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宿屋の娘の恋事情。  作者: 潤ナナ
第一部.宿屋の娘。二節.冒険稼業。
14/24

00。客の呟き。

パーティー『青い咆哮』ロックの駆け出し時分の一人語り。カレンデュリアとの出会いのお話しです。

◇◇◇

 5月(フルール)初旬の早朝、その宿の周りの植え込みには、黄色や橙の金盞花が咲き誇り、入り口や窓から、美味しそうな匂いが流れ出ている。

 中に大勢の人間が居る様子で、少々ザワめきが聞こえる。その中で、「お待たせしましたぁー」と言う元気な少女の声が訊かれた。

 下町にしては、やや豪華な石作りの家屋の出入り口上の看板。そこに『宿。白竜の窖亭』と書いてある金文字が読める。

 王都で、いろいろと有名な白竜の窖亭だ。そこに初めて泊まった俺達は、朝食を食ってる。

 燻製肉の薄切り三枚と目玉焼き、付け合わせのトマトと葉菜、揚げた細切り芋。それに鶏肉のコンソメスープ。パンは自由に召し上がれ、だ。

 因みに、俺達は冒険者だ。三人共未だ、等級(ランク)(ヴァート)だ。

 それにしても夕べの夕食、あれは旨かった。

 ハンバーグとか言う肉団子みたいな肉を潰して鉄板で焼いたような、そんな料理だったが、それに掛けてあるソース……タレ?が料理に合っていて絶品だった。もう一度食いてえ!

 朝メシも旨い!

 これで、一泊一人大銅貨6枚と銅貨4枚だなんて、安い!と言う感じがする。これはエドも同意だ。

 もし大部屋に一泊ならば、大銅貨3枚と銅貨8枚で、ここの食事が食えるってんだから、良いよな!

 大部屋でも快適だろう。

 この宿はいろいろと行き届いている。昨日泊まる部屋に案内されて、直ぐポットを持った従業員のねぇちゃんが部屋に入って来るなり部屋の小さな茶箪笥から、カップとソーサー、それと小さな蓋付きの陶器を出した。

「こちらには、お砂糖が入っております。お好みでお入れください」

 などと、温かいお茶を入れながら言うのだ。

 普通、こんなサービス無ぇーぜ?こんな安宿……、や、高級宿とか泊まったこたぁ無えけど、こんなサービス受けたことも、まして訊いたことも無ぇ。

 それに、埃一つ落ちちゃ無ぇー。綺麗な部屋だし、廊下だってピッカピカ。窓のガラスも綺麗だ。部屋の机に一輪挿しの花瓶があって、花まで飾ってある。

 ベッドに座ってみたが、なんだ?藁のマットじゃあ無ぇ。綿……、違うな、羊の毛でも無ぇ。あれだー、高級な馬車とかに使ってある、『すぷりんぐ』ってヤツだ!あれの小せぇヤツをいっぱい使って、ふっかふかにしてあるベッドマットなんだ!




「飲み物は如何でしょうか?別料金ですが……」美少女な()が夕べと同じように声を掛けてくれた。

 飲み物、か。。。

「んじゃあ、俺ぁー、エール!」

「俺もー」

 エドとマチアスがエールを頼む。

「お兄様方はこの後、お仕事では無いのですの?」

 と言う。なんだぁー?いちいちお貴族様っぽい女の子だなぁ。

「おい、ロック。今日は休みにすんだろー?」

「ああ、そうだった。じゃ、エール俺も!」

「エール3杯で、銅貨九枚です。お一人様づつお払いですか?それともまとめて」

「俺が払うわ」

 少女に大銅貨一枚渡す。

「お釣りの銅貨です」

 とエプロンのポケットから銅貨を出した。

「休みにすんなら、もう一泊しようぜ!」

「だなー。良いか?嬢ちゃん」

「今のお部屋をお使いになります?それとも他のお部屋を…」

「いや、そのままで」

「寝具の交換は如何致しましょうか?後、お食事は?」

「別にまんまで構わねぇーよ。今夜も明日の朝も食うよ」

「では、個室と二人部屋のご利用三名様、食事付きで。銀貨一枚と大銅貨9枚、銅貨2枚になります」

「んじゃ、これで」

 銀貨2枚を手渡すと、ポケットから銅貨8枚を出して来た。計算、早過ぎだろう、ちょっとぉー!

