10。
◇◇◇
12月の22日、私の誕生日。お屋敷でパーティーが行われたの。
身内だけの慎ましいパーティー。の筈が、王子王女の四名と、何故か妃殿下お二人もやって来たからお屋敷の侍従達は大慌て……。
「いいのよ」「特別じゃ無いわよ。無礼講」
お二人は席に付く前に私に抱きついて、「八歳の誕生日、おめでとう」と仰った。そして…。
「宝石や宝剣よりもこう言った物の方がいいかと思って」
そうフェリシー妃殿下が仰り、ローズ=マリー妃殿下が私の手に小さな革袋を握らせた。
「金盞花の種。カレンデュリアのお名前なのでしょ?」
金盞花。私だ。
お父様、エリエンスは、向日葵だ。その小さな娘は、小さな向日葵なのだとお父様は言う。
そのお父様は、私の誕生日にいない。
小さな種を新しくなった白竜の窖亭の周りに蒔こう。一緒に向日葵も植えようかな。。。
「ありがとうございます。フェリシー殿下、ローズ=マリー殿下」
「かれんでゅいや」
「言いにくいから、カレンでよろしいのですよ。カトリーヌ殿下」
「かれん。私もカティーでいい。それでね……」
「ボクたちから、プレゼント!」
「似合うと思うのですわ。カレンデュリア」
受け取った小さな長方形の小箱、金色のリボンが可愛い。
「ありがとうございます。カティー殿下、オベール殿下、ティリオリー殿下」
「酷いよカレン。これは私達四人からのプレゼントなのに」
「それは失礼致しました。ルー君もありがとう」
「開けてごらん」
「「開けて開けて!」」
双子の殿下に促され、リボンをほどき蓋を開ける。
そこに入っていたのは、橙色の花の付いたヘアピンだ。形が私の知る髪飾りとは違う。変わった感じのヘアピン。長細い銀の髪止め。そのお尻に金盞花の花が付いていて、可愛い。
「大陸の北東にある島国の物なの。ルーが欲しがっていたのだけれど、手が出せ無かったのよ。それでね私の友人に貿易商の子がいてね。ルーからの贈り物に私も便乗したって訳!」
「姉上、それを言わなくても……」
ルー君は耳まで真っ赤になった。
そんな時、大きなドームのようなクロッシュが乗ったワゴンをヴィルジールが押してホールに入って来た。
続いて三人の侍従もワゴンを押している。なんですの?
「これは俺等から、一応パーティーの代表だから、俺が言った」
パーティー?ああ、冒険者のってことね。
「パーティー組んでいたのでしたわねディディエさん。サラお兄様とジョゼ、フランは臨時のメンバーね。あれ?アトラさん、何処かしら?いらしていた筈ですのに」
周りを見渡したが、見当たらない、いらっしゃらないわ?何処かしら?と思っていたら、「何やってんのっ!」と言うフランの声の方を見ると、テーブルの向こうにしゃがんでいるアトラさんが見えた。
王子王女は兎も角、妃殿下までいらして居たので、隠れたのだそうだ。そう言えば、アトラさんって、公爵令嬢でしたものね。
王族に冒険者をやっているのを知られると、やはり不味いのかしら?
「ジャーーーンンッ!!!」
ディディエさんがクロッシュをやや大げさに持ち上げると、クロッシュの被せてあった大皿には、大きな丸焼きの猪の頭?でしょうか。
「これは魔獣大魔猪です。カレン様。プレゼントに肉です。高級素材です!皆で獲ったんですよ」
「毛皮をコートにする予定」
とジョゼ。ですが、猪のコート?女の子の私に似合うかしら、猪のコート。。。
「牙は加工してタガーにする。これ等が俺達からカレンへのプレゼント」
サラお兄様が、鼻息荒く言いました。
「うめぇー。猪うめぇなっ」
フラン、何ですの。お行儀悪いですわ。
アトラさんが捕まった。
「どうして隠れるのですオレリア」
「と言いますか姉様、オレリアが冒険者をやっていることは、スルーですの?」
「ローズの言う通りだわ。危険なことをしているの先輩…、アルテュールは知っているの?」
アルテュールとは王国の軍の要、兵部卿であり公爵でありアトラさんの父親で、お父様や陛下の先輩、なのだと言う。
アトラさんは小さな声で、「……知ら無い。と、思います。。。」と言った。
「そう。困ったわね」
「フェリシー殿下、どうか父には言わないで下さいまし。私、これでも青級冒険者ですの。慢心もしておりません。身の丈以上のお仕事はしておりませんし…」
「へえー、アトラってお嬢様っぽいしゃべり方もすんのな!?」
「ウッサイわねーディディの癖にっ!」
「私、公爵家の子じゃ無くて良かった」
「カレン、公爵じゃ無くても普通、貴族の令嬢は冒険者とかやんねーぜ?」
「えー、そうなのフラン。大丈夫よねぇ、ルー君」
「まあ、普通はやらせないでしょうね。そうですよね母上方」
「「やらせないっ!」」
そんなあぁぁぁーーーー!
