11。
◇◇◇
マルセルとロジールが騎士団の宿舎に入り約一ヶ月。もう春だ。3月。すくすく育つフェンリルのネージュ。
もはや仔犬とは言えない大きさに成長している。大型犬程の大きさではあるが、まだまだ子供っぽい。と言うか、成長早いですわ!
そのネージュと毎朝と毎夕、近所を一緒に走っている。
今朝は、建て替え中、……殆ど新築中の『白竜の窖亭』に来ている。予定より遅れているらしい。
でも、一階部分の外壁が出来上がっている。今は二階三階を建設中。あら?四階建てになるのかしら……。
あの焼き討ちで、損害額、賠償金、慰謝料とか合わせて金貨2300枚せしめたお父様。内、税金や司法局に支払うのは二割の460枚。残りの1840枚で、建築予定なのだけど、足りるのかな?
思った以上に大きな宿屋になりそうですわ。
石工さんと大工さんに挨拶をして、元来た道を戻り始めた私。その視界にエリザベト…、エリィと殿下、ルー君が入った。
流石エリィ。殿下が王子に見えません。街の男の子って感じになっていたわ。でも………。
なんだろう。胸に何かつかえるわね。ちょっと苦しい。大丈夫。そんなお顔しないでネージュ。
「キュウゥゥーン」と鳴くネージュ。私の気持ち、分かるの?
何故、寂しいのだろう?何故、苦しいのだろう?友達同士が仲良くなって、そこに私は居ないからなのでしょうか……。それとも………。
マルセルもロジールも屋敷に居ない。何時かレアもベルも、ジョゼも居なくなって仕舞うのだろうか?フランも。
きっと、一人っきりになる日が来るのだろう。その時、私の傍には誰が………。よそう、こんな寂しいこと考えるのは。
こう言う時はお父様補充よっ!
急いでお屋敷に向け駆ける私とネージュ。ネージュ、ちょっ、走るの早い。待って、待ってよう!
お屋敷のエントランスホールで。
「お嬢様、湯浴みされては如何です?と、ヴィーは進言致します」
「そうね。汗も掻いたし、」
「では、ジョゼに」
「危険!ジョゼ危険!違う方を」
アデールが湯浴みを手伝った。
アデールは私の乳母で、レアとベルのお母様。とっても優しい女性なの。
「アデールお母様、今日、レア達は?見掛け無いけど」
湯船に浸かりながら訊いた。
「旦那様がお城に出仕するのに合わせて、魔法力の鑑定をするのだと言っておりました」
魔法力の鑑定は、専門の魔導師が行う。大抵、十歳になる前に行うのだ。お城には魔導師団も居るし、確実であろう。
街の子どもは、教会や冒険者ギルド所属の魔法使いに鑑定を依頼する。 少々、確実性が不確かなところがある。おおよそで良い街の子はそれでも良いのだが、貴族や、その従者に求められるのは、確実性。お城で鑑定なら、安心。
「最近、二人の魔法が不安定でしたので、前々から私が旦那様に相談していたんですよ」
「そっかー。じゃあ今日はフランと学舎行くのね。何か、寂しい」
優しくお湯を掛けるアデールお母様でした。
「急いで、ごはん食べて!何時まで風呂に浸かってたんだよう!」
学舎に行く時間が迫っていた。急かされても、食事はそんなに早く終わらないわ。
「前と違って、貴族街から下町の学舎だぜ?時間掛かんだよ。馬車だって、そんな早くねえーし」
「分かってるフラン。食べ終わったわ。行きましょう」
レオ、お待たせ。出発よ!
馬車で20分、貴族街に住んでいるのだから、中央国民児童学舎が近いのだけれど、半年だけお屋敷に住む間だけですもの、だから南地区へ……、下町に戻るのだ。学舎変える必要は無いのである。
でも、こう毎日、馬車で送り迎えって、他の子に悪い。と言うか、お金持ちぶって写らないかしら?と思う。
まあ、その通り、「お貴族様は、お屋敷でお勉強すれば?」とか、「その癖、庶民ぶっちゃってさー」とか陰口、言われているっぽい。
只、一つ、変わったことがある。そう言う陰口を訊いたレオポルドが、「おまえ等、カレンさんを苛めると俺が黙っちゃ居ねーし、王子に怒られンぞー(俺が……)!いいのか?」と、庇うようになったこと、かな。
豊穣祭から10日ばかりお休みをしたことがあったけど、その辺りからレオポルドの態度が変わった。何があったのだろう。
2時限目が終わり、自由時間。エリィが話し掛けて来た。
「カレン、まだ貴女のお家工事中ね。意外と掛かるわね」
「朝、見掛けたのやっぱりエリィだったのね。殿下も一緒だったと思ったのだけど、」
「あら?見たのね。そうルーってば、昨夜家に泊まったの。帰りが遅くなりそうだったからね」
――――ズキッ。。。
お胸が痛い。何かしら?成長期?
