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宿屋の娘の恋事情。  作者: 潤ナナ
第一部.宿屋の娘。一節.幼年学舎。
11/24

10。

 ◇◇◇

 12月(ディユ)の22日、私の誕生日。お屋敷でパーティーが行われたの。


 身内だけの慎ましいパーティー。の筈が、王子王女の四名と、何故か妃殿下お二人もやって来たからお屋敷の侍従達は大慌て……。

「いいのよ」「特別じゃ無いわよ。無礼講」

 お二人は席に付く前に私に抱きついて、「八歳の誕生日、おめでとう」と仰った。そして…。

「宝石や宝剣よりもこう言った物の方がいいかと思って」

 そうフェリシー妃殿下が仰り、ローズ=マリー妃殿下が私の手に小さな革袋を握らせた。

「金盞花の種。カレンデュリアのお名前なのでしょ?」

 金盞花(カレンデュラ)。私だ。

 お父様、エリエンスは、向日葵(エリオント)だ。その小さな娘は、小さな向日葵(キンセンカ)なのだとお父様は言う。

 そのお父様は、私の誕生日にいない。

 小さな種を新しくなった白竜の窖亭の周りに蒔こう。一緒に向日葵も植えようかな。。。

「ありがとうございます。フェリシー殿下、ローズ=マリー殿下」

「かれんでゅいや」

「言いにくいから、カレンでよろしいのですよ。カトリーヌ殿下」

「かれん。私もカティーでいい。それでね……」

「ボクたちから、プレゼント!」

「似合うと思うのですわ。カレンデュリア」

 受け取った小さな長方形の小箱、金色のリボンが可愛い。

「ありがとうございます。カティー殿下、オベール殿下、ティリオリー殿下」

「酷いよカレン。これは私達四人からのプレゼントなのに」

「それは失礼致しました。ルー君もありがとう」

「開けてごらん」

「「開けて開けて!」」

 双子の殿下に促され、リボンをほどき蓋を開ける。

 そこに入っていたのは、橙色の花の付いたヘアピンだ。形が私の知る髪飾りとは違う。変わった感じのヘアピン。長細い銀の髪止め。そのお尻に金盞花の花が付いていて、可愛い。

「大陸の北東にある島国の物なの。ルーが欲しがっていたのだけれど、手が出せ無かったのよ。それでね私の友人に貿易商の子がいてね。ルーからの贈り物に私も便乗したって訳!」

「姉上、それを言わなくても……」

 ルー君は耳まで真っ赤になった。


 そんな時、大きなドームのようなクロッシュが乗ったワゴンをヴィルジールが押してホールに入って来た。

 続いて三人の侍従もワゴンを押している。なんですの?

「これは俺等から、一応パーティーの代表だから、俺が言った」

 パーティー?ああ、冒険者のってことね。

「パーティー組んでいたのでしたわねディディエさん。サラお兄様とジョゼ、フランは臨時のメンバーね。あれ?アトラさん、何処かしら?いらしていた筈ですのに」

 周りを見渡したが、見当たらない、いらっしゃらないわ?何処かしら?と思っていたら、「何やってんのっ!」と言うフランの声の方を見ると、テーブルの向こうにしゃがんでいるアトラさんが見えた。

 王子王女は兎も角、妃殿下までいらして居たので、隠れたのだそうだ。そう言えば、アトラさんって、公爵令嬢でしたものね。

 王族に冒険者をやっているのを知られると、やはり不味いのかしら?


「ジャーーーンンッ!!!」

 ディディエさんがクロッシュをやや大げさに持ち上げると、クロッシュの被せてあった大皿には、大きな丸焼きの猪の頭?でしょうか。

「これは魔獣大魔猪(グランボア)です。カレン様。プレゼントに肉です。高級素材です!皆で獲ったんですよ」

「毛皮をコートにする予定」

 とジョゼ。ですが、猪のコート?女の子の私に似合うかしら、猪のコート。。。

「牙は加工してタガーにする。これ等が俺達からカレンへのプレゼント」

 サラお兄様が、鼻息荒く言いました。

「うめぇー。猪うめぇなっ」

 フラン、何ですの。お行儀悪いですわ。


 アトラさんが捕まった。

「どうして隠れるのですオレリア」

「と言いますか姉様、オレリアが冒険者をやっていることは、スルーですの?」

「ローズの言う通りだわ。危険なことをしているの先輩…、アルテュールは知っているの?」

 アルテュールとは王国の軍の要、兵部卿であり公爵でありアトラさんの父親で、お父様や陛下の先輩、なのだと言う。

 アトラさんは小さな声で、「……知ら無い。と、思います。。。」と言った。

「そう。困ったわね」

「フェリシー殿下、どうか父には言わないで下さいまし。(わたくし)、これでも青級冒険者(アジュールランカー)ですの。慢心もしておりません。身の丈以上のお仕事はしておりませんし…」

