09。
◇◇◇
宿『白竜の窖亭』を襲撃した6名と、その首謀者シリル・オレール・ド・ミニョレーに対する処罰は、国王ティグリス四世の見守る王宮の法廷で言い渡された。
「ミニョレー子爵嫡男シリル・オレール・ド・ミニョレー。エリエンス・スィエル・ド・ショーラ伯の邸宅への放火は、殺害目的であること、明白…」
「お、お待ち下さい司法郷、あの女、あの魔女を…」
「発言を許してはいません。被告人」
ミニョレー氏は被告人席で項垂れている。向こうで同じように項垂れているのは、現当主のミニョレーの父であろうか。
「よって、被告シリル・オレール・ド・ミニョレーは、ショーラ伯の所有する家屋の損害と賠償金、慰謝料を合わせ金貨2300枚。若しくはそれに見合う鉱山ないし炭鉱等での就役を命ず。及び、被告の家督相続権を剥奪する。それと実行犯の―――――」
私の理解したことを要約すると、襲撃した6人は、『裏市場』通称アリエールの構成員で、盗み恐喝強盗殺し等の常習者であった為、全て絞首刑に処されることになった。それと、犯罪に荷担したミニョレー家の従僕二名は、犯罪奴隷として農作業に三~五年間の就役。ミニョレー子爵は、領地を王国へ返還と言う厳しい処分となった。
「コーノス伯…司法郷、異議を申し立てます」
「エリィよ。言うてみよ」
司法郷では無く、答えたのは、陛下。こう言う場でお言葉を発する等と言うのは、異例らしい。
ついでに言うと、普通こう言った場に陛下が居ること自体、異例だ。
「発言を許すエリィよ」
「僭越ながら、――――被告のミニョレーも人の子。否、健全な男子。僕…、私の従業員に懸想するのも致し方の無いことかと、「あたしは美しいからな!」……煩いよアラハ。失礼。。。こうなった経過は、被告の息子と我が従業員の女子の体格差に端を発した賭事だと言う。勝てると見た被告に魔が差した。と言うことなのでしょう。ですから」
「だが、負けた後のことが、あまりにも悪質過ぎる。そう思わぬか?エリィ。とは言え、当事者はおまえだ。どうしたい?」
お父様は、ミニョレー子爵領の返還は無しに。その代わり、子爵の息子シリルがショーラ家とその関係者に今後、接触しないようにと。
あのシリル氏の父親は出来た方だった。
「私の愚息が、国の英雄殿のみならず、陛下の御心を煩わしたのです。極刑を持って然るべき、と私は思います」
「国王たる私はエリィの意を汲む……、そう言う風に私の声は聴こえぬのかな?子爵よ」
「はっ!陛下の御心のままに」
結果、ミニョレー領はそのまま。息子の家督相続は無くなり、自領での軟禁生活が始まる予定。
それにしても陛下は終始、お父様を愛称で呼んでいた。友人アピール?いや、友達なのは確かだが………。
「お父様、どうして陛下にああ言ったのですか?」
「ん?僕は優しいから……。と言うのはウソ。子爵の寄り親は、ピスタッシュ侯爵なんだ。後はわかるだろ。僕の可愛い君」
あー、そう言うことかあー。侯爵領は海に面していて、お塩の販売を以前は独占していたの。
だけど、男爵になってお父様は竜の谷の周辺と、その南の砂漠に隣接する領地を賜った。砂漠の塩湖からのお塩は、天日と少しの燃料で、精製出来る。
一方の候爵が海水からお塩を得る為には、大量の燃料が必要になる。
「お塩のことですね?お父様が、塩湖からの安いお塩を御していて、侯爵に恨みを買っているから」
「そう言うことさ。自分の寄り子が僕絡みで陛下に迷惑を掛けた。と言う事実があれば、あまり僕やその周りに強く出られなくなろだろう?」
それを知っている陛下はわざとお友達アピールをしていたのだろう。友人とは良いものですのね!