「昨日は、お店の接客して、たくさんお客さんとお話ししていたわルーメンス。丁寧な言葉遣いって、良いわねって言ったら、下町の言葉遣いしたいのにって言うの。結構気さくな喋り方になってるのにね」
「そう。。。」
痛い。ああ、これも思い込みの魔法、幻想魔法のような物かしら?アラハお母様に相談しよう。
「そう言えば、ルーが言ってたの。イシュタリアから何とかってお姫様が来てるんですって!可愛い子らしいわよ」
「えー?イシュタリア神国に姫は居ない筈よ?」
「そうお?」
「あの国、貴族社会では無いし、まして、王族なんて……。ひょっとして、『カランセット』って、お名前ではなくって?」
「ああー、そんな名前だ。と思う」
「それなら、教皇猊下の孫娘だわ。姫と言うと、そうかも」
見てみたい。と言うエリィの言葉は上の空に、なんとなくモヤモヤしている私だった。
そんな会話をしていたこと等忘れ掛けていたある3月の下旬。コルデーロ教皇の訪問が発表された。
4月の最初の宵の月曜日に来訪すると言う。
孫娘も一緒と言うことで、年の近い貴族の子女も夜会への参加が打診された。
私も参加せざるを得ないようだ。
が、私は知っている。既に、王宮にカランセット嬢が居ることを。だって、近衛騎士団の修練に参加しているのですもの。隠れる気無いですの。
コルデーロ猊下の孫、カランセット・アニエス・コルデーロ。真っ赤な髪で、瞳は翡翠のような少女。活発なお転婆って言う感じの女の子だ。
週に二回、近衛の修練に参加している私とよく会うのだけれど、ひょっとして、毎日来ているのだろうか?
「毎日よ」
おおっ、驚いたアトラだった。
「アトラ、カランセットって、結構筋良さそうね」
「手合わせしてみれば?ねえー、ジョシィー!カランセット嬢、呼んでよ。この子と手合わせさせたいのぉー」
「ジョシィーって誰?知らない騎士の制服ね」
「彼女ジョスティーヌ。カランセットの護衛騎士らしいわ。だから、制服は神国の物ね」
間も無く、ジョスティーヌに連れられて赤髪の女の子がやって来た。立ち姿が綺麗な方ね。
「初めまして、私カランセット。コルデーロ家の長子。キャルって呼んでね。貴女は……。。。凄い霊力!何者?人なの?」
「初めてお会い致します。ショーラ家、エリエンスの子、カレンデュリアと申します。以後お見知りおきを。それで、霊力、とは?」
「生命、魂の力量、とでも言うのでしょうか?それにしても、凄い。貴女の影……、中にもう一つ感じる。何が居るの?見たいわ」
こんな所に出していいの?
『たまには出たい。出るボク!』
わあぁー、はっきり聞こえた。この声、ネージュよね?
『そだよ。出るぅ』
スウッと目の前に現れたネージュ。
「ぅわぁぁぁあああー!本物、本物の霊獣様ですぅー、感激ぃー!」
『ボク、ネージュ。男の子だよ。分かる?』
「念話、凄い!念話分かる。可愛いぃー、どぉーしよぉー可愛い、白くてふわふわですぅー。ヤッベェー、撫でていいぃーーーー!!!」
「『テンション高けーっ!』」
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。。。
『長い。長い長い、止めっ、止めてぇー!ハゲる。カレン、止めてよ!止めさせてぇーーー!!!』
そして、念話が聞こえたであろうカランセットは、「スマンコッタ」と言い、なでなでを止めた。
はぁはぁはあはあ。。。ネージュは息が上がっていた。
「それにしても、貴女本当に何者?……人間、よね?」
「はい、人間です(半分、違うかもしれないけど…)。少なくとも」
「そうね。でも、そう、混ざっているの……」
ギクッ、何?鋭い、の?そう言うのが分かる人?
『そうらしいよ』
今私、ネージュとだけお話し出来てる?『うん』なら、そう言う感覚って言うか、能力ってあるものかしら?
『多分、ある。ボクも分かるもの』
「そうね。ネージュ。そうと決まれば、お手合わせお願いできますかカランセット様」
「ええー、喜んでっ!て言うか、キャルよおー。キャルって呼んでって言ったじゃん!」
高いなテンション。。。
っと、隙が無い!中段の構えだけど、討ち下ろされそうだし、突きが来そうだし、迂闊に動け無い。キャル、出来る!
私も中段で。
よし、行こう真横から切る!―――と見せ掛けて、顎へ!