「へえー、アトラってお嬢様っぽいしゃべり方もすんのな!?」

「ウッサイわねーディディの癖にっ!」


「私、公爵家の子じゃ無くて良かった」

「カレン、公爵じゃ無くても普通、貴族の令嬢は冒険者とかやんねーぜ?」

「えー、そうなのフラン。大丈夫よねぇ、ルー君」

「まあ、普通はやらせないでしょうね。そうですよね母上方」

「「やらせないっ!」」

 そんなあぁぁぁーーーー!

「で、でも、お父様は冒険者もやっているわ、貴族なのに」

「男性と女性は違うのです。カレン様」

「貴女だって、やっているじゃないジョゼ」

「私は平民です。立場が違います」

 私、絶対冒険者になるの!立ち振舞いも、冒険者としての力量も、お父様の隣に立てるようになるわ!

 ――――お父様……、お父様がいらっしゃらない。お誕生日にお父様がいないだなんて、お父様。

 そこにヴィルジールが、小さな紙を持って来た。

「ヴィーが口頭でお伝えするより、お嬢様、お読み下さい」

 渡された小さな紙には、こう書いてあった。

大脱走(スタンピード)は収まったが、暫く帰れない。誕生日おめでとう私の愛し子』

 まだ、お父様、帰って来れないの。……寂しい。




 それから新年を迎え、王宮外廷の庭にて王室の参賀があった。衆人環視の中、私は妃殿下二人に抱きすくめられた。周りは騒然としている。

――――あの噂、本当らしい。――――噂って?――――王子の婚約者――――やっぱり!?―――


 まあ、そうなるわよね。噂話の拡がりは、思っていた以上に早いらしい。

 そろそろ有力貴族なんかに目を付けられて、それこそ殺されるのではないだかしら……。

 そんな参賀を終え、お屋敷に帰ると、日当たりの良いサロンのソファーにお父様が座っていた。

 思わず跳び付いたの私。。。

「お帰りなさいお父様ぁ!カレンはお会いしたかったのです。嬉しいですぅ」

 お父様の匂い。お父様の温もり。お父様の胸板。お父様の。お父様の。ああぁーー、お父様ですのぉー!

「甘え過ぎだよ。僕の可愛い天使」

「いいではないですかー!久し振りなのです。お父様、抱っこぉー」

「仕方の無い天使様だね」

 お父様は私を膝に乗せ、抱き締めて下さいましたの。

 ああぁーーー!素敵過ぎ。あれぇ?何かモゾモゾしてますわ?何かしら?

「それ、そこの毛布の………。あら、仔犬かしら?」

 白い小さな頭が毛布から覗いた。小さな雪のように白い生き物。

「遅くなったが、誕生日プレゼントさ。カレンデュリア」

「わあぁー、ありがとうお父様!」

 思わずほっぺにキスして仕舞いました。でも、お父様は浮かないお顔付き。どうして?

「喜んでくれて、僕は嬉しいよ。だけれども、お父様は、僕は酷いことをしたのだよ」

 お父様の自領、……ショーラ領で起こった大逃走(スタンピード)の原因は、子育ての為、冬の寒い山を降りて来たフェンリル親子の存在だった。他の魔物を圧倒する力の持ち主。フェンリルが神獣と呼ばれる証左であるのだと言う。

 スタンピードは収まらず、原因を求めたお父様はフェンリルに会った。当然だが、フェンリルを倒したお父様はその時に気付いたのだと言う。子育て中の母親と、その子どもであったことを。

 産まれたばかりの小さなフェンリル。一匹で生きて行ける筈も無い。だから、連れ帰った。と………。

「僕はこの子の親を殺した。僕が育てるよりも君が友達になってくれた方がいいだろう。そう考えた。だから、君に預けよう」


 八歳の私に新しい友達が出来た。フェンリルの男の子。

 1月(ネージュ)に出会ったのだから、この子は、『ネージュ』よ!

(安直だし、女の子の名前みたい。どうなの?)

