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第1話 マジカルリボンは話好き

 星降る空間に包まれて、とても居心地がいい。夜子が目を開けると目の前には、王子様のような男の子が学生服を着ていて、目を閉じていた。


 同じ学校の生徒だと校章を見るとわかる。こんなかっこいい人がいたのかな。夜子がもっとよく見たいと男の子に近づくと、彼が目を開いた。



 ー夜子、会いたかったよー



 男の子が近づいてくるのがわかる。距離をうまくとれない。夜子が身動きできずにいると、すぐそばまで顔と顔とが接近した。おでこ同士がくっついた。



 ー待ってー



 夜子がそう伝えたくても、声がうまく出ずに唇はもうほとんど触れそうな距離にあった。夜子が目を閉じる。男の子が夜子の顔をベロベロと舐め始めた。待って!ファーストキスなのに、こんなのって!!


 ドッシーーーン!!夜子が男の子をつき離そうとした時に、ベッドから落ちた。


 「ヤコーー!いつまで寝てるの!もう起きなさい!!」

 階下から母親が呼ぶ声が聞こえた。


 「ふふっ、もうチャム!やめてよ」

 犬のチャムが夜子を起こそうと顔を舐めてくるのがくすぐったい。なーんだ夢だったのか、と腕を空に伸ばして朝を受け入れた。


 「いっけなーい!もうこんな時間!」


 「新学期早々遅刻なんて許さないわよ!」


 なんて母親だ。髪のセットも終わってないのに家を追い出された。たしかに、もう走らないと間に合わなくなりそうだけど。


 夜子が住宅街を走っていると、ドッシーーーン!と人とぶつかることもなく学校についた。


 「男の子の顔をしっかり覚えてるからフラグだと思ったのになぁ。」

 夜子が独り言をポツリ。


 席について、ホームルームがはじまると担任の先生が例の挨拶をして、ガラガラと教室のドアが開き、フラグが回収された。王子様の登場である。


 「葉庭圭太です。よろしく。」

 女子の目がハートになり、男子から禍々しい邪気がでている。


 「あうあうあう・・・」

 と唸る主人公。夜子は緊張しいなのである。自分の思ったことが言葉にできなくなっていた。


 転校生は一番後ろの夜子の隣の席に案内された。目が合う。


 「よろしく」


 「あうあう・・」


 うまく返事できなかった自分を一生後悔するだろう。 

 休憩時間の女子グループでの話題は当然王子様についてである。


 「めちゃくちゃかっこよくない?」

 「私好きになっちゃいそう」


 「私、もう会ったことあるんだ」


 普段、仲がよかったはずの友達の目が光る。


 「夢の中で会ったの。あの目で見つめられて・・キスしそうになっちゃった」

 友達同士が見つめ合う。


 「それ、会ったって言わないから」

 「痛い痛い痛い痛い。痛いってか怖い」


 冷静になったら、そのとおりだ。初対面で思ったことを言えていたら、圭太にドン引きされていただろう。言えなくてよかった。逆に。


 だけど、圭太も夢を見ていないのかという期待は消えない。顔を外に向けて窓に反射する圭太を観察する。こっちを見る様子は・・ない。


 放課後、女子たちは早速申し合わせて神社にきた。日の目神社。恋愛の神様、ハチマン様を祀った神社の分家である日の目神社。商店街の中にある小さな鳥居と短い参道が若者たちの人気の理由かもしれない。


 彼女たちが一通りお願いを済ませ、ショッピングかマックか議論を始めたが、夜子は拝殿の上に伸びる枝を眺めていた。ハチマン様がそこに座っていた。



 「ハチマンぜよ」



 「そうかなとは思ったけど」

 夜子は周囲を警戒しながら返事をした。


 「そんなに警戒することはなかろう、お前にしか聞こえてないぞよ」

 それでも夜子は友達の目線を気にする。


 「これ以上、痛いと思われたくないから」

 「なんと無礼な」

 ハチマンは明らかにがっかりしてみせた。しかし、話すのをやめない。


 「そなた、あのハニワケイタと恋仲になりたいのであろう?手伝ってやらんこともない」

 「ほんとに?」

 神様が見えたり、願いを叶えてくれそうな急展開に夜子は物怖じしない。しかし、また、夢ではないだろうかと疑っている。


 「でも、どうして?」


 「人類が滅亡する」


 「は?」


 「お前の運命は圭太と世界を救うことにある。しかし、お前の性格が邪魔をして、世界が破滅に向かっておるのじゃ。我が名は武神ハチマン。我が名にかけて、この国を守るぞ。」



 突然、光に包まれた日の目神社は平然を取り戻し、商店街はいつもの賑わいをみせていた。


 「ヤコー?何してるのー?おいてくよー」

 「うんー」

 夜子は返事をしながら参道をかける。振り返ってみると、枝の上にはもうハチマンの姿はなかった。


 「転ばぬようにな」


 いつの間にか髪についていたリボンが夜子に向かって話しかけてきた。リボンに触れる。リボンがハイタッチしてきた。頬をつねる。痛い。どうやら今日の出来事は夢ではないようだ。



 マックにいても夜子は気がきではなかった。街の変わりようにリボンがぶつぶつとうるさい。一度もバッグに入れようとしたが赤ちゃんのように泣き喚いたので、髪留めにして、つけておくことにした。