「軌道変えて来るなんて!」
「とか言って、剣で受けると思わなかったのだけど」
一進一退の攻防が続き、結局勝敗はつかなかった。
パチパチパチパチ。。。
何時の間にか騎士団の皆が観戦していた。
『そりゃそうだよ。十分以上激しい打ち合いしてたんだもん。皆見るよ?』
「うん。疲れた。しんどい」
『まだ小さいんだから、無理すると身体壊すよ』
「私より子供のネージュに言われても………」
『知らないの?ボク等って、成長早いんだよ?多分ボク、年齢的に~~~成熟度、って言うのかなぁ。多分、カレンより今上だよ』
ええー!そうなの?『そうだよ』
「引き分けね。カレンデュリアさん」
「そうねキャル様。。。私、名前長いでしょう。カレンでいいわ」
「分かったカレン」
「また、お手合わせお願いするわ」
何となく、友達になった気がした。
彼女カランセット……、キャルとの手合わせ、気持ちいい。だけど、テンションの高い女の子ね。
「カレン、毎日修練場に来ていないわよね?来ない日は何してるの?次は何時来るの?明日は明後日は?」
「明後の日没曜日は、お屋敷でお勉強の日なの」
「分かった。またね」
「うん、また」
こうして、修練場を後にしてお屋敷に帰った私であったのだが、何故居る?キャル。
「来ちゃったー!」
ええー!どうしてお屋敷のサロンにいるのぉー、キャルぅー!
5月の中旬。
予定より一ヶ月延びた工期でしたが、新しい『白竜の窖亭』竣工ですの。
やっと、お屋敷から、白竜の窖亭に戻れるのです。
新しい食堂に新しい厨房。新しい私の部屋……。あれ?少し狭くなったかしら。。。
お父様のお部屋はどうかしら?………。心持ち狭い、気がする。
「ああ、分かるよね。全体的に少し詰めた。個室を増やしたかったからね」
一階は、食堂と厨房、お風呂が二つ。それにトイレが二つ。厨房の西側に私の部屋とお父様のお部屋、それとお風呂。
三階にルナール親子の部屋。四階は住み込みの従業員部屋を完備。更に一室、寝室と居間、従者用の部屋と風呂トイレ付きの特別室室を設けた。
収容できる宿泊客は、70名。前より若干収容人数が少なくはなったが、20人収容の大部屋が2部屋あっても、男性客の中に女性は中々易々と入ることが出来無いもの。従って稼働率の悪さの一翼となっていた。
なので、大部屋は男性用1部屋として28名。女性用は8人部屋の二部屋となったようだ。
それに、3~5人部屋と言うのも勝手が悪く、これも稼働率の少なさに影響があったんだって………。
そこで、個室と二人部屋のみとし、個室15。二人部屋6部屋。
三階建ての宿は、四階建ての宿になった。っと言う感じに出来た白竜の窖亭は、営業を開始する運びになった。
営業再開を訊いたであろう行商人や冒険者等の我が家を定宿にしていた方々。近所のランチ常連客、住人達が集まって、宴会。
お祝い事は宴会なのだ。
広くなった食堂は大人数でも、大丈夫………、では無かったが、また何時ものように椅子テーブル持ち込み客も来ていたし、アルコール類も持参される方もいた。
当然、ただだし、無礼講。
無礼講が悪かった。
「よう!エリィ。私も来たぞう!参加させろ」
何時の間にか陛下が紛れ込んでいた。
第一王子も風景に紛れていた。ついでに第一王女も。
場違いの、明らかに衛士っぽいのが数名居るのを皆はスルーしてくれて、それはそれで助かった、のか。不味いのか………。
まあ、宴会は明け方まで続いた。
尤も、私カレンは八歳なので、途中から寝ていたみたい。朝、起きたらお父様に抱っこされていたのでした。
◇◇◇
「結構、聖女様に気に入られたんだなー」
「聖女?キャルって、聖女様って呼ばれているの?エド」
モグモグ、結構硬いわね。砂漠大蜥蜴……。
「あー大蜥蜴の皮は硬いから、普通食べねー。カランセット嬢は、庶民レベルで、聖女と呼ばれてる。洞察力か、そう言う能力か分から無ぇーが、人の本質を見抜く力があるって」
「モグモグ、ゴキュン。そうね。本質と言うか丸裸にされた気分だった。初めて会った時から……。少し怖かったのは本当」
「皮食べたの?……そう言えば、結婚するって訊いたぜ。エド知ってる?」
「知らなかった。何処の誰と?てか、何でロックしってんのー」
ああ、確信した。蜥蜴食べながら、多分殿下と婚姻の儀を……。私と同じに。同じ方に恋をしたのだと…………。
殿下は、言い寄られると、断れ無い方なのでしょうか?断れ無い。。。どんだけヘタレ野郎なんですの。………それとも、好きになった女性皆と結ばれたい。等と言う強欲野郎なのでしょうか?
「強欲か?ヘタレか?それとも国益を優先するあまり、各国の主要人物と係る者との繋ぎの為結ぶ婚姻。か?」
「カレン様、一体何のことを仰っておられるのですか?」
「―――殿下の………、ルーメンスの意図が知りたい」
そう、そうなの。彼の意思も知らず只、逃げている私。
夕方に閑話、薬屋の娘。を投稿します。