それから半年間、私達は王都本宅で過ごすことになった。
豪華な広い私室、私はこの部屋で過ごして居る。
前よりも一層、遊びに来ることが多くなったルー君、ルーメンス殿下。そりゃあ下町の宿より貴族街の方が来やすいだろうけど、近所の貴族邸の侍従達に王子の通いが知れて仕舞ってるのですわ。
私達の婚約の噂は、社交界にも知れ渡り始めて居ると……。
時々、ルー君の下の兄弟第二王子と王女、オベール殿下とカトリーヌ殿下もお忍びで遊びに来る。
そう言うことが増えたので、お屋敷の料理長ピエールさんは焼き菓子やケーキを作ることが増えたと仰っている。
ところで、何故かマルセルとロジールもお屋敷に居る。通いではなかったかしら?
マルセルは白竜の窖亭で働くようになる前に相次いで両親を亡くしている。年の離れた兄弟はずいぶん前に一人立ちしているのだと言う。
ロジールは、「いい加減嫁に行くか一人立ちしろ」と親に言われたらしく、行く宛てが無かったのですって。
寧ろ、貴族邸に住むことで、風当たりが柔らぐのだそうで好都合らしい。今、近衛騎士団の修練に毎日のように通っている。
近衛の大半が貴族や貴族の子弟であり、平民はいない。居るには居るのだが、親が勲功爵であったりする。そこに平民であるロジールが入ること等あり得無い。
だが、英雄伯の愛弟子であったのなら、どうであろうか。答えは言わずもがなですの。
晩餐会で陛下に「城に来なさい。会わせたい者が居る」と言われた数日後、登城した私達と面会したのは(私は付き添い)、近衛騎士団団長のルブック侯爵であった。
侯爵は30代半ばの方で、鉄錆色の髪を一本に纏めた日焼け肌の男性らしい美丈夫だ。
「ティグ……、陛下から訊いている。君がロジールだね。………。なる程、カレンデュリア嬢が君か、二人共初めまして」
一通り挨拶をして、騎士団の修練場へ案内された。修練場は王宮の裏、北側にあり、城郭に隣した場所である。
見学。そのつもりであったのが、何時か、い潰した短剣を持たされていた。
「手合わせしよう」
そう言ってルブック郷はロジールと、そして何故か私も近衛で一番若い男性と相対した。
副団長の「始め!」と言う号令で始まった手合わせ、ロジールさんの一方的な攻撃……、では無いわ。団長は受けているだけ。その証拠に立ち位置が変わっていない。
そして間も無くロジールは沈んだ。
同時に手合わせしていた私が、何故そんなにロジールさん達を見ていられたのか。それは私が一撃で勝ったから~。
「ふむ。流石あいつの弟子、寧ろアラハの言う古武術か?」
「あ、はあはあ。。。そ、そうです。基礎的な部分は、エリィ様に、はぁはぁ、大半、アラハに習いました」
ロジールさんは息が上がっている。
「ふむ。実戦的なのは、そう言うことか。ロジール嬢を近衛の見習い騎士とする。いいなおまえ達」
――――おおおおおっ!