 ん?彼の声が聞こえたような気がした。。。


 新年早々、自室でお勉強をしているマルセルとロジール。

 二人は侍従用の居室に住んでいる。二人部屋だ。

 邪魔をする気は無いのだけど、ネージュを見せたくて戸をノックした。

 当然だが、その日、二人は勉強を放棄した。

 試験まで、後一ヶ月とちょっとなのですわ。




 2月(フロワ)の第二週の宵の月つき曜日。マルセルとロジールの騎士団選考試験の日である。

 試験は実技と筆記。午前中に筆記試験を受ける者と実技試験を受ける者に別れる。午後は逆になる。

 午前に筆記試験を受けた者が、午後、筆記試験を受ける者に教えぬよう試験会場を離し、昼食時にも接触しないようになっている。

 筆記試験は、一般常識と地理歴史経済。実技は、受験者同士で一線その後、試験官である騎士と手合わせをする。勝敗に合否は関係無いらしい。


 結果は翌週と言うこと。


 まあー、結論から言えば、三人とも合格。えー、三人とはマルセル、ロジールそれと、アトラ。

 アトラさん、三度目で、やっと合格だそうだ。筆記試験で何れも落としたらしい。

 見事、近衛騎士になった三人ですが、半年は見習いだとか……。因みに、マルセルは15で、16歳の成人前なので、どのみち見習い。誕生月は6月(プリュイ)なのだそうで、成人後数ヶ月で一応、近衛騎士団に配属ですって!

 三人共そのまま、騎士団の宿舎に入ることになるのです。寂しいですわね。




 ◇◇◇

 帝国の砂漠の玄関ロンターノ。


 この辺りまで来ると黒髪の住人が多い。帝国の王族……、皇族ですわ。には、金色の瞳の者が多い、と訊く。

 『東の悪魔』と言うのは存外、帝国を恐れた西の国の人々が作ったお話しなのかもしれないわね。

 ロンターノまで、王都から一ヶ月と少し。もうそんなに時間が立ったのですね。

「そろそろおまえの結婚式じゃねー?」

 また話し掛けて来た。青いナントカのロック。

「盗人、罪人、口開かないで下さる?不快ですの」

「懲りないなーロックぅ。リーダー、バカなのー?」

「年上だから、リーダーにしてやってるだけですよエド」

 意外と酷い、エドとマチアス。

 パーティー『青い芳香』は空中分解するのかしら?解散待った無し、ですわ。

「前々から、言おぉーと思ってたけど、『青い咆哮』なっ!」

 そんな無駄情報、どうでもいいわ。

「そろそろ、塩とか御すから、青いの手伝ってくれる?」

 帝国の大きな商会の店先で、私達の雇い主、商人の若旦那アランさんが言う。

「何で俺等が荷下ろしすんだよぉー!アランさんよおー」

「当たり前だろう。盗賊相手に仕事しない。魔物相手でも殆ど戦力にならない。お金払いたく無いよ?そんな護衛に」

「「「よ、喜んで!」」」

 荷車四台分のお塩と一台分の我がショーラ領のお砂糖を御し、ついでに大蠍(グランスコルピオン)の甲殻を御した。

 蠍の甲殻は全部で金貨三枚と銀貨四枚になった。

 因みに盗賊12人だが、西門近くの警邏の詰所に連れて行った。盗賊の頭はやはり賞金首であった。金貨30枚。まあ、小物である。他は犯罪奴隷として奴隷商に引き渡すと言う。

 4~5日待てば、奴隷商に売れた金額の四割受け取れるのだそうだ。

 アランさんもこの町で、少し休む気であったと言う。気を使われたのでしょうか。

 そんな感じで、ロンターノの町に滞在した。

 翌日は、町の冒険者組合(ギルド)で、依頼の完遂を報告。それと、盗賊団『砂漠の酒』を駆逐した報告。証明書は警邏事務所に発行して貰っている。『砂漠の酒』と言う名前は警邏詰所で知った。

 後は、町の名物料理を、と町を散策している私達に声を掛けて来たロック。

「そのぉー悪かった。お詫びににゃあ、ならねーけど、これっ」

 と言って、差し出したピンクと青の模様のある綺麗なガラスの入れ物。中に色とりどりのキャンディーが入っている。

「別にもう怒ってはいないわ。鬱陶しい」

「「鬱陶しい!」」

「ホント、鬱陶しいわー」

 取り敢えず受け取ると、ロックは少年のような笑みを浮かべた。

 食事は私達四人と、青い咆哮の三人で取った。


 名物料理は、砂漠大蜥蜴デゼールレザールだったのが、微妙だった。


次のお話しで、第一部の一節はお仕舞い。次話をお昼前に投稿します。

閑話を夕方に投稿。明日の朝から二節目、開始。


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