令和のアリとキリギリス
夏の日差しが、かんかん照りつける道を、一匹のアリが、大きなパンくずを背負って苦しそうに歩いていました。
すると、その道の脇で遊んでいたキリギリスは、声をかけました。
「こんな暑い日に、何をしているんだい」
「冬にそなえてお金を貯める為に、食べ物を家に運んでいるんですよ」
アリは答えると、忙しそうに、通り過ぎて行きました。
「きつい思いをして働くなんて、バカじゃないの」
キリギリスは、アリをばかにしました。
「そんなこと言っていると、冬に痛い目をみますよ。」アリはキリギリスにそう返して、また歩いていきます。
キリギリスは何も言い返さず、ただ笑いながら見送りました。
キリギリスは、昼もずっと家で過ごしていました。そして夜になると、仲間の虫たちとクラブを貸し切ってパーティを開いて、フロアのリズムに合わせて縦ノリをかましたり、日焼けしたギャル達と踊ったり…。 そんなことをしながら、夏の間中、遊び暮らしていました。
やがて、夏が終わり、秋がやってきましたが、キリギリスはあいかわらず、同じように過ごしていました。
そして、冬になりました。
夏、秋と毎日働いたおかげで、アリの家にはそれなりにたくさんの食べ物がありました。そして、その食べ物を計画的に食べながら、慎ましく過ごしていました。
すると、アリの家にキリギリスがやって来ました。仲間なのか、もう1匹のキリギリスも一緒にいました。
「ありさん、お願いがあるんだけど。」
キリギリスは、アリにいいました。
「どうせ、食べ物が無い、とかではないですか。だとしたらお断りします。あなたは、夏の間、働いているわたしをばかにしていたではありませんか。」 と答えました。
「そんなことを言わずに、何とか頼むよ。」
キリギリスは、アリに向かって手を合わせ、涙を流して、
「ごめんなさい。ぼくが、間違っていたんだ。」
と、土下座しました。
アリは、気の毒になり、食べ物のかけらをひとつもってきて、キリギリスに分けてやりました。
「アリさん、ありがとう。これからは、まじめに働くことにするよ。」
キリギリスは、何度もお礼を言いました。
「はい、カット!」
すると突然、後ろにいたキリギリスが、大声を上げました。よく見ると、手にはGoProを持っています。
「いやぁ、いいのが撮れた。ありがとうね。」
キリギリスはアリに言いました。
「どういうことですか。食べ物に困っていたのではないのですか?」アリは困惑して尋ねました。
「実は、いまYouTuberをやっててね。好きなことをして生きてくために、春からクラブの動画とか『遊んでみた』とか上げてたんだけど、冬は外に出ても何も無いからネタ切れしちゃってさ。だから、今日お願いしに来たのは動画撮ってもいいか、ってこと。さっき撮ってたやつ、上げてもいいかな?」
キリギリスはニヤニヤしながらアリに言いました。
しかし、アリはなんのことかさっぱり分かりません。アリはデジタルには疎い方でした。コツコツと働き、そして冬にはその蓄えで生活する、古いタイプの動物でした。
「それでは、キリギリスさんは、食べ物に困ってる訳では無いのですか?」アリは尋ねました。
「YouTubeで結構稼いでるから全然。寧ろ今までよりいい生活してる感じ?」キリギリスのニヤニヤは止まりません。
アリは悟りました。もう、時代は変わったのだと。コツコツと働く事だけが正義。わかりやすく働いていない者は必ず痛い目を見る。そんな時代は終わったのだと。
目の前にいるYouTuberドリームを掴んだキリギリスを見ていると、時代に乗り遅れ、旧型の昔話観に囚われていた自分が恥ずかしくなってきました。
「あ、そうだ、今からチャンネル登録者数20万人記念で焼肉食べながら生配信するんだけど、ゲストで出てくんない?で、アリさんもYouTube始めてさ、一緒にコラボ動画撮ろうよ。オレも再生回数伸びそうだし、アリさんもコラボ動画伸びると思うよ。」キリギリスはアリに言いました。
「ぜ、是非お願いします…」
いつのまにか、雪が降りはじめていました。キリギリスは、動画の企画で買った真っ赤なポルシェに乗り込み、そこにアリを乗せて夜の街に消えて行きました。
「キリギリスchannel」に1本の動画が投稿されました。
「【宿敵】夏の間頑張って働いていたアリさんに焼肉奢ってみた【YouTuberデビュー!?】」