「だ、団長。そちらの小さな娘は?アデルを瞬殺でしたが………」
「ふむ。この娘は私の友人のご令嬢でな、」
―――えー、英雄の?―――強い訳だ―――子どもと思えぬ―――
「いろいろと規格外でな、私の手に余る。が、まあ、アレだ、時々遊びに来ておくれカレンデュリア嬢」
「はい、宿も焼けちゃって、ヒマなので来ます!」
若干幾人か騎士様のお顔の色がすぐれ無い様子が見て取れたのだけれど、ロジールさんは朝から、私は学舎帰りから、近衛騎士団の修練に参加するようになった。
もう一人の姉弟子マルセルさんは、「ロジール嬢、もう一人の愛弟子も三位だったと訊いているが、どうか」と言うルブック団長のお誘いで、翌日から参加した。
マルセルさんのナギナタ術は、意外な程圧倒的で、17歳のアベルさんを瞬殺。他の騎士様も手合わせで、苦戦していました。
ロジールさんは、他の方と遜色無く、団員として馴染んで見えます。 元々、おしとやかな感じのするロジールさんでしたし。猛禽類だけれど。。。
子供な私が言うのも何ですが、一番元気なのは、マルセルさんです。普段、おっとりしているマルセルさん。やたらと大声で手合わせや素振りをします。
「やあー!」「とりゃあー!」「おおーっ!」と言うマルセルさんの掛け声が響き渡る修練場です。思った通り毎日喉を枯らすマルセルさんでした。
毎年2月と8月に近衛を含む騎士団と国軍の騎士兵の選考試験が執り行われています。
8月は、士官、兵科学校の卒業後と言うこともあり、新規採用者が主なのですが、2月は、軍から騎士への転科や、8月に落ちた方々が受けるのが多いようです。
受験資格は各学科の卒業証明か軍の兵士騎士であること。他に貴族かそれ相応の方の推薦状が必要です。
ロジールさんはお父様の推薦状と近衛騎士団団長の推薦状を持って試験に挑みます。
マルセルさんも同様に試験を受けることになりました。
が、問題がありました。試験は実技だけではありません。学科の筆記試験もあるのです。幼年学舎卒の二人の学力では到底、参考試験に受かる訳はありません。もう少し高等教育が必要です。
宿のお仕事の休憩時間で教わった勉強では全く足りません。
試験に向け、教師を雇いました。お父様、太っ腹。
マルセルさんとロジールさんの一日は、午前中はお屋敷で座学。午後は私と近衛騎士団で修練。夕食後は自習。11月の始めから毎日毎日。勉学に鍛練に勤しんで。いました。
私は午後の鍛練もそうですが、礼儀作法とダンスの勉強は前の通り、週三回行っています。
ですから、騎士団にお邪魔するのは週二回なのですけれど……。
12月の20日。冬至の前日。
冬至と言うと私の誕生日なのですが、私が生まれたのは22日。冬至は年毎に21日であったり、稀に23日であったりしますの。
今年は21日。そしてお祭りは冬至前日から始まります。
屋台や大道芸人が街に溢れ、それはもう楽しいお祭りですの。誕生日であることもそうなのですが、至る所、篝火や魔石の灯りで綺麗で、街がとても綺麗ですの。
今回もお小遣いをお父様に貰いました。
貴族街のお屋敷は、街の中央広場に比較的近いので、歩いていけますの。
レアとベルナデットと三人でお祭りの屋台巡りです。ジョゼフーヌは、いません。彼女はサラお兄様とアトラさん、それと最近よく食事をしに来ているディディエさんと言う青年とパーティーを組んだらしく、魔獣を狩りに出掛けていますの。何もお祭りの日に行かなくても………。フランも一緒に行ったようです。
あまり目立ちたくも無いので質素な薄茶のコートで屋台を回ったのですが、やはり、黒髪は目立つようです。ジロジロ見られて、周りの視線が気になります。
「お嬢様は、可愛らしいから」「お嬢様は、綺麗だから」
双子に気を使われました。
串焼き食べて、的当てして、ホットドック食べて、もうとっても楽しい。お夕飯、お腹に入らないんじゃないかしら?