「後で宿帳への記入、お願い致します」

 そう言うと、女の子は厨房に入っていった。


「あの子、計算速えぇーなー!」

「おぉ、ビックリだー。おっ、もうエール持って来るわ」

 右手に二杯、左手に一杯の木のコップを持って、左脇に帳面を挟んでいる。

「はい、お待たせしました。エールです。それと今、お泊まりにいらっしゃるお客様はいない時間ですので、今、宿帳のご記入、宜しいでしょうか?」

 脇に抱えた宿帳をテーブルに置き、エプロンのポケットからインク壷と羽ペンを取り出した。

「今、書くよ。それにしても、良く出来た嬢ちゃんだなー、あんた。どうだ、俺の嫁になんない?」

 一瞬、周りの空気が変わった。泊まり客の大半が、この嬢ちゃんのファンらしいことは夕べの食堂で、何となくだが分かっていた。ここが繁盛してるらしいのも、この嬢ちゃんのおかげかもな。

 っにしても、視線を感じる。俺を睨むたくさんの射殺さんとする視線を。。。

「……ええーと、お気持ちはありがたい、と思いますわ。もし、冗談半分で仰られているのでしたら、褒め言葉と受けとりますわ。ありがとうございます」

「もし、ロックの野郎が、マジだったら?」

「なにいってんだマチアス!」

「本気でしたら。大変申し訳ございません。(わたくし)既に嫁ぎ先が決まっておりますの。と言いますわ!」

 えっ!?まだ十歳くらいの女の子が、もう嫁ぐ所が決まってるって、何?貴族なの?

「って、そう言うのって、親御さんが勝手に決めたの?」

「そう言うの、とは?ああ婚約、のことですね。それでしたら、お父様と先方様の合意があって、成立するものです。勿論、当人同士、納得の上です。こちらも先方様も快いお話しと。。。幼かった(わたくし)には過ぎた婚約です。けれども、凄く嬉しかった婚約ですの。もう二年も立ちましたが、未だに信じられないですの!」

 頬を薄ら紅く染めた少女を成熟した大人の女性と見違えた。一瞬、一瞬だよ?

「「マジかー!」」

「俺ぁー、借金とかのカタにお嬢ちゃんが売られるんじゃねーかと、一瞬思ったぜー」

「ふふっ、借金、だなんて。この宿、白竜の窖亭は、私のお父様の道楽のようなものです。宿屋経営等しなくとも、生活していけるだけの基盤はあるのです。只、お父様は好きなのです。この宿が……。私もですが」

 そう言う少女の笑顔に俺は、何故か、またしても大人の色気を感じてしまった。……不覚。。。

「お嬢さまぁー!お喋りもいいけどさぁ、終わったトコのテーブル片してくんない?」

「その前にエリィ様から3番テーブルの朝食のトレイ持ってって!わたし、7番持ってくから~」

「分かったレア、ベル」

 そそくさ少女は行ってしまった。エール冷えててウメエ!

「おい、エドどう思うよ」

「どおって、あの()が?」

「なに、ロリコンかようロックぅ」

「ちっげーよ。婚約してる。とか、道楽。とかいろいろ」

 若干の間を開けて、エドは言う。

「―――おまえ、知らない?英雄さんの話し。この宿、英雄さんの宿だぜ。って、ことはあの子、英雄さんの娘だろ?」

「訊いたことあるぜ?娘と従業員のこと。毎年豊穣祭(ポンレコルト)の競技大会、……武闘の大会の優勝独占してるって、確か、娘は、子供の部門……、12歳以下の部だっけかで連戦連勝」

「あー、三年連続の優勝者だって訊いたことあるぜ」

「エド、そうだよ。俺、そう言えば去年見た。瞬殺だった。黒髪なんて珍しいのに、すっかり忘れてたわー。俺もボウガン使いじゃ無かったら、出たいなー」

 うーん。何となく三人共黙ってしまった。

「おぉーい!エールおかわりー」

「「俺もぉー!」」

 今度は赤毛の少女が来た。一人はトレイとエールを持って。もう一人は両手にエールを持って。

「さっき、ウチのお嬢様が褒められたって言うんで、」「おつまみのサービス。ウチのお嬢様から~」

 皿に串焼きが三本。

「でも、エールのお代は頂くよ。三つで銅貨九枚ね!」

 香辛料の香りも良い。この肉串イケる!