 「その白い食べ物、砂糖菓子であろう?そんな高級品を食べるとは主ら貴族なのか?女学生のうちから集まってそのようなものを嗜むとはの。高貴なことよ。」


 夜子は時代錯誤のとんちんかんな意見に返事もできずにイライラしていた。友人らは夜子が目線を上にあげて睨むものだから、その異常性に怯えた。 


 「ごめん、わたし今日は帰るね」

 「う、うん、そっか。わかったよ。ヤコ、

どうかしたの?」

 「えと、なんでもない。何もわからないし」


 帰り道、夜子が一人になると、ハチマンはさらにヒートアップしてきた。


 「ところで、夜子よ、もう圭太には会ったのであろう?逢瀬の約束はしたのか?」

 「逢瀬って・・!まだ、話したこともないよ」

 「世界の危機が近いというのにノンビリしたもんじゃ」

 「だから、世界の危機ってーー」



 リンリンと大きな鐘の音がなる。田舎の畦道で、どこからともなく響き渡る大きな音だ。夜子は初めて聞くその音に恐怖し、その場にしゃがみ込みそうになった。


 「来たか」

 ハチマンが短くそう言うと、周りの景色は光に包まれた。その光は虹色のようにカラフルで、夜子は自分の体が宙に浮かんでいるように感じた。



 ーーじゃっじめーんと!!!ーー



 突然、現れた近未来的建築物の中に、無数の人や夜子の感覚で『亜人』と呼ぶ獣との混合種のような人が溢れていた。どよめく建物。



 ーー静粛にぃ、静粛にぃぃぃーー



 さっきから大きな声で叫ぶミニマム亜人めがねっ子が場をまとめようとしている。


 「さぁ、皆様、横にいるパートナー様と一緒にお聞きください!あなたたちが各世界の代表です!これから皆様に殺し合いをしていただきます!!」


 聞き覚えのあるセリフ。殺し合い。横にいる顔を見る。そこにいるのは王子様だった。美しい。


 「うそうそ!殺し合いは半分嘘だよー!」


 てへっ、とめがねっ子は自分の頭を手で小突く真似をして頭からキラッと星をだした。


 「あなたたちの愛で自分の世界を救うの。簡単でしょ。でもね、生き残れる世界の数は少ないんだよ!だから、まずは、いま!ここで!愛を叫ぶのです!声が大きいと優勝ですよー!」


 ミニマム亜人はその小さな腕を大きく振り回したあと、ぴー!っと笛を吹いた。



 ーーよーい、どん!!ーー



 え、よーいどん?亜人ちゃんの説明が終わると会場はどよどよと騒ぎはじめた。誰かが大きな野次を飛ばす。


 「どうして俺たちはここに集められたんだよ!」


 めがねっ子は人差し指を唇に当てて考える素振りをする。


 「えーとね、神様が世界ごとにあみだくじをして決定しました!」


 え、あみだで?


 「そう、あみだで!!」


 会場のどこかで突然、好きだーー!という叫び声がした。その瞬間、声のほうから光を放ち、その声の主を消した。


 「な、なんなの」


 夜子が動転していると、頭の後ろで暴れている奴がいた。ハチマンだ。


 「やばいぞ、夜子。急げ」


 「え、何を」


 圭太を見る。感情がないかのように前を見つめている。綺麗な顔だ。


 またどこかで、好きだという声とともに光り、そして、消えていくものを見た。


 隣のチーターと人間のハーフのような男女をみる。やはり同じように男の人は遠くを見つめ、女の人はうろたえていた。女のハーフと目が合う。


 「夜子、急げ、時間がない」


 光は各所で発生し、人が消えていく。ルールが理解できてきた。


 「夜子、もう分かっているだろう」


 夜子は空気を肺に取り込む。その時、王子様の顔が横を向いて、夜子と目があった。夜子の体が凍りつく。


 「夜子!」


 「い、いえない」


 夜子は正面を向いて、ミニマム眼鏡の動向をみた。ワクワクした顔で各地の光を確認している。


 「夜子、頼む、言ってくれ」


 「無理って言ってるでしょ」


 「どうして」


 「だって」


 夜子が見ると、圭太はまだ夜子を見つめていた。そこに感情は読み取れなかったが、とても美しい顔をしていた。


 「け、け、け、けいたくんが見てるもん」


 タイムアップが近いのかメガネっ子が腕時計を確認する素振りをする。しかし、腕に時計はない。ブラフだ。


 「き、きかれているかもしれない」


 「夜子、わかった、主の力を借りて、ワシがなんとかする」


 「どうやって」


 「オーナメントと口にするんじゃ」


 「お、おーなめんと?」


 その瞬間、ハチマンは夜子の髪からほどけて、王子のほうへと飛んでいった。あっという間に、王子の目と耳を塞ぐようにくるくると頭に巻き付いた。強く締めすぎたのだろう、王子からぐえっっという声が聞こえた。


 「夜子、叫ぶのじゃ」


 メガネっ子が指を折っている。あと3本しか残っていない。ブラフでは無さそうだ。チーターハーフは困惑して涙をうかべている。目が合う。


 「夜子」


 「わたしは圭太くんが、」


 夜子は強く手を握りしめた。




 「好きーーーーー!!!!!!!!」




 メガネっ子は目が合うと微笑んだ。



 「これでラストかな?せーの、じゃっじめーんとーーーー!!!」



 気がつくと、夜子は畦道にいた。白昼夢を見ていたのだろうか。


 「よくやったな、夜子」


 リボンに話しかけられて、今起きたことが現実だと思い知ることができた。



 翌日、登校すると王子様と目が合った。恥ずかしくなって、外を見るふりをして、窓に反射する王子の顔を確認した。まだ、こちらを見ている。


 夜子は目を瞑った。そして、大きく深呼吸をして、圭太のほうを見た。



(続く)

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