、ありがとうアランさん!
そんな訳で、町へと繰り出した私達でした。。。