「で、でも、お父様は冒険者もやっているわ、貴族なのに」
「男性と女性は違うのです。カレン様」
「貴女だって、やっているじゃないジョゼ」
「私は平民です。立場が違います」
私、絶対冒険者になるの!立ち振舞いも、冒険者としての力量も、お父様の隣に立てるようになるわ!
――――お父様……、お父様がいらっしゃらない。お誕生日にお父様がいないだなんて、お父様。
そこにヴィルジールが、小さな紙を持って来た。
「ヴィーが口頭でお伝えするより、お嬢様、お読み下さい」
渡された小さな紙には、こう書いてあった。
『大脱走は収まったが、暫く帰れない。誕生日おめでとう私の愛し子』
まだ、お父様、帰って来れないの。……寂しい。
それから新年を迎え、王宮外廷の庭にて王室の参賀があった。衆人環視の中、私は妃殿下二人に抱きすくめられた。周りは騒然としている。
――――あの噂、本当らしい。――――噂って?――――王子の婚約者――――やっぱり!?―――
まあ、そうなるわよね。噂話の拡がりは、思っていた以上に早いらしい。
そろそろ有力貴族なんかに目を付けられて、それこそ殺されるのではないだかしら……。
そんな参賀を終え、お屋敷に帰ると、日当たりの良いサロンのソファーにお父様が座っていた。
思わず跳び付いたの私。。。
「お帰りなさいお父様ぁ!カレンはお会いしたかったのです。嬉しいですぅ」
お父様の匂い。お父様の温もり。お父様の胸板。お父様の。お父様の。ああぁーー、お父様ですのぉー!
「甘え過ぎだよ。僕の可愛い天使」
「いいではないですかー!久し振りなのです。お父様、抱っこぉー」
「仕方の無い天使様だね」
お父様は私を膝に乗せ、抱き締めて下さいましたの。
ああぁーーー!素敵過ぎ。あれぇ?何かモゾモゾしてますわ?何かしら?
「それ、そこの毛布の………。あら、仔犬かしら?」
白い小さな頭が毛布から覗いた。小さな雪のように白い生き物。
「遅くなったが、誕生日プレゼントさ。カレンデュリア」
「わあぁー、ありがとうお父様!」
思わずほっぺにキスして仕舞いました。でも、お父様は浮かないお顔付き。どうして?
「喜んでくれて、僕は嬉しいよ。だけれども、お父様は、僕は酷いことをしたのだよ」
お父様の自領、……ショーラ領で起こった大逃走の原因は、子育ての為、冬の寒い山を降りて来たフェンリル親子の存在だった。他の魔物を圧倒する力の持ち主。フェンリルが神獣と呼ばれる証左であるのだと言う。
スタンピードは収まらず、原因を求めたお父様はフェンリルに会った。当然だが、フェンリルを倒したお父様はその時に気付いたのだと言う。子育て中の母親と、その子どもであったことを。
産まれたばかりの小さなフェンリル。一匹で生きて行ける筈も無い。だから、連れ帰った。と………。
「僕はこの子の親を殺した。僕が育てるよりも君が友達になってくれた方がいいだろう。そう考えた。だから、君に預けよう」
八歳の私に新しい友達が出来た。フェンリルの男の子。
1月に出会ったのだから、この子は、『ネージュ』よ!
(安直だし、女の子の名前みたい。どうなの?)