「お嬢様、一旦帰りませんと」「もう夕刻を過ぎています」
お屋敷に戻ると、お父様がいらっしゃいません。
「プロスペールさん、お父様は」
「旦那様は、領地に向かわれました」
「どうして?お誕生日、明後日なのに!どうして……」
プロスペールさんが仰るに、ショーラ領の村に魔獣が大挙して押し寄せたと、その後も続々と魔獣が出て来ていて、領兵や領内の冒険者だけでは対処出来無い事態になっていると。。。
「つい、半刻程前に伝書鳥が報せを持って来たのです。まぁ、旦那様であれば、馬車で五日の距離くらい、数時間でしょうから、お嬢様の誕生日には間に合うのでは、と」
お父様は、22日。私の誕生日には、帰って来なかった。
◇◇◇
「八歳の誕生日だよなー。その話し」
「そうよエド」
「ってことは、その討伐に関係して……」
エドはネージュを見ながら言う。
「皆まで言わないで」
帝国の砂漠玄関口『ロンターノ』の町まで二日のここには井戸がある。小さいが、石造りの小屋の中に井戸があるのだ。
井戸が砂に埋もれぬよう、こう言う小屋を建てるのだ。
それでも埋まるので、井戸に寄った旅人は、小屋の周りの砂をかくことが、暗黙の決まりごとになっている。
小屋の中にスコップが置いてあるのが、決まりごとの証拠と言う訳。
砂漠には、井戸が点在している。昔の人が掘ったのだそうだが、枯れた所が多い。ここは、数少ない生きた井戸の一つだそうだ。
水を求めるのは、なにも旅人だけでは無い。心の善悪に関係無く人には水が必要なのだ。
運が悪いのだろうか?北東の方角から、盗賊の一団が表れて仕舞った。
「え、エドぉ、どーしよう。無理だぁー」
「ロック、リーダーでしょう?情けない声出さなねーで」
「「お嬢様、臨時収入です!」」
「約30数名ってとこだねぇー。カレン様ぁー」
「おまえ等ぁ、マジか?」
「一応、聞きます!貴方方、私達を害する気概ですか!?」
一応そう言って答えを聞かないと。もし害する気が無かった場合、いろいろと問題になるので。
と言うのは建前。会話の間に各自得物を用意して貰うのが目的ですの。
「綺麗なねーちゃんは殺さねーさぁー。男どもは知らねー」
盗賊団の先頭に立つ男性、おそらく盗賊の頭であろう。男性の言う通りなら………。
「先手必勝ですの。火球!」
青白い火の玉を一つ、眼前の集団に放つ。火の玉は、盗賊の頭に当たる直前、大きさと色を変え、盗賊達を飲み込んだ。
人の三倍以上の大きさになった真っ赤な火球は頭とその周りを巻き込む。
「うわあああーー!」「で、でけぇー」「うひゃああああーーー!!」「燃える!」「熱い!」タスケテー!!!
十数名を焼いた。後は、掃討戦。
右側の数人をジョゼが、左の集団をレアとベルが追った。私は先に焼いた十数名の確認作業。まだ戦意があったりするかもしれないからね。それと……。
「一番遠くに逃げた盗賊達の足止めをして、ルージュ!」
ウオオンッ!ルージュは速い。もう追い越して、盗賊達を足止めどころか、こちらへ追いやっている。
そんな感じに掃討し終えた。
生き残った盗賊達12人を縄で数珠繋ぎにして、砂漠大蜥蜴の一頭に繋いだ。
私が燃やして死んだ盗賊もいたが幸い、盗賊頭は生きていた。
「おまえ、賞金首か?」「いくらだ?」
赤毛の双子に訊かれている頭。黙りだ。
「やっぱ、おめー等強いなぁー」
「当たり前です。私の師匠は二人共『白金級』ですから」
「一人は、英雄さんでしょう。もう一人は、誰?」
「分から無いですか?宿に来ると何時も口説いているでしょ?」
ジョゼの言葉に困惑しているロック。
「カレンか?……「ちっがーう!バカか?」」
「ロック、アラハさんでしょう。リーダーがいの一番に口説いてるのは」
「ええー!アラハねーさんって、そんなに強いお方だったの?カレン」
「話し掛けないで下さい。カレンと呼ばないで下さい。近寄らないで下さい視界に入らないで下さい呼吸をしないで下さい」
「「うわあああー、、、」」
「マジ嫌いですねカレン様」
ロンターノまで、後二日ですわ。