「悪いお嬢ちゃん、この焼き串、追加で六本貰えるかー」

「あいよぉー!エリィさまぁー、串六つ、お願いしまぁーす!」

 厨房から聞こえた声は、温かく優しい声だった。

「聞こえたよぉ、ベルぅ。でも、これから用意するので、時間が掛かるって、お客様に伝えてぇー。って言うか、時間じゃないの?学舎遅れるよ!!!急いでよレア、ベル、カレン。ほら、フランも芋の皮剥き、終わりにしていいから」



 双子の赤毛の少女と薄い金髪で赤目の少年、そして黒髪の少女は駆け出て行った。

 四人共、下町に当たり前にいる餓鬼どもだしそんな格好なんだが、あの少女だけ別物に見える。物腰、所作であろうか?気品が滲み出ているかのような。。。ああ、まだ子供だが、女性なんだな。

 厨房から宿の料理人が食堂に出て来た。そして、そのままツカツカと俺等のテーブルまで来て言った。スッゲー、イケメンだ。

「ウチの可愛い娘に色目使うのは頂けないね!他の子ならいざ知らず、僕の素敵なあの()に手を出したら、殺すの確定だよ?」

「な、なんだよー、たかが宿屋の料理人がぁ…「バッ、バカロック!彼が英雄さんだよー!」」

 白い髪、金の瞳。で、イケメン!ああ、あああっ!英雄ショーラ伯爵。その人だあぁぁぁーーー!!!

「す、すいません。ごめんなさい。許してください。舐めた口訊いてスンマセン!色目使ってません。口説いたつもりもありません!ホントにホントですぅー、信じてっ!」

 俺は必死だった。なんだ!なンなのだ。この重苦しい空気。殺気コエェーよぉ。マジこの人こえぇ!殺気だけで、気持ちで人殺せんじゃねーのぉー!?

 何時の間にか俺は、床に正座の姿勢で頭を擦り付けていた。なんか、目から冷や汗も溢れて、なんとも情けねぇ。

「そんなに畏まらなくても良いよ?ああ、そうだ。もうお客、君達だけだし、掃除とか手伝ってくれるとありがたいのだけど……」

「是非!是非、やらせてください。寧ろ俺等からお願いしたいッス!」

「お、おまえぇー、なに勝手に決め……「やるよー掃除ぃー」なんだよエドまでー!」

 俺達三人は初めて泊まった宿『白竜の窖亭』で、無償の仕事をした。


 黒髪の少女、あの『黒い突風(ノワール ナファール)』との初めての出会いはこんな感じであった。

「そう言えば、宿の周りに咲いている花、黄色やオレンジ色の花はなんて花だ?エド」

「ああ、あれね。あの花は、『金盞花(カレンデュラ)』。あの娘の名前だよー」


 俺達三人、16になったばかりの春の出来事。




◇◇◇

 あれからもう7年。すっかり大人の女性になった宿屋の女の子。あの頃の俺は、成人したばかりの若造……、餓鬼だった。

「今も餓鬼じゃんロック」

「ウッセーよマチアス」

 だけど否定出来無いね。俺が餓鬼なのは。。。

 だって、あの頃と変わって無いんだよ。心が、俺の恋心が………。

「きっと、横とかに立っても俺、見劣りすンよなぁー。そう思うエドぉー!?」

「言ってることぁー、何となくわかるよ。けど、高嶺の華ってヤツだぜ?」

「そうだよ」

 だが………。いいや、今だから良いんだ!そう、今ならば!

「ロリコンって言われねぇー!!!」





「なんだ。おまえ等?」


 赤毛のこいつ、レアかな?ベル?分から無い。が、不機嫌そうに言う。

「このツルペタめがっ!」

「コイツ殺していい?」「おう、ヤれベル!」

 ああ、ベルだったんだぁー。。。




赤毛の双子の片割れ、ベル?にボコボコにされた俺は、『青い咆哮』リーダーのロックです。


 今再び、プロンピエ商会の若旦那アランさんの商隊に付いて、南方への旅路である。美しいカレンデュリアと共に!

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