ん?彼の声が聞こえたような気がした。。。
新年早々、自室でお勉強をしているマルセルとロジール。
二人は侍従用の居室に住んでいる。二人部屋だ。
邪魔をする気は無いのだけど、ネージュを見せたくて戸をノックした。
当然だが、その日、二人は勉強を放棄した。
試験まで、後一ヶ月とちょっとなのですわ。
2月の第二週の宵の月曜日。マルセルとロジールの騎士団選考試験の日である。
試験は実技と筆記。午前中に筆記試験を受ける者と実技試験を受ける者に別れる。午後は逆になる。
午前に筆記試験を受けた者が、午後、筆記試験を受ける者に教えぬよう試験会場を離し、昼食時にも接触しないようになっている。
筆記試験は、一般常識と地理歴史経済。実技は、受験者同士で一線その後、試験官である騎士と手合わせをする。勝敗に合否は関係無いらしい。
結果は翌週と言うこと。
まあー、結論から言えば、三人とも合格。えー、三人とはマルセル、ロジールそれと、アトラ。
アトラさん、三度目で、やっと合格だそうだ。筆記試験で何れも落としたらしい。
見事、近衛騎士になった三人ですが、半年は見習いだとか……。因みに、マルセルは15で、16歳の成人前なので、どのみち見習い。誕生月は6月なのだそうで、成人後数ヶ月で一応、近衛騎士団に配属ですって!
三人共そのまま、騎士団の宿舎に入ることになるのです。寂しいですわね。
◇◇◇
帝国の砂漠の玄関ロンターノ。
この辺りまで来ると黒髪の住人が多い。帝国の王族……、皇族ですわ。には、金色の瞳の者が多い、と訊く。
『東の悪魔』と言うのは存外、帝国を恐れた西の国の人々が作ったお話しなのかもしれないわね。
ロンターノまで、王都から一ヶ月と少し。もうそんなに時間が立ったのですね。
「そろそろおまえの結婚式じゃねー?」
また話し掛けて来た。青いナントカのロック。
「盗人、罪人、口開かないで下さる?不快ですの」
「懲りないなーロックぅ。リーダー、バカなのー?」
「年上だから、リーダーにしてやってるだけですよエド」
意外と酷い、エドとマチアス。
パーティー『青い芳香』は空中分解するのかしら?解散待った無し、ですわ。
「前々から、言おぉーと思ってたけど、『青い咆哮』なっ!」
そんな無駄情報、どうでもいいわ。
「そろそろ、塩とか御すから、青いの手伝ってくれる?」
帝国の大きな商会の店先で、私達の雇い主、商人の若旦那アランさんが言う。
「何で俺等が荷下ろしすんだよぉー!アランさんよおー」
「当たり前だろう。盗賊相手に仕事しない。魔物相手でも殆ど戦力にならない。お金払いたく無いよ?そんな護衛に」
「「「よ、喜んで!」」」
荷車四台分のお塩と一台分の我がショーラ領のお砂糖を御し、ついでに大蠍の甲殻を御した。
蠍の甲殻は全部で金貨三枚と銀貨四枚になった。
因みに盗賊12人だが、西門近くの警邏の詰所に連れて行った。盗賊の頭はやはり賞金首であった。金貨30枚。まあ、小物である。他は犯罪奴隷として奴隷商に引き渡すと言う。
4~5日待てば、奴隷商に売れた金額の四割受け取れるのだそうだ。
アランさんもこの町で、少し休む気であったと言う。気を使われたのでしょうか。
そんな感じで、ロンターノの町に滞在した。
翌日は、町の冒険者組合で、依頼の完遂を報告。それと、盗賊団『砂漠の酒』を駆逐した報告。証明書は警邏事務所に発行して貰っている。『砂漠の酒』と言う名前は警邏詰所で知った。
後は、町の名物料理を、と町を散策している私達に声を掛けて来たロック。
「そのぉー悪かった。お詫びににゃあ、ならねーけど、これっ」
と言って、差し出したピンクと青の模様のある綺麗なガラスの入れ物。中に色とりどりのキャンディーが入っている。
「別にもう怒ってはいないわ。鬱陶しい」
「「鬱陶しい!」」
「ホント、鬱陶しいわー」
取り敢えず受け取ると、ロックは少年のような笑みを浮かべた。
食事は私達四人と、青い咆哮の三人で取った。
名物料理は、砂漠大蜥蜴だったのが、微妙だった。
次のお話しで、第一部の一節はお仕舞い。次話をお昼前に投稿します。
閑話を夕方に投稿。明日の朝から二節目、開始。




